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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-49 駅とレールの復旧作業-Ⅱ

 四番線ホームには、先客が当然のように居た。とはいえ、彼女らはその場所で待機している。彼女らの名前は、言うまでもなく。


「聞いてきた?」


 織桜とラクト。照れ隠しするように隠れた紫姫の姿はそこにはない。当然だ、石の中にいるのだから。

 ただ、稔の連れてきたエオスは少々驚いていた。駅員の召使ということも有り、駅のホームに誰かがいることに慣れていないわけじゃない。何故驚いたのかといえば、ホームに召使、それもカムオン系の召使が居たためだ。


「おっ……」


 珍しいといえばそれは嘘じゃない。カムオン系は稀な存在だ。リートが自分自身の召使がカムオン系で無いことに不満を抱いて言った言葉にも有るように、カムオン系は主人と親しくなりやすい。


 勿論、それで事件などが起きないとは限らない。起きれば、召喚陣に戻れないというハンデを抱えている召使と、その召使の相手を二四時間三六五日しなければならない主人との間で、亀裂が入ってしまう可能性は否定出来ない。


 もっとも稔とラクトの関係に関しては、相当濃厚――いや、赤い糸で結ばれているかのような信頼感すら伺えるが、これが何時まで続くかなんて誰にも分かりやしない。魔法を使って将来を見ることが出来ないのなら、何時まで経っても分からない。


「稔。この子は?」

「ああ、こいつはエオスって言ってな。丁度、インフォメーションセンターに居る駅員さんが貸してくれるって言ったんだよ」

「貸してくれるって、稔が召使をついにモノ扱い――」

「んなことあるか! ……言い方が悪かった」


 取り敢えず稔は謝罪の言葉を挟む。ラクトは稔の心理を探ることが出来るわけだが、この時はそれをしなかった。謝罪の時は使いたくないという、元魔族とは考えられぬ意思が働いたためだ。

 咳払いして、再開する。


「まあ、その。モノ扱いしてるわけじゃねえよ。駅員さんが自分から協力したいって言ってきたんだが、彼女は仕事の都合上無理ってことで。んで、結局召使に頼むことにしたってわけだ」

「なるほど」


 ラクトが頷く。納得した様子を浮かべている。一方で、織桜はこれから行われる作業に関して、一体何処の場面でエオスが関与できるかを考えるべく、稔に貸し出された女神に聞く。


「ところで、エオスは何が出来るんだ?」

「悲しいことに、エオスの特別魔法はそこまで消火活動に活きるような訳じゃない」

「そっか……」

「けど、消火活動に紫姫と一緒に協力してもらえればと――」


 稔はそう言いつつ。紫姫を石の中から、現実世界――マド―ロム世界線へと送り出そうとした。ただ、稔が送り出そうとしたその時は、紫姫は丁度お休み中。起きなければいけないことは分かっていたのだが、少し時間が掛かってしまった。


「人が英気を養っていたというのに。全く、我は貴台の奴隷ではないぞ?」

「そうだな」


 当然ながら、不満を抱えている紫姫。ただ紫姫は、目の前に居る「新しい仲間と思わしき人物(違います)」を見て、一瞬で態度が変化した。話し方は変わらなかったが、猫のように近づいてきて愛くるしい表情を浮かべるような、そんなような態度。


「アメジスト。聞かせ願()。――貴台と隣に居る、新しき仲間と思わしき人物は何と?」

「ああ、こいつはエオスだ」


 稔が説明をしている最中。信用をしている召使が暴走したかのように割り込んだ。そして、笑顔で言う。


「稔が貸してもらってる召使だよー!」

「んなっ……!」


 ラクトの声は、どちらかというと聞き取りやすい。口の中でごもごもしている訳でもなく、非常に聞き取りやすいのである。大声になった際には一体どうなるかを稔は知らないが、通常時の声だけを見れば非常に聞き取りやすく、会話もしやすいと言える。


 だからこそ発生してしまうのだ。聞き取りやすいからこそ聞き逃さないし、女の勘が冴えて結局主人に被害が及ぶ……。そういう状況が生まれてしまうのである。


 アメジストとデッド・エンド・バタフライが対峙した際、アメジストはその強さに驚いていた。だからこそ、稔は紫姫にストレスを溜めさせようとは思わなかった。何を隠そう、彼女が怒れば恐くない訳がない。


「我は戻るぞ。貴台と契約を結んで精霊になったのが運の尽きだッ!」

「ちょっ……」


 ひどい言いようだったが、全てはラクトの責任である。ラクトが変なことを言わなければ、稔に被害が及ぶことはなく、順調に紫姫とエオスに協力してもらって電車の火消しに走ってもらえた。


 ただ、順調さが欠けたとはいえ。稔は、紫姫が石の中へ戻ろうとするのを阻止する。それをさせてしまえば、計画は動くこと、つまり実行することを知らないものになってしまう。


「待ってくれよ! 俺にだって言い分は……」

「我は貴台が下劣な人間だとは思っていなかったが、貴台はエロ過ぎる妄想に花を咲かせるような、とんだ変態だったのか、全く。こんな者と精霊の契約を結んでしまった我は……」


 悲しみの表情が強くなっていく紫姫を見て、稔はため息をつこうにも慰めるしか無い。もっとも、慰める中での咳払い的な意味でのため息なら全然問題はない。しかし、悲しんでいる者の心の中を更に狂わせていくような、そういったため息は大問題である。


「――ファーストキスを、返せ」

「えっ……」


 稔は驚いた。『ファーストキス』という言葉は、しっかりと稔の耳に聞こえたのだ。


「それって一体……?」


 詳しく聞きたい稔に、紫姫は少々苛立ちを覚える。一方で、彼女も「自分がしてしまった失言」ということには何の異論もなかった。その結果、稔に対して紫姫は、意味を『一度だけ』伝えることにした。


「精霊は、石の所有者たる者がその契約者であることが大前提である。故に、織桜とエイブとの間に居たユースティティアは、精霊としての大前提を破っていた」

「お、おう……」

「織桜とエイブという、石を持つ者と精霊を持つ者が共存していたことから分かる通り……。精霊はどんな者とも契約をすることが出来る。裏を返すのならば、どんな者とも契約を解除することが出来る」


 稔は、紫姫の期待に応えるような対応は出来なかった。言うまでもなく、紫姫の言っていることを真面目に聞きたかったためだ。なにせ、頷いたりすることをするのをしていたため、一々声に出すのはいいや」ということだ。


 ただ話を無視しているわけではなく、稔は要所要所では相槌を打ったりすることにした。


「そして、精霊と契約した者にはある特権が与えられる。貴台は知っているだろうが、魔力の効力向上だ。最大値が二〇倍、最小値が二倍……。契約する精霊と主人との間の意思疎通が強ければ強い程、魔力の効力向上の最大値へと近づく」

「それはラクトから聞いたぞ」


 稔はラクトの名前を出したが、聞いているということを言っているだけであって、特に意味はそれ以外にない。


「魔力の効力向上は、契約時から上昇することはない。そして、契約する際には二通りあって、降臨するか否かというところだ」

「そうだね」

「我は貴台の精霊と成る為に降臨した。貴台とならば契約を結んでも良いと思った。けれど今、我は貴台に失望している」

「誤解なのに……」


 誤解であるということ、事実を、一貫して貫き通す稔。紫姫はそれを認めないような素振りを見せているが、今は紫姫の話の途中であるのだから、そこで割り込んで話をしだした稔が悪い。


「降臨した精霊は戦いの後、またはその最中。主人とキスを交わすことで契約の処理が完了、以後その主人の精霊としての活動を全うする事となる。一方で、降臨しない精霊は主人とキスを交わすことは同じであるが、精霊との戦いはなく、精霊に近づくのではなくて精霊側が近づいてくる」

「うん」

「キスをすることは変わらないが、精霊側が近づくか否かが要は重要な問題。そしてそれは、契約する予定の主人と精霊との関係がどのようで有るかを示している」


 ラクトに習った話が多かったが、稔はある意味再確認をすることが出来、嫌な気持ちはしなかった。


「んで、ファーストキスの意味は?」

「我の説明を聞いて、貴台は何一つとして察することを出来なかったのか! 全く、これだから外来種ディファーは嫌なんだ……」

「んだよもう……」


 稔は説明をしてくれた紫姫に感謝をしつつも、もう少し詳しく言ってくれればいいのにと思っていた。 一方の紫姫の本音は、説明が不十分というわけではなく「我の気持ちを察しろ」ということだった。「私だって女の子なんだから」ということである。


 と、その時。丁度稔の事を一番理解している召使が、ヒント――否、アンサーを提供した。


「要するに。紫姫は、キスをして契約したのはお前が最初なんだよ」

「えっ……」

「紫姫は、キスだけじゃなくてそれ以外のさらに発展的な事も――」

「ちょっ――」

「考えているとは言ってないんだけどなぁ……」


 ラクトはそう言ってまた、稔を誂う。本来、召使なんて主人を誂えるような立ち位置ではないのだが、やはり稔とラクトの関係は特別なのだ。召使が嫌がっているのに強制的に鎮めようとすること、そういったことをするのは殆ど無い。それが、稔だから。


「アメジスト……」

「ん?」


 紫姫は稔の耳元に顔を近づける。何かを言いたげにしているのは言うまでもなく。紫姫の発する芳香が漂う稔の鼻の近辺、そこに紫姫は左の人差し指を付ける。そして言った。稔の耳元で囁くようにして。


「――キスだけじゃなくて、今度はデートをしてみたい」

「えっ……」

「石の中もいいけど、マドーロムの世界を見てみたい――」


 漂う芳香は、ハニートラップを思わせるよう。けれど、稔は精霊とのデートに前向きだった。なんだかんだ言って、この男は召使とデートした人間であるし、精霊とキスを交わしているのだからデートしても無問題と言える。


 ハニートラップを仕掛けるような女性が見せる笑顔のような、そんな笑顔を見せて。芳香漂わせる紫姫は、笑みを浮かべた。小さな声で語ったそれは、稔の心の中と脳裏に強く刻まれた。


 稔がデートに対して前向きで居る最中。エオスは現れた精霊と稔、そしてラクトにはついて行けずに居た。そこで頼りになるのは織桜だ。そのため、織桜との雑談をしていた。


 織桜の元の世界の話――といっても、それは稔の居た元の世界と同じだ。けれど、稔が彼のカムオン系召使と契約した精霊に盗まれている中、稔から彼の現実世界の話を聞くことは無理と言って問題ない。


「で……」


 織桜とエオスが雑談をしている中、稔たちの会話は終了した。そして、エオスと織桜に話をしようと試みる。もっとも、二人とも稔の言葉に逆らうような事はしなかった。なにせ、それは雑談だ。年齢は織桜の方が高いといえど、彼女は自分のことを愚姉と言っているだけ有る。


「――これからレールの復旧作業を行っていく」


 稔はそう言って話を切り出した。愚弟と言われていたのだが、それでも稔は自分に出来る限りのことを尽くそうと思っていた。ラクトと紫姫との話で少し話題が逸れてしまい、本来するべき話が遅れてしまったのは間違いないが、それでも出来る限りのことを尽くすことは変わらない。


「うん」


 ラクトが、稔の言った復旧作業に関しての話に頷いて言う。レールの復旧作業は、魔法を使って対応すれば問題ない。現実世界で行うそれとは違うわけだから作業方法は異なるし、それこそ稔だって指揮する立場に何時の間にかなっているけれど、それは初めての体験だ。


「というか、織桜。俺は指揮をするべきなのか?」

「そりゃ、指揮をしてくれなきゃ困るよ。私は指揮をするよりもアドバイスをするほうが得意だからね」


 誇る織桜。隣で見ていたラクトはそんな彼女に言った。


「流石、アルティメットアドバイザー……」


 稔は知らなかったが、ラクトは心の中を覗いたことによって知ってしまった。もっとも、表現が酷いのは言うまでもないが、まあアルティメットアドバイザーであるのは間違いない。


 そしてそれは、織桜の誇りのようなものだ。誇りを褒められれば誰だって嬉しくなるわけで、嬉しくならないような奴が居るわけない。自分の得意とすることとか、あまり得意だとは思えなかったこととか、そういうことが褒められたなら。誰だって喜ぶ。


 ある意味で稔から受け継がれたような、巧みな言葉遣い。それを使用して織桜と会話するラクト。稔とまだ数時間しか一緒に居ないものの、それでもそういったところは受け継がれていたのだ。


「ハハハ。褒めてくれて有難う!」


 胸を張る織桜。しかし、ラクトは彼女の胸のサイズが自分以下であることを確認すると、内心で嘲笑うように笑う。褒められて嬉しがっている彼女に対し、自分がまさっている胸の大きさで攻撃するという、流石魔族とも言える行動だ。


「それで、愚弟。これからどういう風にいくのか説明を頼む」

「分かった」


 初めての体験であることに変わりはない。けれど稔は、頼まれたことに伴って使命感を負うこととなり、結果として真剣な表情でレールの復旧作業、そして通常運行へと戻すプロジェクトの実行の責任者としての自覚を持った。

 唾を呑んで、稔は自分に言い聞かせた。「俺なら出来る」と。「ゲームと思えばいい」と。



 人生はゲームだ。

 何が起こるかわからない予測不能かつ、楽しみすら見いだせないこともある、クソゲー。


 でも……。

 楽しみを見いだせたなら。


 それは【神ゲー】へと変化する――。



 言い聞かせ、稔は指示を出す。


「エオス、織桜、ラクト。三人は、レールを敷く担当だ。俺がテレポートで電車を運び終わり次第、レールを運んでくるからそれを敷いてくれ」

「分かった、稔」

「おう、愚弟」

「分かりました」


 返事をもらい、稔は続ける。


「紫姫。お前は、電車を運び出すために凍結させてくれ」

「電車を……か?」

「そうだ。無理ならラクトに頼むが……」


 凍らせるのならば、ラクトに頼む手が無い訳ではない。けれど、頼めば頼むで代償が出てくる。紫姫と稔との間で、不満が生まれるかもしれないということだ。


 紫姫は精霊だ。精霊は戦う兵器という訳ではないが、召使以上の戦闘能力を持つ。そうでなければ、あの降臨戦であそこまで稔たちが苦労するはずがない。稔の魔力の効力向上が無ければ、負けていたかもしれないくらいだったのだ。


 戦闘モードとなって、ラクトも協力してくれたりしたものの、それでも精霊の強さには及ばなかった。ラクトを手放すなんてことを稔が許可するはずもないが、やはり召使よりも精霊、そちらの方を失いたくなかった。


「ラクトに頼む……?」

「ああ、そうだ」


 煽りを入れて、紫姫に凍らせてもらう作業をしてもらおうというのが稔の考えだった。だが、やはりここでも召使がニヤニヤとした笑みを見せながら、稔の行おうとすることの妨害を実行する。


「私は別にいいよ。紫姫と一緒の共同作業だなんて、とてもいいことじゃん」

「そ、そうだな……」

「それにさ、共同作業で得られるものは多いと思うし、絆も作られると思うし」

「――」


 稔が紫姫に対して行った煽りは、稔の作戦通りに紫姫への圧力のようにはなっていた。ただ、そうなっていく過程で、レールを敷設するための人員を失うことに繋がりそうになる。ただ、ラクトは頑張り屋だ。魔法の転用には無理が有るが、体力ならまだまだ無理は無い。


「紫姫はどう?」

「我は――」


 紫姫には、すぐ口から発せるくらいの場所までこみ上げてくる気持ちがあった。でも、それはラクトにバレている。けれど、それを知っていたからこそ。ラクトは対応にも種類があった。


 前世、サキュバスだった頃に男を愉しませ、殺した存在。

 そんな中で勝ち取った一つの、特別魔法ではないけれど、それに近い存在の魔法ではない能力――。


 それを活用してラクトは言う。


「一人でやりたいなんて言わずにさ。やろうよ、私と一緒に」

「貴下。それは本気で言っているのか?」

「……馬鹿だな」

「貴下、何を考えている……?」


 笑顔で近づくラクト。そんなラクトに、紫姫は少々怯えていた。何かされるんじゃないかと思ってしまったからだ。けれどそれは、全然違った。

 紫姫の耳元でラクトは言った。稔に紫姫が囁いた時のように。


「――恋ではライバルかもだけど、私達は仲間じゃんか!」

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