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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
五章 救出編《The dawn of new age》
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5-41 グリモア

 十秒も経たないうちに、魂石から紫姫が戻ってきた。相当わかり易い場所に置いていたようだ。本の様子を見る限り、未読というわけでもないらしい。本のあちこちに異なる色の付箋が貼られている。家事スキルが乏しい一方で、紫髪はわかりやすくノートをアレンジするという女子力を身に着けていた。


「一読したのか?」

「うむ。貰った日のうちに読んだ」


 元々読書家というわけではない彼女だが、保管を任された者だという自覚を持ち、紫姫は率先して本を読んだと言う。もちろん、ただ本を読むのではなく工夫を凝らして。そのうち自分以外の誰かがじっくりと見る時が来るだろうという、紫姫の先見の明が上手く働いた形だった。紫髪は自慢げに言うわけでもなく、淡々と付箋が意味するものを伝える。


「それと、章ごとに付箋を貼っておいた。赤が女性専用、青が男性専用、緑が種族専用、黄色が属性専用、紫が詠唱魔法、白が覚醒魔法だ。緑と黄色の付箋は、さらに種族と属性の項目を立てて細分化してある」


 紫髪は魂石から持ち出した魔導書を軽く掴み、そのまま稔の方へ出した。稔は感謝の気持ちを伝えてそれを受け取る。


「わかりやすくしてくれてありがとな、紫姫」

「気にするな。褒められたくてやったわけではない」


 内心では嬉しかったが、紫姫はそれを表に出さずにクールに対応してみせた。落ち着いたところで、稔に赤色の付箋が貼られたページを開いてもらう。紫姫は咳払いの後、魔導書と一緒に魂石から持ち出した先端が赤いミニサイズの指示棒を使って説明を始めた。


「繰り返しになるが、赤色の付箋は女性専用の魔法について書かれている」

「びっしり書かれてんのな」


 赤い付箋が貼られたページから青い付箋が貼られたページまでの六ページ分が、全て魔法に関する記述で埋まっていた。だが、辞書のように一ページに幾つも魔法名が書かれているというわけではなく、一ページ一魔法が大原則で書かれている。それはそれとして、第一章の一番目からいかにも中二病っぽい魔法が目に飛び込んできた。


死の鎮魂歌(デスレクイエム)

 相手が魔法を使うごとに相手のHPを削る。回数を追うごとに削る量が増える。


悲鳴シャウトアウト

 十秒間、相手は身動きが取れなくなる。


 しかし、馬鹿にできる魔法二種の次のページもさることながら、次のページも稔とラクトに衝撃を与えた。内容も魔法名もネタにしか見えなかったからである。ゆえに、驚いて電撃が走った後は黒髪も赤髪も笑顔になった。流石に見慣れていた紫姫は破顔しなかったが。


淫欲増強ラストエンハンス

 下着姿になることで、味方の攻撃力を3倍に引き上げる。


誘惑の芳香(スメルスグッド)

 腋を見せつけ、そこから芳香を放つことで、自分に好意を持っている相手を一時的に自分の洗脳下に置くことができる。


 女性専用の魔法に関する章の三分の二が終わったところで、紫姫が口を開いた。


「二人で盛り上がっているところ申し訳ないのだが」

「遠慮なく言っていいぞ?」

「目次のページに、我がおすすめする魔法の一覧が載ったメモが挟んである。誰がどの魔法を使うかまでは書いておいたから、ぜひ参考にして欲しい」

「ありがとう。苦労させて悪いな」

「気にするな。それでは、我はこれで失礼する。また明日」


 魔導書にはその魔法の名前、効果と副作用、使用可能者などが丁寧に書かれていたので、紫姫は自分があえて説明する必要はないと判断し、魂石に戻った。折角準備してくれているなら紫髪の口から説明を聞こうじゃないか、と一瞬留まらせておこうかとも考えたが、ミライとの戦いで瀕死寸前まで追い詰められたこともあり、回復しなければならない量は他の精霊や罪源より数倍も多いので、稔は少女を引き止めなかった。


「じゃ、紫姫が書いてくれたメモを読むとするか」

「そうだね」


 ペラペラと捲り、目次のページに移動する。紫姫の言ったとおりメモが挟んであった。右下には可愛い鳥の絵が描かれている。ちょうどいいサイズで書かれていた文章は紫姫直筆のものだとすぐに分かった。少女は、丸みを帯びたいかにも女子という字ではなく達筆な字を書く。


「紫姫、人の名前でまとめてくれたんだね。しかも、複数候補があるのはページの小さい方が上に来てるし」

「もしかして、紫姫ってお前より気が利くのか?」

「競うものじゃないと思うけどね、配慮の心なんて」

「……怒ってる?」

「若干ね。てか、稔って些細な感情にはすぐ気づけるよね」

「色々あったからな、俺も」

「そっか」


 ここら辺で話が元に戻る。稔とラクトの視線は再びメモ用紙のど真ん中に向けられた。手始めに、その一番上に名前が書かれていた、稔が使うのに適当な魔法について調べることにする。二人は黄色の付箋の人族ヒュームルトの項を見た。


 大半の人族が暮らすギレリアルでは、国家ぐるみで「人族には女しか居ない」という定説が正しくなるように法が作られ、行政が動いている。だがそれは、国民感情によって形成されたものではない。一人の大統領の思想に起因している。エルダレアで保管されていたグリモアは、その弾圧の対象にされなかったため、魔法の使用可能者は性別によって限られていなかった。


 そんな状況を改めて理解し、稔は自分の運が良い方向に働いてくれたことに感謝する。同時に、グリモアを譲渡してくださったエルダレア帝国の帝皇にも頭を下げた。その後、再びグリモアの方に目を向けて紫姫が選んだ魔法について見る。


【ブラインド・ソード】

 周囲に霧を立ち込めさせた後、全速力で場を駆け抜け、敵一体に刀を振り下ろす。HPが少なければ少ないほど火力が上がる。


 追い詰められた最終局面で使用する魔法だと想定すれば、候補としては魅力的だった。しかし、この魔法技には欠点がある。仲間とのコンビネーション技が使用しづらくなることだ。天候を変えて全速力で走る際、効果を与える相手を指定できる魔法なら連携を保てるが、ランダムだったり範囲指定だったりすると、結われていた関係が一気に解れてしまう。


「ブラソは最後の一撃だね」

「採用ってことでいいのか?」

「それは本人が決めるべきだと思う。詠唱魔法ってそういうものだと思う」

「これ、詠唱魔法なのか? あの寒すぎる文章を言わなくちゃいけないーー」

「私は自分の詠唱魔法格好いいと思うけどなあ」


 無駄に長文を綴るわけでもなく、端から見たり聞いたりしている人には訳の分からない単語をふんだんに使った文章を呪文のように唱えるわけでもない。ラクトの詠唱は、一ページ全体を使い、使用者の顔に集中線を大量に向けたコマの台詞でありそうである。もっとも、そもそも詠唱自体が痛いことに変わりはないわけであるが。


「この魔法の詠唱はーー」


 不安な点はあるが、割り切って使えば必要な魔法だ。稔はそう考えて採用することを決めた。後に戻れないようにした後でグリモアの方に視線を戻し、詠唱の文章を見る。どうせ始めのうちは恥ずかしいことを言うことに変わりはないのだからと、こちらも割り切った形だった。


「抜刀……って、もう普通の単語じゃねえか!」


 思わず突っ込んでしまう稔。詠唱の時に叫ぶ言葉は、わずか漢字二文字で表される短さだった。覚悟していた自分がバカバカしく思えてくる。


「そう落ち込まないでよ」

「落ち込んでねえよ。つか、逆に愛着沸いた。詠唱短い方が好みだわ、俺は」

「好きで長文読んでるわけじゃないと思うけどね」

「まあな」


 稔は「ブラインド・ソード」を採用することを婉曲的に伝えた。さっき俺をバカにした仕返しに見抜いてみろ、とちょっと子供じみた発想でラクトを試してみたのである。だが、気が利く彼女は的確かつ素早く把握した。


「ところで、魔法は今日中に覚える?」

「いや、明日でいいだろ。俺ら以外は皆寝てるわけだし」

「じゃあ、見るだけ見たら私達も寝よっか」

「そうだな」


 再び目次のページに戻り、メモを見る。ラクトについては二案あった。攻撃重視で行くプランAと、サポートに徹してもらうプランBの二つである。赤髪はまずプランAの方を見た。見れば、魔族デビルルドの章の最初のページ。カーマイン属性の遠距離魔法が書かれていた。


終焉の爆炎(バーストエンド)

 相手を囲うように炎を展開し、一気に相手へ炎を向かわせる。

 相手は必ず火傷状態になるが、こちらのHPが20%減少する。


 紫姫はラクトに適するものとして、詠唱魔法ではない部類にあるものとしては最強クラスの火力と付加効果を誇る特別魔法を選んでいた。しかし、高い火力の代償は大きい。


「自傷攻撃か……」

「そこなんだよね。HPが20%も飛んじゃうのはポイント低い」


 詠唱魔法なら能力値が根こそぎ引き上げられた上で魔法を撃てる。だから、もし自傷魔法を撃つなら、基本的には詠唱魔法の括りから選択したほうが良い。「バーストエンド」については保留として、二人はまたメモを見た。書かれていた文章に従って、黄色の付箋の「カーマイン属性」の項へ移動する。


【スーパーノヴァ】

 大爆発を起こし、全ての防御魔法を無効化する。


 先程の「バーストエンド」も「スーパーノヴァ」も、攻撃技と補助技が一緒になった魔法という点では同じだった。しかし、内容は大きく異なる。「スーパーノヴァ」の書かれていたページには、「覚醒状態アルティメットで詠唱した場合のみ使用可能」とあった。


「覚醒状態で詠唱ってことは、自傷攻撃だよね、これも」

「でも、バリアが破壊できるのは大きいんじゃないか?」

「いや、覚醒状態ってことは、HPを魔力に置き換えるわけじゃん?」

「それなら、畳み掛ける時にだけ使えば良いんじゃないか?」


 とどめの一撃を食らわせるチャンスは指を折って数える程度しかない。加えて相手は倒れる寸前であり、何をしてくるかなど知りっこない。だが、やってみなくちゃわからない。ラクトは自分なりの結論を導いて言った。


「まあ、撃てるたまがあることに越したことはないよね」

「採用するのか?」

「うん。でも、使用するのは環境が整ったらだからね?」

「もちろん。それじゃ、俺達も寝るか」

「そうだね」


 サタン、エースト、アイテイルの分はまた明日ということにし、稔とラクトは、自分達が採用する魔法が決定したところで用意されていた寝具に仰向けになった。その上に布団を掛け、部屋の電気を消す。だが、時を同じくして、快眠を阻害するかのように窓に雨粒が当たり始めた。


「すごい雨だね」

「全くだ。安眠を妨害しやがって」


 そんなことを言っていると、窓の外にピカッと一瞬だけ白く赤い光が見えた。それから間もなくして、部屋の中に轟音が響く。ノートに当たったわけではなかったが、落ちた場所は近いようで凄まじい音が聞こえた。何もなかったかのように、また雨が窓に当たる音が聞こえ始める。


「ラクトは雷問題ないのな」

「そもそも悪魔の血が入ってるし、一人暮らししてたしね。何であれ、身の危険を感じなければ怖がることはないかな」

「そっか」


 ちょっとした話をして、二人は背を向けて目を瞑る。外から聞こえてくる雨音と時たま響く雷の音に耳を慣らしながら、稔とラクトはそのまま眠りに入った。

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