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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
四章 ギレリアル編 《The nation which has only women.》
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4-48 For everyone-Ⅲ

 召使を配下に持っていることから、犯人が魔法が使用できる者であるという確証を得る。並行して弥乃梨は剣を構えた。紫姫は銃を構える。『黒白』が準備を整えた頃、召喚されたファフニールが部屋を金色で照らした。


「(『とくせい』みたいなもんなのかな?)」


 場に出てくるやいなや辺りを豹変させる、という点はポ○モンの『とくせい』そっくりだった。ファフニールは天候を変えるほどの力は持っていなかったが、それでも、自らを発光体として視界を悪くされると非常に厄介である。


 それに、『黒白』は二人ともブラック属性だった。カナリア属性の攻撃に当たると二倍のダメージを受けてしまう。紫姫に至ってはシアン属性も入っているから、四倍のダメージになる。光を使ってくる敵がカナリア属性を持っていない場合はほとんど無いので、弥乃梨と紫姫はよりいっそう警戒を強める。


「ファフニール、ポイズンリング!」


 ポイズンリングと言っても、その名前の厨二アイテムが形成されたり襲ってきたりした訳ではない。当たれば毒状態になってしまうと人目でわかるような紫色の液体が、リング状になって『黒白』目掛けて襲ってきた。だが、さほど強い火力の魔法ではない。特に何事も無く跳ね返す。


「残念だったな!」


 しかし、何発もの『毒の指輪』をバリアに当てたのは、序章に過ぎなかった。並大抵の相手であればダメージを負うが、弥乃梨のようなバリアを駆使する相手には一切と言っていいほど効かない。犯人はそういう相手にも対処できるよう、ほぼ原型を留めないレベルにまで魔法を転用していた。


「二段構え、だと……?」


 小さかった紫色のリングはどんどんと広がり、『黒白』を囲っていたバリアの外周を囲うくらいに広がった。場所が確定した後、今度は毒を浴びせる範囲を拡大するべく幅を広げる。弥乃梨はバリアを捨てることも考えたが、それでは麻痺攻撃を受けてしまうリスクが増えるだけで相手の思う壺。でも、諦められない。


「(バリアごと移動するか……?)」


 だが、それではイタチごっこになるだけだ。というか、そもそも戦うために来たわけではない。弥乃梨は、考えを深めていくうちに移動という選択肢を消去した。そうして、残された選択肢が犯人サイドを気絶させることだけになる。つまるところ、短期決戦だ。しかし、戦う以上は戦禍を考えなければならない。


「司令、聞こえるか?」

「なんですの? もう、ラクトさんは六人を無事に救出致しましてよ?」

「悪い」


 弥乃梨は謝ってから本題に入った。


「ところでなんだが、立てこもり犯に傷を負わせて大丈夫か?」

「そんなの構いませんわよ。攻撃してきた時点で公務執行妨害ですもの」

「そっか。ありがとう」

「いえいえ。幸運を祈りますわ」


 一時的にミュート設定を解除したが、警察官は話が終わるとすぐにマイクを切った。だが、それは見放している訳ではない。遠回しの応援メッセージである。と同時に、現場に一任するという意味も含んでいる。


「サタン。人質四人を開放しろ」

「分かりました、先輩」


 責任を一任された弥乃梨は、まずサタンを呼び出した。『複製レプリケイション』でバリアとテレポートをコピーさせ、麻痺状態の駅員四人の解放を行わせる。しかし、救助の為には物体を生成する魔法も必要不可欠だった。そのためサタンは、下階にいるラクトからも魔法をコピーする。


「卑怯だぞ!」


 犯人サイドは弥乃梨の行動に怒り心頭。何も考えず、『毒の指輪』の幅をまた広げる。しかし、自分たちが望む場所に広がることはなかった。理由は単純。サタンが張ったバリアによって跳ね返されてしまったからである。


「畜生!」


 犯人は大声を上げて太ももを叩く。一方、『黒白』は冷静な対応を心掛けた。相手が感情的になってキレているのを良いことに、戦闘の被害が建物に及ばないよう二つめのバリアを展開したのである。


「この卑劣が!」


 隙を突いたことに腹を立て、犯人は次なる魔法をファフニールに命令した。


「ファフニール、グラビティ・ナゲット!」


 周囲を警戒する弥乃梨と紫姫。だが、攻撃は上から行われた。光り輝く金塊がバリアのてっぺん目掛けて落ちてくる。弾けなければ押し潰される危険があった。あまりに強い衝動が瞬間的に襲ってきたため、弥乃梨は思わず目を瞑る時間を作ってしまう。その一方、紫姫は目の前だけを見ていた。咄嗟に時間を止め、魔法を打ち消す銃を形成する。


「正義を執行する」


 金塊の方向に銃口を向けると、紫姫はそう言って大きな深呼吸をした。『時間停止タイムストップ・トゥエルヴ』の効果が切れる使用後から十二秒後に次の魔法の効果が発揮されるよう計算し、魔法使用宣言を行う。宣言が終わると同時、ナゲットが再び降り始めた。


「なん……だと……?」


 時間を止められた事など知らぬ犯人から見れば、銃はゼロ秒で形成されたことになっている。だから、驚くのも無理なかった。だが、公務執行妨害罪で訴えられることを覚悟で挑んできた犯罪者。「公安を捩じ伏せる事など余裕」と相当な自信を持っていた。しかし次の瞬間、彼の身の程知らずが露呈してしまう。


「え……」


 金塊が、砕け散った。


「そんな、そんな、そんなの嘘だ!」


 首を左右に振って犯人が喚く。金塊であることに変わりはないが、先ほど飛んできた『毒の指輪』のように小さな塊になっていたので、バリアで弾けない訳がなくなった。それらは、バリアの外周を囲う『毒の指輪』に落ちていく。液体なので、ポチャンと水音を上げていた。塊なので、少なからず飛沫があがる。


「まあいいさ。どうせ勝者は決まっているのだから――」


 破顔させてそう言い、犯人は行方をくらました。しかし、彼にテレポート能力は無い。それは、彼の召使であるファフニールが場に出たままだからだ。


 そもそも、テレポートするためには手を繋ぐ必要がある。バリアなどで周囲と隔離できれば繋ぐ必要はないが、特別魔法は原則として二つまで。どうしてもコンビネーション技になってしまいがちだ。要するに、ファフニールと触れていなければ場所を移動することなど出来ないのである。


「となると……、透明になった可能性が高いな」

「一番厄介じゃねえか!」


 透明だけならまだしも、ファフニールによって周囲が照らされている。普通に目を開けることがままならない状況では、一〇〇パーセントの力で警戒を行うことは出来ない。紫姫は、まず厄介な発光体を倒すことにした。


「マギ……くそ!」


 ファフニールは光を辺りに散らすだけで、身代わりにされているかのよう。倒すと可哀想な気がして紫姫の中にも躊躇いが生じたが、しかし、その龍は召使である。主人なら生き返らないが、召使は死んでいるから生き返る。その大原則を心の中で呪文を唱えるように言うと、紫髪は深呼吸して発砲した。


「――空冷消除マギア・イレイジャー――」


 刹那、ものすごいスピードで銃弾が飛び出した。二秒後にはファフニールに直撃する。しかし、銃声音の裏で弥乃梨は小さな音を捉えていた。反射的に双剣を構える。まばゆい光に歯向かって左右前後を素早く見渡し、警戒を強めた。


「ふっ」

「紫姫!」

「え?」


 行方をくらませていた犯人が姿を現せた。日常的な声質では男か女か判断に困ってしまったが、剣を振りかざした時にその者が発した叫び声は、魔法使用宣言を結う最後の言葉は、明らかに男のそれだった。


「――ブレヰド・シュトラール――」


 バリアに剣が突き刺さった。刹那、半球目掛けて天井から真っ白な光線が降り注いだ。あまりに強い光線は、独裁政府を倒した時の『明ケノ明星(ダウン・ザ・ウェヌス)』を髣髴とさせる。それでも跳ね返せるはずだと自分を慰めていた弥乃梨と紫姫だったが、現実は表情を変えずに二人を突き落とす。


「そんな……」

「僕のターンだッ!」


 安全神話が崩壊するように壊れ行くバリアを見て絶望に浸る紫姫。彼女の絶望した表情を見て、犯人は思わず顔を綻ばせた。しかし、神は悪を簡単に許さない。麻痺魔法を発動するほんの少し前、犯罪者を揺るがす事態が起こった。


「ファフニール……」


 紫姫の撃った銃弾が心臓に直撃し、ファフニールは痛みを抑えきれずにのたうち回る。唯一無二の発光体として頑張ってきたドラゴンだったが、魔法を封印するほどの強力な力を持つ銃から放たれた銃弾の前では太刀打ちできない。


「い、逝かないでくれ!」


 しかし、常に現実は非情。高火力の攻撃を受けたファフニールは、発光体としても召使としても役に立たないほどに落ちぶれてしまった。犯人がいくら『逝くな』と言おうが、復帰用の薬品がないため気絶は避けられない。


「クソがァァ!」


 犯人は麻痺魔法を使用を撤回した。部屋に大声を響き渡らし、形成した銀色に輝く一つの剣の柄の部分を強く握って前方へ駆け出していく。しかし、そこにバリアは無い。落ち込んだままの紫姫が居るが、防御役は誰もいない。


「死には死を――」


 まるで何かを叩き潰すかのように、犯人は勢い良く剣を下に振った。先ほどと違い、犯罪者の中にあった凄まじい力が剣に現れている。刃の部分を白色に煌めく光線が覆っていて、まるで照明器具のようだった。


「させるか!」


 バリアがない状況で満足に動けない紫姫が攻撃を受けてしまったら、彼女は確実に大ダメージを受ける。最前線で一緒に戦ってきた仲間を無防備にして盾の代わりにするのは気が引けたから、弥乃梨は声を張って精霊を守ろうとした。


「ブレヰド・シュトラール!」

「――終焉ノ剣(シュヴァート・エンデ)――」


 どんどん剣の刃先に溜まっていく怒りのエナジー。弥乃梨の双剣は紫色の光を放ち、犯罪者の剣は白色の光を放っている。お互い、卑怯な手を使う考えなどない。剣と剣を交差させて力で語り合うことに、彼らは異論を唱えなかった。


「うっ――」


 降ろされた犯人の剣を、弥乃梨が右手に持っていた剣で押し返す。しかし、普通の人間が良い体格の人間を圧倒できる訳がなかった。偽りの黒髪は意地でもここを守ってやろうと、下へ降りようとする犯罪者の剣に必死に食らいつく。


「僕の勝利だ!」


 必死に食らいついていたのを利用し、犯人は敢えて剣の刃先を上に向けた。上に働いていた相当な量の力が一気に消失し、弥乃梨はバランスを崩してしまう。一方、犯人は隙を突けたことに大喜びしている。再び破顔し、犯罪者は言う。


「バイバイ」

「その台詞、そっくりそのままお前に返してやる」



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