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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-48 駅とレールの復旧作業-Ⅰ

「走るよりも、テレポートしたほうが早かったんじゃね……?」


 そんなことを言いながら、稔はインフォメーションセンターの前まで到着した。警察組織が先程モニターの操作のような事で使っていた部屋で有るが、当然の如くここに駅員は居る。


「すいません――」


 駅員が居る訳だから、稔はその駅員に電車の車種だとかを聞こうと思った。というよりも、それをしろと言われているのだから、思わなければどうにもならない。


 自動ドアが開き、稔はインフォメーションセンターの中へ入った。当然のごとく、そこには駅員が居た。居た駅員は男性ではなく、女性だった。男性で有ったほうが気楽といえば気楽だったが、稔は任されたことを遂行するべく、自らの気楽を求める気持ちを捨てる。


「インフォメーションセンターへようこそ。何をお聞きなされますか?」

「その……」

「はい」

「マニアックな事なんですが――」


 流石に、インフォメーションセンターに居る駅員に聞くような奴は居ない。そのため、稔は先に断っておいた。


 電車の車種なんて、聞くよりも先に調べるような奴らが鉄道マニアになるわけだ。鉄道マニアがそういうことでなれるのなら、車種を聞くような人は早々居ないはずだ。調べると言っても、奴らはインターネットや図書館などの情報網を駆使する事が多いためだ。


 もっとも、駅員に車種を聞く人が居ないわけではないだろうが、それでもごく少数だ。


「マニアックなことですか。お任せ下さい。この駅に勤務して今年で七年目の私が、どんなことでもご説明致します」

「助かります」

「もっとも、この駅は改築されているので、若干場所が移動したりしましたけどね」


 うんちく――いや、歴史上の事実というべきことだ。それを、駅員は稔に話した。


「それで、マニアックな事とは?」

「……はい。その、ついさっき炎上した電車の車種を教えて欲しいんです」

「電車の車種ですか――」


 駅員は困った表情を浮かべた。無理もない、こんなことを聞くような客は異常と思われてもおかしくないくらい、ごく少数なのだから。けれど、駅員はそんな風に思ったとしても変な視線を送ることはない。それをすれば駅員への悪評、駅員への誹謗中傷の原因になりかねない。


「そうですねぇ……」


 駅員は困りながらも、カウンター下の収納棚を探っていた。インフォメーションセンターのカウンターは客が通る道を作ることなどが考慮され、カウンターとしての出っ張りは駅員が立つ側のみになっている。


 もちろん座る場所だとかはないし、インフォメーションセンターは極狭だ。故に、部屋の活用が重要になってくる。そしてその活用が、言うまでもなくカウンター下の収納棚だ。


「駅の時刻表に書いてないかなぁ……?」


 時刻表を見る駅員。カウンターの上に時刻表を置くと、「取り敢えずは……」と言って、一三時台の電車の一覧表を稔に見せた。稔たちが乗るはずだった列車はあともう二分後の、一三時五三分発の列車である。ちなみに、戦いが起こった時間は一三時三〇分くらいだった。


「一三時台で陰陽本線を使う列車となると――」


 駅員は悩みながらも、左ページから右ページヘと視線を移す。


「これですね。『クローネ・ポート駅』から『バレブリュッケ駅』へと向かう特急列車――」


 見つけた駅員がそう言って、稔の目線と意識を自分の方へ向けさせた。稔は駅員のすぐ目の前で話を聞いていたわけだったが、ボンクローネ駅の一階にあるフードコートのところを見ていた。腹が減ってしまい、思わず見てしまったのである。


「お腹減ってるんですね」

「そうなんですよ。昼飯を食べようとした時にあれですから」


 稔は笑顔で返したが、フードコード内はそんなに笑顔で居れるような状況ではなかった。


 なにせ、四番線ホームが爆破された結果、フードコート内の通路の一つが爆発したのである。木端微塵とまでは行かなかったが、その通路の周辺の店舗に被害が出たのは言うまでもない。


「まあ、そこは駅員が干渉する場所では有りませんし、取り敢えず私からは列車の種類を御告げすればいいのですよね?」

「は、はい!」


 稔は少し動揺しながらの返し言葉だったが、駅員はそんなことは気にせずに説明を続ける。


「一三時二六分にボン・クローネ駅に到着する列車が御座います。恐らく、爆破した列車はそれだと思うんです」

「それが特急列車……」

「はい。陰陽本線と波本本線を通って王国最東端の都市、バレブリュッケ市の中心部にある『バレブリュッケ駅』に行くんです。そしていつも、四番線に停車するわけです」

「……」


 爆発が起きた列車は四番線ホームに止まっていた。時間も酷似している。


「すいません。その特急列車の名前は……?」

「特急列車の名前ですか。『バレクロネ』です」

「バレクロネ……」

「出発駅と到着駅を逆さに読んでいるかのように聞こえますが、この列車は七時台と一三時台と一九時台と一時台の四本運行されていて、逆さ読みとは言い難いのです」


 いずれにせよ、ボン・クローネ駅に特急列車が止まることは事実だ。駅員がうんちくを披露してくれたが、取り敢えず稔が聞きたかったのは特急列車の名前だけだ。それで変な知識がついても活用する方法が無いためであって、活用する方法があれば稔は大歓迎だった。


「バレクロネ……。分かりました」

「いえいえ。お役に立てて嬉しいです」

「あと、もう一つお聞きしていいですかね?」

「なんでしょうか?」


 稔は最後。聞かなければいけないとは指示されていないものの、列車を運搬してくるということは何が必要かということを踏まえ、予備の列車だとかが有るかどうかに関して聞くことにした。


「駅員さん。特急バレクロネは、今一つしか無いんですか?」

「はい」

「そんな……」

「何かを考えていたんですか?」

「それは――」


 駅員は、酷く熱心に稔の言葉に耳を傾けてくれていた。稔からすれば、それだけでも充分に嬉しい事だった。ラクトや織桜というような人とは違い、清楚――もとい、静かな人であることが何となく伺えたからである。


 リートも敬語を使っていたが、彼女は何かが後ろに有ることは考えられるような喋り口調だった。けれど、目の前の敬語を使っている駅員は敬語を使用している背景に有ることが大体分かる。言わずもがな、「仕事の一環」である。


「私は仕事の範疇内であれば、鉄道関連の相談は全然有難いんですが――」

「じゃあ、聞かせて下さい」

「ど、どうぞ……」


 稔は一つ、実質的には駅員に今後の判断を委ねる質問をした。



「レールを復旧させることと、電車とレールを元通りにすること。駅員さん。どちらを選択しますか?」


 

 稔の経験論は無いと言っても過言ではない。なにせ、稔は鉄道に関してはそこまで詳しいわけじゃない。これまで鉄道に乗ったことがないというわけではないものの、鉄道に詳しいわけではない。

 だったら、その道のプロに聞けばいい。そう考えたのだ。


「――」


 とはいえ。いくらその道のプロだったとしても、突如として聞かれたことに答えようとするのは難しい。考え時間を頂きたいという話である。けれど、駅員は少し無言になったのを確認した刹那、稔にこう言った。


「電車は、レールが無ければ生きていくことは出来ません。レールは、電車が無ければ生きていくことは出来ません。互いに共存しあって、こうやっていろんな方々を遠方や近方に運んでいるのです」

「そうですね」

「ですから、私は両方復元できるのならすればいいと思います。でも――」

 

 駅員は「復元できるのなら」と付け加え、必ずそうしろとは言わなかった。そして、続けて言う。


「今すぐに電車を復元することは不可能です。いくら人員を動員したって、製造するにはそれなりの時間を要しますし、電車を走らせるにはそれをレールの上に持ってこなければなりません」

「はい」

「ですから私は、電車はあとでいいと思います。今はまず、レールを復旧させましょう」


 駅員はそう言った。けれど、最後の台詞は他人行儀な台詞ではなかった。「いいのではないか」ではなく、「しましょうか」だったのだ。それは紛れも無く、参加してくれる意思表示だ。


 稔はそういったところは何気に察することが出来、駅員の意思表示をしっかりと呑んで言った。


「そうですね。『させましょう』って事は、駅員さんも協力してくださるんですか?」

「正確には、私の召使ですね。――召喚サモン!」


 召使と言ってすぐに、駅員はそれを召喚した。そして召喚陣から出てきたのは、年齢的には女子高校生くらいの年齢と考えられるくらいの者だった。召使ということもあって稔も判断に困るが、性別は女だと考えられる。


「マスター。何をすればいいんですか?」

「エオスには取り敢えず、その御客様を助けてやって欲しいかな」

「分かりました」

「うん。仕事が終わったら、インフォメーションセンターまで戻ってきてね」

「了解しました」


 話が簡単に進んでいく。そして、簡単に稔の手にエオスが貸し出される事が決定した。……言い方は酷いが、強ち間違っていない。


「そういえば、エオスは何か魔法を使えるのか?」

「私の使える魔法は、蝉と雄鶏を使う事が多いです」

「ふむふむ」


 エオス。彼女の元々の種族は女神、つまり神族だ。けれど今、彼女は召使となってこのエルフィリアに居る。様々な事情があったことは言うまでもないが、それを聞くのはやはり悲しい過去を引き出すことに繋がりかねず、稔はしない。否、稔はそもそもエオスが女神であることを知らない。


「レールの復旧をこれから行うんだが、エオスには何かできることは有るか?」

「資材の空を使った運搬でしょうか。後は――」

「運搬か……」


 稔は悩んだ。折角答えてくれたのは嬉しかったが、運搬であれば稔とスルトがすれば済む話だ。スルトが電車を持ち、稔がテレポートして運ぶのである。至極合理的な話であろう。

 

「運搬に関しては、俺が自分の召使と何とかするから干渉しなくていい。一方で、お前には――」

「かっ、干渉しなくていいってどういうことでしょうか?」

「その……。俺、テレポーターなんだ」

「なるほど……」


 テレポーターというだけで、駅員の召使であるエオスはすぐに理解を示した。察しがいいのかもしれないが、今のは大体どういうことか分かるはずだ。「空を飛ぶよりも早いから干渉しなくていい」という話である。


「それでその、消火活動とかはどうだ?」

「消火活動……」


 二階に行けば、電車を動かさなければならない。でなければ、レールを再び敷くことは困難を極める――というか、出来ない。無理してレールを敷いて事故を起こせば、罪を問われるのは稔たちだ。


 レールの取り替え作業を考えた時、稔はこの召使に任せたらいいんじゃないかと思った。もっとも、稔の召使でないのは確かなのだが、今命令を下せる立場に値するのは稔くらいだ。


「私は無理ですが、蝉がやってくれると思うので」

「そうか。分かった」


 稔は分かっていないが、蝉が発する水というのは要するに尿である。けれどそれは、別に汚いようなものではない。酸素と水素を混ぜて発した化合物であるから、アンモニアなどを発しないのである。


「それでは、私の召使を宜しくお願いします」

「は、はい」

「本当は私が参加するべきだと思うんですけれど、流石に役職が役職ですから、参加するのはいかがなものかと思いまして……」

「それもそうですね」


 そんな会話の後に、駅員は稔にこう告げた。


「レールの復旧が早ければ、我々鉄道関係の仕事をしている者からすれば非常に助かります。電車が運行すれば、色々な人が喜びます。――なので、早ければ早いに越したことはないです」


 笑顔を見せて言う駅員。けれど、駅員の言っていることを実施するだけでは意味は無い。彼女が言っていることが全く持って間違いというわけではないが、彼女の行っていることを踏まえた上で、安全を第一に考えた上での実施が必要なのだ。


「まあ、出来る限りを尽くしますよ」

「そうですか。……頑張ってくださいね」

「はい、分かりました」

「あ、最後に――」


 駅員は稔を逃さないかのような素振りを見せているが、それは全くもっての間違いである。駅員は、稔に色々と伝えなければならないことが有るように考えているからこそ、そう見えているだけなのである。


「これを、お願いします」

「これって名刺――」


 稔は、駅員から名刺を渡された。そして、そこには当然名前などが書かれている。ちなみに、駅員の名前は『マノン・フォーレ・ロワイエ』と書かれていた。


 そんな何の変哲もない名刺を稔は貰ったわけだが、ようやくインフォメーションセンターを出ようとなっ時に、気がついてしまった。


「嘘……」


 書かれていた年齢が二八歳だったのである。ババアとまではいかないが、そこまで年齢が高いということを稔は感じられなかった。むしろ、そのことを感じれなかったことで驚きを多く感じていた。


「驚きましたか。私はこれで二八歳なんですよ」

「お綺麗ですね、駅員さん」

「お世辞をどうも。――それではまたのご利用をお待ちしております、御客様」


 渡された名刺をポケットに仕舞うと、稔はエオスと共に四番線ホームへとテレポートして向かった。

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