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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
五章 救出編《The dawn of new age》
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5-50 黄の属性神・イザナミ

 イザナミは炎に対して至極恐怖を覚えるようで、炎のように見えているだけだというのに女神の全身を凄まじい震えが襲った。光剣の火力はそれに比例して低くなっていき、稔のHPゲージは残り30%程で停止する。一方のイザナミは、残り40%程のHPを残して減少が止まった。


「絶対ニ許サナイ」


 刹那、イザナミを真っ白な光が包んだ。それはやがて灰色になり、光が消えた後に女神はゾンビのような姿で稔の目の前に現れた。剣が突き刺した部分はぽっかりと穴が開いており、既に若女だった頃の面影はない。稔には、息を引き取って数日が経ち蛆虫が湧き始めた頃の老婆のように見えた。


ワラワニ炎ヲ見セタ罪、其ノ身ヲ持ツテ知ルガイイ」


 イザナミはそう言うと光剣に替わって血の付いた剣を右手に持ち、稔の腹部めがけてそれを突き刺した。ゾンビのような姿になったことで体が軽くなったため、女神は通常の状態よりも素速い。だが、稔は女神の攻撃を受けなかった。それだけでなく女神を追い払ってしまった。体が軽ければ意図も簡単に砲弾を飛ばす魔法で払うことができる。


 稔の的確な攻撃により、イザナミの残りHPは黒髪と同じくらいになった。女神はその長い髪の毛を揺らしながら呻き声を上げ、損傷した右の上腕に左手を添える。稔は女神が治癒しているようには到底思えなかったが、添えた手を女神がずらした時に傷は見られなかった。 


「汝、妾ニコノ戦ヒデ勝テルト思フテヲルノカ?」


 稔の残りHPは30%の大台をついに割り、HPゲージの残り部分が黄色く示されるようになった。HPと体力は必ずしもイコールではないから、HPが減少することで行動が鈍くなったりするわけではないのだが、ダメージを受けることによって食らう衝動は始めと比べて大きくなっていた。


「俺は、この状況になっても余裕そうな顔を見せていられるアンタに驚くぜ」


 しかし、稔は受けた痛みを顔に見せなかった。つらいものは笑って振り切ってやる。そんな決意の下、彼は笑ってイザナミにそう言ってやった。


「笑ワセテクレル。妾、汝ガ其ノ発言ヲシタコトヲ後悔センヤウツトムルコトヲ望ム」

「言われなくとも……そうしてやるよッ!」


 再び近づいて闇色の光に包まれた剣を振り下ろす稔。無計画といえばそれまでであるが、二度目は喰らってたまるものかと思っていたイザナミはこの攻撃を素早く躱し、黒髪のはるか後方に移動する。だが、稔のテレポート能力を持ってすれば、基本的に追いつけないものはない。彼は素早く女神の後ろに回った。移動後は何も話さずに、ただ女神を斬る。


「……」


 イザナミが稔の気配に気づいた時にはもう手遅れだった。彼女が口を開いて驚きを隠せない中で剣は降ろされ、刹那、女神の首元で血のエフェクトによる大量出血の再現が行われる。動脈が切れたような勢いでドバドバと流れていた。


「許サン、許サン、絶対ニ……」


 女神は懸命に堪えて攻撃する機会を窺うが、既に女神の残りHPは15%を切っていた。受身的な動きをしていては挑戦者に負けてしまう。かといって無作為に動けば、イザナミは貴重なHPを失うことになりかねない。女神はまず剣を構えた。稔の居る方向に視線をやろうとしたが、そうすると黒髪が動いてしまうので、あえて相手に背中を見せることで隙があることを相手にイメージさせる。


「はあああああ!」


 イザナミが企んでいることなど露知らず、稔は闇の光に包まれた剣を女神に叩きつけるように振り下ろした。その途中で女神がクスッと笑っていたのはすぐにわかったが、自身のHPが奪われていることを考えると引き下がることは出来なかった。


覚醒形態アルティメット!」


 だが、剣でダメージを与えることはできなかった。腐った体をしていたはずの女神が、突如真っ白な閃光を撒き散らすように周囲に放ったのである。モニターに映された強烈な光は観客達の健康状態をも害するくらいで、魔法が使える以外は普通の人と同じである稔も、これには目を隠さずには居られなかった。バリアを展開することも考えたが、この光を弾く未来はどう考えても見えてこない。


「汝、死ヲ前ニシテ言ヒタイコトハ有ルカ?」


 白い光は目をつぶっていても分かるほど強力だった。目を開ければ更にダメージを食らうだろう。でも、食らう痛みは仮想のものだ。もちろん、失明の効果を受けるとバトルを展開していく上で大きな問題になる。稔は右手を広げてその人差し指を額に触れさせた後で光の方を見た。


「おはようございます」


 優しげな声が聞こえたが、稔は安堵の息を吐けなかった。下に視線を向けた時に光り輝く剣が見えたのである。右に目をやると、満面の笑みを浮かべるイザナミの姿が映る。腐敗した姿ではなかった。声も火を見る前のものに戻っている。けれど、相手を倒そうという攻撃性は血のついた剣を持っていた時と変わっていなかった。


「ーー今は戦いの真っ最中だ。敵に情けをかけるな」

「では、お言葉に甘えて」


 稔はイザナミが攻撃してくるだろうと思い、テレポートを使用して後方へ下がろうとする。だが、魔法の使用宣言そのものが拒まれた。予想外の事態に目の前が真っ白になる。黒髪は唾を呑み込んで覚悟を決めた。


「あなたはもう私から逃げられません。これは、あなたが私に炎を見せた代償です」


 真っ白な光の衝撃が黒髪の喉を震わせる。黒かったイザナミの瞳は真っ赤に染まっていた。女神が用いた剣は白を失い、鮮かな赤色に染まっていく。稔は、ただひたすらに痛さだけを感じた。


「全員が勝たなければレア様の部屋へは行けません。非常に残念なお知らせではありますが、あなたはこの世界から抜け出せません」

「そうか」


 喉が切れるのはエフェクトでしかなく、顔と体が分離してもおかしくないような激痛に襲われても自分の声は保存されていた。黒髪がまだ策があるふうに余裕そうな態度を見せながら言うと、イザナミは口角をピクピクさせ始める。


「……余裕そうな顔ですね。HPが一割を切ってなおも減少が止まらないというのに」

「この顔のどこがそう見える?」

「そういうところですよッ!」


 稔は笑いながら答えてやった。イザナミはついに怒りを行動で表し、とどめを刺すべく持っていた光の剣を勢い良く黒髪に振り下ろした。だが、稔は自身の持っていた闇の光を発する剣によって弾き返す。攻撃を使用したためにHPは減少したが、動いたことで分かることがあった。


「残りHP2%で何を言うかと思えばまだ勝つ可能性を信じていたとは。実に滑稽です」

「そう言ってるお前の方が笑いものだぞ、イザナミ」


 イザナミが振り下ろした剣の刃先に稔の姿は無かった。しかし、瞬時転移テレポートは使用が封印されたはずである。黒髪は分身魔法を使ったわけでもない。そもそもテレポートが使えなければ、分身魔法など自傷を前提にして戦うことになる。だが今の彼にとっては、HPが残り2%くらいしかない彼にとっては、自ら負けに行く行為にほかならない。


「どうして私のHPが……?」

「俺は一人じゃねえんだよ。残念ながらな」


 稔はそう言って精霊魂石《アメジスト》を握った。減りゆく自身のHPを見ながら、イザナミは三回ほど軽く頷いて目を閉じ下を向いた。少しして視線を黒髪の方に定めてから女神は言う。


「私の負けみたいですね。まさか、精霊の魔法で難を逃れるとは思いませんでした」

「そう言ってもらえると嬉しいな」

「しかし、気を緩めないでください。レア様は私よりも強いお方ですから」

「わかった。覚えておく」

「では、ご健闘をお祈りいたします」


 イザナミは右拳を握って親指を上げてグッジョブサインを送りながら、口角を上げて言った。女神が激励の言葉を話し終わった直後、まるでタイミングを見計らったかのように彼女のHPゲージが底をつきる。その後、二秒ほど間を置いてHPゲージを表示していたエリアそのものが消えた。同じくらいの時間を経て、今度はフィールドそのものが消失する。



 モニターに映る自分の顔。その上にWINNERと赤文字を白で縁取ったセリフ体の字幕が載る。観客席からは拍手が湧き上がる。イザナミはどうしているかと思って彼女の居た方に視線を移してみると、女神の姿は既に無くなっていた。


「え……」


 稔は空中空母ノートに戻れなくなったのではないかと思って思わず声を漏らす。だが、過度な心配は要らなかった。イザナミが姿を消してから十秒ほど経った頃、真っ白な光が黒髪を包み込んだのである。彼は身動きも取れず、その光に身を任した。


「ここは、イザナミの部屋か?」


 移動開始から完了まで一秒にも満たなかった。真っ白な光が消えた後、見覚えのある景色が目に映る。稔はすぐにどこに移動してきたのか理解した。そして周囲を見渡してみて、食堂だったり大浴場だったり見覚えのある部屋の入り口が見えたので、立てた予想が正しいものだと断定する。


「皆、まだ戦ってるんだな……」


 エーストも紫姫もアイテイルも、精霊皆が魂石をロックしていた。ラクト、サタンとはそもそも連絡できる術がない。稔は久しぶりに一人ぼっちになった。暇だし部屋に戻ってゲームでもしていようかと思い、黒髪は廊下を浴場側へ歩いて行く。だが、属性神達の部屋が集まっているエリアの出口で、見えない壁に阻まれた。


『ラストゲームから離脱しますか? 離脱すると勝利したデータは消失します。』


 稔の目の前に大きなポップアップ画面が表示された。「OK」を押し、黒髪は右に回ってイザナミの部屋の前辺りまで戻ってくる。休むこと無く動いてきた代償なのか、疲れを感じた稔は付近の左壁に寄りかかり、そのまま腰を落として尻を床につけた。


 ポケットからスマホを取り出し、電池残量を確認する。残り四十パーセントほどしかないらしい。一時間もオフラインで遊べるゲームをすればバッテリーゲージがレッドゾーンに入りかねない残量であることを知り、黒髪はスマホゲーで時間を潰すのを選択肢から外した。


 曲を聞いて退屈な時間を吹き飛ばしてもよかったが、稔はあいにくイヤホンを持ち合わせていない。音楽を聞くにしてもスピーカーから音を出すのは嫌だった。電波曲や萌え声で歌われている曲を流すのは流石に稔でも抵抗がある。


 イヤホンが無いこと、もっと言えばイヤホンを作ってくれるかもしれないラクトが今隣に居ないこと、更に言えば召使であれば主人の特権で赤髪の魔法を使えるのにラクトとの召使契約を解除したことを、稔は悔やんだ。結局稔は、手っ取り早く時間を飛ばすことができる「睡眠」という手段を採って時間が過ぎるのを待つことにする。

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