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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-35 ボン・クローネ観光-Ⅹ

 中央通りを行くエルフィリアの王女御一行様を見ながら、その上空を飛ぶ稔とラクト。一応、稔は『失われた七人の騎士』の一人だ。ある意味で考えれば、セキュリティポリスというわけだ。


「ボン・クローネって結構広いよね」

「旧市街は広いね。……新市街は異常な狭さだけどさ」

「だから、俺は新市街なんか行ったことないんだっつの」

「テレポートすりゃ、いつでも行けんだろ」

「それはそうだけど……」


 ともかくラクトからすれば、稔が「新市街に行く」と言えばついて行くしかない訳だ。召使として、何かが起こった時に素早く対処するためにもついて行く必要があるわけだ。

 なので、ラクトからすればどうでもよかった。結局はついて行かなきゃいけないのでどうでもいいのだ。


「……んで、下の方達は駅下を通って市役所に行くわけだけど」

「なんていうか。上から見てるってのはなんか、盗撮みたいな感じがする」

「盗撮って……。稔じゃ有るまいし」

「ふざけんな! あたかも俺が変態みたいな言い方するな!」

「『変態』じゃなければ何ていう風に思われるのが妥当だと思うの?」

「『一般人』でいいよ。『変態』とか言われて喜ぶとか、何処のマゾ豚じゃボケ」


 別に稔は豚というわけではないのだが、それでも過激なマゾヒストには変態な豚、つまり太っている変態の人が居るということは確かである。それが偏見に繋がるのは駄目なことだが、自己主張の激しいマゾヒストがそうなのだから、偏見に繋がってしまい易くなってしまっているのだ。

 ――ともかく。稔はマゾでもなければ、太った変態でもないと主張したいのだ。


「なぁ、この下の道を通って市役所まで、後どれくらいなんだ?」

「歩いても結構掛かる距離だと思うけど……。まあ、東通りと中央通りを結構早く歩いていたことを考えれば、大体五分で着くんじゃない?」

「そっか。……五分か」


 五分あればカップラーメンを作ることできるし、簡単な冷凍食品だって作ることが出来る。もちろん、それ以外にも作れるものは多いし、やれることだって多い。――でも、飛行中にできることなんて限られてしまう。


「下の方ばかり見ているっていうのも飽きてしまうだろう。……何する?」

「ボン・クローネの街も説明し尽くしたしなぁ……。何処かへ飛ぼうにも、リート達が一体何処へ行くのか分からないしなぁ……。市役所に先回りするのも一手だけど、うーん」

「だよな。なにせ、市役所に行った所ですること無いわけだし」

「そもそも、役所はクレームだけをしに行くために有るわけじゃないもんな。用を足すために有るだもんな」

「そうだな。……でも隊長! 『用を足す』って表現は、女の子の前でするべきじゃないと思います!」


 隊長、と言われたことに驚いた稔だったが、直後に『用を足す』という事に関して話したラクトに、稔はため息を付いた。


「お前がそう言うってことは、二つの意味を知ってるってことでしょ?」

「うん。でも、上品な言い方ってもっとあるじゃん?」

「例えばなんだよ?」

「『雪化粧した綺麗な山脈の中の湖の水を、わたくし失礼ながら、汚して参ります』」

「……」


 稔からすれば、それが何を表しているのかがすぐに分かった。だが、稔が分かっても何も言わなかったためにラクトが少し心配した。


「あれ? やっぱり、察することが容易にできないような鈍感主人様には辛かった?」

「違うわ! お前が言っていることの意味をわかってしまったから、汚すぎて言葉を口で発する気力も失ったんだよ!」

「ふむふむ。……じゃあ、答えを言ってみてくれ」

「白色の便器と便座、その中に有る水、そしてそれを汚す。お前が何を言いたいのか分かってんだよ!」

「キャー」


 騒ぐラクトだったが、完全に稔がハメられているだけである。これを防ぐべく、稔は言わずに黙って通そうと考えていたのだが、無理だった。ハメられてしまったものはどうにもならない。事実は消せない。


「俺はな、そういうので喜ぶようなガキじゃねえんだよ。……んじゃ、お前今度からそう言ってトイレ行けよ?」

「はっ……へっ?」

「お前が俺を虐めた罰。主人と召使の関係だもんなぁ? 命令は遵守してくれるんだよなぁ? ラクトさんよぉ?」

「……」


 少し涙目になってきたラクトに、流石の稔も言い過ぎたかと反省の色を浮かべる。


「いいよ。……召使は何でもいうこと聞いてあげなきゃいけないんだからさ……」

「いや、別にそういう意味では――」

「変なことされそうだから逃げるとか、稔はチキンなのか?」

「くっ……」


 稔の右腕に自身の豊満な胸を当てながら、ラクトは稔を笑った。チキンと言って罵って大笑いしそうになったのである。当然、反省の色を浮かべていた稔からすれば、ぐうの音も出ない仕打ちである。


「まあその……。稔が野獣化したとしても、変なことをしたとしても、私からは断れないってのは確かだし。男嫌いを治す為には、そういうことしてほしくないけど、無理だったら別に――」

「なんで汚すぎるトイレの話が、こんなに深刻な話になってるんだ……?」

「稔が変なこと言ったから……。『命令を遵守』とか、そういうことを言ったからじゃないの?」

「それは脅し文句みたいなもんで、別に俺のポリシーはそれじゃないんだが……」

「知ってる」


 そう言うと、ラクトは更に稔に抱きついてきた。昼から公然の前で発情を始めたとも考えられるくらいだ。彼女は稔の右腕に強く自身の胸を当て、笑顔を浮かべて照れ顔を見せる。


「ななな、何をする気だ……?」

「お望みなら、何でもする……」

「そ、それはさっき聞いたから! ――ああもう、離れてくれ! 押し当てられる肉の感触がヤバイ……」

「離れて欲しいのは命令……ってことでいいの?」

「ああ、頼む! お前がリート達を見ていないと、変なことをしでかしてくるから……」

「私を野獣みたいに扱いやがって……」


 野獣みたいに扱ってしまっているのは、誰のせいなのかを考えた時、一番最初に上がってくるのは、どう考えてもラクトのせいだろう。稔が勝手に思っているのではなく、そういったことをされれば誰だって『野獣』だの、『性欲だけの女』だの、言われかねない。


「仕方ないだろ。お前の顔、どう考えてもエロかった」

「なっ――」


 笑顔を浮かべつつの照れ顔、少しずつ、顔の表情が蕩けていくというか、そういう感じでエロさが増えていったのである。……サキュバスだという事を考えればそうなって普通なのだが、ラクト自身はサキュバスとヴァンパイアの娘ということであり、サキュバスの遺伝子だけを受け継いでいるわけではない。


「――まあいいや。アダルティな事は後にしてくれ。まずは、下にいるリート達を追わなければならない」

「……そうだけど、もう市役所近辺行ってしまった方がいいかもしれないけど……いっか」

「まあ、市役所の近辺に何が有るかはわからないけど……公園とかは有るのか?」

「公園……無くはないね。けど、遊具とかは少ないかな。あと、かつての市役所の跡地なんだよね」

「そうか。……でもまあ、公園で休んでるだけでいいんじゃないかな?」

「それはどういう?」

「いや、リート達が市役所に来るのなら、その周辺で待ち伏せしていると対応しやすいだろって話」

「なるほど」


 とはいえ、市役所に来ることが前提条件となる。何度も言うが、行き先をラクトが読み取ったとして、稔とラクトがその方向や場所へ行ったとして、そこに辿り着くことがデマの情報だったり、ガセネタだったすれば、その作戦はあまり意味を成さない。


「ていうか、リートが市役所に行くっていうのは本当にそうなのか?」

「そりゃそうさ。誰に会いに行くのかって話の時、文月は『金髪貧乳の日本人』みたいなことを言っていたじゃん。それは、第七の騎士の事を指しているわけで、彼女はボン・クローネ市長。要するに、市長に会いに行くためには市役所に行く必要があるだろう。だから、市役所かなって」

「いやいや、市役所じゃなくても大丈夫だろ。俺がいいたいのは、マスコミとか現地の人とかに聞いたような、信憑性がある話なのかっていうことだ」


 信憑性にはあまり自身がなかったラクト。だがその刹那、自身の魔法を使用してマスコミの取材班の心の中を除き、彼らが何を取材しているのかを聞かせてもらった。

 ……予想だとかは立てていなかったが、大体のメディアはリートの追いかけだった。例外を除き、そういったメディアには更に追求した。「何処まで行くのですか?」と聞いたのでである。


「分かった。市役所じゃない」

「ほらな」

「ボン・クローネ市役所じゃなくて、ボン・クローネ市民会館だった」

「距離はどうなった?」

「ああ、近くなった。駅の目の前……ではないけど、駅のすぐ近くだ」

「えっ……」


 まるでご都合主義のような、そういった世界だった。王女が歩く距離を短くしたい――などという、王女の側近からの言葉などが影響したりしているのかもしれないが、ラクトはそんなことを話そうとしなかった。……いや、マスコミに聞いていないし、彼らも話そうとしなかったし、分からなかったのだ。


「駅のすぐ近くって事は、ここから結構近いじゃねえか! ……テレポートする?」

「まあ、市民会館は中央通りに面しているからね。ああ、しよう!」


 目を輝かしたりはしなかったが、ラクトは嬉しそうな表情を浮かべていた。テレポートをするだけで、何故彼女が喜ぶのかは単純な理由である。稔も、何故そういう表情をしているのか、察することが出来た。


「……まったく、お前は俺に身体を当てることをそんなに楽しいことだと思ってるのか?」

「スキンシップだよ。楽しいことじゃなくて、スキンシップ!」

「あのなぁ……」


 稔が言ったことなどラクトは気にしなかった。稔が抱きつかれることに嫌悪感を抱いたとしても、ラクトは続けるつもりだった。それが、拒絶される原因になった時に自分はどうするのだとか、そうったことを考えていないからこそなせる技だった。


「俺だって、そりゃ妹とか姉とかがいれば、抱きつかれても問題はないかもしれない。けど、お前は家族じゃねえんだよ。召使なんだよ。元々は一人の女の子なんだよ」

「女の子っていうよりも、メスって言ったほうがいいと思うけど」

「嫌だ。俺は、絶対にお前を家畜扱いなんかしたくない!」

「ふぇっ……」


 右腕に当たる感触もることながら。稔は、ラクトが咄嗟に出してしまった「ふぇっ……」という言葉に、心を奪われてしまった。とはいえ、その様子はすぐにラクトにバレてしまった。無理もない、心を読まれているのだから。


「かっ、家畜扱いしないってことは、奴隷扱いもしないってことでいい?」

「し、しないし!」

「なんで動揺してんだよ?」

「おっ、おまえが言うな!」


 心を覗かれているということを今更過剰に考えてしまった稔は、動揺している自分をどうにかしようにも、そう簡単に止められなかった。胸が当たっていることを考えていないにも関わらず、その動揺は止まるところを知らない。


「と、取り敢えず。一人の女の子なんだから、あんまり男に抱きついたりすんな。お前の前世がサキュバスだったとしても、今は召使っていう立場なんだし。……男を誘惑するってことは、その気があるって解釈されるし」

「知ってるよ、それくらい。……前世で味わったっつの」

「その言い方はやめろ!」


 そう言った稔は一応、「何を表しているのか言ってみろ」とラクトに言った。聞いた。だが、「何を味わったのか」という事には、ラクトは特別詳しい説明をしようとしなかった。

 話そうともしないので、何を言っているのかなど分からない。


「さてと、テレポートしますかね?」

「……馬鹿」

「――は?」


 稔は首を傾げていったが、何故ラクトが「馬鹿」などと呟くようにいったのか、稔にはすぐに分かった。しかし、稔は分かっていたにも関わらず、声には出そうとしない。


「な、なんだよ……?」

「今、稔が心の中で考えてること……ホント?」

「え、あ、いや……」


 心の中で格好つけたことを考えてしまった稔は、ラクトに心を覗かれる前にそれを隠そうとしたが、無理だった。そのため黙っていようとしたのだが、それもやっぱり通用しなかった。


「言ってみてよ。……稔の声で聞きたい」

「おまっ――」


 ラクトは稔の右肩に顔を密着させた。臭いをかぐためではない。顔を染めている自分の顔を隠す為だ。


「召使にしても精霊にしても、そいつらが俺を嫌いになるまでは、絶対に俺が守る……からな」

「さっきは『朱夜』って言ってたくせに」

「でも俺は、全員を平等に扱いたいっていうか……」

「けど、稔だって、誰を一番上に持ってくるかとか考えてるでしょ?」

「え?」


 稔が聞き返した時だった。ラクトが肩に密着させていた顔の左頬を、稔の右頬と擦り合わせて囁いた。


「『一番好きな召使とか居るでしょ』って事」

「……」

「まあ、これ以上稔にくっついても稔がいい気分しないだろうから、ほら、テレポートすっぞ」

「お、おう……」


 気を取り直し、稔はラクトと共にテレポートをしようとする。もっとも、市民会館の前には報道陣が居るため、テレポートする先は駅前だった。


「テレポート、ボン・クローネ駅南口!」

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