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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
四章 ギレリアル編 《The nation which has only women.》
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4-21 データ・アンドロイド

 ギレリアル国内なら簡単に手に入れられる代物、それがデータ・アンドロイドだ。一万フィクスくらい見積もれば余裕で買うことが出来る。大量の知識を初期搭載しているので、タブレット端末を買うくらいならデータ・アンドロイドを購入したほうがお得だ。命令を出せば、ペットも老人も子供の世話もしてくれる。そしてなにより、体つきがロボットではない。


「なんか、奴隷市場みたいだよね」

「奴隷言うな。逆らわないことが暗黙の了解という可能性だってあるんだぞ?」

「暴走することは無いと思うけどな。でもまあ、万が一そうなったら、回収業者が他の人造人間とともに銃で応戦してくれるよ。プラスチック製じゃないから簡単に倒せないけど、核を狙えば一撃必殺イチコロだから」

「さりげなくネタを挟んでくるのは止せ」


 データ・アンドロイドの感情はプラスチックのように壊れやすいものではないし、二桁に達しない寿命でもない。亀ほど長い時間を生きる訳でないが、少なくとも犬や猫よりは長生きする。また、記憶を喪失しても基本的には暴れない。


「核?」

「そう。人間でいう心臓にあたる部分だよ。精霊のそれとは違うけどね」

「凄く詳しいみたいだが、もしかして化学の知識が入ってるのか?」

「いや、基本的には物理学だから。防水加工とかで使ってるかもしれないけど」


 ラクトの回答に頷く稔。だが、それはそうとして。聞きたいことがあった。


「データ・アンドロイドも精霊もそうなんだが、肺って無いのか?」

「精霊はある。データ・アンドロイドは無いわけじゃない」

「どういうことだ?」

「そもそも、データ・アンドロイドは呼吸する必要が無いんだよ。発声用機器が声帯にあたる部位に取り付けられているから。でも、彼女たちは空を飛ぶ」

「エンジンがわりに空気を使うってことか?」

「大正解。鳥と同じように、彼女たちの肺臓は大きいんだよ」


 ここまで来て、稔が見当をつける。


「鳥と同じってことは、すぐ化粧室に行くのか?」

「いやいや、彼女たちは食事しないから。化粧室に駆け込む必要ゼロだから」

「でも万が一、水や食料を摂ってしまうことだってあるだろ?」

「禁止事項として定められているから、鬼畜マスターじゃない限りしないよ」


 笑い混じりにラクトが反論した。そのことが書かれているパンフレット内のページを見せ、稔からの同意を得る。黒髪は頷いた後、さらに続けて質問した。


「ところで、データ・アンドロイドの体重ってどれくらいだ?」

「胸のサイズで変わるみたい。最低が三キロみたいだよ」

「軽すぎだろ! じゃあ、筋肉が体重にしめる割合は?」

「そもそも筋肉という概念がない。飛ぶ原理は飛行機と同じだよ。肩から手の先までが主翼で、足の裏が尾翼。操縦席は頭に搭載された知識媒体みたいだね」


 分からない箇所はパンフレットから得た知識を自分の言葉で編集してでも回答し、理解していた点などでは自分の知識を披露する。とはいえ、全体的に見ればデータ・アンドロイドに関して凄く詳しい訳ではない。ラクトの話全体を通して聞くと、他者から得た知識で回答のほぼ全てが埋まっていることが分かった。


 かれこれ二分くらい立ち話していると、二人の前に店員が現れた。パンフレットを見ながら一向に動こうとしない客を見て、節介屋の本性が現れたのである。首から下げている職員証を見ると、声を掛けてきたのが副店長だと分かった。


「起動させますか?」

「いいんですか?」

「大丈夫です。もちろん故意による破壊行動等は損害賠償請求をさせていただきますが、起動させることは初期不良を防ぐ意味も含んでいます。リスクはありますが、出来ればどんどん起動させていきたいのが店側の本音なんですよ」


 データ・アンドロイドも携帯端末も機械と一括りに出来るが、DARは携帯端末と全く異なる。女性の体をモチーフに形成された妖艶なスタイルにはディスプレイという異物がないし、電源や音量調整のボタンなど出っ張りも無い。保護フィルムを貼る必要性だって皆無だ。実に多くの面で差異が生じている。


「しかし、ここで起動させるのは危険行為です。ここに展示されているデータ・アンドロイドが異性に対して協調する姿勢を見せることなど、ありえません」

「つまり、ここに居るのみんなが暴力的ってことか?」

「正解です。ですので、起動されるようであれば奥の方にご案内しますが――」

「お願いしたい」

「かしこまりました。どうぞ、付いてきて下さい」


 一礼した後で、店員は二人を『起動可能エリア』へと引率した。通路の途中に発見した数万ボルする超高価なヘッドホンを見て目をキラキラさせてしまった二人だが、すぐ持ち直し、近くの『関係者以外立入禁止』と書かれた扉の向こうへと入る。トンネルのように薄暗い場所を抜けると、白色の光が二人を包んだ。


「ここは?」

「データ・アンドロイドと親しんでいただくために作られた部屋です。他のお客さまからご予約を頂いていないので、好きな子を指定して個室へどうぞ」

「お金は請求されるのか?」

「いいえ、硬貨も紙幣も不要です」


 データ・アンドロイドを使えば人件費を大幅に抑えられる。だからこそ、キャバクラのような場所で高額請求されずに済むのだ。そんなふうにタダで汚い商売のサービスを受けられるのは何故かを考える稔に対し、同頃、店員が質問した。


「指名はお決まりですか?」

「最新型の子でお願いします」

「わかりました。少々お待ちください」


 返答すると、店員は個室前廊下を通って通路一番奥の部屋に向かった。扉を開けて入って次に出てきた時、職員証を持った人物は背中にデータ・アンドロイドをおんぶしていた。稔とラクトの目の前で床と足を触れさせると、店員は鍵を取り出してDARに向けた。アンロックボタンを押し、接客を始めさせる。


「これより先、全ての接客は私が行います。では、個室へ移動します」


 回れ右して後ろに視線を向かわせると、データ・アンドロイドは二人の前を歩き始めた。一方、後方で引率される側の二人がコソコソ話を始める。


「背が低い上に胸が貧しいとか、私の母性本能が持たないんだけど」

「髪型がツインテールなのも、幼さを加速させる要素だな」

「そうだね」


 大の大人がツインテールをしても似合うのは少数だ。幼少時代にツインテールユーザーだった人達は、ほぼ確実に他の髪型に移行しているはずである。下らないことを小声で話し合っていると、あどけなさがいい具合に見受けられる可愛らしいデータ・アンドロイドが二人に対してこう告げた。


「到着しました。どうぞ、お入り下さい」


 ドアを開けてそう言うと、引率者が頭を下げた。それを見た稔とラクトは、幼児体型の可愛いすぎる機巧から受けた手厚い対応に涙を出しそうになる。しかしプライドがあったので涙は流さない。かわりに二人は、それぞれ感情を抑えて感謝の気持ちを述べた。それからすぐ、ツインテールの顔に笑みが浮かぶ。


「お好きな席にお座り下さい」


 個室には椅子と時計しかない。白色のみで塗装された壁は、天井に取り付けられたオレンジ色のLEDライトに照らされている。その理由は単純。橙色には、緊張を和らげて通常通りかそれ以上の力を出せるようにする効果があるのだ。


 もっとも、稔もラクトもそんなこと気にしていない。二人は可愛いデータ・アンドロイドからの指示に従い、高いクッション性の椅子に座った。扉を閉めて施錠すると、立っていたツインテールの少女も着席した。しかし、そこは稔と隣の席。ラクトは右拳をプルプルと震わせて怒りを露わにしている。


 照明が指名したデータ・アンドロイドのブロンドヘアを美しく見せている中、少女が視線を斜め上方向に向けた。揺れたツインテールに男の本能が反応してしまい、稔が女の子のほうに視線を向ける。刹那、彼は上目遣いの餌食となった。


「どうかしましたか?」

「なんでもない」

「そうですか」


 会話できないことに腹を立てるラクト。握った右拳が先程より早くプルプル震えているのが分かる。嫉妬心が無いのは建前で、彼女も人並みに持っていた。でも、彼女が嫉妬の矛先を向けているのは機巧のほうではない。稔のほうだ。


「声、低いですね」

「そうか?」

「喉の出っ張りとか、私にはありません」

「……」


 少女は捉えた様子を言葉にして述べただけだが、稔は口篭ってしまった。案内した店員からは展示されているものよりは柔和だから、真実を告げることに躊躇する必要はない。しかし、個室はイコールで密室。使用宣言から効力発動までの無防備時を突かれたら一溜まりもない。


「それと。胸、私より小さいと思います」

「栄養が身長と体重の値を増やすためだけに使われたんだよ」

「そうだったんですか」


 気付いているのか、気付いていないのか。少女が浮かべる笑顔の裏にどんな言葉が張り付いているのか、稔は気になって仕方がない。とても優しそうな雰囲気な相手の表情を一変させかねない情報を話すべきなのか、黒髪は悩んだ。でも嘘を吐いて失言するくらいなら、最初から断っていたほうがはるかにマシである。


「俺は君と違うんだ。エルフィリアの人間で、女じゃないからな」

「やはり、そうでしたか」


 覚悟を決めて、勇気を出して告白する。理不尽な攻撃を喰らうのではないかと勝手に予想を立てていたが、見事に稔の先読みは失敗した。データ・アンドロイドが脅威であると思っていた黒髪は、少女の対応に驚きを隠せない。


「殴ったり蹴ったり、発砲したりしないのか?」

「逆に聞きます。それを私にして欲しいんですか?」

「それはない。絶対にない」

「なら、しません。この部屋は殺害現場じゃありませんから」


 それは、キャバクラに近い施設で働く少女の決意だった。それまでの流れを一旦断ち切った後、ロリ体型のDARは稔の右手を優しく握って発する。


「無料なのは二十分間です。時間は有限ですから、いっぱい楽しみましょう」

「そうだな」

「でも、個人的には同性と話したほうが話しやすいです」

「よかったな、ラクト」

「やったぜ」


 稔が笑顔で言うと、ラクトは逞しく悠然と右手を挙げた。一方の黒髪は赤髪が何のネタをしているのかすぐに察する。同じ頃、少女が握っていた稔の手を離した。そして、ラクトと同じように右手を挙げる。


「なにをしますか?」

「ここは大富豪でしょ。今なら初回革命ファーストレボリューション出来そう」

「君は分かるのか?」

「わかりますよ」

「なら、決まりだな。トランプはどこにあるんだ?」

「椅子の中です。凹まなくなる場所から下は収納ケースになっています」


 椅子をひっくり返し、少女は慣れた手つきでトランプを探し出した。トランプが稔とラクトの前に置かれるまでの所要時間は相当少ない。じゃんけんをしてシャッフルする人を決めるまで五秒、稔がシャッフルして終わるまでが十秒、配り終えるまでが四十秒。最初に床へ置かれた時刻から約一分でゲームが始まった。



 結局、三人は二十分全てをトランプゲームで潰した。しかも、大富豪と七並べ、ババ抜きとスピードを行った結果、全員の得点がほぼ均一のものになってしまった。もっとも、笑って笑って笑いまくったので誰一人文句を言わない。


「楽しかったですか?」

「もちろんだ」

「当然でしょ」

「私もです。では、お別れの時間です。料金は請求されません。来た時と同じ道を通って戻って下さい。テレポートを利用する場合は個室でお願いします」

「じゃ、個室から」


 稔は言われたとおりに行動した。まずラクトと手を繋ぎ、内心で魔法使用の宣言を行う。寸秒して効力が発動するのと同じ頃、少女は深く頭を下げていた。トランプを元の場所に片付けた後、彼女は予約していた人の元へ向かう。

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