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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-46 捏造の先に見えた真実

「――アメジスト、済まない。今のは嘘だ」

「嘘?」

「そうだ。我が言った情報は嘘だ。正しいものではない」

「なんだよそれ……」


 だがそれは、目の前に現れた男が本当に稔であるか否かの判定を下すための、有る一種の方法だった。稔は一つの意思を貫くことが多い。そして、誰かを助けようとする心や、召使や精霊を見下したりはしない心を持っている。


 だからこそ、他人と比べて特異な点が有るからこそ。稔の確認のためにはそれが重要だと思った。

 そして何よりも、稔はコメントをしてくれる。例えそれが静けさを生むようなものであったとしても、彼は言う。


「アメジスト、気づいていたか?」

「何をだ?」

「途中、ラクトが敬語を使うようになっただろう?」

「ああ、そういえば……」


 けれど、それが何に関係しているのかだとか、そういったことを稔は知らない。


「あれは、『召精(しょうせい)突変化(とっぺんか)』と呼ばれる現象だ。主人と契約を交わしている精霊と、同じ状況のカムオン系の召使が衝突したことによって起こる、魔法交換の現象を指す」

「魔法交換……?」

「簡単にいえば、我の魔法と性格が彼女のそれと一部入れ替わったんだ」

「でもお前、その話し方はラクトの話し方じゃ……」

「我は何も、『全て入れ替わった』とは言っていない。『一部入れ替わった』と言っている」

「ごめ……」


 謝る稔。ただ、それを馬鹿にしようとするのはラクトの性格が入れ替わったことを示していた。話し方だとかは変わっていないのに、一部分が入れ替わったのである。


「アメジスト、何故謝る? ――全く、異世界人は何処か頭が可笑しいものだ」


 もっとも、日本といえば『クールな国』と外国に揶揄されるほど、少々バカバカしいことをしたりする国っていう評価である。もっとも、それが今日の技術力に繋がっていることは言うまでもないが。


 稔の主張からすれば、「俺らは謝ったり頭を下げたりする事を積極的に行う国民性なんだ!」となるが、どうしてもそれが馬鹿に見えるのが紫姫。国民性とは、そういったところにも影響を潜め、及ぼしているのだ。


「入れ替わっていられる時間は、五分から二〇分の間。そしてこれは、同性間のみでしか不可能であるため、男の召使と女の精霊との間では発生することのない現象だ」

「へえ」

「あと補点するならば、主人と精霊との間や主人と召使との間で行っても、意味を成さない」


 稔はラクトに抱きつかれたりすることはあったが、衝突したりすることは無かった。故に、紫姫の説明が事実に基づいたものであるか否かは、稔には判断しづらいものだった。

 ただ、目の前で起きた事情を踏まえれば、事実に基づいたものであるという風に考えるのが妥当だろう。稔は、ラクトが敬語で話している姿を見ていないわけではないのだから。


「さて、アメジスト。カメラを持って帰ろう」

「そうだな」

 

 稔がそう言った刹那、紫姫は静かに小股で歩き出した。稔の居る方向へ、言葉を発しないままに。

 そして稔のすぐ隣に来ると、紫姫はこう言った。


「手を繋いでみたかったから繋いだだけだ。我の手よりも、貴台の手の方が大きいんだな……」

「なんだよ、突然」

「あと、貴台の手は温かい……」


 アメジストは水晶であるが、それを所持している稔がシアン属性を持っているわけではない。一方で、紫姫はシアン属性を副属性として持っている。そういった事もあり、稔と紫姫との間に、手の温度の差が生まれる。だが、それは上手く調和する。


「俺は温かい心の持ち主だって、自分自身で思ってるしな」

「そう。……優しい男の主人は素敵だね」


 稔は最後の方を聞き取ってしまい、少し心臓の鼓動を早める。サキュバスが転生して生まれたラクトという召使に続き、精霊にまで心を奪われたのである。流石は、恋愛経験のないチェリーボーイである。


「んじゃ、行くぞ」


 稔の言葉が紫姫の両耳の鼓膜を通過する。そして、稔は心の中で告げた。


(――テレポート、ボン・クローネ駅、一階、通過後の改札口前へ――)


 出来る限り正確に告げると、テレポートしてその場所へ辿り着いた。何の変哲もないテレポートは一秒以内で移動できるのだが、稔と紫姫がテレポートした際、何故か時間が掛かった。

 少しいつもより移動が遅いことに気がついた稔。――その時だった。


 真っ白な空間、稔がトランプを引かされたあの空間。それに似た場所に稔と紫姫は来ていた。そして、ある一人の者がその場所に現れた。


「貴方様の状況が複雑化しており、テレポート回線が繋がりにくくなってしまっているのです……」

「えっ……」


 現れたのは、丸っこい目をした妖精のようなキャラクターと、正座――もとい、土下座をする美少女キャラクター。どちらとも体長は稔の人差し指程度で、体重もそれほど重くはない。


「状況が複雑しているので、いつもよりも長い時間を頂いてしまいまして、申し訳ございません」

「い、いや、とんでもない!」

「左様でございましたか」


 そして美少女が顔を上げた途端、妖精のようなキャラクターが言った。


「貴方様の状況が複雑化していまして、テレポート回線が繋がりにくくなってしまっていましたが、復旧が完了しました。では、さようなら――」

「え……?」


 真っ白な空間を抜けた先は、変わらないボン・クローネの駅の構内、一階だった。ラクトがそこに居て、織桜は支柱に座り込んで心を落ち着けている。ペレはモニターの画面の右隣に立っていた。

 ふと隣を見てみれば、そこには手を繋いだ先に見える紫姫。戻ってきたという強い感覚が、稔を覆うようにして広がりを見せる。

 そして、戻ってきて一番に声をかけたのはやっぱりラクトだった。ラクトが稔を「好き」で居ることが影響した。


「戻ってきたかー」

「あれ、戻ってる……」

「いやいや。テレポート使ってきたんだから、そうならなきゃ駄目でしょ」

「それもそうなんだが、さっき俺と紫姫は白い空間に――」


 事情を説明しようとする稔だったが、エイブが要求したのはそんなことではなかった。二番線ホームのカメラ映像の公開。それが、エイブの要求したことだった。


「早く映像を公開しないか! 僕は映像を見たいんだ! 捏造か事実か、それを見ようじゃないか!」


 とはいえ、防犯カメラ映像を駅構内のモニターで公開するなど、警察からすれば特異な、稀に見る出来事であったのは言うまでもない。しかし、なんといってもエイブは局長だ。彼の命令が絶対というわけではないが、大体絶対的なので仕方が無い。


 証拠は揃っていた。だが、このままでは事実無根のままに捏造が重ねられる可能性があった。

 インフォメーションセンターに居た男が、稔は一番許せないでいたわけだが、このままでは警察がその男を犯人ではないと決めつけ、更にペレまで犯人ではないと決めつけてしまう。そんなの、稔たちが許さない。


「では、局長? 映像を流しま――」

「許可なんぞいい! 早く流さないか! 僕は犯人ではないかと疑わているのだから、逮捕する根拠があるのか否かを早めに確かめる必要があるだろう!」

「は、はいぃ!」


 局長に怯えている部下。何処の社会であっても、こういった光景を見ることが出来るというわけだ。局長に怯えていることが悪いんじゃなくて、そういった言い方をする局長が悪いのである。でも、意見を押さえつけて教育するという方法がないわけではない。


 駅の改札口を抜けた先。目の前には通路が広がる切符販売所のすぐ近くにある、大きなモニター。駅の電車発車に関する電光掲示板ではなくて、テレビ画面などを移すために有るものだ。


 そして、それを管理するのはインフォメーションセンターである。二階の一番線ホームにあるインフォメーションセンターではなく、一階のバスターミナル周辺に有るインフォメーションセンターである。

 故に。その場所へ多くの警察官が乗り込むようにして入っていくのを、稔をはじめとして多くの乗客と当事者たちが見ていた。


 防犯カメラの映像が早送りされていく。今日の日付に合わされるまで、それは進む。今度、日付が合ったら速度を遅くさせて、今度は時間を合わせていく。


「では、流しますね……」


 唾を呑む警察官らと稔たち。乗客たちはざわつくが、途端に周囲に居た鉄道関係者によって止められる。映像が流れるモニターをじっと言葉を発さないように見るよう指示されると、彼らは抵抗せずにそうした。


「……」

「――」


 時が流れるのが早く感じていた、稔。

 自信ありげに証拠が潰されているはずがない事を思う、ラクト。

 協力したのだから、証拠は隠滅されているはずがないと考える、紫姫。


 三人を始め、稔側の陣営は証拠隠滅が行われていないことを確認すべく、その時を待った。――だが、突然ラクトが稔の方に下がっていった。理由は単純だ。


「あの男が、証拠隠滅を図った――」

「まじかよ……」

「魔法を使ったんだ。今、私は魔法の波動のようなものを感じた」


 ヴェレナス・キャッスルでもそうだった。魔法とは、見えるものだけが魔法ではないのだ。見えている魔法は可視化されている魔法というだけであって、見えない波動の形にすれば非可視化されているために、それを一般の乗客が見ることは出来ない。


 つまり。それを知らせることが出来るのは、察知することが出来るのは周囲に居る召使だけなのだ。もちろん、主人と召使との間の信頼関係や意思疎通が出来ていなければ、それすらも出来ないのは確かだ。


 一方のエイブは、ラクトが稔の方に移動したことに気が付いていなかった。それはもう、何を示しているのかを分かりやすく表現していた。そう、勝ち誇っているのである。自分の作戦は完全犯罪のようなものだと、そう誤認識しているのだ。


「稔。エイブの魔法は、一時的なものだと私は考えるよ。その一時的な魔法をどうやって証拠に残すかという事を考えれば、方法は一つしか無いね」

「なんだ?」

「魔法を使用したかどうかを判定する装置を使う。でも、それだと他の乗客が魔法を使ったりでもすれば、すぐさま使用した意味がなくなってしまうんだ」

「でも、それしか方法は……」


 警察官が捏造し、それをあたかも事実のようにして証拠をでっち上げていく中で、稔とラクトが一緒になって真実の証拠を提出するためには、それなりのリスクが伴う事がそこで判明した。


「ちょっと待て。もし仮に、召使と主人との間で意思疎通が出来ているのならば、データログのようなものは残っていないのか?」

「……どういうこと?」

「つまり……。エイブとユースティティアの信頼関係を信じ、ユースティティアの心の中を除いて、もし仮に主人が使用した魔法のログが残っていたりでもすれば、そのログを証拠とすることは出来ないのか、って事だ」

「うむ……」


 ゲームから応用したというのが稔の意見だった。ゲーム、特にギャルゲーの分野であればだが、ログを必ず残しているゲームの割合が多い。セーブに関してのログではなく、一度聞いた台詞をまた聞くことが出来る、ああいう機能の方だ。


 ゲームだからわからないかもしれないが、プレイヤーが操っている主人公と、主人公に操られているヒロインとの間には、それなりの信頼関係があると考えればいいのである。そもそも、そうでなければログ機能を今の現実世界で実現することは不可能であるし。


 親しい関係が有れば、秘密を明らかにすることも出来る。ラクトが、自身の悲しい過去を稔にバラした事と同じように。だからこそ、ツンデレキャラがついさっき言った台詞を言い直してくれるのである。


 ただ、ゲームと今の現実世界で異なる点は一つではない。もう一つ有った。


「もっとも、ログなんて非可視上の機能でしか無いわけで、それを可視化する必要があるけどな」


 その作戦を聞いて、ラクトは少し戸惑った。もし仮に、エイブとユースティティアが意思疎通していなかったとしたら、意思疎通しているであろう相手は恐らく織桜だ。つまり、それは仲間の心を覗くことに繋がってしまうわけであり、かつ、彼女が落ち込んでいる中で覗くということにもなってしまう。


 けれどラクトは、一か八か賭けてみることにした。何にせよ、主人なのだ。愛しのご主人様なのだ。


「分かった。やってみる」

「ラクト……」

「稔の為だもん。私のご主人様のため、私の将来の旦那様の為……」

「だ、旦那様っておま――」


 稔は思わず声を上げてしまいそうになったが、ぎりぎり抑えることに成功した。将来の旦那様の為にと言って、自分の為に色々としてくれることは嫌なわけがなかった。でも、流石にその言葉で驚いてしまわないほうがおかしい。


「……」


 ラクトは神経を研ぎ澄まし、エイブの心の中を覗くことに専念する。一方で稔は、モニターの画面を凝視し、いつ該当する映像が流れるのか待機を続けた。

 そして、ラクトがユースティティアの心の中を覗いてエイブの心の中と結果を比較し始めた、その時だった。ついに、二番線ホームに一人の少女が現れた。――ユースティティアの変装をした紫姫だ。


「なっ――」


 そしてこの時、ラクトはついに真実を見抜いた。


「エイブ」

「な、なんだ! 僕に何か用でも――」

「今、貴方が性欲発散の捌け口として、道具として使ってこられた正義の女神(ユースティティア)の姿を見て、驚きましたよね? 『まさか僕は、魔法を使用したのに失敗したのか』と――」

「な、何を……?」


 エイブは何を言われているのか、何故自分がこのような事態に遭遇しているのか、全くもって分からなかった。自分は完全犯罪のように、完全にバレないように魔法を使用したはずなのにもかかわらず。


「まず、大前提として言わせてもらいますが」

「えっ、映像が流れているじゃないか! 僕は映像に集中したいんだ!」

「そうですか。でも、真実から逃げるなんていう行為は女々しいですよ?」

「――」


 エイブの口から、言葉が漏れなくなった。捏造だということを彼は心の中ではもう、認めていた。その上に被さるように、『逃げてやる』という心が有っただけだ。だからもう、彼は負けているのだ。


「召使……いや、全ての召使では有りません。主人に一定以上親しくしている召使、主人に一定以上親しくされている召使のみに分かることですが……。波動にしたって、魔法は感じれるんですよ?」

「ハハハ、何を言って……」

「それも、悪意を持っていれば尚更」

「ふっ、ふざけた事を言って……」


 エイブの目は、この事態から逃げようとしている目だった。必死に笑顔を浮かべて逃げようとしているが、それが対して効果を表してくれず、困っている目だ。落ち着きもなく、混乱しているのを抑えている目だ。

 目線のみならず、彼の内心も右往左往していた。真実を自分の口から切って言うべきか否か。


「私のご主人様に言われて思い出したのですが、召使は主人と親しい関係を基本的に持っているはずなんです。ですから、主人が使用した魔法を頭の中の何処かに記憶しているはずなんです」

「……」

「そして私は、ユースティティアの脳内を見てみました。そしたら、魔法の記録が有りました。ついさっき使用したもの、それも『東方都市の虚偽世界イースト・フォージェリー』なんていう、捏造するための魔法を使っていました」


 あくまで、市民の安全を守る警察官達が発砲しようとすることもなく、ラクトの発言は続いていく。ぐうの音も出ないくらいにまで攻撃を受けて、ついにエイブは降参するかと思われたのだが、まだまだエイブは対抗する。


「ぐうの音も出ませんか。私に行っていたくせに、ブーメランでしたね」

「ハハハ。そんな変な言葉を使っても――」

「お前に言った言葉が返ってるって意味だよ。……理解しろよ?」


 低い声で言うラクトに、流石のエイブも苦笑いすら浮かばなくなってきていた。このままでは逃げ切ることが出来ないことを察していたのだ。かといって、ここで退散しても多くの人間に情報をばら撒かれるだけだ。


「ところで、貴方がたは四番線の到着に遅れたと言っていますが、それは建前上ですよね? 本心で何を考えているのか私は知ってるのに」

「何を考えていたと言うんだ?」

「決まっているじゃないですか――」


 ニヤッと笑った後に、ラクトは言った。


「捏造して作り上げた答えを、初めから結論にしようとでも思っていたんじゃないの? そうでなければ、その理論が通じるはずが有りません」


 ラクト達の前でついにエイブが堕ちた。徹底攻撃によって堕ちてしまった。

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