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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
最終章 現実世界編 《The last mission》
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アイテイル「この絆は永遠に」

 いざメイド喫茶に入店するとなって、俺はメイド喫茶の常連客のような振る舞いをアイテイルにしてしまった手前おどおどすることは出来まいと、いつもに増して堂々とした態度で入っていった。一方俺の後ろをつけるアイテイルは、周囲をキョロキョロしながら進んでいく。初めて生で見るものに興味津々なのだろう。


「「お帰りなさいませ、ご主人さま、お嬢さま!」」

「おお!」


 店に入ってまず聞こえてきたのはド定番の台詞であった。俺がメイド喫茶特有の雰囲気に負けそうになっている裏で、アイテイルの気分は対照的に高揚に高揚を重ねている。


「お嬢さま、ご注文はどうなさいますか?」

「オムライスで!」

「ソースはどうなさいますか?」

「ケチャップで!」

「ドリンクは何をお付けしましょうか?」

「ミックスシェイクで!」

「ありがとうございます、お嬢さま♪」


 女同士盛り上がっているその隣で、俺は開いた口が塞がらなくなっていた。どう考えても料金設定が初心者向けじゃない。アイテイルがまず頼んだオムライスの料金が、学生身分にはきつすぎる出資額になることが明らかだった。しかし、ここで何も頼まないというのも無理な話だ。席代だけ払って帰るなんて、きっと俺の財布が許してくれないに違いない。


「ご主人さまは、どうされますか?」

「カレーで、お願いします……」

「ドリンクはどうなさいますか?」

「ラテで、お願いします……」

「かしこまりました、ご主人さま♪ すぐにお持ちしますね!」


 注文を取りに来たメイドさんが居なくなったところで、アイテイルが俺に苦言を呈した。


「さっきの稔さん、いつもとキャラ違いすぎましたけど……」

「悪いな。俺もお前と同じで初めてメイド喫茶に入るんだ」

「そうだったんですか!」

「ああ。昔、入ろうとした時があったんだが躊躇してしまってな」

「なるほど。ということは、私と一緒にメイド喫茶に入るっていうのは『初めての共同作業』みたいなものに該当するってことですよね?」

「(……こいつ、本当に素で言ってんのか?)」


 メイド喫茶で何を言い出すんだとツッコミを入れたくなる発言が飛び出してきた。そんなところに、先程のメイドさんが戻ってくる。


「ご主人さま、お嬢さま! 写真撮影されませんか? 別料金になんですけど――」

「いーねっ!」

「お、おう」


 このノリに付いていくのは俺にとって難しいことこの上なく、なんでアイテイルはここまで吹っ切れることが出来るんだと、厚い尊敬とともに、銀髪に対して悪い意味でのギャップを感じていた。


「ありがとうございます♪ それでは、いきますよ!」


 俺がパッと口にした言葉は同意と捉えられたようで、感謝の言葉を入れると、メイドさんはすぐにカメラを構えた。メイドさんは俺とアイテイルのちょうど間に入ってきて、自撮りをするように写真撮影を始める。


「はい、チーズ!」


 黒歴史のような気もするし良い思い出のような気もするが、とりあえず俺の歴史に新たな一(ページ)が刻まれたことは事実だった。数回の撮影の後で、メイドさんが撮った写真を俺とアイテイルに見せてくる。隣りに座る銀髪少女だけは興味津々な様子だった。


「お二人とも、お写真持ち帰られますか?」

「はい! 二人分お願いします」

「ありがとうございます♪ それでは、印刷して来ますね」


 アイテイルが俺の回答を待たずに割り込んで言う。饒舌な彼女なりに、あまり乗り気でない俺を引っ張ろうとしているのだろう。ここで応えてやらなければアイテイルを楽しませることなんて絶対に不可能だと捉えた俺は、気持ちを入れ替えて思う存分メイド喫茶を楽しんでやろうと決意を固める。


 少しして、再び先程のメイドが俺らの座るテーブルに近づいてきた。彼女は二つのおぼんを手に持っており、オムライスが上がっているおぼんの上にはケチャップが堂々と立っている。右胸のポケットには写真が二枚、透明な袋に入れられた状態で入っていた。


 メイドはおぼんをトン、トン、とリズムよく俺とアイテイルのテーブル上に置くと、すっと胸ポケットから二枚の写真を取り出した。プリクラで撮った写真に似て、写真にはピンク色の可愛らしい猫が描かれている。メイドは笑顔を振りまきながらその写真を渡してくれた。


「それでは、まずオムライスの方から魔法をかけますね」

「!」


 アイテイルは喜びすぎて声を出せない様子だった。しかし、例の掛け声は少しお預けとなる。オムライス注文者には特別なイベントが他にあるからだ。メイドはケチャップを手に持って言う。


「何か描いて欲しいものとかありますか、お嬢さま?」

「猫ちゃん!」

「わかりました♪ では、とびきり可愛い猫ちゃんになるように応援してくださいね、お嬢さま♪」

「!」


 なんだこのオッサンみたいな精霊は。たまげたなぁ。

 アイテイルが悶絶していらっしゃる。少し手加減して差し上げろ。


「はい、猫ちゃん描けました!」


 そうこうしているうちに黄色いパレットの上に猫が浮かび上がっていた。柔らかなJK風のタッチが、メイドの可愛らしさをさらに引き立てる。ボーナスステージを終えて既にアイテイルは悶ていたが、メイドによる萌え萌え攻撃は止まない。


「では、ご主人さまのラテにも猫ちゃん描きますね♪」

「(こいつぁすげえな……)」


 アイテイルが悶絶した理由が何となく分かった。メイドのあざとすぎる表情が可愛いセンサーをくすぐっておかしくさせているのだ。無駄に近いところで接客してくるメイドが気になってしまって、ラテの水面上をスプーンがボートのように駆けていくのを見ている暇はなく、アイテイルの時と同じように俺が気づいた時にはアートが完成していた。


「さあ、魔法をかけましょう。ご主人さまもお嬢さまも一緒にやってくださいね?」


 軽い説明の後で、メイドによる最終攻撃は始まった。胸の前でハートマークを作ると、彼女はようやく悶絶から回復しようというアイテイルの右隣にしゃがんで、少し照れた表情で例のフレーズを発した。


「「美味しくなあれ、萌え萌えきゅん♪」」


 俺がメイドがやったように胸の前でハートマークを作って同じ動作をしたのに対し、アイテイルは右隣から来る上目遣い攻撃に敗北し、またも悶絶少女と化してしまうのだった。去り際にとびきりの笑顔を振りまいて、メイドは厨房の方へ戻っていく。


「アイテイル。悶絶するのもそこまでだ」

「かあいいのう! かあいいのう!」

「おい」

「痛っ! なっ、何するんですか! 突然髪の毛引っ張るとか!」

「このまま悶絶してたら、いくら時間があっても足らないだろ」

「……余韻を壊すな。-114514点」


 アイテイルがムスッとした表情を見せる。俺はその珍しい顔を見て思わず「ファッ!?」と口走ってしまった。でも、銀髪は別に俺が髪の毛を引っ張ったことにそこまで怒っているわけではないらしい。俺がくだらない話を振った時には、顔を綻ばして話題に乗ってくれた。



 メイド喫茶の会計で唖然としてから数分後。俺とアイテイルは予定通り明神男坂の前に居た。時刻は昼の二時を過ぎ、いよいよ真夏の太陽が本気を出してくる。しかし、そんなことを気にする素振りもなしにアイテイルが唐突にこんなことを言った。


「ダッシュしましょう」

「は? いくら再現したいからって、今日やったら熱中症に――」

「いいじゃないですか。私が走りたいってだけなんですから」

「――まったく。ほら、荷物持ってってやるから寄越せ」

「素直じゃないですね、稔さんは」

「うっせ」


 アイテイルはバッグを授けるとストレッチを始めた。はじめ俺は銀髪の後を追って行こうかと考えたが、もしかしたらこのストレッチが長引くかもしれないと思って一歩前に出る。それを見た銀髪は急がなければと思ったらしく、一つ深呼吸を置くとすぐに階段ダッシュを始めた。


「うおおおおおおお!」


 勢い良く階段を上っていくのに合わせて、ぷるんぷるんとアイテイルのその大きな乳が揺れ、また起きた風が彼女をあられもない姿にさせてしまう。しかし、アイテイルは走ることに夢中で周囲を警戒していないようで、スカートがめくれてしまっていることに気がついて居ないようだった。流石に気がつけば恥じるだろうと思って、上で合流した後に俺はそのことを話したが、銀髪は照れた顔一つ見せなかった。


 自らが上ってきた坂を眺めて「聖地を巡礼したなあ」と感慨にふけた後、俺がバッグをアイテイルに返したところで、いよいよ男坂門から神田明神の境内に入っていく。真夏の昼間ではあったが、それなりの人が訪れていた。様々なアニメで描かれていることが集客力に繋がっているのだろう。


「本当に、アニメで見たそのままの姿で鎮座しているんですね……」

「初詣の時期とかは絵馬も凄いことになるな」

「へえ」

「あまり炎天下に居ると体に悪いから、さっさと参拝するぞ?」


 石畳の上を歩いて賽銭箱の手前まで進み、順番を待って礼儀よく参拝する。メイド喫茶の料金設定に驚いた俺も流石に賽銭の額をケチることは無い。


 参拝を終えて来た道を戻る途中、俺はアイテイルに願い事を聞こうとしたが、彼女は公言すると願いが叶わなくなると主張して、その詳細を語ろうとしなかった。俺も何か言いづらいことでも願ったのだろうと思ってそれ以上の質問攻めは控える。神田明神でお互いに願い事をした後、再びアニメショップ巡りが始まった。


 散財に散財を重ねてアニメグッズをたくさん購入した後、ちょっと疲れたからと昌平橋を越えて神田方へ向かい、例のアイドルアニメで主人公の実家となっていた東京都歴史的建造物にも指定されている和菓子屋さんで菓子を食べた。既に日は傾き始めていて、もはや「おやつ」と「夕食」のちょうど中間の時間帯であったが、夏休みということもあってか大いに繁盛していた。


 再び万世橋を越えて「ザ・秋葉原」なエリアに戻ってくると、今度はゲームセンターへ入っていく。「また散財するのか」という思いも少なからずあったが、アイテイルが楽しそうにゲームをしているのを見ていると居ても立ってもいられなくなって、結局数分後にはゲームをプレイしていた。



 色々なところを巡って、色々なゲームで共闘ないしは殺し合ったりして、俺は、家を出発した頃よりもアイテイルと仲良くなっている気がした。彼氏と彼女のようなベタベタとしたくっつきは俺とアイテイルの間に存在しなかったが、少なくとも、思っていることをお互いに萎縮することも引くことも無くぶつけられるようにはなっている。


 そんな秋葉原がネオン街としての一面を露わにし始めた真夏の夜の七時前。ゲームセンターを出て秋葉原駅の方へ向かう途中、アイテイルに俺は今日の夕飯について質問をしていた。これは昨日紫姫にもした質問である。


「そろっと夜の七時になるけど、ご飯はこっちで食べていくか?」

「もちろん。あ、夕飯にはカツ丼を推したいです」

「すごく女っぽい体をしている割に性格はめっちゃ男だよな、アイテイルって」

「確かに羞恥心の欠片もないですし、色恋より食い気なところはあるかもしれませんね」

「本人から言われるとどう反応するか困るな、おい」


 アイテイルは色気より食い気と主張するが、別に大食いというわけでもガツガツ部活帰りの中学男子みたく食事するわけでもない。彼女が食べる量は人並みである。しかし俺は、「本人がそうしたいのならば」とアイテイルの「色気より食い気」という言葉に乗っかって話を進めていくことにした。


「それはさておき、なんでカツ丼を推したいんだ?」

「やっぱり、ジャパニーズソウルフードといえば『カツ丼』じゃないですか」

「そうか? 日本食と来たら、俺は『寿司』を推したいところだが」

「じゃあ、寿司にしますか?」

「やめてくれ。財布が詰む」

「ですよね。それも踏まえて、――カツ丼で異論はありますか?」

「(異論は)ないです」

「決まりですね」


 夕食のメニューが決定したところで、俺はアイテイルを連れて秋葉原駅近くのカツ丼屋へ向かう。しっかりと街灯もある通りではあったが、鉄道の高架橋脇は恐怖感を煽るらしい。秋葉原のメインストリートを横断した後、心なしか銀髪との距離がいつもに増して近くなっているように感じた。


 カツ丼屋に入店すると、店員の指示に従って進んで、仕事帰りのサラリーマン達でほとんど占有された店の中に一箇所だけ空いていた対面座席を確保する。俺は通路側、アイテイルはソファ側に座った。店員が回ってきたのに合わせて、お互いにシンプルなカツ丼を注文する。


 注文してすぐに熱々のカツ丼が出てきた。沢山のとんかつを卵が包み、肉汁や沢山の旨味を含んだつゆがご飯に染み込んでいる。カツの雲に覆われていないエリアから白米が息を吐けば、照明がカツ山のてっぺんに乗っかった薬味をステージに登らせた。


「「いただきます」」


 声を合わせて言った後で箸をカツの上に落とす。刹那、大きな狐色の雲が二つに分かれた。モワッと溜めていた白米の息が外の世界に触れ、さらに食欲を沸かせてくる。炎天下の中、次第に重くなっていく荷物を持ってあっちへこっちへ歩いた疲れが少しだけ晴れていく気がした。



 会計を済ませた後、俺とアイテイルは「ごちそうさま」と店員にお礼を言ってカツ丼屋を出た。太陽が完全に沈んだことで辺りはネオン街に変わり、昼とは違った顔を見せ始めている。カツ丼屋を出て少し進んだところで俺は振り返り、銀髪の目をしっかり見て言った。


「そろそろ戻らないか?」

「『嫌』と言ったらどうしますか?」

「そうだな、リミットまでは一緒に居るか」


 俺が具体的な対応の案を示すと、アイテイルは返事を詰まらせる。納得していないわけではなさそうだが、引っかかる部分があったのかもしれない。気持ちを整理した後で、彼女は言葉を慎重に選ぶように途切れてしまった話を再び進めていく。


「……今日一日、楽しかったです。普段なら体験できないようなことがいっぱい楽しめましたし」

「それは嬉しいことだ」

「でも、つらかったです。――あなたをどんどん好きになっていってしまうのが」


 アイテイルの目にはうっすらと涙が見えていた。銀髪少女はそれを隠そうと必死に笑みを見せてくる。しかし自分の思いを吐くと、ついに彼女の涙はその笑顔を潰してしまった。


「今だけは許してください……」

「ああ」


 それ以上の言葉は必要なかった。少し胸の前を広げると、アイテイルがそこに飛び込んでくる。もはや俺の心底には煩悩の心など無く、ただ抱きしめた少女を慰めようという気持ちだけが居座っていた。


「落ち着いたか?」

「はい」

「じゃあ、いいか?」

「……」


 アイテイルは返事をしない代わりに小さいながらも頷く。それを合図に俺は彼女の方に顔を近づけていった。唇が触れ合ったところで、テレポートを使用する。変わっていく辺りの光景の中にアイテイルの涙が消えていった。


 景色が完全に異世界になったところで、俺は近づけていた顔を元の位置に戻す。アイテイルの頬は赤くなるほど擦られていた。平生を保とうとそのレイヤー上に矢庭に重ねられた笑顔が、銀髪少女の複雑な心境を映し出してしまう。


「稔さん。私達はこれからも『友達』ですよね?」

「もちろん。この絆は永遠だ」


 会話の後で二人は背を向ける。もうお互いにこれ以上話す内容はない。アイテイルは足取り早くラクトの家の中へ戻っていく。一方の俺はメイド喫茶で撮った写真に視線を落として、穏やかになった風に大きな溜息を乗せていた。

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