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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-30 ボン・クローネ観光-Ⅶ

「案外広いカフェなんだな。高さもそれなりにある見たいだし」


 エルフィリア王国立第二図書館、ボン・クローネ図書館。そこの第三階層……と、そんな格好つけなくてもいいのだが、その三階。

 屋外には景観上の理由でカフェテラスはない。だが、カフェテラスのような感じを醸し出している場所が屋内に有るなど、全面ガラス張りの図書館の構造を活かせるようになっていた。


「いらっしゃいませ、アニマルハウスへ」

「えっ……」


 稔は、まずその店の名称に驚いた。『アニマルハウス』と聞いた時、「動物が住んでいるのか?」などと思ってしまった。とはいえ、ここは食品を出すお店であるし、そういったものはない。

 ――では、何がアニマルなのかといえば。


「当店では従業員一同、コスプレにて御食事と御飲料を提供させて頂いております」

「コスプレ喫茶じゃねーか!」


 そう。アニマルという名前は、「従業員が動物のコスプレをしている喫茶」という意味なのだ。


「月曜日は犬のコスプレ、火曜日には猫のコスプレ、水曜日には狐のコスプレ、木曜には兎のコスプレ、金曜には虎のコスプレ、土曜はコスプレ全てに対応、そして日曜日は執事&メイドのコスプレを行っております」

「そ、そうか……」


 店員は嬉しそうに笑顔で話すが、稔からすれば変人にしか見えない。「こいつ何考えてんだ?」とか、「この街大丈夫か?」などと、本気で可哀想に思ったりした。


「そして! 今週は開店五周年セールと題しまして、土曜日同様、毎日店員がどんな服を着るのか、お選び頂けるんです!」

「そうか」

「それでは、空いている席にお座り下さいませ。御水を持って、ご注文御伺い致します」

「お、おう……」


 店員は女性である。男たるもの、可愛い女の笑顔には中々勝てないものだが、稔も同じだった。隣に彼女が居るとはいえ、そんなことを考えている余裕すら失ってしまうくらいの可愛さに、稔は目をハートにするくらいになっていた。


「……ったく、なんでこの主人は」


 ラクトからため息を付かれながらも、稔は目をハートにしている。


「つか、早く席に座らないとまずいんじゃない?」

「そうだな」


 ようやく、稔は目をハートにするのを止めた。ラクトの言葉に従って席に着席しようとするものの、ラクトは自己主張が激しく、どの席に座りたいかを稔に訴えてきた。


「あそこがいい!」

「まあ、料金も同じなら別にいい……って、そういえばお金は?」

「ふふーん。心配すんな。召使は、主人の役に立ってこそ召使なんだから。ほらよ」


 そう言うと、ラクトは笑顔を浮かべて財布を出した。特にそれといって特徴があるわけでもなく、普通の質素な財布というところだった。


「稔が大量に飲食しない限り、お金は足りるから大丈夫」

「そっか」


 とはいえ、限度というものは有る。いくら一杯食べろと言われたって、その期待に応えられる結果を必ず出せるとは限らない。

 しかし稔からすれば、カフェ・アニマルハウスで出される飲料が、マドーロムでの初めてのとなるわけである。故に、限度を守れるかどうかは不明だった。


「しっかし、このカフェの店員さん、美人ばかりだな……」

「そうだよね。――って、目を輝かせるな。目の前に彼女が居るだろ」

「お前はエロくて可愛いけど、店員さんは純情って感じだよね」

「何を言っているんだこいつは……」


 ラクトにそんなことを言われる稔だったが、大体親しくなればそういうものである。異性だとかを考えなければ、親しくなれば話す内容は増える。それに、硬い喋り口調も消えていく。


「というか、絶対お前ハニートラップに引っ掛かるぞ」

「男子高校生は殆ど掛かるっつの。ハニトラを見抜ける奴なんて、彼女持ちくらいだろ」

「今は一応デートってことななんだから、何を意味するか分かるよね?」

「……」


 稔は言葉を失った。


「まあ、召使を彼女だと思っているような人間は極少数だし、別に構わないんだけども。……で、何注文する?」

「そうだなぁ……」

「やっぱり、コーヒー?」

「でも俺、ブラックそこまで好きじゃないんだよね。だから、コーヒーは少し甘めの微糖が――」


 会話は一度重くなりそうでは有ったが、ラクトが必死にそれを立て直し、何を注文するかの話に切り替わる。ただ、店員さんは非常にてきぱきとした行動を取ってくるので、話の途中で店員さんが登場した。


「どうですかね? 似合いますか?」

「えーっと……」


 女性店員は、兎の耳に兎の尻尾、服は白色を基調としたものを着て、稔とラクトのテーブルの横に立ち、メモ用紙のようなものを持っていた。日本でもお馴染みの、注文を取るときに使うアレである。

 とはいえ、まるでここがコスプレ喫茶であるかのような状況は変わらない。水を持って来られたのは稔も嬉しかったが、コーヒーを頼む身としては少々複雑な気分だった。


「ラビットです。――それで、ご注文はどうされるんですか?」

「そうですね……」


 メニュー表を見る。見てみればコーヒーだけではなく、昼ごはんとしても食べれるようなメニューも準備されていた。――とはいえ残された時間は多くなく、稔とラクトはコーヒーを頼むことにした。


「私は、アイスコーヒーでお願いします!」

「甘さはどうされますか? 『無』、『微』、『低』、『中』、『高』、『激』の六段階がございますが……」

「じゃあ、微糖でお願いします」

「はい。かしこまりました、お嬢様」


 メモ用紙のようなものに文字を書く店員。日本でもよく見られる光景で、何かを言いたくなるような場面ではない。


「そちらの主人様は、どうされますか?」

「ご、主人様……?」

「いえ、その……。やめたほうが宜しかったでしょうか?」

「大丈夫です! ――じゃあ、アイスカフェラテをお願いします」

「はい。では、ご確認の程、宜しくお願い致します」


 メモはすぐに終わった。女性店員は、コスプレをしているということで馬鹿にされやすい一面を持っているものの、速筆ということは非常に誇れる面である。


「お嬢様が『アイスコーヒー』の『微糖』、主人様が『アイスカフェラテ』ということで宜しかったですか?」

「はい」

「うん」

「承知いたしました。数分後持ってまいりますので、お嬢様と主人様は今しばらくお待ちいただきますようお願い致します」


 そう言って、女性店員は稔とラクトのテーブルの横を去る。


「ところで」

「なんだ?」

「稔は、石が意味する言葉とかは知らないのか?」

「知らないが……」


 言った稔に、ラクトはため息を付いた。


「無理もないか。……取り敢えず、アニメジストの石は二月の誕生石なんだ」

「俺は二月生まれじゃないがな」

「聞いてないから。恋愛成就にも役立つって言われてて、結構綺麗な石だから人気も高い」

「ふうん……」

「後は、ヒーリング効果も有る。寝て回復するのもいいけど、バトルの時とかは役立つと思う」

「せやな」


 稔は、バトルの時にまだ使ったことがないにもかかわらず、あたかも使ったことが有るかのような態度を取った。……ただ、それはそれで別にいいのだ。なにせ今後、稔は石とともに戦っていくことになるのだから。


「んで、失われた七人の騎士ルーズ・セブン・ナイト全員に共通することなんだけど」

「なんだ?」

「七つの石には意思が宿っていて、その意思は精霊になっているんだ」

「精霊……?」


 意思が精霊になっているというのは、稔も驚きだった。意思が石に宿っているということ自体が「厨二設定」であるのは間違いないのだが、精霊を加えてしまったら更に「厨二設定」になる。

 ――否、設定ではない。マドーロムには、石に意思が宿り、召使も精霊も存在するのだ。


「七つの石と同じ石は採掘することが出来る。けれど、そこに意思はない」

「まあ、そうだわな」

「だから、失われた七人の騎士の持っていた石は別名、『精霊魂石スピリット・ストーン』って呼ばれている」

「つまり、それを復元したら生まれるみたいな?」

「うーん……。まあ、復元は必要ないかな」

「じゃあ、何が必要なんだ?」


 稔は聞きたそうな表情を取る。ただ、ここでサキュバスとしての本心が働いたのか、ラクトがニヤリとした笑みを浮かべ、稔を馬鹿にする。


「あれ、ご主人様はそんなのもわからないのかな?」

「……」

「あの、ごめん」


 無言で対応される事には、流石にラクトも心底に突き刺さる何かを感じてしまうくらいだった。そのため、自分が悪いと感じて、ラクトは謝る。


「別に謝る必要はねえっつの。ほら、続けろよ説明を」

「お、おう……」


 咳払いした後、ラクトは説明を再開した。


「必要なのは、主人と石との親密性かな。二〇倍に近ければ近いほど、精霊を呼び覚ます力は強くなる。要するに、必要コストが少なくなるって話かな? ……あんまり、カードゲームは詳しくないけど」

「それって、魔法の効力を一定で留めさせてしまう原因なのか?」

「うーん。……詳しくはわからないけど、一つの理由には成ると思う」

「そっか」


 とはいえ。稔はアメジストという意思を持っているにもかかわらず、その石をまだ使ってはいない。自分の魔法の効力が一体どれほどになるのか稔は知らないわけで、それは神のみぞ知る。


「あとは、精霊の強さとかについて説明もしておく」

「おう」


 その時、丁度コスプレをした店員さんがテーブルの横に来た。非常に早く、稔とラクトにコーヒーを提供できる環境が整ったのである。

 おぼんの中に二つの飲料の入ったコーヒーカップ。ただそれは、柄が付いていたりするわけでもなく、ガラスで出来ているコーヒーカップだった。


「主人様、お嬢様。お飲み物をお持ちいたしました。ミルクなどは、お好みで右サイドの木箱から取り出していただければと思います。追加はご自由に願います。――では、こちらに伝票を置いておきますね?」

「は、はい……」


 メモ用紙のようなものではなく、伝票。それがその紙の名前だ。


「では、ごゆっくりとどうぞ」


 そう言って、店員は稔とラクトのテーブルを去った。

 去ってすぐ、ラクトは言う。


「ね、ねえ?」

「なんだ?」

「これって、なんて言うの?」


 ラクトが持ち上げたものは、黒いストローだった。何だかんだ言って、コーヒーカップにストローを付けるのはどうかと思うが、一応スプーンもついている。そのため、稔は「なんでついているんだろ?」という印象があった。


「それは『ストロー』だ。こういう風に飲むんだ」

「ほうほう。カフェラテ、美味しい?」

「まあな。……飲むか?」

「そ、そのストロー使っていいかな……っ?」


 顔を紅潮させるラクトに、稔の顔も赤く染まっていった。無理もない、これはデートである。それも、初デート。初々しさがなくては、おかしいだろう。


「か、勝手に使うな。お前は自分のストロー使え。でも、そのかわり――」

「わっ……」


 稔はアイスコーヒーをテーブルの横隅の方へ置き、中央にカフェラテを持ってきた。そして、ラクトの黒いストローの袋を開け、それをカフェラテのコーヒーカップの中に入れる。


「額、くっつければいいだろ……」

「……」

「は、早く飲まないと俺が全部飲む」

「なにっ!」


 稔の煽りに、ラクトが素早く反応した。そして、ラクトは稔の言っていたとおり、彼氏に額をくっつける。


「なんか、アイスなのにホット飲んでるみたいだな……」

「そ、そうだね……」


 稔が目線をラクトの方に向けた時、察したラクトも稔の目に目線を向ける。


「照れてんのか?」

「み、稔こそ照れてるじゃん……」


 ここまでくると、この二人が本当の召使と主人であるのかどうかを疑ってしまうくらいだ。デートをしているとはいえ、最初は無理やりやらされていたものである。そんな二人が、ここまでイチャイチャラブラブしているということを考えると、凄く変わったものだと考えるしかない。


「それで、精霊に関しての話を再開しようか」

「お、おう。えっと――」


 ラクトの本心は、精霊の話よりもコーヒーを使ってイチャイチャしたかった。けれど、ラクトと稔の大前提は彼氏彼女ではない。あくまで、召使と主人の関係なのだ。


「精霊を呼び覚ます力だけじゃなくて、精霊の強さは主人の強さに影響される。効力が二〇倍に近づけば近づくほど、精霊の発揮する力は強くなるし、逆なら弱くなる」

「ふむ」

「サモン系の召使が召喚陣で休むように、精霊は石で休むって事も頭に入れておいてね」

「分かった」

「後は……。全員女の子」

「え――」


 精霊に男は居ない。

 マドーロムの世界における精霊は全て女だ。


「あとは、最初は従ってくれない精霊が多いかな。私みたいに、召喚陣――じゃなくて、精霊なら精霊魂石だけど、そこに戻れないってことが起こりえないから、従ってくれずに戻っちゃう精霊もいる」

「でも、それは一〇〇パーセントじゃないんでしょ?」

「まあね。でも、確率は結構低いと思う。ただ、相性が良ければすぐに従ってくれるはずだよ!」


 召使にしても、精霊にしても。全ては相性で決まる。主人が暴走した所で、相性が悪ければ召使も精霊も暴走しないし、言うことを聞かない。

 

「でも、スルトやヘルの経験が有るから、もしかしたら稔は運の良さを発揮するかも」

「そうであればいいがな」

「まあ、取り敢えず早く精霊を召喚しなさいな」

「なら、コーヒー早く飲め。俺もカフェラテ飲むから」


 そう言って、稔はすぐにカフェラテを飲む終わらせた。ラクトもすぐに飲み終わる。


「コーヒーの後はトイレが近くなるから、特に女の子は注意だ」

「分かってる」


 伝票を持ち、稔はレジカウンターへ向かった。先ほどの女性店員は、丁度レジ担当に回ってきていて、またもやコスプレをしている女性店員のお世話になった。

 といっても兎耳などはなく、ただ単にメイドコスプレだった。


「ご来店ありがとうございました」


 会計を終え、稔とラクトは三階のカフェを出て、精霊を呼び覚ますために路地裏へと急いだ。けれど、図書館内では走らないのが鉄則。稔もラクトも、それを守って精霊を呼び覚ますために路地裏へと急いだ。

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