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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
四章 ギレリアル編 《The nation which has only women.》
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4-89 五日目の幕開け

 アナウンスで呼び出された場所に向かうと、まず弥乃梨はレーフに質問した。偽りの黒髪が部隊総長の部屋から出て行く直前に「七時十分から朝食」と言われていたからである。現在時刻はそれより十分も早い時間だった。


「レーフ。朝食の時間が早まったが、枠を拡大したのか?」

「そうじゃ。そこまでキツキツで無くて、予定よりも大幅に早く終わってしまったんだ。実際、君を呼び出した数分前には盛り付けまで終わっていたんじゃぞ」

「そうなのか。それなら、早まっても仕方ないな」


 弥乃梨は、レーフの返答に頷きながらコメントした。彼は小隊の隊員が予定を動かす強大な力を持っていることに違和感が無いわけではなかったが、だからといって困っていることもない。ゆえに、偽りの黒髪はレーフや第一小隊の一般隊員に対して、あーだこーだとクレーマーじみた対応をとったりしなかった。


「失礼します」


 弥乃梨とレーフが会話を終えて数秒した頃、トントントントンという四度のノック音が聞こえ、間もなくエプロンを着た第一小隊の面子が会議室に入室してきた。彼女らは両手におぼんを持っており、御手拭と食器類、主食、主菜、副菜、汁物、飲料、と六人が一人ずつ異なったものを運んでいる。


 彼女らは会議室に入ると、自分達から見て左側から順に先に述べた順で朝食を摂る際に必要となるものを置いていった。二十秒くらいして六人全員が通過した席が出来、朝食の全容が明らかになる。食器類は使い捨ての安価品ではなく、置かれた朝食のメニューは和風で健康的なものだった。


「(なんだろう、この実家感……)」


 第一小隊の六人から提供された朝食は、米飯、焼鮭、おひたし、お吸い物、煎茶。しかもそれらは陶磁器や漆器に入っていて、弥乃梨は日本に居るかのような感覚に陥った。同時に、もっと油物が多いイメージだったので、ここまでヘルシーな食事が提供されたことに驚く。もっとも、調理された鮭は二匹もいたが。


「レーフ、第二小隊の奴らはどうした?」

「色々と済ませてから来るじゃろう。おっと、噂をすれば――」


 レーフが会議室のドアのほうを向くと、弥乃梨もその方向を見た。すぐに扉のほうからガチャと音が聞こえる。彼女らの顔が見えるやいなや、レーフは近くに朝食が置かれていることを述べ、第二小隊の皆に注意を促した。彼女らはまるで作戦を遂行するかの如く落ち着いて行動し、空いていたところに座った。



 それから三分くらいして、第一小隊の一般隊員が一通り朝食を配り終えた。彼女らが空いていた場所に座ると、レーフがその場に起立して咳払いし、与えられた自室から持ち込んだ書類を左手に握る。チーム・ベータの部隊総長は本日の作業内容を説明しようとしたが、彼女は先に仲間の功績を称えることにした。


「昨日は第一小隊の活躍もあって、この街の存命者及び死亡者を全員発見できた。また、弥乃梨君らは他の師団、部隊並びに小隊に対しても情報提供を行い、それによる成果も続々と聞いている。まずは、この部隊の総長として、弥乃梨君はじめ、素晴らしい功績を作った私の仲間には心からの礼をする。ありがとう」


 レーフは深々と頭を下げた。もちろん、小隊のメンバーも深々と頭を下げる。十秒くらいして部隊総長のほうからガサゴソと動作音がしたので、それを合図にチーム・ベータに属する小隊の隊員達すべてが顔を上げた。


「故に今日は、ガス、水道、電力会社と共同でライフラインの復旧作業をする。第一小隊は八時よりこれを行い、第二小隊は市役所庁舎への遺体移送を終えた後にこれを行うものとする。市民が日常生活を一刻も早く取り戻せるように、私達にできることを精一杯やって市民らのに貢献しよう」


 レーフはそう言うと、弥乃梨に渡したものと同じ書類を第二小隊の隊長に手渡した。今日の作業はライフラインの整備会社に主導権があるので、技術面に関した質問は上がって来ない。もっとも、それ以外についての質問もなかったが。


「では、朝食を摂るとしよう」


 チーム・ベータの部隊総長の言葉を聞くと、属している小隊の隊員の大半は何も言わずに食べ始めた。ここに文化の違いが垣間見える。しかし、だからといって何か言及するわけでもない。むしろ、弥乃梨らからすれば自分達が今居るのは異国の地。なれば、異国の地のマナーに従うのは当然のことである。


「「(いただきます)」」


 弥乃梨とラクトは内心でそう言い、料理が提供されるまでに携わった人々や生物に対して感謝を捧げた。チラチラと周囲を見渡し、一般隊員らがどのように食べているのかを確認する。皿や茶碗を持っているのは共通だったが、誰一人として啜る音を立てていなかったし、誰一人として閉じた口を開かなかった。


 これこそがギレリアルにおけるマナーである。犠牲となった生物や料理を作るまでに携わった人々に対して合掌して祈りを捧ぐのではなく、体現するのだ。口を開かず黙々と食べるというのは、ギレリアル人なりの生命に対する感謝なのであり、こうなるまでの過程にあった出来事を受け止めているだけなのである。


 しかし、心を読むことの出来ない異国人にはそれが分からなかった。弥乃梨は最初こそ一般隊員らが取る行動を見様見真似に模倣していたが、隣に親しき者が居るのに話せないというジレンマを抱えると、これを打破しようとしてギレリアルにおけるマナーを破ってしまう。偽りの黒髪は、ラクトに小声で質問した。


「……なんで誰も喋っていないんだ? 宗教的な理由か?」

「食事中に喋らないことは、何千年も受け継がれてきたギレリアルにおける食事マナーなんだよ。日本人が『いただきます』『ごちそうさま』といって食前食後に挨拶するように、ギレリアル人は黙々と食べて感謝を伝えるわけさ」

「そうだったのか」


 弥乃梨は相槌を打ちながらラクトの話を興味深そうに聞いていた。母国では下品とされる行為でも、他国では上品な行為と捉えられるケースは多く存在する。例えば、日本では食べ物を残すとマナー違反だが、逆に中国では残すことがマナーになる。自分の常識と誰かの常識が等号で結ばれることは絶対でないのだ。


 弥乃梨はラクトの話を聞いてギレリアル人にとっての食事作法の原点にある考え方を理解すると、彼女らの考え方を尊重して以後食べ進めていった。弥乃梨はラクトとともにチーム・ベータの全員に混ざって、音を発さずに食べ進める。



 朝食開始時刻から十分も経つと、食べ終えた隊員が多数を占めるようになっていた。会話せずに食事することが苦でなければ、黙々と食べるのと早く食べることは実に相性が良い。早く食べることが体に及ぼす悪影響は存在するが、ただでさえ時間のない朝、チマチマと食べ進めることはできない。


「早く食べるのじゃ」

「は、はい……」


 弥乃梨は一般隊員らのペースに合わせて食べ進めていたから、十分後には大半の隊員とともに完食していた。一方、ラクトが十分で食べられたのは全体の六割程度。『残す』という選択肢が無いわけではないが、これではエネルギーが足りないし、調理人や農家、漁師に申し訳ない。赤髪は必至に食らいついた。


 同頃、食べ終えた第一小隊と第二小隊の一般隊員が続々と退出していく。彼女らから可哀想な目で見られるのは、ラクトにとって実に耐え難い苦痛だった。でも、責任を転嫁することはない。誰かに擁護してもらう気もない。どう考えたって、ラクトが自分の首を絞める事態を引き起こしたに過ぎないのだから。


「やっと終わったようなじゃな」

「本当に、申し訳ありません……」

「謝る必要はないぞ。もっとも、ペナルティを負ってもらうがのう」

「それ、俺にも負わせてください」

「え、でも、弥乃梨が何かを償う必要は――」


 レーフの口から発されたペナルティという単語を聞いて、弥乃梨がすっと立ち上がった。もちろん、ラクトは自分を庇ってくれる偽りの黒髪に感謝の気持ちを持ったが、自分で犯した罪は自分で償うべきと考えて、彼の助けの手を振り切ろうとする。しかし、赤髪に選択権はなかった。レーフが鼻で笑って言う。


「いいじゃろう。五階の食堂までこの食器を運んで洗って棚に戻せ。又、並行して、若しくは作業後に、この部屋を清掃しろ。雑巾は廊下にある」

「了解」

「なお、作業完了の報告等は不要じゃ。私が見回れば形跡が分かるからのう」

「引き受けた以上は全力で義務を果たす覚悟だ」

「その言葉、そっくりそのまま受け取るとしよう。二言は無しじゃからな」

「当然だろ」

「では、また後で」


 見下すような笑みを浮かべながら会議室を出ていくレーフ。一方弥乃梨は、部屋と廊下を隔てるドアが閉じられた瞬間に溜息を吐いた。続けざまに咳払いし、しゃがんで近くにあったおぼんに注目する。彼はまず、おぼんの上に同じ茶碗や皿を乗せていくことにした。


「あのさ、弥乃梨」

「なんだ?」

「私のペナルティなのに、連帯責任でもないのに、なんで手伝うの?」

「お前と少しでも長く一緒に居たいからだよ、バカが」

「ありがと」


 ラクトに感謝の言葉を返されるだけなら良かったのだが、そこに満面の笑みが加わったことで弥乃梨のヒットポイントゲージがイエローゾーンに突入する。偽りの黒髪は昨晩こそ彼女の赤面を見ようと奔走したが、今朝は逆で、完全に赤髪に主導権を奪われてしまった。照れた弥乃梨は、赤く染まった顔を下に向ける。


「顔真っ赤になってるけど、どうかした?」

「う、うるせえ!」

「いつも私のこと恥ずかしがらせてきた罰だし。バーカバーカ!」


 ラクトが笑顔を浮かばせながら弥乃梨をバカにする度、偽りの黒髪の心底にはイライラが積み重なっていく。しかし、赤髪が本心から言っていないことなどすぐに気付いた。彼氏をバカにしながらも、するべき仕事をしていたのである。


「口では嫌がっても、身体は正直なんだな」

「薄い本の一コマみたいな台詞を言うな。ていうかそもそも、私、弥乃梨のこと嫌ってないからね? 単にまたとないチャンスだったから、昨日までの報復攻撃をしただけだよ。もちろん、嫌なら反撃しても構わないんだけど」

「俺に反撃を認めるとか、ラクトは相当な慈悲の心の持ち主だな」

「ひゃっ!」

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