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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
四章 ギレリアル編 《The nation which has only women.》
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4-9 大聖堂と待機室

 人混みの中を移動するのは面倒なものだ。気温一九度と言えど、密集率が高まれば自然と熱が発生する。建物内であれば、それも窓や冷房設備がないような施設であれば、熱がこもるのは言うまでもなかった。無論、リリー大聖堂も例外ではない。


「『瞬時転移テレポート』使えばいいのに」

「使いたいさ。けど、着地点に人が居たらどうする?」

「そっか、そういう配慮だったんだね」


 ラクトは理由を聞くと、納得して首を上下に振った。でも、大きく動くとさらに熱が発生してしまうので、彼女の振れ幅は小さい。テレポートを使えば瞬時に移動できる着地点まで、二人は世界遺産の内部の景観に心を打たれながら進んでいく。刹那で移動できる距離を、彼らは二分も掛けて進んだ。


「そういえばさ、上り始める場所って何処なのかな?」

「床と階段が面してる所があるはずだから、そこへ行けばいいと思う――ん?」


 そう言う途中、稔がプラカードを見つける。大行列があれば必ず目にする『最後尾はこちら』という案内板だ。しかし、表記は英語である。ラクトが翻訳してくれるのは会話だけで、しっかり『The end of line is here.』とプラカードには記されていた。


「最後尾に行くぞ」


 稔はラクトに告げると、すぐさま彼女の手を自分の方へ引く。「ちょっ」と思わず声を出してしまう赤髪だが、少し背伸びしてプラカードに書かれていた英文を読むと、彼の行動に理解を示して何も言わなくなった。ラクトが強引なやり方をする黒髪に異を唱えたい気持ちは山々である。でも、彼が自分の歩調に合わせて歩いていることを知ったら批判なんて出来っこないのだ。


「あんまり並んでないっぽいな」

「中世風の建築物だし、階段上るの怖がる人は多数派だと思うよ」

「今から千年以上も前に建てられたのか?」

「それは分からないけど、見た目で」

「見た目か。確かに、中世ヨーロッパって感じがするな」


 ギレリアルがどのような歩みをしてきたのか二人は知らなかったが、国家として長い歴史があるのは文化遺産を見ればよく分かる。中世ヨーロッパの雰囲気を漂わせている教会が、文化的価値の無い建築物とは到底考えられない。また、何百年何千年も前の超高層建築物が現存している事実は、ギレリアルという国家がどのような土地柄かを示す重要な証拠でもある。


「こういう度肝を抜くような建築があるってのは、地震がない証拠なのかな」

「そうかもね」

「ちょっと待て。この世界で地震って発生するものなのか?」

「発生するよ。でも、経験したこと無いな」


 大陸では地震が発生しにくいという現実を改めて知る。自然災害と隣合わせの国家に生まれた稔は、彼女が土地的には恵まれた土地で生きてきたことを羨ましく思った。けれどそれは、裏を返せば地震を受けたら発狂する可能性があるということ。「こんな程度か」で済む震度は、日本と諸外国では大違いだ。


「地震って怖いんでしょ?」

「怖いのは地震というか津波だな。あれは全てをかっさらって飲み込んでいく」

「こわ……」

「もちろん、揺れが怖いってのも間違いじゃない。揺れの発生元との距離が近ければ、家が倒壊する可能性は十分ある。ライフラインが寸断されるのはほぼ確実だ。けど、被害は津波のほうが確実に甚大なんだ。対処のしようがないし」


 地震は揺れと津波で構成される。現代日本は耐震性能を追求した家やビルを建てているから、ちょっとの揺れで倒壊するような家は少数派だ。必ず地上で発生するから、揺れであれば陸上生物であるヒトが対策を講じれる。しかし、津波はどうしようもない。土台を補強しても、ガラスが割れたり土砂が流入するのは確実だ。家が無傷で済むはずがない。


「本当に大丈夫なのかな……」

「あれほど精密な人型ロボットを作った国家だし、心配要らないと思うけどな」

「それならいいんだけど……」


 地震について説明を受けると、ラクトはすっかり落ち込んでしまった。彼女の心の中で、上層階まで上ることへの恐怖心が生まれたのである。加えて彼氏の内心を読んでみると、稔は「空白地帯や空白の時間こそ後に大変なことになる」と考えていた。当然、ラクトの心配は加速する。


「本当に……上るの?」

「怖くなってきたのか?」

「怖い訳じゃないけど、もし地震が起きたら建物の下敷きになるんじゃないかなって――。あっ、いやっ、べ、別に怖い訳じゃないんだよ?」

「恐怖心持っちゃったか……」

「違うってば……」


 ラクトは必死になって言うが、稔には怖がっているようにしか見えなかった。しかし、このまま会話を進めても平行線を辿って先へ進まない。黒髪は第三者視点でどう思われているか告げず、「違う」と訴える赤髪の気持ちを尊重して話を進める。しかし、内容は小馬鹿にするものだった。


「そうだよな。あのラクトが怖がるものなんて無いもんな」

「それは流石に言い過ぎ――」

「まあ、大丈夫だ。俺が全力で守ってやるから」

「公衆の面前で恥ずかしいこと禁止……」


 稔の言葉に照れ顔を見せるラクト。その一方で、彼女は主人の服の裾を強く掴んだ。皮膚を抓って攻撃しようという魂胆である。けれど稔は、裾が引っ張られたようにしか感じない。痛くも痒くもない攻撃だった。


「次の方――」


 他人から「爆発しろ」と言われてもおかしくないような二人は、同じ頃、職員から声を掛けられた。見れば、自分たちの前に居た多数の人々が居なくなっている。職員に事情を聞くと、どうやら二人の前に並んでいた観光客はバスツアーで訪れていた人達だったそうだ。だから、一気に進むことになったらしい。


「この先、何があっても我々は一切の責任を負いかねます。よろしいですか?」

「大丈夫です。書類などを書く必要があれば書きますけど……」

「同意書は御座いません。どうぞ、スロープへお進みください」

「了解しました。……え、スロープ?」

「はい。階段のように見えますが、スロープになっています」


 係員が衝撃の事実を聞かされたので、二人はもう一度その方向を見た。見れば確かに段がない。互いに構造を理解した頃、係員が威圧感がある声で言った。


「お進みください」


 職員の指示を受け、ラクトとともに稔はスロープへと直進した。隣では、照れの表情から恐怖の表情に様変わりした彼女の姿が見て取れる。高所恐怖症ではないので、足が動かないほどではない。でも、普段より確実に密着していた。


「俺の腕を谷間で挟まないようには出来ないのか?」


 ラクトの手の繋ぎ方は、胸の谷間で腕を挟んだ上に肘の少し上辺りをホールドする繋ぎ方。「よほど怖いのかな」と思って稔は心配したが、そういうわけではなかった。理由を聞き、ひとまず安堵する。


「狭いから仕方ないんだよ……」

「それなら仕方ないな」


 人と人がすれ違える程度の僅かな横幅のスロープは、エスカレーターのステップと同じくらいだった。ラクトを隣にして上ると、残る幅は僅か数センチしかない。下降する観光客を見受けられないのは幸いな話だった。下らない話に花を咲かせながら、時に一列となり、先に出発していた集団を越して進んでいく。


「休憩スペースがあるみたいだな」

「それ、連絡通路」

「ホントだ……」


 高さ七〇メートル付近で、隣の塔へ繋がる通路を発見する。だが、リリー大聖堂の螺旋スロープは上ったら最後。途中棄権できない。七〇メートル以降は、上る人と下る人とを区別するためのロープが中央に設置されていた。しかし、スロープの幅は一緒。ついに人一人がやっと通れるレベルになってしまった。


「進むしか無いね」

「そうだな」


 同じタイミングで頷く二人。そのあと、稔の後ろにラクトが回る。人一人しか通れない場所では先程のような繋ぎ方は出来ない。だがバカップルは、しっかりと手を繋いでさらに上へと足を進ませる。スロープなので、一列になって歩いても足取りは軽快だ。


「エスカレーターにしちゃえば良いのにね」

「景観の問題だと思う」


 いくら緩やかでも、スロープを一〇〇メートルも進むのは酷だ。エレベーターやエスカレーターを設置した方がいいと思うのは当然である。しかし、そう出来ない事情があった。ラクトが言った、景観上の問題である。


「サテルデイタを代表する世界遺産だから、仕方ないんだよ」


 スロープと言っても取ってつけたような代物ではない。建てられた当時から、修理時の資材運搬通路として使用されてきた。今ではしっかり補強されて使用目的も異なるため、当時と全く変わらない風貌を見せている訳ではない。けれど、リリー大聖堂にはそういう史実がある。



 そうして、地上面出発からおよそ十分。若い二人は呼吸を早めていたが、倒れることなくスロープの終了地点に到達した。高さは一〇〇メートル強。展望デッキみたいなものは無いが、最上階を一周できる通路が整備されていた。


「回る?」

「ああ、回ろう」


 回る意思を確認し、二人はさらに前進した。最上階の上には十メートルほどの空間があったが、これは大聖堂を形付けるトンガリ。一〇〇メートルより上へスロープは伸ばせない。しかし、一〇〇メートルあれば古都を見下ろすには十分すぎた。二人そろって開いていた窓に近づき、サテルデイタの街を見る。


「綺麗だね」

「そうだな」


 東西にビル群が見られ、北には首都機能の集中するエリア、南には住宅街の広がるエリアが見られた。大聖堂の東には大河セール川が流れていて、川を追って北へ進んだ先には巨大な港が見て取れる。大聖堂の付近は歴史地区として整備されていたので、ビル群や日本で言う霞ヶ関までは十キロ以上あった。


 文化が交差する街、サテルデイタ。大聖堂から見た景色はそれを証明するようなものだった。一周して事を理解し、稔とラクトは下降を始める。どちらも高所恐怖症ではないので、七〇メートルまで下るのにそれほど時間は必要なかった。


 しかし、事態は急変する。稔とラクトが、笑顔のまま紫姫とリールのもとへ戻れるのではないかと思った矢先のことだ。ショッピング襲撃テロから一時間も経っていない中でのことだ。突如、緊張感を高める館内放送が入る。


「お越し下さった観光客の皆様に連絡します。大聖堂の待機室にて、テロ事件が発生致しました。犯人は硫化水素を室内に撒いた模様です――」

「硫化水素――」


 ラクトは瞬時に何が起こるか見当をつける。同じ頃、稔は紫姫と通信を取ろうとした。魂石越しの会話は何度もしているし、呼びかけに応じないはずがない。しかし、彼の考えは一瞬で崩れ去った。紫姫の声が――聞こえない。


「そんな……」


 稔は待機室へ急行することを決意した。戦友を強制的に魂石へ戻すことも考えたが、私利私欲に走るのは魔法が使えるという特権の乱用でしかない。立場を弁えた上で、自分に出来ることを精一杯成し遂げる。黒髪の考えは変わらない。


「……来るか?」

「私は通路でサタンと待機する。そして、指示を出す」

「分かった。できれば、ガスマスクとか――」

「硫化水素なら特別魔法で防げますよ、先輩」


 ラクトにガスマスク製作を依頼しようとした稔だったが、サタンの言葉には負けてしまった。赤髪もサタンと同意見らしいので、言い返すことは出来ない。一人でも多くの観光客を救う決意をし、稔はバリアを使用した。しかし、一刻でも早く向かおうとの思いでテレポートしようとした、その矢先のこと。


「それと、もう一点。精霊は核を狙われると魂石越しの会話が出来ません」

「核? 細胞のか?」

「いいえ。精霊には、別途『核』があるんです。俗に『魔力源』と言います」

「魔力源……」

「核は二つです。しかしながら、一つ壊されただけで強制的に暴走モードに突入します。それはつまり、魂石越しの会話が出来なくなったことを意味します」


 魂石越しの会話は、精霊が一定の理性を保てなくなると使用不可能になる。核が壊されると、自動的に防衛本能が働くそうだ。一定の理解を示したものの、まだ主人が完全に把握したわけではないと察し、サタンは具体例を挙げる。


「先輩は、堕ちてしまった紫姫さんを救出されたはずです」

「あの一件って、そういうことだったのか?」

「そうです。『パンドラの箱を開けた』のでは有りません。『核を破壊した』のです。破壊された核が一つなら、あの手法で解決できます」


 あの手法とは――接吻だ。


「核が二つ破壊されれば強制帰還です。しかし、先輩との記憶は消えます」

「そんな……」

「核の破壊は気絶とイコールでは無いのです。ですから、早急にお願いします」

「分かった」


 気絶というのは戦闘力をゼロにするということ。だから、記憶は元のままで魂石に強制帰還となる。しかし、核を破壊されたということは魔力源を失ったと同義。強い意思の源が消えるということは、すなわち記憶が消去されるということ。サタンの話を聞くと、稔は迷わず頷いた。そして、特別魔法を使用する。


「――瞬時転移――」


 バリアを周囲に張ったまま、待機室へと転移する。硫化水素は毒物だから、稔は紫姫との接吻は困難を極めると予測していた。しかし紫姫は五体満足で、身体の何処にも傷は見られない。また、待機室に居た観光客が居なくなっていることに気づいた。稔は着いて早々、開口一番にこう言う。


「どういうことだ……?」


 すると、紫姫が稔のバリアに入ってきた。魂石へ戻って出てきたことから、彼女の『核』は壊れていないと分かる。しかし同時に、精霊の新たな一面を見た。


「会いたかったよ、お兄ちゃん……」


 耳を疑う言葉。普段クールに振る舞っている紫姫が、まさか自分のことを『お兄ちゃん』なんて呼ぶわけ無い。稔はそう思ってどういうことか説明してもらおうとしたが、動揺してしまって、結局口から出たのは紫髪の名前だった。


「し、紫姫さん?」

「すまない。我としたことが、変な言葉を発してしまった」


 思わず「可愛い」と思ってしまった稔。けれど彼は、内輪で済ませられる会話だと判断してそれを後に回した。かわりに、事情説明を要求する。


「何が起こったんだ?」

「リールが硫化水素をばら撒いた。我が大声を上げた結果、ほとんどの者が逃げ出して一命を取り留めた。しかし、あの少年は即死した」

「即死って……。なんで、そんなことを?」

「俗にいう『自爆テロ』というやつだ。内心を覗いた結果、彼の母親が自否会のメンバーと交際していたことが判明した上に、毒物所持も判明した」


 硫化水素なんて普通の人が持っているはずない。加えて、母親が自否会と関わりを持っていることも判明したら、黒の可能性が高まるのは言うまでもない。それに加え、紫姫はさらなる情報を稔に手渡した。


「自否会は、この国家を壊滅させる気で居るようだ」

「これは……」


 紫姫が稔に渡したのは今日の予定表。見てみると、リールが硫化水素テロを警察署でやろうとしていたことが判明した。時刻は九時三十分と明記されている。その下には、さらに三つのテロ計画が載っていた。


「これはあくまで我の予想だが、聞いて欲しい」


 紫姫はそう言い、深呼吸する。稔はそれを受けてしっかり耳を傾けた。


「高速道路を封鎖し、警察署を壊滅させ、放送局を制圧して、議事堂を占領したのち、革命の証として大聖堂にジャックした飛行機で突撃する――」

「なんて激情に駆られそうになる計画なんだ……」

「全くだ」


 稔の考えに同感する紫姫。しかし黒髪は、一つ疑問を持った。


「けど、なんで大聖堂を破壊するんだ?」

「大聖堂に付けられている『リリー』とは『百合』のことだ。百合の花言葉は純潔。それを破壊するということは、彼らの革命が野蛮であることを示している」

「強姦を中心とした革命を起こした証か……」


 稔の言葉に、紫姫は小さく頷いた。


「貴台は許すか?」

「許すわけねえだろ。テロじゃなくてデモを起こせと言いたくなる」

「我にもその気持ちがわかる。けれど、これを見てくれ」


 紫姫が次に渡したもの。それは――。


「次期選挙のマニフェストだ。全ての党が、公約に『男性排除』を掲げている」

「なんで、こんなもの……」

「待機室に居た時、係員から配られたんだ。これを見て、どう思う?」 

「これが、政府による国民煽動の実態なんだなって思った」


 排除の方法が『公開処刑』というのも、稔のイライラを増長させる結果となった。罪のない人を、性別だけでまるで奴隷のように扱う。そんな時代が訪れようとしているのだ。稔は、そんな現実を知って両手の拳を強く握る。


「我も同意見だ。けれど、今から覆すのは非常に無理がある」

「なんだ?」

「次期選挙、それは今日のことだ。今日の夜には、恐らく――」

「だからテロが発生したのか……」

「恐らくそうだろう。このマニフェストで投票する気になるわけがない」


 全政党が公約に掲げているということは、投票権を放棄することだけが逃げ道となる。どの政党に入れても自分が殺されるなら、投票所に行くという選択肢自体がありえない。だからこそ、紫姫はこう言った。


「だからこそ、我々は言論と行動で攻める。手始めに、これを係員に届けよう」

「良案だな、賛成だ」

「ならば、急ぐ必要がある。早くこの部屋を出よう」

「ああ、そうだな」


 硫化水素がこれ以上拡散するのは防ぎたかったので、稔は紫姫と手を繋いでテレポートを使用した。部屋から出てすぐにバリアを解除すると、そこで黒白は泣いている女性たちを見る。しかし二人は、その方向に目もくれない。待機室を出て五秒ほど、服で判断した係員に対し彼は言った。


「犯人の服から見つかった計画表です。警察へ渡して頂けませんか?」

「わかりました。そのかわり、観光客の皆さんを安心させて下さい」

「はい?」

「私が交番に届けに行く間、仕事を任せるということです」

「別にいいですけど……」

「では、これを。私のロッカーの鍵です。そこの扉から入って下さい。では」

「ちょ――」


 無理やり鍵を渡され、稔は動揺する。しかし、精神的な支えになってくれる人も、共犯になってくれる人も居ない。紫姫もアイテイルも魂石の中だ。黒髪は対価だと思い込み、大きなため息を吐いた後でロッカールームへと入った。


「なんで俺が女装するはめに――って、なんでお前が?」

「上の方で色々と処置を施してたらスカウトされた」


 そこに居たのはラクトだった。彼女はすでに係員の衣服へ着替えている。


「じゃ、行こっか」

「女装しなくていいのか?」

「もちろん。その鍵、ロッカー閉める時に使ってって理由で渡されただけだよ」


 稔は安堵した。しかし、そんなことをしている暇はない。


「私はアナウンス入れる。稔は、ヴァルキリー像付近の人達の介抱」

「分かった。ところで、上に居た人達は?」

「サタンが一階に移動させた」

「分かった。じゃ、お互い頑張ろうね!」

「おう」


 固い握手を交わすと、二人はそれぞれ別方向に向かった。ロッカールームを出ていく稔と、奥へ進んでいくラクト。緊迫した状況で、客の介抱にあたる。


「お怪我、ありませんか?」

「はい、問題な――」 

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