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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-52 駅とレールの復旧作業-Ⅴ

 ジャックは、稔が嘘偽りのないテレポーターなのかを気にしていた。疑いの目を掛けるのは、初対面であるために仕方が無いと言える。

 もっとも彼は同性に手を掴まれたのだから、稔に対しての感情が変化した事も考えなければならない点だ。


 もっとも稔はノンケであるし、ジャックになど溺愛していない。強いて言えば彼は、ラクトを始めとする多くの召使に溺愛している。召使以外に精霊も該当するが、あまり詳しくするとキリがない。


「半信半疑だったんですけど、貴方は本当にテレポート出来たんですねぇ」

「はい。それにテレポートが使えると行動範囲が広がるので、良いことは多いですね」

「それは良かった」


 ジャックはそういう回答をする。その後ジャックが回答を終わらせたのを確認して、稔は肝心のことを忘れていないかを確認するために話を切り出した。


「それで、レールは大丈夫なんですか?」

「ああ、レールか。大丈夫だ」

「言っちゃなんですが、大きさ的にそれっぽいものが何処にもないと思うんですけど――?」

「ハハハ。そういう時こそ、召使の力を借りるんだぞ」


 ジャックはそう言って、召使を召喚した。



「――ウルカグアリー、召喚サモン――!」



 銀色の光を発する召喚陣が、召喚してきた召使の背後には有った。それはすぐに消えたが、稔が召喚するヘルやスルトとは召喚時の光景が異なっていることを確認した。


 もっとも、召喚方法の呼び出し方が違うことは大きいことだが、召喚陣がサモン系の召使を召喚した際に現れてしまうことはよくあることで、何も心配はいらないし気にする必要もない。


「大体、仕事に関しては察しているのでその通りに行っていいですか?」

「ああ。僕が止めるまでそのようにしてやってくれ」

「分かりました」


 召使は、やはり敬語を使う。ヘルはその法則に反しているとも言い難いが、稔は個性を殺すことは避けたかったことの一つだったので、流石に法則に反しているからといって個性を殺すのは止めた。

 そんなことをしたら、可哀想だと思ったのだ。いくら自分が彼女を支配しているように見られるとはいえ、稔は避けたかった。


「いつも通りにレールを生み出せばいいんですよね」

「まあな」

「それでは、いきます……」


 鉄道関係者ということもあって、鉄道に関わる魔法を使用する。範囲が狭いようにも見えるが、ラクトのように転用したりすることも可能なので一概にそうは言えない。


 また、レールを生み出すというのは至極新しい魔法だとも考えられるが、一方でラクトの魔法と似ている系統に属しているのではないかと考えることも出来る。


 ジャックの召使であるウルカグアリーは、ジャックの指示に沿ってレールを生み出していった。いとも簡単にレールを生み出していくウルカグアリーだが、転用していないからこそのスピードと言える。


「そういえば、これ終わったらどうやって運ぶんですか?」

「どうせホームなんだし、援軍は大勢いると思う」

「でもまあ、援軍要らないっすわ」

「そう?」


 ジャックが疑問に思っていたが、稔には自信があった。稔の召使、精霊、友人。知り合った人や仲の良い友人の精霊と召使たち――。それらを結集させれば大きな力になるということを踏まえ、自信を持っていた。


「こんなにも手伝ってくれる人が居るんですから、復旧作業なんてすぐに終わりますよ」

「でも、レールに関しては専用の金具が必要になって、その際にはまたこいつに――」

「大丈夫です。金具であれば、うちにも助っ人は居ますから」


 稔はそう言って、内心でラクトを呼ぶ。ラクトは稔に呼ばれたことを察知して、「トイレに行ってくるわ」と告げて稔の居る方向へ飛んで向かう。バレバレだったが、それもラクトの個性の一部だ。侵すことを許されない、個性というものの一部なのだ。


 もっともそれが仇となってしまうことも否定はできないが、そんなことを言ったら稔の個性だってそうだ。要するに、個性の全てが全て良いように作用するとは限らないのだ。悪いように作用することだって十分にある。


 でも。そんな悪いように作用することを良いように作用する風に見せられたなら、それはきっと良い個性に繋がる。


「――紹介します。こちらが、俺の召使のラクトです」


 ラクトが稔の居る場所に到着して、稔はそれが当然のような振る舞いを見せた。内心、稔は「いつ来るんだろうか」と神経を尖らせていた。でも、流石は稔を溺愛している召使。主人の方向へはすぐに向かってきてくれた。


 紹介が始まり、自分の話すべき場所だという事を察してラクトが何食わぬ顔で話す。


「足手まといにならないように頑張りますんで、よろしく」

「態度でかいぞ」

「自分だってそうだろバーカ」


 ラクトの表情には笑顔が浮かんでいた。永遠の一七歳のサキュバスと、実質永遠の一七歳の童貞男。そんなことが関係するとは言い難いものの、年齢が近いからこそ弾む会話が無いことはない。でも稔もラクトもそんな会話、まだしていない。


「そういや、お前って金具系は生み出せるのか?」

「どういう金具?」

「あ……」


 資料の要求が行われた。ラクトが何かを生み出すためには、主人が脳裏に何かを思い浮かべるか、それか実物を見るかしなければならない。これは対象物をコピーするために必要な手順であるから、これを省けば何も出来ない。


「ジャックさん。金具とかってどういうものですか?」

「いや、僕よりもウルカグアリーの方が……」


 責任転嫁という訳ではない。でもジャックは、自分の口から説明をすることを要求するのは止めて欲しいと主張した。なにせ、彼は鉄道の整備をする人間であるとはいえど、紙の資料だとかを持っているわけでもなく、誰かの脳を操れる魔法だって無いのだから。


 そこで、稔が隣に居たウルカグアリーの方に聞いた。するとすぐ、聞かれた召使は答えを出した。


「金具はこういうものですよ」

「おっ……」


 大きい物音はしなかったが、白い煙とともに出てきた五〇本程度の釘とみられる金具に、稔は驚きを隠せない。茶色ををしていて、暗めの色だから重そうだが、ウルカグアリーが軽々しく持っている通りにそれは見た印象でしかなく、触ってみればそんな印象は抱かない。


「稔。これが金具?」

「……らしい」


 ウルカグアリーの方向へ、ラクトも近づいてきた。『実物』という名の『最強の資料』がウルカグアリーが持っている以上、稔が脳内で考える必要がなくなったと言っていい。かつ、正確に作ることが可能になったため、鉄道で一番大事な『安全』にも配慮することが出来る。


「まあ、そのサイズであれば大丈夫かも」

「お前の魔法を転用していけるか?」

「九〇パーセントくらいで成功しそうだから、稔は心配しなくていいよ」

「そっか。……ま、焦るなよ」

「んなこと、言われなくてもわかってる」


 そんな会話を済ませると、稔はラクトが金具を作っている裏で、ホームではなくレールの敷かれていない場所を見た。電車が停車してあったところを中心として、長さは一〇〇メートル以上に及ぶ。


 直接爆発の影響を受けた分の長さ、つまり列車の車両合計の長さだけではなく。当然飛び散った火の片だとかも影響し、このような結果になった。


「長いですね」

「そうだな。大体三〇〇メートルくらいか」

「そんなに……」


 置かれていた一〇〇メートルくらいの長さ、そこを中心として五〇メートル。そこら辺までは本当に酷いことになっている。それぞれ、その場所から五〇メートルのところまではあまりに酷いわけではない。けれど、安全性が脅かされたりして鉄道の運転に支障を来すレベルなので、修正しない訳にはいかない。


 爆風で飛ばされた破片がところどころのレールを傷めてしまった訳だが、修正する範囲がそれだけで住んだのは不幸中の幸いとも言える。なにせ、範囲が狭ければ狭いほど復旧終了までに掛かる時間は少なくなるのだから。


「まあ、別にそこまで困るような内容でもないさ」

「そうですかね」


 ラクトとウルカグアリーに金具を作らせている一方で、稔はホームに人影を見つけた。声を上げて彼女たちの声を呼ぼうと思った稔だったが、それは止めておいた。テレポートをすれば済む話なので、無理して大声をぶっ放す必要はない。


「すいません。ちょこっと援軍呼んできます」

「そうか」


 ジャックに許可を貰った稔は、ラクトにその場所にいるように告げた。「動作はそのままに、すぐ戻ってくるからそこに居ろ」と告げたのである。テレポートすればすぐに辿り着く距離であるのは言うまでもなく、それを考えての告げた言葉だった。



 ホームの跨線橋が有った方に来た稔は、紫姫と織桜を自分の目で認識した後に、何やら金属で出来た茶色い長細い物体を見て、それを認識した。


「織桜。これは何だ?」

「これは『枕木』だぞ、愚弟」

「枕木か」


 簡単に説明するのなら、レールの下に置かれているあれである。


「紫姫が魔法を使って一気にレールを凍らせちゃったせいで、溶けた時に水が出てきて腐らせちゃったみたいでさ……。んで、急遽作ってもらったわけよ」

「ラクトに?」

「ラクト以外に、この子にもね」


 織桜はそう言うと、ホームの跨線橋の方に身体を回転させた。稔もその方向を覗いてみる。見れば、そこにはエオスの姿が有った。そして彼女は、その場所に居た猫と戯れている。


「エオスが協力してくれたのは分かった。それはいいとして、なんで猫?」

「ああ、この猫はインフォメーションセンターに居る猫らしいんだよ。でもなんか、エオスが好きすぎて来ちゃったらしい」

「だから懐いてるのか」


 愛くるしい表情にエオスは凄く喜んでいた。もちろんそれを見るだけで稔や織桜、それ以外の関わっている人の顔にも笑顔が浮かぶ。愛くるしいからこそ、撫でたくなって愛したくなるのだ。

 そして、織桜が最後にこう言う。


「……ごめん。いい忘れた」

「何?」

「あの猫、駅長なんだわ」

「――は?」


 織桜の言っていることは大体理解できていたが、稔はそんなことが有るはずないと思ってそう言った。


「エオス曰く、駅が戦艦っぽいから可愛い駅長を募集したらしいんだけど、最終的にアンケート取ったら、あの猫が一位だったらしいんだよね。……ま、何処の世界でも共通なんだね、こういうのは」

「みたいだな」


 猫嫌いな人もいるだろうが、猫が好かれるのは確かだ。それは日本だけでなく、稔たちの居た水の有る星の現実世界、そこだけじゃない。マドーロムという二つ目の水の有る現実世界。そこでも同じだったのだ。


「取り敢えず、急ごう。早くレールを敷いて電車を通さないとダイヤが乱れる」

「もう乱れてるだろ」

「そうだけど、エオスを借りてることもあるし――」

「全く、これだから愚弟は……」


 ため息をつく織桜。エオスを借りているからといって、それが直接レールを敷くことに関係するわけではない。「この件に関わってしまった事」こそが、一番関係していることだ。エオスを借りた借りないの問題ではなく、根本的な場所に問題は有る。


「エオス!」


 織桜はそう言ってエオスを呼ぶ。「はい!」という元気な返事の後、彼女は階段を猫を抱えながらして降りてきた。エスカレーターといったものは有るが、戦いを起こした結果、電気が完全に通らない状況が生まれてしまい、エスカレーターは機能するものの、人を運べる物ではなくなってしまった。


「ねっ、猫を連れて行くのか……」

「駅長を守るために、仕方無いじゃないですか」


 稔は、猫を連れて行くことに疑問感を抱いたが、それが個性というものだ。猫を置いていけと言いたい稔の気持ちは募る一方だが、稔はその気持ちをかき消すことにした。


「そういえば、テレポートって動物はカウントされるのかな?」

「されないでしょ。召使や精霊と同様に」

「そっか。んじゃ――」


 稔は織桜の手を握り、次に何の話もしない紫姫の手を――。


「あれ、紫姫は?」

「全力で闘った事もあるし、恐らく今石の中で寝てるんだと思う。英気を養ってるんだと思う」

「そっか。……んじゃ、実質エオスと俺と織桜でテレポートすることになるのか」

「猫忘れんな、猫」


 織桜は最後にそう言ったが、ごもっともだった。何はどうあれ、駅長である猫を忘れてはいけない。また、動かない着ぐるみの方が運びやすいだろうが、動いているからこそ感じられるぬくもりとかも有る。そしてそれは、忘れてはいけない猫を感じさせてくれるために必要なものだ。


「それじゃ、手を握って――」


 稔がそう言って先導する。


「せーのっ!」


 心の中でテレポートを使用することを宣言し、稔はジャックの居る場所へと移動した。前方に五〇メートル程度、爆風によって飛ばされた片でレールが傷んだりした場所も有ったりするところだ。


「お帰り、稔」

「ただいま、ラクト」

「それはいい。早く枕木持ってこいよ」

「あっ……」


 ラクトの言った言葉は間違いを一つも言っていない。枕木なしじゃ作業は進まないのだから、持ってこいよという彼女の台詞に逆らう理由などない。召使に従っている主人のように見えなくもないが、それは事実ではない。


 稔は、ラクトに急かされて枕木を取ってくることになった。「後でいいじゃん」などという軽い返しは通用しない。今必要なのは枕木なのだ。金具が出来たから問題なく留めることが出来るし、それにレールだってウルカグアリーが作ってくれたために、もう大体は出来ていた。


「しっかりしろ、稔」


 テレポートを使用する前に、そのように楽とから声を貰って俺は行く。誰かが忘れてしまったせいで時間ロスしている訳だが、どう考えてもテレポートでプラスマイナスゼロに抑えられたとはいえない。

 心の中でテレポートを宣言し、本日相当な数使っている魔法をまた使用した。




「はぁ……」


 稔の心の中に作られていった負担という大きな荷が、彼のため息を生んでいた。別に、テレポートが心理的苦痛を与えている訳ではない。稔自身、心理的苦痛を与えているような真似はしていないのだから。


「んしょっと」

「我も運ぶぞ」

「しっ、紫姫っ? お前何処に……」

「石の中だ。我も先程は気づかなかったからな、貴台が個々に来ている理由はすぐに分かるぞ」

「流石は俺の精霊だな……」


 紫姫の髪の毛を撫でてあげる稔。その作戦に、紫姫は蕩けそうな瞳を見せる。チーズと間違えるほどの蕩けそうな瞳ではないが、やはりそういった顔を見て稔は思った。「こいつ可愛い」と。また、撫でるたびに稔の手につく芳香は、鼻を刺激することのない匂いで、花の匂いと言ったらいいだろう。


「まあ、我はこのように風呂敷を持っているからな。使って構わないぞ、貴台」

「そっか。――んじゃ、ご遠慮無く」


 そう断った上で、稔は置かれていた金属製の枕木を風呂敷の中に詰め込んでいった。勿論、そこに変な虫が付いていたりすることはない。そもそも金属製の枕木に虫が付いているなんてなったら、大体の稔の召使は触らない。


「うしっ……」


 風呂敷の中の枕木を含め、風呂敷を強く縛る稔。解けないように風呂敷の中に枕木を包み込めると、それなりの重さがそれらを担いだ稔に襲いかかる。怖いわけではないが、それでもなんだか悪魔のよう。


「貴台、身体が弱いのか?」

「いや、別にそういうことじゃ――」

「この後、我は石の中に戻る。だから、その時に運んでいこうじゃないか」

「俺だけがテレポートするってことか?」

「簡単にいえばそういうことかな」

「分かった」


 そんなこんなで会話は進み、紫姫は石の中へ戻る。紫水晶の中のマイルームへと、風呂敷をサンタクロースのようにして持っていった。風呂敷の中にプレゼントなど入っていないが、プレゼントが入っているかのように見える。


「んじゃまあ、こっちでの仕事は済んだわけだし……。テレポートすっか」


 稔がそう言っても、返答を返す召使や精霊は居ない。皆、召喚陣や石の中で休養中だ。ラクトを呼ぼうと思えば簡単に呼べるが、彼女も彼女で向こうで待っている。自分を急かした彼女を呼ぶのは、稔としても気が引けた。


 口から出さないように気をつけて、稔はまた五〇メートル先に待っている召使たちの方向へと向かった。鉄道関係者、稔の仲間たち。それぞれの為に、稔は急いでその場所へ向かっていく。

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