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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
五章 救出編《The dawn of new age》
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5-8 希望の海

 紫姫はそう言って時間停止魔法を使用した。そしてすぐ、エルフィリア帝国海軍の艦長らの意思を継ごうとしたが告げなかったという者達が魔法封印の餌食に――ならなかった。確かに第三の精霊は攻撃をしたが、その攻撃が自分を傷つけた上で相手に当たるという攻撃だったからである。


「バタフライ・ドライヴ!」


 氷銃で追加ダメージを加えながら勢い良く体当りして相手の攻撃意欲を落とす作戦に出る紫姫。甘く見られて痛い仕打ちを受けるのは絶対に嫌だったから、そのスピードはとても早かった。もちろんその速度で発射された銃弾が、どれくらいの速さ強さで敵艦に命中するかは言わずもがなである。



 それを行き帰り行って一往復して紫姫がさっきまで居た場所に戻ってきた時、使用した時間停止魔法は解除された。十二秒という指定時間を経過したからだである。見ず知らずのうちに痛みを負ったことにあまりの恐怖さを覚え、敵艦隊の中には震えが止まらなくなるものも現れ始めた。


「お前ら! お前ら……」


 戦闘意欲を失ってその場から動けなくなった仲間に何度も何度も声を掛け、フェニックスは無事を確認すると同時に戦意高揚を少しでも図ろうとする。しかし、硬直した成り損ないの精霊から返答はない。紫姫の攻撃で精神的にワンパンされてしまった者が数多く居るらしい。


 もちろん、敵艦隊の長を務める《不死鳥》だって傷を負っている。自分が紫姫の魔法封印の餌食になってしまったことで特別魔法のうち一つを使用できなくなったのではないか。自分が隙を見せたせいで猛反撃を受けたのではないか。彼女はそう考え、後悔し、流したい涙を押し殺して前方を見る。


「我は争い事を好まぬ。貴様らが終戦を求めるのであれば、我はこれを即座に受け入れる。引き続き戦うのであれば、我はこの意思を尊重して迎え撃つ」


 一対九ということもあって、一時は絶望的な状況に追い込まれた紫姫であったが、与えられた絶好の機会を逃すことなく有効活用したことで形勢逆転に成功した。一方《不死鳥》は、配下に精神的苦痛を感じる者達を抱えてしまったことで自分自身のパフォーマンス低下を招いてしまう。


「決断せよ、フェニックス。また時間停止の餌食になりたいのか?」

「言ってくれるじゃないか……、バタフライ!」

「――」


 特別魔法が使えないなら通常魔法で対処すればいい。フェニックスは半ば悪足掻きのような手段であることを自覚しながらも、飛行魔法を使って紫姫のほうに飛んでいった。しかし、空の意思を継ぐ精霊は華麗かつ余裕にこれを回避し、全くのダメージを受けない。しかし、これは想定の範囲内だ。


「海の覇者を決めようじゃないか、バタフライ」

「大艦巨砲主義なんて時代遅れなのに、我と戦えるとよく打診したものだ」


 どんどん高度を下げていき、海面すれすれで再上昇する《不死鳥》。高度を上げ始めた後、大きく右に旋回する形でターンした。一方紫姫は、敵が銃刀を持っていないことを確認して魔法封印銃を仕舞う。魔法を用いたバトルだったものが、非武装同士の空の戦いへと変化した。


 紫姫は武装を解除した後、上体を後ろに反らせてそのまま回転した。そこに壁は無かったが、まるで水泳におけるクイックターンのように勢い良く空を蹴ってフェニックスの方へと向かった。言うまでもないが、空で戦う予定だった紫髪の方が速さもコントロール能力も美しさも上。だが、フェニックスは努力して紫姫の速度に達しようとしていた。


 しかし、出来るはずがなかった。帝国黎明期に建造された初めての巡洋艦が、今の時代の戦闘機の速さに匹敵するくらい当時では他を凌駕する実力を持っていた機体の意思に適うはずがない。しかし、速度を出せないなら出せないなりに工夫すればいいだけの話。フェニックスは再び抜刀した。


灼熱の海原(フラッシュオーバー)!」


 先程と同じような赤橙せきとうの炎に染まった剣の柄を握り、《不死鳥》は自分が出せる最大速度で紫姫の方へと向かっていく。一方紫姫は、フェニックスのような失態こそ犯さなかったが、動揺を隠せないままでいる。魔法使用の宣言直後、紫髪は月の光が導く方へ上昇して体制を立て直した。


 しかし、紫姫には炎を封じる魔法として封印銃しか選択肢がない。だが、銃の使用はあれだけ立派に戦っている相手に失礼極まりないと考えた。かといって剣士でもないし、ましてや今は部外者である稔から剣を借りるなんてとんでもない。考えた末に、紫姫は決めた。


「ホワイト・アサルト!」


 特別魔法『白色の銃弾(ホワイト・ブレット)』で用いる銃を連射式に変更し、発射される銃弾の威力を向上させる紫姫。カーマイン属性の相手を凍結させることは不可能であるが、氷を水に変えることは簡単に出来る。消火の意味も含めて、紫髪はまだそれなりに余っている魔力をどんどんと銃弾の素に変えていった。


 銃口から放たれた銃弾は次々にフェニックスの炎の中へ入っていく。時を同じくして、氷で出来た銃弾が炎の中で水になる。これが何度も繰り返された。塵も積もれば山と成るという言葉の下に、紫姫はフェニックスの特別魔法を借りて次々と氷を水に変えていく。そして、ついに、火が消え始めた。


 もちろん、焼け石に水という言葉もあるように、水を掛けたからといって鎮火へもっていけるわけではない。しかし、既に紫姫はフェニックスの特別魔法の二『炉心溶融メルトダウン』を封じている。『灼熱の海原』よりも低い威力の魔法を料理することは、そこまで難しいことでもなかった。


「なるほど、そういう戦法か。それなら――」


 《不死鳥》は頷きながら紫姫の戦法を褒めた後、炎をまとった剣の柄を強く握った。その場に居れば逆転の発想に基づく攻撃で痛い目を見る。かといって、自分が使える特別魔法はあと一つ。しかも近距離戦闘が求められるため、紫姫のような遠近攻撃特化型に対しては非常に不利だ。


 でも、悩んでいるいとまはない。深呼吸して、フェニックスは飛び立った。紫姫を中心にして円を描くように大きく旋回して、どんどんスピードを上げていく。《不死鳥》の剣がまとう炎は風で消えてしまうほど野暮な代物ではないから、彼女が使用する魔法の火力に何ら悪影響を与えることはなかった。


「はああああッ!」


 加速段階が最大になったところで旋回をやめ、フェニックスは叫び声を上げながら紫姫の前方より正面突破を狙う。物凄い勢いで襲ってくる《不死鳥》はゾンビのように見える。だが、紫髪は動じなかった。彼女が旋回していた時間をチャンスと思って作戦を考える時間に当てていたこともあり、精霊は、落ち着きながら考えていた通りの動きをする。


 その紫髪を海風に靡かせながら、紫姫は挑発的な行動をした。向かってきたのが分かった瞬間に高度を上げてターンをすると、炎から逃れるように海面へと向かっていったのである。フェニックスは相当な加速がついていたこともあって、中々止まることが出来ない。精霊は、その隙を突いた。


「残念だったな!」


 海面すれすれのところで静止し、紫姫はアサルトライフルと化した白色の拳銃を構える。銃口をフェニックスに向けるやいなや乱射を始めた。二人の距離が先程よりも縮まっていたこともあり、より強い火力のまま炎の中に銃弾を送ることに成功する。


 その時だ。慣れない動きと突然の攻撃で《不死鳥》がバランスを崩し、海へと降下を始めた。一方紫姫は、元々海で生きてきた少女なのだから溺れることも無いだろうと考え、敢えて助けずにその様子を見ていた。しかし、バカにはしない。助けようと言う気持ちがないわけでないからだ。


 フェニックスは体制を立て直すことが出来ずに海面へと衝突。まとっていた炎も大量の水に逆らうことは出来ず、一瞬にして《不死鳥》の周辺の火が消えてしまう。持っていた剣も意味を成さなくなり、どこにでもあるような銀色に輝く刃と木の柄を基調とするものになってしまった。


 でも、そんなことなんてどうでも良かった。海に衝突して火を失うというところまでは計画通りだったのだが、バランスを崩した状態で海に入ってしまったせいで《不死鳥》が溺れてしまったのである。グングニルに乗艦していた稔はそれを見て、なりふり構わず紫姫と連絡を繋いだ。


「フェニックスは無事か?」

「恐らく無事だろうが、これより救出を行う」

「了解」


 稔と魂石越しに短く会話した後、紫姫は急いで《不死鳥》の元へ向かった。勢い良く海へと飛び込んでいく姿はまるで戦闘機に見える。巡洋艦には出すことの出来ない猛スピードで夜の海風を切ってフェニックスのすぐ隣に着くと、刹那、月光の他に遠方から微かな光線が届いているのを確認した。


「フェニックス。負傷したりしていないか?」

「意思を告げなかったとはいえ、重巡の意思は継いでいる。まといし炎を失ったとしても、海で歩む者なのだから、直接的な悪影響はない」

「そうか」


 紫姫は《不死鳥》が無事であることを知り、笑みを浮かべる。一方のフェニックスは、「助けられたくない」とかそんな気持ちは無かったから、その紫髪の綻んだ様子を見て少しだけ心が温かくなった。もはや彼女達は、敵ではなく好敵手に近い存在として相手を見るようになっていたのである。


「まずは助けることが先決だが……、戦闘は終わる方向で良いのか?」

「問題ない。むしろその方向で調整を進めてもらえると助かるくらいだ。こんな酷い背中を見て、ついてきた仲間達の戦意を高められるとは思わない」

「そうか。まあ、死者とか行方不明者とかを出さずに争い事を終えられるだけ素晴らしいことだと思うから、もちろん受け入れたい」


 精霊には戦闘狂としての側面がある。紫姫なんかは特に顕著だ。他の精霊と比較した時、彼女だけが物理魔法を使うことが出来る。理由は単純。重装甲に突撃することの痛みを知っていないからである。他の精霊の全てが大戦争経験者なのに対し、紫姫だけは当時を知っていても経験はない。


「これからは、海の平和の為に尽くしてくれ。きっとそれが、今は亡き提督アドミラル達の意思を継ぐことになると思うから」


 与えられた力を何の為に使うか。その質問に対する回答は具体的なものから抽象的なものまで十人十色だ。しかし、少なくとも、海で生きる少女たちに共通して持ってもらいたい思いというものはある。もう大戦争は終わった。これから先、海で意思を持ち漂う彼女がするべきことは、争いと全く対称の位置にある活動である。


「もちろん」


 紫髪の思いは《不死鳥》にも通じた。紅の髪をした少女は、多国船籍の軍艦だから襲撃するなんてことはもうやめて、箪笥の奥に仕舞うように恨みを処理し、未来に向かって前を見つめながら歩いて行く決心をする。紫姫と固い握手を交わした後、精神的に追い詰められた仲間のもとに戻って、フェニックスはケアを始めた。一方、精霊は要人輸送艦へと戻る。魂石経由で一発だ。



 戻った後、紫髪は黒髪に戦闘の内容や結果などを伝えた。基本的に魂石越しに伝わっていたから確認作業のようになってしまったが、稔とラクトは既視感を廃棄処分し、あれだけ戦闘意欲剥き出しだった少女を更生させることに成功した紫姫のことを大いに褒めた。


 褒められると表情が表に出てしまうタイプのようで、紫姫は嬉しそうな表情を浮かべたまま魂石の中へと戻っていった。一段落ついたことで一つ深呼吸し、稔とラクトは艦内へ戻る。

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