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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
最終章 現実世界編 《The last mission》
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稔「トゥルーエンド」

 ラクトが正式に下宿生として俺の家を利用するようになってから二週間が経過し、二学期最初の日を迎えた。夏休みに入る前よりは、心なしか理数系の科目が分かるようになった気がする。それもこれもラクトと一緒に勉強したおかげだ。


「おはよ」

「おはよう」


 そんな彼女が笑顔で俺を見下ろしている。反射的にスマホを手に取ると時刻は朝六時。夏休み中のグダっとした生活であれば早起きの中の早起きだが、学校のある日では普通めの起床時間だ。昨晩は比較的早めに床に就いたものの、夏休み生活のサイクルを覚えてしまった体は大きな欠伸をさせてくる。


「制服、似合ってるぞ」


 ラクトは俺が通う高校の編入試験に合格した。でも、完璧な優等生と褒められたわけではなく、通知を受け取った時に「社会科だけは勉強しろ」と言われたという。見せられた点数表に本人は唖然とせずにはいられなかったらしい。でも、合格は合格。二学期最初の朝、彼女は着たいと思っていた制服に晴れて袖を通していた。


「ありがと」


 下宿が認められた翌朝から、ラクトは創作上でよく見かけるようなテンプレ幼馴染のように俺を起こしに来てくれるようになった。嬉しい半面、変な起こし方をしてきたことが何度もあったのでいつか()返ししてやろうと機会を伺っていたが、朝が弱い属性を持っている俺にはまだまだ達成までの道のりは遠い。


「カオスさんから異世界通信の最新版来てたよ」


 そう言ってラクトがスマホを見せてきた。横になったままでは眠ってしまいかねないので、とりあえず起き上がって体を伸ばし、ベッドのサイドに腰をかける形で赤髪が見せてくれたレポートを読んでいく。


 関わってはいけない存在だとばかり思って無視の対象としていた『神』なるユーザーの正体はカオスであった。俺もラクトも始めは半信半疑だったが、やり取りを進めていくうちにこちらが提示した願いを実現させようと日々奔走している様子が分かってきて、その成果を報告する場を設けることとなり、今に至っている。


 統一神が必死に頑張っても抜本的な改革には数ヶ月近く掛かるだろうと思っていたが、いざ蓋を開けてみると予想は大外れで、俺がこっちの世界に戻ってきてからわずか二週間の間にマドーロム世界は目まぐるしく変化した。発端は俺の言葉なので第三者視点から見て発言するのはどうかとも思うが、終戦後の日本の動きくらいの激動ぶりがうかがえる。


 たとえば、現実世界の価値観でいえば明らかに人権侵害であるギレリアルによる男性蔑視とエルダレアによる女性蔑視は、俺とカオスが面会した三日後にはそれぞれ国家元首によって明確に廃止が宣言がされた。同じ被害を二度と繰り返さないよう、両国が中心になって権利宣言が発表され、またそれをきっかけに大陸各地で性差別に携わった役人達が次々と逮捕され、指導者としてその方向へ導いた前大統領、前皇帝を名指しして批判する事態にまでなる。


 エルフィリアでは放心状態にあった国王がようやく職務を遂行できるほどに復活し、王家は緊急事態は乗り越えられたとして預かっていた行政権を内閣に完全移譲した。超法規的措置を終えての選挙では、軍部の指導権を首相が持つべきだと主張して出馬した織桜が、臣民の圧倒的な支持を得て行政権返還後初の内閣総理大臣に就任した。あの元声優には現実世界に戻ろうという意思が無いらしい。


 そういったここ二週間のマドーロム各地で起きた劇的すぎる変化に比べれば、今日の報告の規模は小さなものであった。だが、内容はいつも以上に濃い。カオスが通知してきた『みんなのお仕事報告』と題されたレポートには、紫姫、アイテイル、サタン、エースト、レヴィアの現在が事細かに記されていた。懸命に仕事場で奮闘する姿が動画や文書に書かれていて、エーストがセルフ報告した時と比較してそこまで突出して変化があったようには見受けられない。


「鼻の下伸ばすな」

「色目じゃないから許せ。親の目だ」

「にわかに信じがたいなぁ……」


 変化がないと思ったが、最後の最後に大きな変化を見ることができた。紫姫がアイドル衣装を着てファンと握手をしている映像があったのだ。アイテイルと双璧をなす美少女広報部長として遊園地の発信役を買って出たらしい。動画サイトに開設したチャンネルの登録者数は二週間で三十万人を突破したとのことだった。


「皆頑張ってるっぽいし、私達も頑張らなきゃね」

「そうだな」


 選んだ道は皆違う。必ずしも夢や目標があるわけでもない。だが、俺とラクトが知り合った仲間や出会った人達は、その大半が何か必死になれることを見つけていた。そんな前向きにひたむきに努力する人達に奮発されて、自分達も頑張らなければならないと夏休み中に堕落しきった気持ちを切り替えた。


 朝食を摂って、下宿生を無駄に待たせないよう素早く学校に向かう準備をする。特に課題の忘れ物がないか確認したところで玄関に向かい、ラクトと合流して家を出た。もしかしたら親には既に本当の関係がバレているのかもしれないが、家のすぐ前でベタベタすることはない。制服が触れ合う距離なのに、会話が弾んだとしても手を繋ぐことは無かった。


「そろそろいいか?」

「うん、いいよ」


 手を繋ぐのは、家から数百メートル以上離れた角を数回曲がったところから学校の建物が見える交差点まで。そう家の周辺や学校の周辺を案内する時に暗黙の了解として決めておいた。それもこれも、あくまで『下宿生』という建前を保つため。異世界であれだけ一緒に居たのに、なんだかんだいって、お互いにまだ付き合うことに対する恥ずかしさが抜けているわけではないせいである。


「この前、こんな曲聞いたんだけど、稔、絶対好きだと思うから聞いてみてよ」

「え?」

「え?」

「今試聴するのか?」

「うん」


 俺は、高校生活の折り返しを前にして手の届かないところにあったはずの青春を始めた。ラクトは、もう絶対になれるはずがないとばかり思っていた今までは想像上にしか存在しなかった高校生になった。お互い思っているよりも全然未熟で、まだまだ色眼鏡で見ることも多いけれど、それは冒険をしている途中の裏返しでもある。


「こういうことしてる私達って、やっぱ、バカップルに見られちゃうのかな?」

「流石に無いだろ。わりとありがちなシチュだし」

「シチュエーションをシチュって略すところが最高にギャルゲーマーらしいよね」

「認めたくないからこうしてやる!」

「ほっへほふうふうははふな(ほっぺをぐるぐる回すな)!」


 これから一緒に何度も歩くことになるであろう通学路を、いつまでも隣に居たい相手と良い意味で馬鹿になって歩く。


「キスって十回言ってみて」

「キス、キス、キス、キス、キス、キス、キス、キス、キス、キス」

「私のことは?」

「好き」

「騙されてよ!」


 愚痴をこぼすことも、喧嘩腰になることも、傷つけてしまうことも、これから先、幾度と起こしてしまうに違いない。もちろん後ろ二つは避けて通りたいところだが、所詮は俺も高校生。まだまだ出来た人間ではない。だからこそ、笑いあって面白おかしく話している今この瞬間を大事にしたかった。



 こんなふうに変わったのはいつからだっただろう。少なくとも三週間前の俺はこんなに穏やかではなかった。異世界にいった当初、俺は初対面の王族の人にすら敬語を使っていないほどの捻くれ者だった。初めて会う相手にろくな挨拶も出来ないのに、俺はそんな自分が至高だとさえ思っていた。


 それが変わったのは、紛れもなくラクトの存在があったからだろう。自分が大事にしていた人に裏切られたトラウマを持っていながらも、一緒に過ごして色々なことを経験していくうちに、彼女のことを自分と同じくらい大切な人だと思うようになっていた。この人しかありえないなんて、大袈裟ながらにそんな言葉で言い表せてしまいそうなくらい、俺は好きになっていたのだ。


「ラクト」

「なに?」

「呼んだだけ」

稚拙な文章も多く、これからそういった部分を少しずつ修正していくことになるとは思われますが、大まかなストーリーはこの話をもって終了となります。

読者の皆さん、約3年9ヶ月に渡って、本当にありがとうございました。


浅咲夏茶

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