4-84 盗撮事件
稔が小便器から手洗い場に移動し始めた丁度その時、女子トイレからラクトの怒号が聞こえてきた。黒髪は不審者扱いされるのはたまらなく嫌であったが、それでも彼女が怒った理由を聞きたいと思い、女子トイレ側の壁に耳を向ける。
「スマホ見ながらガサゴソガサゴソ陰部弄くって、しかも私にかけやがって」
「あっ、いやっ……」
「ていうか、いつまで見せつけてんだ変態! さっさとそのごぼうをしまえ!」
「はっ、はい!」
「……もういい、彼氏呼ぶから。店員も呼ぶから。警察も呼ぶから」
「土下座しますから! 土下座しますから、どうか、どうか許して――」
出していたモノを仕舞うやいなや、ラクトにネバネバした白い液体をぶっかけてしまった男は謝罪を始めた。言ったとおり土下座もする。しかし、赤髪から返ってきたのは冷たい言葉だった。無論、男の表情は一気に青ざめていく。
「いや、謝るべきは私じゃなくて、こっちだから」
「でも、かけてしまったわけですし――」
「それを謝るなら私の彼氏に謝ってね」
「……」
ラクトの格好は不良と疑われるようなものでないため、男の中には「謝れば許してくれるはず」との考えが少しだけあった。しかし、「彼氏」というフレーズが出た瞬間にほんの少しだけ残っていた希望も消えてしまう。そして、ついに希望が絶望に転換した。きっかけは女子トイレをノックした後の声だ。
「ラクト、店員連れてきたぞ」
「一緒に入って」
「お客様、お伺いしてよろしいでしょうか?」
「大丈夫です」
稔と男性店員は断ってから女子トイレに入室した。二人の足音が大きくなるにつれて、盗撮男の顔は真っ青になっていく。五秒くらいで、稔と店員が女子トイレの個室で俯きながら座る男を捉えた。横を見て、ラクトの顔や赤い髪の毛の一部に白濁液が付着しているのを確認する。
「――罪の重さ、わかってるのか?」
「本当に申し訳ありませんでした……」
「土下座は要らない。直に警察が来るから、警察署でちゃんと話せよ?」
「あの、弁償とかは……」
「罰金刑で済むような犯罪なんだ。弁償は要らない。その代わり、もうやるな」
「……はい」
男が反省の色を見せたため、稔は優しく包み込む形で解決した。自分の犯した罪の重さを理解せず逆ギレしてきた場合は、一発殴って分からせようと考えていたので、手を出さなくてよくて黒髪はひと安心する。同頃、今度は警察官が女子トイレのドアをノックして入ってきた。
「詳しい事情は署の方で聞きます。被害者の方も来ていただけますか?」
「あっ、はいっ、構いませんが……」
「ありがとうございます。では、外の方でお待ちしています」
盗撮男は被害女性からも話を聞くと聞いて、自分の犯した罪の重さを改めて実感する。任意同行のため盗撮男には拒否する権利が与えられていたが、深く反省して俯いていた彼にそのような選択はあり得なかった。警察官が去った後、店員は「ご迷惑をお掛けしました」と深く一礼して、ロビーのほうへ戻っていく。
「取り敢えず出ようぜ。俺がここに居るのは流石に――」
「そうだね。けど私、本題を済ましていないから後で」
「わかった。でも、髪の毛どうする?」
「ここで洗ってく。温水にするの余裕だし」
「そっか。じゃ、廊下で待ってる」
「了解」
彼氏の前で個室に入るのは流石に躊躇いがあるようで、ラクトは稔に笑顔を見せながら手を振っていた。黒髪は赤髪が考えていることを察すると、盗撮の被害に遭った少女と一緒にトイレを出る。しかし、トイレと廊下を隔てる扉を閉めた途端にそこはかとなく怒りを募らせた。理由は単純だ。
「(俺以外の男の体液を触られるのか……)」
考えるほど増していく屈辱感。比例してイライラも増していく。もちろん個室に突撃するという犯罪者じみた行動を取る気はなかったが、稔はラクトの手で髪の毛に付着した盗撮男の体液を拭われるのを阻止しようと決意した。ちょうどその頃、黒髪と一緒に出た盗撮被害に遭った少女が頭を下げる。
「あの、ありがとうございました」
「俺は店員と警察を呼んだにすぎない『チクリ魔』だ。俺を褒める必要はないから、やるはずのことを忘れて真っ向から対峙したあいつのことを褒めてくれ」
「わかりました。でも、時間がないので、伝えておいてくれませんか?」
「ああ」
被害者は頭をぺこりと下げると後ろを向くと、そのまま去っていった。同頃、ドアを開く音が聞こえる。二箇所から水の流れる音が聞こえた後、またもドアを開く音が聞こえた。ラクトはトイレ側に顔を向けたまま、稔の考えに賛同した旨を告げる。髪の毛に付着した体液を見せびらかすのは恥ずかしいらしい。
「洗うなら早くして。気持ち悪いから……」
「わかった」
稔は周囲にバリアを展開すると、すぐに二一七号室の部屋の前に移動した。一切他のことを考えず、一心不乱に部屋の施錠を解除する。もちろん、来た時のように自動的に照明が点いた。扉を閉めるやいなや、二人は脱衣所に急行する。温度をぬるま湯に設定してから、稔が蛇口を捻った。
その後、黒髪は温度調節の意も含めて念入りに手を洗い、ラクトの頭を押さえつけて、彼女の視線を下のほうに強制的に向けさせた。顔面が洗面台の槽と触れないように調節しながら、盗撮男がかけた白い粘着性のある液体の除去を行う。
稔は、顔面に付着していたそれをまず洗い、続いて髪の毛――前髪を洗った。もっとも、黒髪だって恋人とか一部を除いて他人の身体から放出された粘着性のある液体に触る趣味などない。彼は赤の他人が吐いた嘔吐物を処理するように、しかし平然を装いながら、白くネバネバした液体を除去する。
念入りに洗ったこともあり、盗撮男にぶっかけられた白く粘着性のある液体の除去には三分程度の時間を要した。最後のほうは彼女の髪を撫でたい感情に流された感じも否めなかったが、ラクトは何も言わずに稔の欲望を受け入れてくれた。もちろんこれは、雑談を交えて体液の除去をしていたからである。
「シャンプーしないの……?」
「やっぱ臭い気になるか?」
稔が体液の除去を終えて蛇口を閉めると、ラクトは物欲しそうに黒髪に質問した。彼氏がそれに返答すると、赤髪は物凄い勢いで上下に顔を振る。稔は「お前は犬か!」と笑い混じりにツッコミを入れた。その後、彼は洗面台に置いてあった匂いつきシャンプーを手にとる。もちろん泡を取るのは、盗撮男の体液に触れた手を念入りに洗ってからだ。
「頭押さえつけられながらシャンプー使われるって新しいね」
「ちょっと抵抗されるとくっころ感と背徳感が増してぐへへなんだが」
「だが断る」
「くっそ、なんで命令できなくしたんだ俺は……」
「バーカバーカ!」
稔は自分の選択に後悔はなかったが、命令が出来なくなったのは大きな損益でもあるということに気が付く。嘆息を吐いて終わればそれで良かったのが、深夜ということもあり、ラクトから煽られてつい調子に乗ってしまう。
「そんなに俺を罵倒するなら――、髪洗うのやめてもいいんだぜ?」
「自分で洗えばいいだけなんだけど……」
「前言撤回しますやめてくださいお願いします」
「私の髪の毛洗うのに必死すぎだろっ!」
そんなこんなで体液の臭い消しは進み、稔が再び蛇口を捻る。使わずに経過した時間がそれほど長くなかったということもあって、出てきた水は温水だった。黒髪はそのままラクトの髪の毛のシャンプーを落とし始める。赤い髪の毛がよく見えるようになった頃、稔はシャンプーの匂いを得た。
「いい匂いだな」
「カモフラージュしてる感じが否めないけどね」
「気にすんな。栗の花の臭いを撒き散らかしながら歩くのはマナー違反だから」
「イカ臭いって表現しないんだね。さすが、よくわかってる」
「あのニオイは放出された体液が原因じゃないからな」
シャンプーの香りの話がいつの間にか体液の話に変わっていたが、二人とも流れに身を任せて会話を続けた。けれど、前髪と頭頂部くらいしかシャンプーをつけていないので、お湯で洗うのはすぐに終わってしまう。体液の話に変わってすぐに稔は蛇口を閉めた。同頃、ラクトはタオルを形成する。
「ありがとう!」
一方稔は、その間にドライヤーをセットした。執事のような対応に、ラクトは思わず感謝の言葉を口にする。赤髪がタオルを使い終えて手の中に戻した後、黒髪はドライヤーを持って彼女に問うた。
「自分でやる?」
「いいや、稔にやってほしい。というか、腕前を見てみたい」
ラクトは洗面台の前に置かれた椅子に座り、鏡のほうに身体を向ける。一方の稔はラクトからの依頼にメラメラとやる気を燃やし出した。男というものは、こうなると止まらない。黒髪はやる気満々になって赤髪のほうへ近づいていく。
「いいぜ、披露してやるよ」
そう言ってスイッチを入れる稔。髪の毛をかき分け頭皮に温風が当たるように風を送る。近すぎると熱で髪の毛を痛めることになるため、二十センチ程度をキープしながらドライヤーを揺らし、濡れている髪の毛や頭皮を乾かしていった。そして、大方乾いたところでスイッチを冷風に切り替える。
冷風で髪の毛を冷やした後、稔は洗面台の片隅に置かれていた新品の櫛を手に取った。しかし、ラクトは黒髪が櫛を開封する前にストップを掛ける。代替品として櫛を支給すると、稔は元々おいてあった場所に新品の櫛を戻した。それからすぐに、赤髪は形成した櫛で髪を梳く。
「やばい、私より上手いかもしれない」
「ドライヤー代行いつでも承ってるぞ!」
「なんかムカつく……」
ラクトは吐き捨てるように言った。もっとも、相手と自分を比較して劣等感を抱いた者に対して親指を立てながらドヤ顔をしたのだから、そのような感情を持たれるのは至極当然の結末である。けれど、そんなイライラする事態があっても仲の良い二人。怒っているのはほんの数秒のことだった。
「そういや、何分オーバーした?」
「現在時刻が一時二分だから、二分超過だね」
「なら、連絡しておこう」
「うん」
使った櫛をラクトに返した後、二人は洗面台の周囲に水が飛散していないか確認しながら、ギレリアルで待つエディットのことを考えた。どこにも水が飛んでいる様子が発見できなかったため、稔とラクトは早足で脱衣所を出る。忘れ物がないか確認した後、盗撮事件前と同じように廊下に出て、稔が部屋を施錠した。一方ラクトは、エディットに遅れることとその理由を告げる電話をする。
「もしもし、エディット? 予定時間に遅れて本当にごめんね。あと十分くらいしたらそっちに戻れると思うから、もうちょっと仕事続けてくれないかな?」
『構いませんよ』
「ありがとね。用件済ませたらすぐに帰るから、あと数分お願い」
『はい、わかりました』
無駄な雑談などはなく、用件を済ませただけで通話は終わった。直後、前から稔が近づいてくる。彼の手に鍵がない点から、二一七号室の鍵を返却してきたことが分かる。スマホをポケットに片付けると、赤髪はまた感謝の思いを発した。
「鍵片付けてきてくれたんだ。ありがとう」
「気にすんな。ほら、クリーニング屋行くぞ。五分しか猶予無いんだろ?」
「うん」
ラクトが頷くと二人はすぐに手を繋いだ。盗撮現場前を通過し、受付カウンター前を通過し、漫画喫茶の店舗から出て行く。彼らの脳裏には一秒でも早くチーム・ベータの拠点に戻ることしか無かったから、階段を降りる時のスピードも、ファミレス店から出てクリーニング屋まで歩道を進むスピードも、早かった。
もちろん、稔とラクトはクリーニング屋の手前で一気に速度を減速させてから店舗に入った。早歩きのまま入店してはクレーマーと勘違いされかねない。店内では平常時と同じ歩行スピードで歩幅を合わせながら歩き、レジに向かう。
「お品物を持ってきますね。少々お待ちください」
店員は名前を言わずとも顔で二人を判断し、笑顔を見せて接客した後に店舗の奥の方へ向かった。十秒もしないうちに警察官の制服が戻ってくる。ハンガーから下ろして透明のビニール袋から制服を取り出すと、店員はレジのテーブルの収納部から大きめのビニール袋を取り出した。
「手際いいですね」
「この仕事を長年やっていると嫌でも身についちゃうんですよね。ハハハ」
丁寧かつ迅速に制服を畳み、一切シワを出すことなく予め用意しておいた別のビニール袋に収納する。しかも、稔の質問に笑い混じりに返答するほどの余裕っぷりだ。黒髪は職人技を拝見して、思わず拍手を送りたくなった。
「お品物になります。確認のために、レシートをご提示ください」
店員の指示を受けてラクトはレシートを提示した。よく見ると、下部に正方形の欄が存在している。店員曰く、確認用の札やカードを作るのが面倒なためにレシートと合体させたらしい。店員はそんな過去話をまた笑い混じりに語った後、レジのテーブルの収納部から判子を取り出した。
「こちら受け取り証明書になります」
朱肉に着け、赤い判子で正方形のエリア内に押印する店員。店で処分することもできるが証明書でもあるため、店員はラクトにレシートを返却した。同頃、稔が綺麗に畳まれた警察官の制服を持つ。準備が出来たところでまた手を繋ぎ、黒髪と赤髪はクリーニング屋を出て行った。店員は二人を見ながら頭を下げる。
「ありがとうございました。またの御来店を心よりお待ちしております」
稔とラクトが店舗から退出したことで、クリーニング屋に客は一人も居なくなった。エディットに急いで帰ると連絡してあるため、雑談とか寄り道はせずに来た時と同じように大通りから外れた小路へと入る。前後左右にパートナー以外誰も人が居ないことを確認すると、黒髪は赤髪の手を強く握って宣言する。
「――テレポート――」
まもなく、二人はチーム・ベータの拠点がある街へ移動した。エディットに私服姿を晒すわけにはいかないので、指導先は新聞社の本社社屋の一階更衣室にする。到着してすぐ、ラクトが稔の分の軍服を作成し、黒髪はクリーニングに出した警察官の制服を棚の上に置いた。それから、二人は背を向けて着替え始める。
「またタイツ履くのか……」
「あ、アソコが圧迫されて不快ならソックスに変えるよ?」
「わりとガチめに変えてくれ。あと、お前も照れながら言うのな」
「時と場合によるけどね。大多数の前なら堂々と言える」
「そっか。でも、あんまり恥ずかしい姿晒すなよ? 俺まで恥ずかしくなる」
「わかってるっての」
ラクトはそう言い、注文通り稔に黒色のオーバーニーソックスを渡す。黒髪はすぐに靴下を普段通りに履く要領でそれを履いた。イラストを描くのが趣味でもある彼からすれば、ニーソックスは女キャラを描く際によく使うアイテムでお馴染みなのだが、実際に履いてみて絵を描くだけでは分からない真実を体感する。
「これは今後のイラストの参考になるな……」
「サイズ合ってた?」
「ああ、全然問題ないぞ」
「よかった。あ、パッドとかブラジャーって要る?」
「不要だ。そもそも、俺は女装したくてしてるんじゃないからな」
「確かに。じゃあ、他に必要なのはカツラだけってことだね」
「そうなるな」
ラクトは既に着替え終えていたので、十分という誓約を守るべく急ピッチで私服を脱いで軍服を着始めた。少しして黒髪は、赤髪からつい一時間半前くらいまで使っていたものと同型のカツラを貰う。不備がないように軍服を着終えてからそれを装着し、稔は再び偽りの黒髪になった。
「はい、鉄帽とライト」
「ありがとう」
迷彩柄の鉄帽とその周囲に着けるライトを貰う弥乃梨。一通り装着し終えて鏡を見ると、偽りの黒髪は自分の姿が軍人にしか見えないことを知った。一方、ラクトはコスプレっぽさが若干ある。でも、彼女は特別大将の在る立派な軍人だ。意識はしっかりとしていて、赤髪は拳銃がロックされているのを確認して改めて装備する。稔も流れに乗って再装備した。
「エディットのところに戻るぞ」
「うん」
周囲にバリアを展開すると、稔は内心で魔法の使用を宣言した。行き先は、今居る新聞社の本社社屋前とする。遅延等は起こらず、移動はすぐに終わった。エディットの顔を捉えるとすぐに彼女の方へ近づき、二人は声を掛ける。
「ここまでお疲れ様。他の皆と同じように部屋で寝ていいぞ」
「ありがとうございます。単純作業ですが、頑張ってください」
「ああ、もちろん」
「では、おやすみなさい」
エディットは頭を下げて新聞社社屋の中へと戻っていった。経度はニューレイドーラとさほど変わらないため時差ボケは余りないが、一般隊員が拠点の建物内に消えていったことで、稔は日付が変わったのだということを実感する。
「ラクト、寝てもいいんだぞ? ――いや、寝ろ。身体に悪影響だから」
「身体気遣ってくれてありがとね、弥乃梨。じゃあ、お言葉に甘えて」
ラクトは鉄帽を手の中にしまうと、エディットと同じように新聞社の社屋内へ消えていった。でも、赤髪はすぐに先ほどまで警備していた女性と合流したらしい。先に上階へ到着していたエディットと会話を始めた。一緒に寝ることを即決すると、彼女はエディットともに一般隊員の就寝部屋へと入る。
「(三時間、早く過ぎてくんねえかな……)」
弥乃梨はラクトを送り出しておきながら矛盾したことを考えた。後悔はないと言いつつも嘆息を吐いてしまう。そんな頃、精霊達が次々に魂石から出てきた。偽りの黒髪は驚いてしまったが、大半は主人を慰めるために出たのではない。
「弥乃梨さん、ラクトさんが調べていた件について調査しても大丈夫ですか?」
精霊魂石から出てきて早々に問うアイテイル。本来なら明日――もとい今日夜が明けた後にする予定だったが、弥乃梨は自分から魂石を出て作業をやりたい旨を告げてきた銀髪の気持ちを優先し、それに合った返答をした。
「構わないが、紫姫かサタンか付き添いを連れて行け」
「では、サタンを付き添いとして連れて行きますね」
「そういうことでお願いします」
「わかった」
魂石内から出るべきシーンを窺っていたようで、サタンは自然かつ素早く自身の居住スペースである精霊魂石アズライトを出た。精霊罪源は即座に弥乃梨の魔法をコピーすると、周囲にバリアを展開して内心で魔法の使用を宣言する。
「いい収穫持ってこいよ」
「「はい!」」
偽りの黒髪が激励の言葉を送ると、サタンとアイテイルは元気よく返事して、残り九つある強制収容所の調査へと向かった。同時に、弥乃梨は二人の姿が見えなくなって再び一人ぼっちになってしまう。しかし、まだ精霊は居る。
「紫姫……」
「貴台の作業に付き合うことにした。午前三時までよろしく頼む」
固い握手を交わすと、弥乃梨と紫姫は警備を始めた。自信が無いときには、今日一日を振り返って自分の功績を称える。そうやっていくうちに、二人とも前向きに物事を考えられるようになった。だが、彼らの希望を絶つかのごとく暗く厚い雨雲と影が拠点に迫ってきていた。




