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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
四章 ギレリアル編 《The nation which has only women.》
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4-83 サーチ&ポーカー

 ラクトはタオルを使わずに稔の身体を洗い終えると、トリートメントを彼の髪の毛になじませた。しかし、毛の内部まで浸透するのに時間を要するので、赤髪は黒髪に髪の毛を洗うよう依頼する。稔はすぐに受諾すると、シャンプーを手に取ってラクトの髪の毛を洗い始めた。一分位して水で流すと、されたようにトリートメントをなじませる。


 そして出来た空き時間。彼女は彼氏に、タオルを使わないで身体を洗うよう頼んだ。しかし黒髪は、柔らかくて温かいタオルの代替物を持っていない。稔はボディソープを手に取ると、タオルを間に挟まず直にラクトの身体を洗い始めた。彼女の顔から下の全部にボディソープをつけると、頭の上からシャワーをかけて全身の泡を一気に洗い流す。その後、シャワーは赤髪に移され、黒髪の頭の上からシャワーがかけられた。


 やるべきことを終えた二人はシャワールームを後にし、脱衣所へ向かう。脱衣所の床は吸水加工がされていたので、稔もラクトもシャワールームから続いた部屋であるかのごとく進んだ。黒髪は箪笥に入っていたバスタオルを取り出し、赤髪がそのバスタオルをそっくりそのまま作る。そして、二人は新聞社で着替えた時と同様に背を向け合い、着てきた服に着替える。




 支度を終えてメインルームに戻ってくると、飾られていた時計は十二時四十分を示していた。無料で注文したドリンクを一気飲み勝負した後、稔とラクトはパソコンが置かれていた机に移動する。パソコンが光を発していなかったため、黒髪は赤髪が仕事を放棄したのではないかと疑ったが、マウスを動かすとデスクトップ画面が出てきた。スリープモードになっていただけらしい。


「何か、新たに得た情報とかはあるか?」

「スマホで見てたサイトにアクセスしただけで進展はないかな」

「そっか。まあ、お前のペースで進めてくれ、ラクト」

「ありがとう」


 ラクトは稔の言葉を聞き流さなかった。、しかし、ディスプレイのほうに全神経の大半を注いでいたから、軽い会釈や感謝を述べる程度余裕でも、深く丁寧な対応をすることは難しかった。しかも、この先二十分弱の時間は別々の行動となる。黒髪は特に一人ですることが無いので、一つ提案をした。


「肩、マッサージしてもいいか?」

「お願い。……あ、椅子の向き変えるね」


 ラクトは椅子の背もたれを自分の左腰の方向に移動させた。稔は座っていた椅子を移動させ、赤髪の真後ろを陣取る。彼女が再びマウスを動かし始めたところで、黒髪はマッサージを始めた。


「すごい凝ってるな……。今日一日の行動以外に何か要因あるんじゃないか?」

「ここ数日分の疲労が溜まってるとかじゃないかな?」

「なら、念入りにマッサージしないとな」


 マウスを縦横無尽に走らせる彼女と、彼女の皮膚を温めながら肩を揉む彼氏。本来ならツボに圧を掛けたいところだが、パソコン操作中ということもあり、腕のツボをを刺激するのはやめておいた。一方、肩や首などのツボは刺激する。


「どうだ?」

「ノーコメント。マッサージするほど気持ち良くなるから、感想は数分後で」

「ラクトらしい回答だな」


 非の打ち所のないラクトからの意見を興味深く聞き、稔は何度も頷いた。そして、言われたとおりに同じ部位を繰り返しゆっくりと刺激する。しかし、すぐに赤髪が声を上げた。黒髪のマッサージによるものではないのだが、あまりの突発性に驚いてしまい、稔は思わず問うてしまった。


「い、痛かったか?」

「ううん、違う。見つかったんだよ。例の情報が――」

「ミカエルの居場所が?」

「うん。まあ、デマ情報の可能性も残っているから、完全にとは言えないけど」

「見ていいか?」

「いいよ」


 稔はラクトの答えを合図にすっと起立した。赤髪が操作していたパソコンの画面を見れば、そこには大量の地図が表示されている。そのページは、ミカエル救出を願うウィキサイトの内容の一部だった。注意書きを読むと、管理人が黒判定を出した中で最も真っ黒な方から記載しているのだということが分かる。


「稔。これ見て、共通点あると思わない?」

「全部山手に在るし、全部公共施設の写真だな」

「管理人曰く、『地下に収容所が存在している可能性が極めて高い』だってさ」

「黒黒判定はそれが理由か……」

「もっとも、収容所の建物内を撮った映像が無いから、この判断が必ず正しいとも限らない。……つまり、私たちがするべきことは?」


 都市部から離れた山手という他人を最も寄せ付けない場所にある、地下という他人から最も知られない秘密の場所にある強制収容所。厳重な警戒態勢が敷かれているのは言うまでもない。前に強制収容所一つを解放したことがある身としては、急がば回れ。計画を練らずして突破することは不可能だ。


「現地調査か」

「そのとおり」

「でも、今日は流石に無理だ。調査実施は明日以降にしてくれ」

「もちろん」


 現地調査を深夜に行うのは無理な話ではない。でも、稔もラクトも今日一日ぶっ通しで立ちっぱなしだったから、休みたかった。似た者同士考えていることは

一緒だったので、調査実施は確定までスムーズに言った。しかし、実行は明日以降なので、中身については議論しない。


「それで、調べ物終わったんだけど……、稔はいつまでマッサージ続けるの?」

「スタートもストップもラクトの一存なんだが」

「じゃあ、ストップ。ストレス発散に遊びたいから」

「そうか。ところで、マッサージは気持ちよかったか?」

「もちろん。調査報告の最中にもしてくれて、ありがとね」

「どういたしまして」


 もっとラクトのオーバーなリアクションを見たい気持ちもあったが、今日できないからといって金輪際できないわけではない。稔はラクトの感謝の言葉を素直に受け止めると、すぐにマッサージをやめた。


「話を戻すが、何で遊ぶつもりなんだ?」

「ドローポーカーとかどうかな?」

「いいと思う。けど、俺の心情を読むなよ? 不利になるから」

「わかってるって。あ、最初、私ディーラーね?」

「わかった。チップはどうする?」

「柄の違うトランプで代用するよ。最初、チップは二七枚ね」

「了解」


 スムーズに決まっていく必要事項。それを受けて、ラクトは宣言通りトランプ五四枚を二種類作った。一つは裏が赤、もう一つは裏が青色のトランプになっている。今回は、赤いほうをカード、青い方をチップとして使うことにした。ディーラーは、トランプを念入りにシャッフルした後、裏にして五枚ずつ配る。


参加料アンティ徴収するよ」

「はい」


 参加料として、二人ともチップ一枚を中央に出す。


「チェック」

「ベット」

「コール」


 ラクトが何も賭けずに様子見すると、稔はチップを二枚賭けた。前のプレイヤーに『チェック』を宣言された場合、次のプレイヤーは『チェック』もできるが、基本的には賭けるか降りるか選択しなければならない。だから、稔の判断は当然だ。その後、赤髪がチップを同額賭けて、カード交換前の賭けは終わる。


「何枚交換する?」

「二枚」

「私も二枚で」


 プレーヤーに対し、ディーラーは交互にカードを渡した。一方、元々持っていた交換カードは青いトランプの隣に裏返した状態で置いておく。


「ベット」

「レイズ」

「どうせ役なしのくせに」

「うん、役なしだよ」


 稔は一枚しか青いカードを出さなかったが、ラクトは三枚も出してきた。黒髪は自信あり気な赤髪のことを煽ったが、残念ながら失敗。クレーマーに返事を送る時ような返答をされて終わった。


「コール」

「え、勝てそうな内容なのに」

「大丈夫、言われなくても勝つから。そう言うラクトはもっといくつもりか?」

「ううん、コールで。だって私、役なしだもん」


 今回は二人でのプレイ。最初に賭けた人と最後に賭けた人が同じアクションをしたため、ここで賭けは終った。ラクトはプレイヤーからディーラーに変わり、手札の公開を指示する。刹那、二人は赤色のトランプを表に返した。


「ツーペア」

「フルハウス。はい、九枚没収」

「ちくしょう……」


 稔は、スペードの6とハートの6、クローバーの3とハートの3、クローバーのA、でツーペア。一方ラクトは、スペード、クローバーとハートのA、スペードとダイヤの9、でフルハウス。チップは全てラクトのものとなった。


 赤いトランプを回収し、再びシャッフルを始めるラクト。同時、魂石の中で二人の試合を見ていて面白いと思ったようで、精霊が全員出てきた。排他的なゲームをするつもりはさらさら無いので、稔もラクトも三人の参加を受け入れる。


「一人チップ十三枚、最大五枚まで出していい。ラクトはディーラーな」

「ディーラーと初心者のアシスタントを兼ねるわけだね。稔は助けないけど」

「これが初体験じゃねえからな。当然だ」

「複数回やってるくせにルール分からないとかあり得ないでしょ」


 ラクトは稔と会話しつつ、ちゃぶ台のような円形のテーブルの卓上に赤色のトランプカードを五枚ずつ置いていった。準備が出来たところで、ラクトが言う。


「じゃ、裏にしたままカードを見てね。先に、参加料を徴収するよ」


 ラクトは四人のチップを一枚ずつ取り、中央へ移す。


「一枚ずつ確認したから、私の左隣の紫姫からスタート。分からなければじゃんじゃん手を上げて呼んでもらえればアドバイスするよ」

「我は大丈夫だ」

「私も問題ないです」


 ディーラーの左隣の席に座っていた紫姫と、その紫姫の隣に座っていたアイテイルはルールを知っているらしく、きっぱりとラクトのアドバイスは不要だと告げた。赤髪は「わかった」と一言言うと、ルールを知らないサタンの元へ向かう。もっとも、ディーラーの右隣が席だったのですぐだったが。


「チェック」

「フォールド」

「ベット」

「コ、コール!」

「コール」


 賭けているチップの枚数が等しくなったので、ドロー前の賭けは終わる。フォールドを宣言したアイテイルの五枚を裏向きのまま回収して、ラクトは言った。


「ドロー。交換したいカードを裏返しにして私に頂戴。紫姫から」


 紫姫は二枚、稔は一枚をラクトと交換した。サタンは何も変えていない。交換が済んだところで、赤髪は手のひらを下に向けて手を紫姫に見せる。彼女の「どうぞ」という合図を発端に、再び賭けが始まった。


「ベット」

「レイズ」

「レイズ」


 紫姫が一枚、稔が二枚、サタンが三枚。


「コール」

「コール」

「レイズ!」


 紫姫が三枚、稔が三枚出したところでさらに上乗せして出そうとしたが、サタンはラクトに止められた。無理もない。ルール上、一ターンに出せるのはチップ五枚までだ。注意を受けると、サタンは二枚出した。最後に、紫姫が一枚出す。


「オープン」


 ディーラーの掛け声を受け、皆一斉に裏にしていたカードを表に返した。稔はハートの7とクローバーの7、ダイヤの2とクローバーの2とスペードの2。紫姫は、ダイヤの2、7、9、10、ジャック。サタンはスペードの9、10、ジャック、クイーン、キング。


「ロイヤルストレートフラッシュ一歩手前じゃねーか!」

「一発で引き当てるとは、凄すぎる……」


 稔がフルハウス、紫姫がフラッシュ、サタンがストレートフラッシュ。強い役はサタンだ。まんまと泥沼にハマった稔と紫姫が賭けていた十二枚のチップと、逃亡に成功したアイテイルが賭けていたチップ一枚が、サタンの手元へ動く。


「二回戦入るよ」


 ラクトはそう言うと、せっせと青いトランプカードを回収した。再びシャッフルし、同じように四人に五枚ずつカードを配る。左隣の席のさらに左隣、今度はアイテイルからスタートすることになった。




 スタートプレイヤーが一巡したところで、ディーラーはゲームを終了する旨を告げる。漫画喫茶で一時間自由に過ごしていい契約にはなっているが、午前一時を回った頃には既に警備を始めていなければならないからだ。精霊達はまだやりたそうな表情を浮かばせていたが、仕事より遊びを優先する訳にはいかない。


「勝者は、サタンかな」

「いや、私の勝利じゃなくてラクトさんの勝利だと思います」

「そんなことないよ」


 ラクトはチップの枚数を正確に数えなかったが、サタンが他を凌駕するほどチップを所持していたために勝者とした。対戦した紫姫、アイテイル、稔は彼女に拍手して勝利したことを褒め称える。それから十数秒程度で拍手が静まると、精霊達は魂石へと戻っていった。裏を返せば、再び二人きりになったということ。


「ストレス発散も終わったことだし、制服貰って戻ろっか」

「そうだな」


 漫画喫茶のサービスは前払い制だから、やりたいことを終えたら何もせずにそのまま店舗を出ていける。でも二人は、二一七号室を出る前に、部屋の中央に置かれた円型テーブル上にグラスが二つある以外は入室した時と変わらない姿に戻した。もちろん、パソコンの電源を落とすことや、照明を消すことも忘れない。


 最後に店員から渡された鍵を紛失していないかチェックして、稔とラクトは二一七を出た。鍵穴を見るやいなや、黒髪が部屋に施錠を掛ける。ドアが前後に動かなくなったのを確認すると、二人は店の出口のほうへ向かった。しかし、途中でトイレを発見したため、稔が止まった。


「ちょっとトイレ行ってくるから、ここで待っててくれ」

「あっ、私も――」

「そっか。じゃあ、ここで集合な」

「わかった」


 会話の後、二人はそれぞれトイレへと向かう。特に稔は、女装がバレる心配をせずとも個室に入らずして用を足せることの素晴らしさを痛感した。彼はたった数十秒小便器を使用しただけで、自らが男であることを再確認し泣きそうになる。また、人権を剥奪された者を解放しなければならない、とを強く決意した。その時。


「てっめえ、男のくせに女子便所入ってんじゃねえよ!」

 

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