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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
四章 ギレリアル編 《The nation which has only women.》
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4-14 大統領の生き方

「さてと。所詮は俺もこいつも外国人だ。お手柔らかに頼む」

「それは私の方の台詞だ。お手柔らかに頼みた――」

「捕虜が尋問に口出しする権限はねえよ」

「ひっ……」


 ソファで囲まれた机に勢い良く手をつくと、稔は大きな音を立てて指示を出した張本人を睨みつけた。公序良俗にそぐわない行為をしない条件だったのに貞操が危うくなるのではないかと、捕虜に近い立場の女が尋問開始早々に絶望した表情を見せる。しかし稔は、ギャルゲ等で純愛モノ以外を好まない。


「なんてな。そういう展開望んでたんなら悪いが、俺そういう趣味ないんだわ」

「そ、そうなのか。怖かった……」

「でも、お前は軍人だしな。もしも大統領が男の居る敵地へ派遣したとして、そこで捕虜になったら、拷問をはじめとする人道に対する罪がお前に振りかかる可能性は否定出来ない。まあ、国際的に非難されるから無いとは思うが」


 マドーロムの国家間で戦争に関してどのような規定が成されているのか、稔は詳しいことを知らない。しかし、性欲は人間の三大欲求の一つである。いつの時代も性犯罪が減らない理由はそれだ。所詮、人間も動物である。


「やはり軍人である以上、そういった点で心構えが必要ということか……」

「まあ、すぐ激情に駆られるところは改善した方がいいだろうな。一般市民の前で軍人が暴走して収拾がつかなくなったら国家が破綻するのは明白だ。だから、まずは自分の考えが合っていることを口で証明すること。いいか?」

「了解した!」


 女は勢い良く頷いた。それからすぐ、話題を変えて稔に問う。


「ところで、君は軍人か何かなのかい?」

「いいや、俺は軍人じゃない。ただ、祖父が戦争を生き残った自衛官なんだ。学徒動員で召集されて乗った潜水艦の中で終戦のを迎えたような、八十五歳だ」

「とても難しい単語が連なっているように思えるが、存命の方が経験した戦争というと、やはり第二次世界大戦争マギレンタなのか?」

「いや、俺の世界の話。俺は異世界から飛ばされてきた野郎だ」

「ふむふむ。――え、異世界?」

「そうだ」


 稔が質問に返答すると、女は目を丸くした。けれど、彼女も色々と疑問に思う点はあったらしい。先ほどより格段にゆっくりとした縦の首振りをしながら、女兵士は稔に関して考察のような独り言を話した。


「そうか、君は異世界から来た者だったのか。雄の人族ヒュームルトがなぜ男性排除を推し進める大統領と対等な立場で話していたのか疑問に思ったのだが、『外国人だから』という単なる理由からでは無かったのだな」

「やはり、大統領はフェミニストなのか?」

「いや、フェミニストというよりは差別主義者だろう。国家公務員も地方公務員も顔写真に写ってるのはどう見ても女体のラインだからな。私も寒気が立った」


 意外や意外、女兵士はまともな私見を述べた。これには稔もラクトも驚く。しかし、黒髪を殺そうとムキになったのは変えることの出来ない事実である。


「おいおい。俺を殺そうとした人が、よくもまあ寒気立つなんて言えるな」

「人であれば、歳を重ねるごとに思想は変わるものだろ?」

「そうだな。言われてみれば反対意見を出せない」

「子供の頃の夢と大人になってからの夢が変わるのは、いつの時代も同じだろ」

「ごもっともだ」


 稔はそう言って頷いた。隣ではラクトが同じように首を振っている。そんな彼女の様子を見ていると、黒髪はあることを思った。赤髪の子供時代の夢は後々好きなだけ聞けるが、女兵士の昔話は今しか聞けないと。


「ところで、兵士さんの子供の頃の夢は何だったんだ?」

「『立派なお嫁さんになること』だったかな。今思えば、まさかこの歳まで独身で来るとは思っていなかったよ。軍人が貧相な胸をしていないという理由で断られ続けてきたんだ。ホント、早く子供の顔が見たいものだ。君は?」

「俺の場合、子供時代の夢は戦隊モノのヒーローだった気がするな」

「確かに、ヒーローを夢見るのは誰しもが通る過程だ」


 今も昔も、特撮をはじめとするヒーローモノの作品は変わらない人気を誇る。それはオンリー・ジャパンでなくて、ギレリアルでもそうらしい。その一方、ラクトは、主人が捕虜に行っている会話の意味を理解するのに追われていた。


「さてと。笑い話はここまでだ。ここから尋問を開始する。名前と役職を言え」

「リリィ・ルーデル。ギレリアル連邦の陸軍大佐だ。今回の硫化水素除去作戦では副司令官を務めている。序列をはっきりするのは嫌だから、呼び捨てでいい」

「では、リリィと呼ぶ」


 稔が確認すると、リリィは静かに頷いた。彼女が呼び捨てで名前を呼んで欲しい理由は他でもない。普段から下に多くの兵士を持っている立場に居るからこそ、序列をはっきりさせることに抵抗を感じているのだ。


「リリィは現政権をどう思っている?」

「彼女は少数派の迫害を私たちの任務にして軍需産業などで経済を成長させた張本人だ。ヴァレリア氏が居なければ、データ・アンドロイドは無かっただろう」

「……その話、詳しく聞かせてくれ」


 軍隊の任務を増やす――否、戦争を行うということは、皮肉にも自国や同盟を締結している国家の経済を回転させることに繋がっている。テロリストを空軍機で機銃掃射したように、少数部隊などの殺しやすい敵を作って倒すことで利益を上げるのだ。そして、殺し方を追求するうちに新たな技術が生まれる。


「データ・アンドロイドがなぜ女性型しか無いのか、知っているか?」

「ハニートラップか?」

「ご名答。元々、DARは男性迫害を促進するために総力を上げて作られた。AV女優や風俗嬢、延べ一万人以上の肉体構造の平均を割り出して作り上げられている」

「すげえ規模だな……」

「トップバストは一一〇から七〇まで、ウエストは七〇から五五まで、ヒップは七五から一〇五まで。髪の毛もベリーショートからロングまでと幅広い」


 水商売を行っていた人達の身体を元に形成された女を、使用人とか奴隷のような扱いを行える。空を自由自在に飛ぶことが出来、仕事などで移動することになっても困らない。おはようからおやすみまで一緒に居て苦にならない従順で尽くしてくれる存在であれば、罠だと気づいて引っ掛からないほうが少数派だ。


「でも、開発費として見積もった予算とかは足りたのか?」

「国が相当な額を出資をしたからな。それゆえ、増産もすぐに行われた」

「開発期間はどれくらいだったんだ?」

「計画から三年目で完成、四年目で実用開始、そこから深刻な迫害が始まった」

「何人――いや、何百万人迫害したんだ?」

「この十年間で約六億人だ。捕まった者は排泄以外の機能を生殖器から奪われたあと、過労や人体実験に回されて命を落としたらしい。……寒気立つだろ?」


 言葉を発せない稔。無理もなかった。ホロコーストで主張される六百万人や南京大虐殺で主張される三千万人とは比べ物にならない数を迫害したのだ。翻り、ラクトは顔を下に向けている。今でこそ異性と仲良くしている彼女も、昔は異性殺しを行っていた。傷つけた人の顔を思い出してしまい、憂鬱状態になる。


「過労って何時間だ?」

「あくまで一説だが、肉体労働休憩なし二四時間の日もあったそうだ。水分補給も出来ずに死んだ者も多かったらしい。排泄は漏らすのが常識だったそうな」

「狂ってるな。……人体実験のほうは?」

「原子爆弾を投下して経過を観察したり、戦車で轢いてミンチにしたり、自衛用道具のテスターとして殺されたり――。挙げるとキリがないほどだ」


 覚悟していたが、これまた酷い話を耳にしてしまった。性別が性別なだけに、ラクトはさらなる憂鬱状態に突入する。性処理道具として使われた後に生きて帰されるということは無い。健康状態に支障が出てもろくな治療が受けられない。稔は、生と死の境目で苦痛を受けながら多くの男達が死んでいく姿を連想した。


「それは、報道規制されたのか?」

「当然だろう。なぜ、ヴァレリアが三期も大統領を続けられると思っている」

「三期って一二年か?」

「ギレリアルの大統領任期は六年とされている。彼女は初就任から十五年目だ」

「一五年……? あいつ、何歳で初就任したんだ?」

「十二歳だ。大学卒業者なら、大統領に就任する年齢は関係ない」


 憂鬱状態だったラクトさえも、その年齢を聞いて全身に衝撃を走らせた。日本の教育システムなら有り得ない話だが、ギレリアルの教育システムなら不可能な話でない。しかし、年齢規定が無いとはいえ疑問が残る。


「けど、十二歳の少女に投票する高齢層なんて居るのか?」

「候補者が一人だったんだ。一期目は無投票就任ということだな」

「二期目は?」

「一期目で行われた経済政策や教育政策、ロボット開発などが評価された」

「報道規制敷かれてちゃどうにもならねえか」


 大統領命令を発せば、メディアなんて安易にコントロールできる。ギレリアル連邦は民主主義国家である一方、大統領に権利が集中している国家だ。高度な技術で秘密裏に工作すれば、議会で取り上げられることもない。


「三期目は?」

「二期目で老朽化した公共機関や施設を大量に補修、修理した事が評価された。国が売りだしたことでDARの価格が一万フィクスを割り、家庭内暴力も無くなって、仕事だけに専念できる母親が増えたのも高評価を得ている理由だと思う」


 家に戻ってきて夫の面倒を見るより、絶対に服従するロボットの面倒を見たほうが楽なのは明白である。ロボットである以上は夫と同じように月経なんて来ないし、自分と同じ体格なら服を買う必要もない。無駄な経費が掛からない上に浮気の心配も無いなら、ロボットの方に軍配が上がるのは確実である。


「ちなみに、同性婚が合法化されたのは何年前なんだ?」

「一期目だ。当時は何の話題にもならなかったがな」

「思い返せば伏線だった、と」

「そういうことだな。まあ、詳しいことは大聖堂の目の前にある旧最高裁判所へ行くと分かる。ペラペラと喋って捕まるのは嫌だから、後は目で見て欲しい」

「わかった。じゃ、戻ろうか」

「そうだな」


 有り余るほどの元気を見せて返答すると、リリィは素早く起立した。忘れ物が無いことを確認したあと、女は稔に敬礼ポーズを取る。熟練の敬礼を見た黒髪は無言で頷いた。そして、隣室であるアナウンス室へ移動する。そこで稔とラクトはリリィと別行動になり、女兵士は施錠を解いてロッカールームへと向かった。


 ロッカールームと通路を隔てるドアからリリィが退出したと思わしき音を聞いて、稔はアナウンス席にあった座席にラクトを座らせる。既に請け負った仕事は終わっていても、今日昼までの予定が決まっていないのでは街中へ出れない。


「やっと二人きりになれたな。ところで、どうする? もう一回行くか?」

「ううん、いいよ。それより私は、サテルデイタの食べ物を満喫したいな」

「名案だな」

「へへん。ただし、稔は私が食べたものだけ食べること。いい?」

「なんでだよ?」

「リリィさん言ってたじゃん。『雄の人族がなぜ男性排除を推し進める大統領と対等な立場で話していたのか疑問に思った』って。稔がいくら否定しても、人族として見られちゃうんだよ。だから、少しでも当たる可能性を減らす」

「ラクト、お前って奴は……」


 ラクトの優しさに感激する稔。だが、一つだけ留意すべき点があった。


「けど、食べた物を食べるって間接キスだよな?」

「そうだよ。でもいいじゃん、私と稔なんだから。それとも嫌……?」

「嫌なわけ無いだろ。というか、上目遣いとかいう反則攻撃はやめろ」

「ライフは?」

「ゼロだ。ここで照れ顔が入ると死体蹴りな」

「メモメモ……っと」


 もちろんメモなんてするはずもなく、場のノリで会話が進んだ。だが最終的には、ノリを続けるのが面倒になって片方が失笑し、釣られたもう一人も笑って最後には二人の顔が綻んでいる。笑いが収まると、今度はぎゅっと手を繋ぐ。


「それはそうと、何食べる気なんだ?」

「玉子焼き」

「食べりゅ――俺の記憶からネタを出すのはやめろ。……本音はアイスだろ?」

「流石だね。ということで、さっきのモールに行くことを希望なのです!」


 某艦隊(これくしょん)ゲームの提督であることを話した自分にも責任はあると思ったが、それなりの海域まで進んでいた稔の場合、彼女にキャラを演じられるとさらなる海域へ出撃したい気持ちが強まってしまう。だが、この世界から戻る方法が分からない以上は欲望を募らせてはならないと思い、黒髪は冷たい声をかけた。


「それ以上キャラ作んじゃねえぞ。絶対だぞ? いいな?」

「それってダチョウ倶楽――」

「絶対だぞ! ……素のほうが可愛いんだから」

「え、なんだって?」

「だからキャラ作んな! お前は素のほうが可愛いんだよ! バーカ!」


 普段のように楽しく話せるような姿とは一線を画する清楚さを、昨晩のラクトは醸し出していた。もしも彼女の姉と母がレイプの被害に遭っていなければ、赤髪は純粋無垢な美少女に育っていたはずである。けれど、現実は変えられない。しかし、いつでも眠っているものを引き出すことは出来る。


「素ってさ、こういうので……いいのかな?」


 ラクトはロパンリ出発前に作った団子ヘアを解くと、稔の肩に自分の身体を預けた。顔はみるみるうちに赤く染まっていき、伝染したかのように彼氏の頬にも赤い色が浮かぶ。お互いに心臓の鼓動を早める中、稔が冷静になってラクトにアドバイスのようなコメントを発した。


「無理せずに見せられる姿が『素』だ。個人的には昨日の夜みたいな――」

「あれはダメだよ。素でも恥ずかしいほうのやつだし」

「そっか。まあ、無理ない範囲で楽にして過ごしてくれ」

「わかった」


 稔の言葉を聞き、ラクトは優しい力で彼の手を握る。それから、自分だけ尽くされる訳にはいかないと思って彼氏の行きたい場所を問うた。


「稔はどこか行きたい所あるの?」

「やっぱり、旧最高裁判所かな。リリィの話の詳細を知りたいし」

「そうだね。お昼ごはんモールで食べれば良いだけだし、先にそこ行こっか」

「だな。ここから目と鼻の先だし」


 本来ならテレポートする必要のある距離では無いが、リリィを始めとする陸軍特殊部隊が作業を進める通路を通るのは非常識の極みである。迫害を即座に停止させるためには自分が尊敬される行動を取る必要があると考え、稔はテレポートを使うことにした。彼女から異論が出なかったので、稔はすぐに宣言をする。

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