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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
四章 ギレリアル編 《The nation which has only women.》
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4-19 コンボアイスクリーム

 稔とラクトは高速道路のサービスエリアと一体化しているショッピングセンターに戻ってきた。妨害行為が入ったために良い気分では無い。しかし、見てしまったグロテスクな映像を思い返さないようにする手段としてはベストなものだった。建物の前に移動してきて早々、稔は彼女にこう話す。


「さっきはありがとな。やっぱ、司令に居るだけじゃ勿体無い逸材な気がする」

「私が?」

「そうだぞ。紫姫くらいの相手に時間止められたら敵わないだろうが、防衛措置としては一二を争うだろ。サポーターとしても動けるし、まさに万能」

「いや~、それほどでも~」


 赤服と黄色いズボンを穿いて金曜の夜七時半に降臨するエロガキを模倣し、ラクトは笑顔で返した。持ち上げているのは確かなので、稔は彼女が喜んでくれる姿を見ていい気持ちになる。同時に彼は、隙を見せてきた赤髪を見てあることを思い出した。


「ひゃあっ!」


 その仕返しとしてラクトの手を引いてみる稔。すると、いとも簡単に彼女を引っ張ることが出来た。演技とは思えない動揺ぶりに、黒髪は繋いでいないほうの手でガッツポーズを取る。でも、ここで終わったらバカップルではない。


「ひんっ……」


 稔に対する報復として、ラクトが首に息を吹きかけた。もちろん朝より気温は上がっている。しかし、手首から中指の指先までと同じくらい間隔が開いていたので、黒髪が揺らされてすぐ、彼の首元に吐息が到達する頃には冷たくなっていた。声質こそ男だが、稔は文面だけ取ると女に見える声を発してしまう。


「さっきの仕返しだよ」

「幽霊が居るのかと思ってビックリしたじゃねえか。なにしてくれるんだ」

「ごめんごめん。てっきり、幽霊には強いと思ってたから」

「そうか? 紫姫より免疫あると思うけど、作り物じゃない時は弱いぞ」

「そうなんだ」


 お化け屋敷での一件とは話が違うと稔は認識していた。昨日も今日も突発的に恐怖体験をしたが、お化け屋敷の場合はある程度テンプレが決まっているため気にする必要がない。一方で、今日みたいな突発的に予期せぬ現象が起こるようなのは大の苦手だった。


「けど、嫌じゃない。ドッキリの加害者でもあり被害者でもあるわけだからな」

「じゃ、痛み分けってことで。今後も継続して大丈夫?」

「問題ないぞ」

「ありがと。ではでは、アイス屋へレッツゴー!」

「昼飯も考えて食べろよ?」

「わかってるって」


 しかし、どうあがいても無類のアイス好きである。一番太ってしまうラクトアイスを大好物とし、得た乳脂肪を胸部に回してしまう実力者だ。ショッピングセンターなら高値のアイスはそこまで売っていないはずだが、食べれば食べるほど支払う金額が比例して上昇する。


「(これは、目を光らせておく必要があるな……)」


 とはいえ、稔はラクトを束縛したい訳ではない。自分の趣味を理解しようと必死になってたら気に障ることを言ってしまったような彼女を束縛するだなんて、それこそ器が小さすぎる。互いが相手を知ろうとして頑張ってきたこれまでを蔑ろにするような真似は絶対に避けたい。


「(三個目突入と同時に警告かな)」


 ラクトの食べ方が綺麗なのを知っていた稔にとって、気になるのは食べた量だけ。束縛しないと言っても、体重が六〇キロを越えて悲しむ彼女の姿は見たくなかった。痩せすぎず太りすぎずという今の状態を維持して欲しい思いで、彼は越えてはならないボーダーラインを決めて頷く。


「考え事してる?」

「今終わったところだ。やっぱおっぱいでけーとか思ってた」

「分かりやすい嘘なんか吐かなくて良いのに」

「やっぱりバレたか」

「バレるに決まってんじゃん。ストッパー解除しない限りは紳士キャラじゃん」

「五百万フィクスの貯蓄にすがる紳士ってなんだよ」


 彼女の褒め言葉をすらっと自虐に変換すると、ラクトは腹を抱えて笑った。けれど、すぐにフォローを行う。繋いでいた手を離してすぐ、稔の肩に手をのせると赤髪はこう言った。


「誰にだって短所はあるってば。問題はそれをどう思うかの話だよ。誰かさんは財布にしかお金がないのに『俺が出す』とか言ってくれたし、臨時収入から旅行費を出すとかいう暴挙に出た。だから、すがってないと思うよ」


 肩においていた手を下ろし、ラクトが稔の背中を撫でる。


「けど、テレポートすれば済むのに無駄な金を――」

「全然無駄じゃないよ。睡眠時間が増えて、むしろ有益だと思う」

「そんなふうに評価してくれてたのか。本当にありがとな」

「こちらこそ。これからもよろしくね」

「もちろん」


 そう言うと、稔は背中にあったラクトの手を握った。会話終了のサインであることを察し、赤髪は彼氏に負担をかけないように注意を払って手を腰辺りまで持っていく。フォロートーク前と同じ位置で手を繋いだと同時、二人の前で建物の内と外を隔てる自動ドアが開いた。歩くペースを合わせて入る。


 入ってすぐ、ラクトがショッピングセンターの構内図を発見した。サービスエリアと面する入口はショッピングセンターの三階にある。『三階』という表記の隣に載っていた店舗配置図を見始めて早々、赤髪はアイス屋を発見した。


「『コンボアイスクリーム』だって。ここから超近いみたい」

「そっか。ちなみに、フードコートは見つけたか?」

「フードコートの一部っぽいよ。ほら、行こう行こう!」

「分かったから、子供みたいに服を引っ張るな」


 手ではなく服を掴んで稔を引っ張るラクト。しかし、黒髪が動じるほどの威力ではなかった。とはいえ引っ張られる遊具の役ではない。引っ張ろうとするラクトを自分の方に寄せ、稔は言った。


「行くぞ、アイスバカ」



 アイスクリーム販売店までは、ショッピングセンターの構内図が掲示されていた場所から歩いて二十秒程度。ラクトが言っていた『コンボアイスクリーム』に着いてみると、球状のアイスが三段重ねでコーンの上にのっている写真を見つけた。どう見てもサー○ィーワン・アイスクリームである。


「すみません」

「ご注文はコーンですか?」

「はい」

「では、一段ワンコンボ二段ツーコンボ三段スリーコンボの三種類からサイズをお選び下さい」

「三段でお願いします」

「かしこまりました。次に、使用する味をお選び下さい」

「ストロベリー、ミント、チョコレートでお願いします」

「ありがとうございます。シックスボルです」


 シックスボル、七二〇フィクスだ。しかしラクトは財布を出さず、稔のほうに視線を向ける。それを受け、稔は注文カウンターへと向かった。財布を取り出して、中から五〇〇フィクス硬貨を――取り出せない。


「ラクト払いでいい?」

「気持ちは伝わったから問題ないよ」


 そう言うと、赤髪は財布を取り出して五〇〇、一〇〇、五〇フィクスの硬貨をそれぞれ一枚ずつ取り出した。カウンター上にそれらを出すと、店員がすぐ受け取ってレジを打つ。同じ頃、稔の肩をラクトが叩く。


「アイス、受け取って」

「わかった」


 アイスを受け取るカウンターは注文カウンターと離れている。二人居るのに小銭とレシートを片付けてから受け取りに行っては時間をロスすると考え、ラクトは稔に受け取りを依頼した。寸秒、黒髪は受取りカウンターへ向かう。


「上からチョコ、ミント、ストロベリーです。スタンドは利用しますか?」

「スタンドって何ですか?」

「これのことです。これは、フードコート内で食べる場合のみ利用可能です」

「使います」

「わかりました。利用後はそちらの返却スペースに戻して下さい」


 稔は、三段アイスとともにアイススタンドを受ける。金属製のそれは、細い支柱二つとSの字を描くようなフック一つで作られていた。一つの支柱からスタートして二つ目の支柱で折り返し、そこからは円を描いている。フラフープのように丸いところに挿れると、コーンは壊れず落ちずに静止した。


「おお」

「受け取ってくれたみたいだね」

「ああ、受け取ったぞ。ほら、溶けないうちに食べろ」


 稔はスタンドを渡した。彼女も初めて見たようで、アイスクリームをスタンドに置くという発想に驚いている。二段めに刺さっていたプラスチック製のミニスプーンを抜くと、ラクトは単刀直入に問うた。


「稔は食べないの?」

「また支払わせちゃうし、俺は要らな――」

「そうじゃなくて、このアイスを一緒に食べようってことなんだけど……」

「でも、スプーン一つしかないし、二人じゃコーン食べづらいし」

「じゃあ、コーンは私が食べる。それ以外は一緒に食べる。……どう?」

「わかった。じゃ、あそこの席に座ろうか?」


 稔がそう言うと、ラクトは「うん」と笑顔で返した。黒髪が指差した二人用の対面席に向かって着席し、テーブルにスタンドを置く。抜いていたスプーンで三段めの最頂点を削ると、少し照れながら彼女は言った。


「あ、あ~ん……」

「あ~……え?」

「最初の一口はあげないよん」

「ちっ。まあ、そんなことはどうでもいいんだ。どう? 美味しいか?」

「うん、美味しい。二口目はちゃんとするからね」


 そう言うと今度は、三段目の右サイドをスプーンで抉った。「男の子だしこれくらい」と思ったラクトは、スプーンの上に掬ったチョコで山を作っている。


「あ~ん……」

「あむっ」


 口内に走る冷涼。同時に、チョコレートの甘みと苦みが舌島に上陸した。唾液の海に浮かぶ茶色の氷が、舌島などから伝わった熱で溶けてゆく。歯が雷を三回轟かせた後、茶色の氷は食道という滝を通って池である胃に落ちていった。


「すげえ美味い!」

「でしょ? このアイス、本当おいしいよね」


 稔からスプーンを受け取ると、ラクトは最頂点を削って口に運ぶ。黒髪はその様子をまじまじと見ていた。物欲しそうな彼氏の表情を見て、赤髪は聞く。


「やっぱり、スプーン要る?」

「頼む」

「スタンド有りきだと、スプーン二個のほうが食べやすいもんね」


 そう言い、赤髪は僅か五秒でミニスプーンを作り上げる。強度的も色も問題のない代物を受け取ると、稔は、ラクトがまだ削っていないミント層にスプーンを入れた。欲張ってチョコ層も抉り、二つ重ね合わせたものを口に運ぶ。


「美味い!」

「美味しい!」


 雑談を途切れ途切れ入れながら、稔とラクトは三段構えのアイスを平らげた。

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