表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
四章 ギレリアル編 《The nation which has only women.》
306/474

4-12 おちゃめなテロリスト

 自殺しようと思えば可能だが、昨日レープール島近海で降下した高さと比べれば断然低い。その程度の高さから黒白はダイブした。地面に衝突するわけにはいかないので、前日と同様に降下を始めてからテレポートを使用する。紫姫と共にふわっと優しく足を地に着けると、稔は戦友の耳元で告げた。


「俺が『瞬時転移テレポート』すれば『跳ね返しの透徹鏡壁バウンス・ミラーシールド』は実質無効化されるし、紫姫は監禁されることになる。だから――」

「貴台の言いたいことは分かっている。時間を止めればよいのだろう?」

「そういうことだ。……もしかして、覗いてたか?」

「覗いていた訳でない。我は察したのだ。――戦友、だからな」


 親指を立ててグッジョブサインを出すと、紫姫は続けてドヤ顔を見せた。何度も戦って、危機的な状況を乗り越えて、互いに助けて助けられたからこそ分かり合えるものがある。口だけの友達ではなく、形だけの戦友でもない。そんなふうに稔は、精霊がふと見せた表情だけで深く考えてしまった。


「俺が敵兵の近くにテレポートして銃を奪う。合図を出すまで警戒を怠るな」

「了解した」

「それじゃ、俺は早速向かう。残兵には十分気をつけろ」


 そう言うと、稔は内心で魔法の使用を宣言した。同じ頃、紫姫が例の銃を構える。時間を止める魔法を使用していたとしても、バリアが意味を成さなくなる一定時間に余裕を見せることは出来ない。戦闘において油断は禁物だ。唾を呑み、小さく頷いて深呼吸する。そして紫姫は、今か今かと伝令を待つ。


「――作戦開始――」


 ついに作戦の幕が切って落とされた。発せられた指示を聞き、紫姫は即座に魔法を使用する。後ろを警戒するため、紫姫は十二秒間という僅かな時間で銃を奪取してくれることを祈りながら、稔が走ってくるのとは逆方向に銃を向けた。見た限り残兵の姿はない。が、目視だけでは確証を得られない。


「そこまで強い力で握ってないんだな……」


 構えていた銃と予備として持っていた銃。稔は奪うためには強引に行く必要があるかと感じたが、持ち主が弱い力で握っているのを確認して考え方を一変させた。「こいつには殺す気があるのか?」と疑ってしまうほどである。柔らかく握って構えるのも一つの手段だと思っても、なかなか脳裏から離れない。


「(俺が持っておけば自決することもないし、会話に応じてくれれば――)」


 武力で会話するのは極力避けたい。兵器が魔法に適うはずないので、オーバーキルを防ぐためにも何とか攻撃を未然に防ぎたかった。対等に口頭で会話するのを第一の目標とし、銃にロックが掛かっているのを確認した上でバリアのある方向へ走っていく稔。その最中に、十二秒という時間が終わった。


 時間の停止が解除されたということは、特別魔法が使用可能になるということ。攻撃が最大の防御だとしても、やはり紫姫一人を後方で待機させているのは気が引けた。稔は即座に「テレポート」を用い、自分が作ったバリア内へと戻る。同じ頃、銃を奪われた敵兵が目を丸くした。


「銃が無くなった……?」


 攻撃と防御が不可能になったことを理解し、敵兵が絶望した表情を浮かべる。首を左右に振って現実逃避に走ろうと試みるが、出来ない。かわりに、テロリストとして無残な死を遂げるのだと考えてしまう。為す術もなく味方から殺されて散るのが自分の最期だと考えると、敵兵は微笑を浮かべた。


「紫姫は地上戦じゃないほうがいいな。ここら近辺の建物の屋上で狙撃準備しておけ。でも、『専守防衛』だ。自分に攻撃が掛かるまで、決して引き金を引くなよ。テロ組織を壊滅させたことで犯罪が無くなるわけじゃないからな。情報を聞き出して対策を講じてこそ、はじめて犯罪を減らすことが出来る」


 紫姫は長話だからと眠気に誘われることもなく、稔が話を結んですぐに首を上下に振った。しかし、紫髪は地上戦から離脱しない。いくらバリアがあるといえど、会話する際に邪魔なのは明白だ。最適な環境でテロリストと対話すべきと考えて、精霊は稔の護衛から離脱するのを拒否する。


「貴台の言い分は理解したが、我は地上戦を続ける。貴台の背中を守るのは我しか居ないからな。それに、傷ついた姿をラクトに見せるのは辛いんだ」

「そっか。まあ、紫姫がいいならそれでいい。でも、紫姫が自分から断って引き受けた仕事だからな。中途半端にしてたら、後でおしりペンペンするから」

「変態……」


 紫姫がジト目を見せた。一方稔は、初めて見た紫髪の表情のせいで萌え死にそうになる。それに並行して、話し方とは正反対に内面は純粋無垢な女の子なんだ思えて安心した。とはいえ、デリカシーの無い発言をしたのは事実。稔は謝ることにした。普通に謝るだけだと面白みに欠けるので、他の手をとる。


「その表情、すごく可愛いな」


 そう言い、稔は紫姫の髪を優しく撫でた。戦友は、恥ずかしさを覚えてそっぽを向いてしまう。その表情がまた可愛くて、黒髪は我が子を愛でるように紫姫の髪を撫でた。でも、全時間が癒やしタイムという訳ではない。


「凄く自分勝手だと思うが、これで終わりにする」

「分かった」


 稔はそう言って紫姫の頭から手を離した。でも、紫姫の手が黒髪の身体に触れていないわけではない。もう片方の手が、主人の服をぎゅっと握っていたのである。魂石の中で一人過ごしている反動で、温もりが恋しいのだ。


「俺の背中は護れよ?」

「約束する。だから、もう少しだけこうさせてほしい」

「いいぞ。その方が好都合だしな」

「好都合というのは、一体どういう――」


 紫姫が疑問に思ったことを直に口から出すと、言い切る前に稔がテレポートを使用した。向かう地点は絶望した男が微笑を浮かべた場所。防衛力皆無の壊れた彼が味方から狙撃されないように、また事件の詳細を聞き出すために、稔は紫姫を連れてその男の居る場所へ急いで向かう。



 到着して間もなく、稔は男の目の前にしゃがんだ。一方の紫姫は、アカウサギを頭の上に乗せる。前方も後方も監視エリアに入れ、上空と地下以外からの攻撃には完全対応とした。そして、準備が終わったのを確認して稔は言う。


「俺は警察でも軍隊でもテロリストでもない。お前と会話がしたいだけだ」

「会話?」

「そうだ。なんでテロ事件を起こしたのか聞きたい」

「銃が無いなら仕方ない。話そう……」


 黒白が実行した作戦が実を結び、稔の計画通りに展開が進む。


「僕は自否会の構成員だからな。自らの主義主張の為にテロを実行したまでだ」

「そうか。でも、なぜこの時間を選んだ? ここは最終目標のはずだが」

「昼と夜を間違えたんだ。それゆえ、僕以外にテロリストは居ない」


 目の前にいる男は午前と午後を間違える大馬鹿者だった。衝撃の事実を知った稔は、テロリストに対して「馬鹿か」と言いたくなる。しかし、相手が銃を使えないからと安心してはならない。爆弾などの危険物がある可能性を有すためだ。


「それはいいんだが、なぜ君がテロの最終目的地を知っている?」

「大聖堂で自爆テロを起こした大馬鹿者が残したメモを見たんだ」

「そうなのか。ということはもう、自否会の負けが確定したようなものだな」

「だろうな。でも、安心しろ。無罪の奴は絶対に国外へ逃がしてやるから」

「お前は外交官か何かなのか?」

「エルフィリア国王を探すようにエルフィリア王国の王女から直々に依頼を受けた身だ。簡単に言うなら大使。外交官という表現も間違いではないと思う」

「僕達が就くことのない高い地位に居るのか。……羨ましい限りだ」


 無罪な奴まで殺すのは気が狂っていると思っていた稔は、緊急策として無罪である人達をエルフィリアなど近隣諸国で受け入れる考えを表明した。もちろん、リートなど関係者や関係機関に連絡を済ませた訳ではない。しかし、決意は固かった。咄嗟の決め事ではあったが、彼は絶対に実行してやると心に決める。


「ん? 今、『エルフィリア国王』と話したか?」

「ああ、話したぞ。なにか情報を持っているのか?」

「これは噂だが、大統領官邸に監禁されていると聞いたことがある」

「そうか。……貴重な情報をありがとう。今後の参考にする」


 稔はそう言ってテロリストに感謝の意を伝えた。しかし、その時。


「貴台、逃げるぞ!」

「おい紫姫、どうし――」


 突如、紫姫が大声を上げて稔の左手を引っ張った。アカウサギが元居た場所へ戻るのに並行して、稔の体の軸がブレる。体勢が崩れてすぐ、紫髪は主人を上空へと誘った。だが、半ば強引に連れられて上昇を続ける中のこと。主人は地上を見て唖然としてしまった。目を疑う光景が眼下で起こったのである。


「機銃掃射、だと?」


 ギレリアル連邦空軍の戦闘機が、テロリストを真上から攻撃していた。ビルの三階くらいの高度を通る低空飛行で行われた機銃掃射により、テロリストは頭に銃弾を複数発浴びて即死。銃を返しておけば良かったと、と稔は後悔する。


「なんて外道っぷりだ……」

「仕方がない。軍隊が出動するほどの大事件になったのだから」

「わかってる。けど――」


 警察官が次々と射殺されて軍隊が出動するほどの大事件に発展した以上、機銃掃射を行った空軍を「外道」と評価するのは妥当でない。一人でも多く存命のままで事件を収束させるためには、確かに地上戦より空中戦のほうが適当である。


「奴は大量殺人と強姦を犯した卑劣極まりない大悪党だ。仕方ないさ」

「クソ、警察に出頭させてやれていれば……!」


 稔にテロリストを許す気はない。しかし、司法の裁きを受けずに死ぬのは可哀想だと思った。機銃掃射で狙い撃ちされて即死なんて、最期の時として可哀想である。大悪党だからこそ裁きを受けなければならないと考えていた稔にとって、時間を間違うほどの大馬鹿テロリストの死は衝撃を与えた。


「だが、アメジスト。後悔は先に立たない。失敗は成功のもとだ。前を向け」

「ああ、そうだな……」


 稔は嘆息を吐いたあと、即死したテロリストから奪った狙撃銃を握った。もう一つ小型の拳銃もあったが、一人で二つも使いこなす自身が無かった稔は紫姫に渡す。精霊は主人が入手したそれを貰うのを拒まず、黒髪と同様に握った。


「紫姫。この経験を忘れないように、形見として所持しよう」

「了解だ。しかし、護身用としては小型のほうが効率的だぞ?」

「そうだな。……分かった、小型を俺の形見にする」

「そうしてくれ」


 当初とは逆の銃を所持する方向で折り合いがついた。稔と紫姫は持っていた銃を交換し、精霊は銃を持って魂石へと帰還する。一方黒髪は、飛行中の状態で魂石に戻られ一気に地上へ降下していた。もちろん、地面に身体を叩きつけたい気持ちはない。少し下降してから、稔は飛行高度の維持を行った。


「あれ、この銃……」


 その銃は折り畳みが可能だった。稔は驚きながらも興味津々で、衝動を抑えられずにL字型の拳銃をスマホのような長方形型にする。胸ポケットには先客が居たので、彼はズボンの後方ポケットに仕舞った。とはいえ、七インチタブレットほどの大きさなので、折り畳み式拳銃はポケットから顔を出している。


「そういえば、拳銃を所持するときは届け出要るって言ってたような気が――」

「ええ、必要ですよ」

「そうですよね……って、え?」


 どこかから声が聞こえたかと思うと、稔の隣には見知らぬ女性の姿。でも、それは人ではなかった。『データアンドロイド』という人型ロボットだ。エルダレアで見たそれよりも容姿は幼いが、任務を熟す力は大差ない。そしてなにより、少女が警察官の服装をしていることに稔は喫驚した。


「警察の方ですか……」

「はい。でも、別に取り調べとかでは有りません。あくまで説明です」


 外国人ということもあって、銃の所持に関して誤った認識であっても一回目は優しい対応を受けられた。何を隠そう、警察は無知な人間を脅して逮捕する組織ではない。機巧幼女は稔が何も知らない情報弱者のような存在であることを察して、ギレリアルの銃規制に関しての話を始めた。


「ギレリアルでは、銃の所持に『NPC』が必要です。そして、銃は購入者以外の人間が使用してはいけない決まりになっています。貴方が持っている拳銃が故人の所有物である場合は、お手数でも警察署に届けて下さい」

「犯罪になるんですか?」

「そうですね。『規約違反』ということで、千万円以下の罰金か十年以下の懲役またはその両方が科せられます。個人情報等が不明な場合も必ずお届け下さい」

「分かりました」

「よろしくお願いします」


 幼女がペコリと一礼する。データアンドロイドは飛行機能が搭載されているようで、稔との会話が終わってすぐ幼女が空を自由自在に動き始めた。同頃、紫姫が狙撃銃を持って魂石から出てくる。すると、開口一番にこう言った。


「交番はこの真下だ。さっさと拾った銃を届けてしまおう」

「賛成だ」


 紫姫からの助言を受けてすぐ、稔は道路の上まで移動してからテレポートで降下した。もちろん、癒し系精霊も一緒である。紫髪が言ったように降りた目の前は交番で、銃を持って入ることに抵抗を感じながらも、法律違反を犯すよりはマシだと思って二人は建物内へと入った。


「故人拳銃のお届けですか?」

「はい。さっき、そこで亡くなったテロリストの――」

「分かりました。二丁は大切にお預かりいたします」


 警察官は一礼すると、トコトコ歩いて『AUTHORIZED PERSONNEL ONLY』と書かれた奥の部屋へ入っていった。二丁を届け終えた稔と紫姫は、用件を済ませてすぐに交番を出る。そして、三十秒ほど歩いたところにある大聖堂へと向かう。しかし、入口前には救急車や特殊機能を積んだ消防車のような車が停車していた。


「行けないな……」

「正面突破する必要はないだろう。アナウンス室へ行けばいいではないか」

「採用!」


 紫姫の提案を即座に受け入れ、稔は戦友を連れてテレポートした。ラクトとサタンが待機するアナウンスルームを目指して、刹那の時間で移動する。途中で真っ白な空間に閉じ込められるバグもなく、転移が完了する。だが――。


「大統領、お怪我治ったんですね」

「はい。それはともかく、貴方にお話があります。付いてきて下さい」

「わかりました」


 ラクトやサタンから「おかえりコール」と「おつかれコール」を浴びる中、稔はヴァレリア大統領にアナウンス室隣の部屋へ連れていかれた。その部屋は俗にいうVIPルーム。部屋の格が違うとひと目で分かるほどの豪華な作りだった。


「なんでしょうか?」

「お昼の一時から、大統領官邸で会談しませんか?」

「用事も特にないので、構いませんが……」

「本当ですか! ありがとうございます」


 両手を勢い良く叩き合わせ、ヴァレリア大統領が大喜びする。子どもじみた行動を恥ずかしく思って咳払いすると彼女は、稔の前に立って背を向けた状態で言った。台詞を発したあと、大統領はすぐに官邸に向けて出発する。


「お話は以上です。私は官邸に戻ります。では、また一時に」

「はい、一時に」


 稔が復唱し終えた頃にはもう、大統領は隣室へ入っていた。VIPルームで待機するのはキャラじゃないと考え、遅れること十秒。稔も隣室へ向けて歩き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ