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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-53 駅とレールの復旧作業-Ⅵ

「ちょっと時間掛かったな」


 テレポートして皆と合流した稔は、戻ってきた皆のいる場所でラクトに言われた。稔は、掛けられた言葉に何の反論もない。嘘偽りのない真実を汚そうとすることはやはりするべきではないし、反論が無いならそのままにしておけばいい。


「ハハハ、そうだな」


 稔はそう言って、ラクトの意見を肯定した。そしてすぐ、アルティメットアドバイザーである織桜の隣に立っていたジャックが、稔が風呂敷を置く作業をしている中で話を持ちかけた。


「さて、稔くん」

「名前、覚えてくれたんですね」

「アドバイザーから教えてもらった。……まあ、そんなことはいい」


 ジャックは言いつつ、プラットホームから降りる。電車の無い閑散としたホームは、何処か都会にありながら田舎のような雰囲気を醸し出すようだ。もっとも、ホームが多くある時点で田舎駅とは言い難いが。


「レールの敷設から指導していく」

「は、はいっ!」


 稔は、少々オーバーリアクション気味の反応を取る。ただ、年齢的に自分の弟君のような目を向けていたジャックからすれば、その方が良かった。職に就いているか否か、それで大体の年齢は分かるだろう。


「まず、枕木を敷く。この駅ではおおよそ、五〇センチ位の間隔で頼む」

「そ、それじゃ足らないんじゃ――」

「だから『おおよそ』なんだが……?」

「……」


 四番線ホームの電車が停車するレールがない以上、それを復旧させることを容認した以上……。嫌だ嫌だといったところで、稔は頼まれたことを拒否することはしたくない性格だったため、断ることは無い。


 とは言えど、三〇〇メートルの距離の中を五〇センチメートル間隔でレールを敷設していく訳だ。単純計算で六〇〇本の枕木が必要となる。到底、そんなの手作業じゃ終わるはずがない。魔法を使うにしろ、重労働であることに変わりはない。


「そう落ち込むな、稔くん。――これを使えばいい」

「サングラス……?」


 稔は首を傾げる。サングラスを使用して重労働じゃなくなるのか、と思う。


「このサングラスはな、こんな風に見ることが出来る」


 ジャックが、持っている商品サングラスの機能を最大限活かした活用方法を説明する。色は当然ながら黒色だった。でも少し違うのは、見た感じ重そうに見えるということだ。稔は持ったことがないから重さを口では言えないが、それでも外見上はそう見える。


「すっ、すごい……!」


 思ったよりも軽く、稔は驚きの声を上げた。だが、それだけに驚いたわけじゃない。なんとそのサングラス上では、五〇メートル間隔の場所に白色の線が引いてあるように見えたのだ。それは幻覚ではない。


「この白い線……」

「そこに、枕木を置いていけばいいという話だ。……簡単だろ?」

「じゅっ、重労働なのは変わらないんですね――」


 ただ、そんな風にマイナスに捉えるから嫌々しく聞こえるだけである。『職場体験』だとか、そういうふうな言い方にすれば、少しプラスに捉えられるかと思う。


 人間は聞いたものを脳で整理し、それを良いか悪いかで捉えるため、結局そこなのだ。言葉が一番の影響を持っているので、整理した際に浮かぶ言葉が一番強い。


「悲しきことに今はレールがない。敷設する際は重機を使うべきだが、流石に運転再開を考えている以上は他のホームに迷惑をかける訳にはいかない」

「そ、それはそうですが、まだ再開には時間が――」


 稔が反論するが、ジャックは事実に基づいて言っているということを示すべく、七番線ホームの電光掲示板を見るように指示した。そして、稔がそこへ視線を合わせた刹那、こう言った。


「七番線ホームの電光掲示板、復活してるだろ?」

「本当だ……」


 現実世界では視力が悪かった稔だが、マドーロムではそこまで視力が悪いというわけではなく、視力一・○に戻っていたため、難なく七番線ホームの電光掲示板を見ることが出来た。それほど遠いわけでもなく、問題が少なかったことが一番の要因だ。


「運転再開は放送では流れていないが、恐らく電光掲示板を見るに、一四時五分だと思われる」

「一四時五分……」

「それに、あの列車は特急列車だ」

「それはつまり、重機を運ぶ列車と被ると大変だと……?」

「そういうことだ」


 察しのいい稔。そんな稔の方を見てあまりそれといった反応はしなかったものの、ジャックは咳払いしてから言った。


「高架駅で有る以上、線路に重機を乗せるためには線路を通る必要がある。踏切がないから、そこから侵入させるのも無理だ。高架駅ではない場所でこの駅に一番近い踏切、もしくは車両基地から重機を運んでくる必要がある」


 運ぶ距離が長ければ長いほど、当然特急列車と一緒の線路を走ってしまうリスクは増える。複線化しているとはいえ、上りと下りで線路がそれぞれ二つある訳ではない。だからこそ、リスクが増えれば衝突するリスクも上がる。


 下り路線を使うにしても、バレブリュッケやニューレイドーラから来た特急列車と重なれば、それはどうにもならない悲しい大惨事を招きかねない。運営する側の不祥事として考えられてしまう。


 鉄道を利用することのないような人間からすれば、それは自分に関係ないことだからと割り切ることが出来るし、それ以降関わらないことだって十分に可能だ。ただ、魔法で自由に移動したりすることが出来ないような人の場合、関わらないことは不可能に近い。


 大体の場所に電車で繋がっているボン・クローネ市だからこそ、そういった事態が起きてしまう。不祥事が起きれば取り返しの付かないことが起きてしまうのは言うまでもないし、取り返しの付かないことが起きてからでは対策するに遅いため、そうならないようにする注意をするのは起きる前しか無理だ。


「コストを考えた時、どうしても重機を使ってられないってことだ。だからこそ、重機を使わずしてどうにかしたいんだ」

「でもそれだったら、絶対この人員じゃ足りないと思うんですが――」

「それは重々承知している!」


 稔は強く言われると何も言えなくなった。ジャックもジャックで一生懸命になっていて、彼なりに考えているのだ。この状況下でどのようにしていけばいいのかだとか、自分がどうしていけばいいのかだとかを。


「て、提案が有ります!」

「稔くん、なんだ?」

「五〇センチではなくて、七五センチ間隔で考えてみてはどうですか? そうすれば四〇〇本の枕木で足りるんですが――」


 稔は提案した。だが、その提案に疑問を抱く声がウルカグアリーから上がった。


「七五センチで問題がないかと言われると、それは嘘になるんです。ここは駅ですから、当然レールの上でブレーキが掛かります。多くの列車が飛び交う駅である以上、負担は大きい訳ですし、その為にはしっかりとレールを支えるための土台が必要になります」

「……」

「七五センチ間隔で問題はないかもしれませんが、枕木と枕木との間隔が短いほど強度が増しますから、あまりおすすめは出来ません」


 なんだかんだ言って、ここは陰陽本線を始めとして、多くの路線が交わる巨大なターミナル駅だ。テロの標的になったことからも分かる通り、多くの人が利用する駅でも有る。つまりそれは、普通列車や快速列車、特急列車や高速鉄道があるという意味でも有る。


 スピードが遅ければ、ブレーキをかけるにしたって問題はそう多くはない。でも、スピードが早い場合は違う。スピードが早いということは、レールの上を猛スピードで走っているということである。即ち、ブレーキをかける時に使うエネルギーも異なる。


 スピードを出せば出すほどそのエネルギーは増える一方であり、特急列車や高速鉄道ともなれば、電車を走らせるための土台となっているレールがしっかりしていないと、どうしても効きが悪くなったりする。そして、事故の原因にも繋がりかねない。


「五〇センチでするしか無いのか――」


 稔がそう言ってため息を付きそうになる。少し悩ましい課題に直面し、どうにか楽な方向へと持って行きたい稔だったが、断りきれない自分の性格と相まって、楽な方向に向かわずに苦の方向へと向かっている。


「稔くん。提案が有る」

「なんですか?」

「五〇センチでは強度は強くなり、御客様の安全確保には十分である。が、君の言うとおり作業は困難を極める」

「そうですね」

「そこで提案なんだが、六〇センチはどうだ?」


 ジャックはそう言って提案する。五〇センチでは六〇〇本の枕木を使用するが、六〇センチの場合は五〇〇本の枕木で済む。どちらも三〇〇メートルと仮定した場合での計算だが、四番線ホームに限ればその程度の長さで済む。


 ……と、そこへ。



「――整備長!」


 

 男女混じり合った声が聞こえる。台詞は上の通りだ。見てみれば、二番線ホームに整備士達が空から駆けつけていた。加速して来たようで、少々疲れたような様子を浮かべている整備士も居るが、そんな人には栄養ドリンクが配られていた。


「お前ら……」


 エルフィリア王国鉄道・鉄道整備課・第三管区。そこに所属する多くの整備士達が、ジャックがボン・クローネ駅へ向かったことをただ見ているだけで居られなくなって、駆けつけてくれたのだ。そんな彼らに、ジャックは涙すら隠せぬままに、鼻水を垂らす勢いで涙を呑み啜る。


「整備長に日頃からお世話になってるんで」

「俺ら、追っかけてきたっす」

「――」


 ジャックは泣く。二番線ホームから聞こえる声に泣きじゃくるまではいかなかったが、自分の心の中の感情を露わにした。整備長としてのこれまでの頑張りが認められたかのような、そんな感情をジャックは抱く。


「エルフィリア王国鉄道・鉄道整備課・第三管区整備長。一緒に、頑張りましょう――」

「稔くん……」


 ジャックはその時、目の前に自分より年下の男が居ることを考えて、流した涙を消し去ろうと頑張る。こらえて涙が出ないように頑張る。でも、無理だった。感情は正直だ。



「大人が泣いたっていいんですよ。絆以上に大切なものは、この世にほぼ存在しませんから――」



 絆を作るためにはそれなりのお金がかかる場合もあるわけで、それを踏まえて稔はそう言った。泣くジャックは、何処か自分の弟のように見えてしまいかねないし、頼りがいのない大人に見えてしまいかねない。


 でも、それでも稔は泣かせてあげた。可哀想な子を見る目はしないで、その人の気持ちになるように努力した。だから稔は、この時をどう過ごすかを考えて泣かせてあげた。


「整備長。では、指示をお願いします……」


 稔はそう言うと、整備長からの指示を待つ。でも、その指示はすぐに行われた。


「稔くんを含めて、君たちは四番線ホームの跨線橋の更に向こう側を担当してもらいたい」

「分かりました」


 まず指示されたのは、稔とラクトだった。ただ、更に援軍が向かう。


「貴方には、その召使を連れて稔くんと一緒の方向へ行って欲しいけど、三番線サイドのレールの損傷部分を見つけたら、そこを直して欲しい」


 援軍となったのは織桜とエオスだ。これで、跨線橋よりも向こう側は四人が担当することとなった。


「稔くんは、テレポートすることが出来るということも有る。だから、待機している場所それぞれに均等になるように、ウルカグアリーと君の召使が作ってくれたそれを持って行って欲しい」


 整備長が指さした方向にあったのは、物を作ることが出来る二人が頑張って作り上げた材料だった。枕木が大量に入っている風呂敷がそこには有ったのだ。


「取り敢えずそれがどれくらい有るかを見て欲し――」

「五五〇個くらいかな」

「は、早っ!」


 思わずジャックも、いつもの口調を忘れるくらいに驚く。


「まあ、私はさっき向こうで待機していたからね。ハハハ」


 織桜はそう言うと、何の特技でもないことをアピールする。彼女も、嘘なんて付いていない。


「んじゃ、ウルカグアリー。僕たちはここで枕木を作っていることにしようか」

「でもマスター。作った物を最終的に処分するのは面倒ですし、注文を受けてから――」

「それだと迅速な対応が出来ないし、それにもっと作らなくちゃダメだから」

「そうですか」


 ウルカグアリーは嫌な表情を浮かべているわけではなかった。自分がしなければならないことをしっかりと把握しているからこそ、自分の意見を述べることが出来る。でもその意見が論破されたことを直視し、ウルカグアリーはそれ以上の反論もしないし、嫌な表情を浮かべる訳でもない。


「それじゃ、稔くん。魔法を酷使することになっちゃったけども宜しく頼む」

「分かりました。でも、まずは整備長が分担しないと……」

「ああ、それなら――」


 整備長は特にそれといった指示を出していないが、整備長に従う整備士たちは、何も言わないでも動いて所定位置に付いた。


「整備は時間と正確さが勝負だ。だからこそ、整備をする前にはしっかりと念入りな打ち合わせを行う」

「そうなんですか」

「ああ。整備する奴は皆、所要時間内に作業を終わらせるために打ち合わせを行っているから、いつも通りにしていると自然に打ち合わせをすることになる。だから、こうやって動くことが出来る」

「流石です」


 整備長を褒めると、整備長は笑顔を見せた。それが彼の返答だ。


「お……」


 二・三番線ホームから飛び、四・五番線ホームを越して降りたのは六・七番線ホーム。集団で飛び立っていく姿、着陸していく姿。そういったものには圧倒される。圧巻過ぎて息を呑むほどだ。


「計五班編成。まずは、一〇〇本ずつ枕木を渡してくれ。無理であれば僕も手伝うが――」

「大丈夫です。……な、ラクト」

「うん」


 こんな時こそ召使と共に居るべきだと考えて、稔はラクトとともに枕木を渡していくことにした。一〇〇本ずつ、「自分たちのは最後」という鉄則は守りつつ、五班に別れたそれぞれに渡していった。縛られた風呂敷を抱えながら、稔とラクトは声に出さないテレポートで移動する。


「はい、どうぞ」

「一〇〇本確認しました。有難うございます」


 そんな会話とともに、稔とラクトは迅速に作業をこなしていく。確認作業は怠らずに、確認された枕木を渡していく。――だが、ここで稔は有ることに気がついた。そこで、整備長に離れたホームから聞くことにした。


「整備長!」

「なんだ?」

「あの、金具とかってどうする――」

「それは後だ! まずは枕木を敷け!」

「はい!」


 稔はジャックに確認をとった後に返事をしてから、ラクトと共にまた他のホームへとテレポートして向かう。やはり確認作業を怠らないで行ってこなしていく。




 そして特に何事無く風呂敷は段々と軽くなり、ようやく最後の場所へ来た。


「んじゃ織桜。ちょっと、風呂敷返してくるから」

「ん、頼んだぞ」


 一〇〇本の枕木を渡し、稔はテレポートしてジャックの居る場所へ戻った。一方のラクトは、ある意味の助手として活躍していたため、風呂敷を届けるのかと思っていたがそうではなかったので、織桜達と共に待機していた。


 昼飯が食えないまま、また時間が経過していった。

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