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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-39 市民会館での記者会見。

「ラクト。お前、絶対に声なんか出すんじゃねえぞ……?」

「ハハハ、出さないよ。……いくら稔をイジメたくったって、その程度は守る」


 暗い声ではなくて、明るい声で。ラクトは稔に言った。一方の稔は、記者会見を開くことになったことも有り、準備をしたらテレビ中継されそうな話でも有ったので、あることを考えていた。


「ふむふむ」


 考えるポーズ。それを取りながら、ラクトは稔の方向に一八〇度身体を転換する。


「……俺の心読んだ?」

「その通り! ……『ワンセグ』?」

「そうそう。電波さえ有れば、何処でもテレビを視聴できるっていう物なんだが――。エルフィリアじゃ実現可能か?」

「どうだろうなぁ……」


 ラクトは真剣に悩んでいた。しかしながら、電波というのは建物と建物などの入り組んだ場所、建物同士の間じゃなくても家の中でもそうだけど、そういう場所にはあまり入ってこなかったりすることがある。

 そして、会議室準備室という戸が一つしか無い密室空間。そのため、電波が入りづらい場所であると稔は考えた。しかし行動は取らない。まずは、ワンセグを使用できるかを確かめる必要がある。


「あ、そういえば……!」

「どうかした?」

「いや、俺のポケットにはスマホが有るはずなんだが……」

「馬鹿か。スマホなんてものは、さっき衣装が勝手に変わったせいで何処にもないよ!」

「なっ……」


 稔は絶望した。スマホがなければ生きられないような廃人というわけではないが、それでも絶望した。 スマホが有れば、ラクトの手でワンセグの電波を受信できるようにさえコピーしてもらえれば、それでテレビが見れるかもしれないのだ。


 その時だった。


「アメジストが反応してるね?」

「紫姫が何かを言いたそうにしているってことか……?」

「分からない。……なぁ、一旦召喚してみたらどうなんだ?」

「馬鹿か。……そりゃ、紫姫を召喚するべき時であるのはわかるけど、こんな暗い場所で光を発せられたらどうなる。時と場所を弁えろ」


 稔はそう言ったが、召喚したほうがいいという結論に至れば、召喚しようと思っては居た。しかしながら、たかが記者会見のためにそこまで時間を割く必要があるのかどうかという話である。


「でも、テレビで見る必要って有るのかな?」

「デートの時に話題が切れないようにする為に見るんだよ。織桜は、きっとイジられて反応を示さない女じゃない。恐らく彼女は、イジられたらそれなりの反応を返してくれると思う。……きっと」

「正確ではないのか。――まあいい。取り敢えず、テレビを見たい。記者会見を見たい」

「んじゃ、稔は心の中でも脳の中でもいいから、思い浮かべて」

「おう」


 指示をされて、稔は行動に移った。


 テレビ――といってもワンセグだが、それを浮かべる。

 ワンセグとなればそれはアプリケーション。

 アプリケーションは大量に広がって、それは四インチのディスプレイの内側の光の集まりになる。

 外側には黒色の縁が出来上がっていて。

 その縁の更に外側の色は白く塗られている。


 だが、スマホとワンセグのアプリケーションを脳裏に浮かばせるにとどまらず、稔はもうひとつ作り出すことにした。――それは、イヤホンだ。イヤホンジャックはそもそものスマホについているはずだが、稔は念のため最後に付け加えておいた。


『動作するもので、音がなるもので、フルハイビジョンの六四ギガバイトで、イヤホンジャックが有って、薄さは五〇〇円玉三枚と同じくらい』


 もう、稔が持っていたスマホとは全く別のスマホが生まれてしまいそうになっていた。――否、もう生産は開始している。ラクトが必死になって、スマホを稔の為に生産している。


「……これかな?」


 ラクトの両手の中に浮かび上がってきたスマホは、稔が持っていたスマホとは薄さが全く違った。四インチのディスプレイというのは、稔と持っていたものと全くの同じ物だった。画質だって悪くないものが生まれた。そして、何も言っていないのにもかかわらず、ラクトはイヤホンジャックを本体の左の下の方に付けてくれた。


「朱夜。有難ありがと……な」

「ちょっ、撫でるなっ……。わっ……」


 稔は、思わずラクトの頭を撫でてしまった。嬉しさを表現するつもりだった稔だったが、それが気持ち悪いだとかの感情に転化してしまうのは、喜べないことだった。

 けれど、ラクトは稔に撫でられて嫌な気分はしなかった。むしろ嬉しいような、もっとして欲しいような、そういう気分になっていた。


「……と、取り敢えず、ワンセグ放送を見てみようか」

「わかった」


 動揺するラクトとは裏腹に、稔はとても冷静な心を保つ。


「……駄目だな。電波が悪い」


 無音にするためのボタンを探す前に、稔はイヤホンジャックにプラグを挿し込む。その方が手っ取り早かったのだ。因みにイヤホンは、右耳イヤホンは白色で塗装され、左耳イヤホンは黒色で塗装されていた。両方から伸びるコードが合体する調整する場所から下は、黒と白のシマシマ模様だった。


「ねぇ、稔?」

「なんだ?」

「片付けられている机の下とかに、移動してみたらいいんじゃないかな?」

「なるほど。それはいい方法だな」


 机の下というのは、ラクトなりに考えた『密着できる場所』の一つの場所だった。とはいえ、その場所は窓こそ無いものの、壁を壊せばすぐそこは大通りと言うような場所だ。そのため、電波の入りが悪いわけがない。


「おお……」


 会議室に窓が有る事を考慮し、音が二十に聞こえるのを防ぐために稔はイヤホンを耳にする。しかし、これではラクトがハブられてしまうので、稔はイヤホンの右耳側の方だけを使用し、ラクトに左耳側の方を貸し出した。

 もっとも、このイヤホンと音源装置を生み出してくれたのは紛れも無く、ラクトなのだが。


「あんまり、くっつくなよ?」

「イヤホンのコードがこれくらいだから、くっつかないと無理」

「はぁ……」


 調整するための場所、コードが左右の耳に入るイヤホンまでそれぞれ繋がる為に分岐するための場所。そこからイヤホンまでのコードの長さは、長いわけでも短いわけでもなく、一般的な長さだった。故に、人の顔が二つ有っても理論上は足りるのだが――。


「稔、肩でかい……」

「ゴツゴツしてるわけじゃねえがな。無駄に身長有るから仕方がない」

「別に身長が高いのはいいんだけど……。胸当たるよ?」

「くつろがなければいいだろ」


 とはいえ、スマホのサイズは四インチディスプレイを搭載した、通常のスマホと同じくらいの物だ。故に、遠くから見れば近づいて見たくなってしまうように作られている。なので、くつろがないで見るのは結構疲れる。


「くつろぐことも許されないとは、意外と稔は鬼畜なご主人様だった……?」

「いやいや、一国の王女の前で軽く俺を変態みたいに罵ってくれた人は誰ですかね?」

「ごめん……」

「――ったく」


 スマホを道路の方に面している場所に、横にして稔は置いた。当然ながら立て画面ロックを実行していない。手に持って、片手で操作するときに横で操作するのは難しいのは確かだが、縦画面専用のゲームだとかをしない限り、共用する際は縦で使うほうが馬鹿だ。


 稔とラクトは腹を下にして、床にうつ伏せになる。床が汚いかもしれないのは重々承知の上だった。というよりも、ラクトが着替えを幾らでも生産できるので、気にする心配はなかった。


「やっぱり、うつ伏せだと胸が――」

「痛い?」

「痛いわけじゃないんだけど、うつ伏せになるとどうしても目立つからさ、後々織桜が来たら修羅場だろうなって」

「寝そべってるしな。修羅場かもな。――まあ、大丈夫だ。俺はあの女と親しい関係にあるわけではない」


 稔の言うとおりだ。稔と織桜の関係は、『日本人であること』『異世界へ飛ばされてきたこと』だけで、性別も違うし髪の色も違う。生まれた場所に関しての事は、まだ知らない稔は理由として使えないけれど、稔と織桜の関係が親しいものだとは考えにくい。


「電波も良くなったし、アプリ起動すっか」

「あれ、起動してなかったの?」

「してねーよ。電波環境悪いから今改善したの。だから、起動してない」

「へー」


 イヤホンを先に挿した意味はなかった。けれど稔もラクトも、少し近くにラクトと稔を感じることが出来て、何処かリア充気分を味わっていた。暗い密室、有るのはスマホの光だけという場所でのくっつきは、非リア充に苛立ちをもたせる要素としては十分な効果を発揮するだろう。


「放送局は、『エルフィリア・ブロードキャスティング・アソシエーション』の『1チャンネル』を見るといいと思うよ。エルフィリア王国の公営放送局だから、臨時ニュースとして放送すると思う」


 エルフィリア・ブロードキャスティング・アソシエーション。その放送局は、日本で言えばNHKの総合テレビである。ラクトはラジオの放送だとかに関しての情報には言及しなかったが、エルフィリア・ブロードキャスティング・アソシエーションはラジオ放送を行っているため、これも日本で例えるときの重要な理由に出来る。


「お、繋がった……」


 電波環境も改善されているため、電波が途切れることはなかった。それよりも、稔はとてつもなく綺麗な画質に驚いた。


「なんでこんなに画質とか音質が綺麗なの? ワンセグでしょ?」

「そうだよ。けど、エルフィリアじゃ魔法が使えるからねぇ。魔法を使って画質とか音質を向上してるんじゃないかな?」

「なるほどな」

「でも、私も詳しいことは分かんないや。……お、記者会見が始まるぞ」


 どんな魔法を使用して画質を向上させているのか、音質を向上させているのか、そういった説明をラクトはしなかった。

 日本でも、メーカーがテレビを作っていたりすれば画質を向上しようとして、それなりに加工を加えている事がある。だが、やはり元の電波は同じなので、それは誤魔化しにしか過ぎない。

 そう考えれば、魔法とは非常に有用なものであることが分かる。


 魔法の素晴らしさを改めて実感した稔は、スマホに映るテレビ番組に目を奪われる。



『――臨時ニュースをお伝え致します。臨時ニュースをお伝え致します――』



 流石は公営の放送局である。ニュースの量は多いし、報道される時間も異常に早い。


『エルフィリア王国第二王女、リート・ファッハ・シュテプラー殿下は先程、エルフィリア王国の世界遺産管理委員会の委員長をしている、神風織桜氏を、王国軍の司令官にすると発表致しました』


 原稿はまだ作られたばかりだが、アナウンサーは全く持って噛まずに原稿を読み進める。時間から察するに、原稿を一度目に通した程度だろう。それだけでもスラスラと読めてしまうのが、プロ根性なのだろう。


『第二王女殿下は、現在ボン・クローネ市を訪れております。それでは、ボン・クローネ市で記者会見が開かれる模様ですので、現場の中継に移ります――』


 注意文句といったところだろう。それを言って、アナウンサーは礼をした。別に礼をするまでのことでもないが、エルフィリア王国ではこれが普通なのだ。番組は変わっていないけれど、スタジオが変わるので、区切りとしての礼というところか。


『新しくエルフィリア王国軍の総統を務めることになった、神風織桜です。エルフィリア王国の世界遺産管理委員長を経験し、この街のアドバイザーとしても活躍してきたことが評価されまして、今日、晴れて王女陛下より、素晴らしい称号を与えられましたことに、大変喜びを感じております』


 そう言って、織桜はカメラの前での自己紹介の最初の方を終えた。


『私はエルフィリア王国軍を、国民から信頼される軍隊、国民との密接な関係になる軍隊、そのような軍隊を目指して改革を進めていく方針であります。既存の軍隊の良き風習や良き伝統を残しつつ、悪い点などはしっかりと払拭していきたいと考えております』


 全国中継されていることをしっかりと考えているため、織桜の表情に涙などは浮かばない。内心、泣きたい気分で居た織桜だったが、そこは演技力でカバーした。猫をかぶって大量のキャラクターを演じてきているのだから、織桜からすれば容易いものだった。


『つきましては、国民総員の協力が必要となります。私は戦争を目指す国ではなく、奴隷を開放する国を目指していく方針でありますので、皆様方で一致団結し、奴隷を取引する悪党を倒して参りましょう』


 その台詞の後、織桜は頭を下げて礼をした。そして、リートから軍隊の長としての象徴を受け取る段階へ入った。そしてこの時、公営放送が重ねて音声を入れる。



『――これより、リート王女陛下からの軍部司令官帽の受け渡しが行われます――』



 アナウンサーの音声が入ると同時、リートは織桜に帽子を手渡した。この際、当然のように織桜は礼をする。そしてこれを、新聞記事の一面に使おうとしたり、テレビのニュースのトップにしたりするため、マスコミ各社のカメラマンが一斉にシャッター音を鳴らす。


 黒色の帽子、そこにエルフィリア王国の国章が金色で描かれている。ちなみそれは、帽子のつばとなっている場所の上だ。そこから下に向かっては、赤色の線と白色の線が入っている。

 そして織桜は、最後に挙手の敬礼をした。当然の如く、手を曲げているのは右手のほうだ。これもまた、マスコミ各社のカメラマンによって、ニュースに必要な資料になる。



『――以上を持ちまして、臨時ニュースを終了します――』



 だが、放送はそれで終わった。イヤホンを外す稔とラクト。会議室の方向に耳をすますが、確かに質問を行っている様子はない。理由は単純だ。スディーラを始め、民警などが質疑応答をしないようにマスコミに命令したのだ。

 

 ただし。マスメディアに対しての会見はこれで終わっても良いのだが、最終的には国会でその時の王が発表をする必要が有るので、その際には質疑応答から逃げることは出来ない。


「それじゃ、スマホを片付けるぞー」

「ああ、そうしてくれ」


 手の中に戻され、ラクトはスマホを片付ける。洋服を簡単に閉まっていくように、彼女の手の中に広がる紫色の光の海のような場所に、スマホやイヤホンは投げ入れられ、落ちていった。


「しかしまぁ、案外早く終わったな」

「そうだね。――でも、いいじゃん。デートが早く出来るんだし」

「お前なぁ……」

「あと、私が召喚陣の中に入れない事はちゃんと認識しておかないと、後々大変な目に遭うぞ」

「そうだな」


 そもそもラクトの主張で行けば、召使は人ではないので、『二人デート』という言葉で一括りにされても問題はないことだ。けれど一応、ラクトは召喚陣の中に戻ることが出来ない訳である。故に、監視されているのだ。そう、悪魔ラクトに。


「てか、今何時だ?」

「一三時半かな。……お腹減った?」

「そりゃ減るわ。てか、ここまでもったのが逆に奇跡だろ」

「ハハハ。でもボン・クローネ・メッセに行けば、美味しい美味しいカレーを食べることが出来るよ」

「そっか」

「おう。何せ、軍艦のカレーが美味しいのは万国共通だしな!」

「せやな」


 日本でもそうだ。自衛隊のカレーとかは結構美味かったりする。やっぱり、船内食は栄養を考えられているのだ。もっとも、改修工事が加えられている帝国海軍最終母艦のエルダは動かないけれど。


「ところで、俺らは着替えないのか?」

「あ、着替えてなかったね。……でも、駅で着替えるべきじゃね?」

「けど、別にテレポートするんだから問題ないだろ」

「そうだね」


 結局、テレポートする事を前提として、稔とラクトは着替えを始めた。スーツ姿を着ていた二人は、互いに背を向けあって着替える。そして、稔がラクトを意識過ぎなかったことが幸いし、二人ともに早く着替え終わった。その時間、わずか二分だ。

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