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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
四章 ギレリアル編 《The nation which has only women.》
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4-6 自由を否定する会

 銃声音が聞こえたかと思うと、間もなく稔と会話していた自否会のメンバーの胸部に銃弾が命中しているのが捉えられた。背中から心臓を撃ち抜かれ、たちまち会員の一人はその場に倒れてしまう。あまりの衝撃と出血量から、彼は即座に気絶した。そして、助けなど来るはずもなく――。


「我が会長様の天誅だ。光栄に思いなさい」


 股間部を露出させたまま、悪い行いをしたと上から圧力に屈せず認めた男は命を引き取った。すると、それを見て自否会の幹部が大笑いする。両手を広げて上を向いている姿は魔王にしかみえない。危険人物が襲来したと『黒白』が互いに確認しあう最中、テロ組織の幹部は紫姫に向かって言った。


「そこの紫髪の娘さん! さあ、僕の元へ来ておくれ!」


 目にハートを浮かばせるように瞳を輝かせ、キス顔を作る幹部。しかし、それが単なる建前であることは明白だった。銃を向け、自分がついさっき言ったことが嘘であると認めたのである。その一方、野蛮な思想を持った危険人物のターゲットになった紫姫は、稔に助けを求めた。


「お、おい……」

「すまない。視界にあの者を捉えたくないのだ。我儘を聞いてくれ……」


 稔の首近くに手を置いて、彼の首の横から幹部の狂った様子をチラ見する紫姫。彼女は精霊である自分が主人をまるで盾のように扱っていることへ強い抵抗を抱いたが、黒髪はそんなこと一切気にしていなかった。危険人物と同性であるのが不思議になるほどの優しさと良識を兼ね備えた稔を改めて高く評価し、それから紫姫は置いていた手を離して黒髪の一歩後ろに立つ。


「嫌だってよ」

「嫌なら、力づくで勝負だ。僕が負ける訳――」


 特別魔法を転用して稔の内心を読み、紫姫が彼の右肩と自身の左肩を触れ合わせる。それを合図に、主人が『テレポート』の使用を宣言した。すると、彼の推測は見事に的中。背後が取れれば、後は攻撃を加えるだけだ。けれど、『黒白』は戦闘系魔法の行使に踏み切らない。


「自否会の会長は誰だ?」

「知りたければその娘を――」

「性処理目的が見え見えなのに、渡すとでも思っているのか?」

「悲しい答えだ。僕は君に失望してしまったよ」


 幹部はそう言って笑う。一方で稔と紫姫は、危険人物との間に距離が置けることを感謝した。すると直後、そんな『黒白』に対して直球質問が投げられる。


「というかだ。なぜ、君はその女に拘る?」

「こいつを護りたいだけだ」

「なんとも素敵なフレーズだ。――実際は利用されるだけだというのに」

「それはどうだろう」


 稔が、幹部を挑発するように言った。直後、主人から数歩離れたバリア内の場所に紫姫が移動したのを確認した後のことである。彼は、精霊に魔法を使用するように指示を出した。男だからという理由で紫髪に利用されている訳でないことを証明するため、魔法の使用指示は口頭で発する。


「紫姫。『白色の銃弾(ホワイト・ブレット)』を頼む。目標は天井だ」

「了解」


 承ってすぐ、二丁の白い銃を作り上げる紫姫。十二丁の銃を自分を中心とした円の円周として並べて無駄に魔力を消費をする必要など無いので、作成したのはそれだけだ。しかし彼女は、精霊として見事なパフォーマンスを見せる。同頃、背後で行われる技術披露会を見ようとテロ組織の幹部が後ろを向いた。


「発射」

「了解した」


 指示を受けて上に拳銃を向けて発砲し、紫姫が銃弾と銃弾をぶつけ合う。撃ち放ってから二秒もしないうちに、普段とは違った金属同士が擦れる音が響いた。もちろん銃弾は、金属同士の接触音が出たと同時に地面へと落下を始めている。


「残念だが、俺はこいつに利用されている訳じゃない」

「何を偉そうに」

「偉そうに言った覚えはない。自否会の会員が持ってる偏見を否定したまでだ」

「そういうのを、偉そうにしてるって言うんだよッ!」


 銃のロックを解除し、テロ組織の幹部は拳銃を稔に向けて構えた。間もなく彼の怒りが最高点に達して、迷うことなく危険人物は黒髪のほうへ発砲する。しかし『黒白』は、攻撃を跳ね返すバリアによって守られていた。


「なん――」

「お前に勝ち目はない。このテロの計画者は誰なのか、言え」

「会長様だよ。でも僕は、それ以上言わない」

「そうか。まあ、別に構わない。それが『黙秘権』という権利だからな」


 黙秘権の行使だと考えて黙るテロリストに何も言わず、稔は行動を容認した。しかし、彼がテロ組織の構成員だという事実は変えられない。『黙秘権』を認める一方で、黒髪はテロリストが所持していた拳銃を取り上げた。


「だが、拳銃は取り上げさせてもらう。銃を床に置き、両手を上げろ」

「残念だが、僕には『黙秘権』がある。君の指示を呑むことは出来ない」

「なら、提示するしかないようだな……」


 稔はそう言い、パスポートを取り出した。警察から他種族として入国を許可された印を見せ、『人族の』女性と同等の権利を受けている身であることを証明する。それを受けて、幹部は目を丸くしていた。


「人殺しをしたところで、強姦をしたところで、特権に反対する運動が規制されるだけだ。地道にしても認められないなら、抜け道を探るべきだと俺は思うぞ」

「そんなのは屈辱でしかない!」

「俺からすれば、反対運動の規制に反発してテロを起こしている自否会の現況こそ、政府の攻撃で屈辱を味わっているように思えるんだがな?」

「それは……」


 テロを起こせば、ギレリアル連邦の国民の大半である女性から「危険だ」とか「近寄るべきではない」とか言われてしまい、今よりも更に厳しい法規制がしかれる結末が目に見える。なぜ特権を容認しているのかが客観的に判断できているのにも関わらず規制が強まるのは、とんでもない屈辱を味わうと同義だ。


「大暴れして死んでやるなんていう愚策、今すぐ棄てろ」

「なら、代案はあるのか?」

「国民を納得させればいいだけだしな。全く問題ない」

「そこまで自信があるなら聞かせてくれ。どういう案だ?」


 稔はテロリストに問われると、深呼吸を置いてからこう話した。


「まず、データアンドロイドを手中に収める。次にそいつらでギレリアル連邦の空軍基地を攻撃し、最後に国会を襲撃する。これら全てを架空の女性複数が起こしたテロとすることで、男性だけが危険でないことを認知させる。そして、国会に男女の権利を同等にすることを盛り込んだ書類を提出すれば完了だ」


 稔は筋道立てて自らの案を述べる。しかし、テロリストから返ってきたのは意外な答えだった。聞き間違えではないかと耳を疑ってみるが、話された言葉は同じ。思わず黒髪を揺らして首を傾げ、主人は問うてしまう。


「却下だ」

「なぜだ? 自否会のように市民を殺しているわけじゃないんだが」

「失敗したら大変なことになるからだ」


 ごもっともな意見だった。極悪犯罪を起こさないと考えられてきた女性が軍や国会を襲撃し、テロの恐怖に怯えなければならない極限の状況下に置かれているのだから、承認してもらえる可能性は高い。だが、そうならなければ水の泡だ。努力した意味が無いと言われれば、早急に国家反逆罪で捕まるのがオチである。


「それを実行するなら、我々は、たとえ屈辱だったとしてもテロを続ける」

「ちょ、待――」


 自否会幹部は稔の提案を却下し、現在の方針を続けるべきだと考えた。となれば、稔とさらに会話しても無駄な時間を経過させる以外のなにものでもない。そのため、彼は『黒白』から逃れるために猛スピードで走る。


「待て、テロリスト!」


 稔が大声を上げると、『黒白』は同じくらいのペースで自否会幹部を追いかけた。テレポートを何度も使って短い距離を攻めるより、疲労がなければ走って攻めたほうが速い。そのため二人は、双方の平均スピードで走る。そんな『黒白』が走りだして十秒ぐらい経過した頃、サタンが魂石越しに作戦を提案してきた。


「お疲れ様です。急ですが、提案させてください」

「なんだ?」

「先ほど先輩が使用された男子トイレを襲撃してもらいたいんです」

「なにか根拠があるのか?」

「はい。防犯カメラに、五分以上も集団が映っていたんです」

「確かに怪しいな。分かった、すぐに向かう」


 覚悟を決め、紫姫の左手首を掴む稔。息を整え、『瞬時転移テレポート』を使用した。しかし、いざ刹那の時間で男子トイレの前まで来てみると、防犯カメラに映っていた集団らしき人物がどこにも見当たらない。稔は無駄な魔法使用だったのではと思い、サタンに現況を報告してもらう。


「サタン。今の防犯カメラには映っているか?」

「はい。それに、先程より悪化しています。子供が拘束されていて――」

「分かった。すぐに救出する」


 稔が魂石越しに言うと、サタンは「はい」と言った。また同時に、『黒白』の士気を高めるためには魂石越しのアドバイスをこれ以上すべきでないと考えた。それゆえ盟友は、黒髪との魂石越し会話に一区切りつける。


「紫姫。男子トイレ、入れるか?」

「外で待機するのは――」

「却下だ。なぜなら、紫姫と俺の二人で『黒白』だからな」

「仕方あるまい。先程の我儘の礼として、意を決しよう」

「ありがとな、紫姫」


 稔は紫姫の髪や背中を撫でることで精一杯の感謝を表現した。それぞれ五秒位したあと、最後に右肩をトントンと叩く主人。互いに息を合わせて深呼吸をすると、『黒白』は救出作戦という名の戦闘行為をついに実行した。男子トイレの扉を破壊しないくらいの力で一気に開け、自身の声を響かせる。


「自否会よ、覚悟し――あれ?」


 けれど、そこに敵の姿はなかった。あるのは子供の姿のみ。女性特権を許さないことを目標に掲げていたから、監禁されている子供は自否会に捕まえられた女の子かと思っていた稔。だが、明らかにそうとは思えない服を着ている。


「おにいちゃん!」


 それほど高身長とは言えないものの、稔の身長は一七〇センチを超えている。また、サタンとの間で助ける旨を交わしていた彼の顔には、自然と優しさが溢れていた。殺されるかもしれない極限の状況で大人を見れば、もちろん子供は安堵する。閉じ込められていた子は、「嬉しい」という感情を爆発させた。


「ちょ、飛び込んでくんなって……」


 床を蹴って稔に抱きつく子供。身長を考えて「恥ずかしいかな?」と一瞬思ったものの、稔は今こそ包容力を全開にする時だと思って、飛び込んできた子供を抱きしめてあげた。また、子供との身長差が大きいので膝立ちする。外見だけでは性別が分からない年齢だが、体を密着させれば性別を知ることなど容易だ。


「(男の子だな、この子……)」


 分かっても声には出さない黒髪。男の子だからと距離を置くことなく、稔は安心した子を我が子のように抱きしめて背中を撫でる。稔にも男の子にも色々な感情が込み上げてきて、男児の涙腺は撫でられるごとに緩んでしまった。


「紫姫、脱出するぞ!」

「残念だったな! 君はその二人を奴隷に捧げることになる」


 個室から声が聞こえたかと思うと、全ての個室のドアが一斉に開いた。それと同時に、一二名のテロリストが個室から出てくる。彼らは『黒白』と救助対象者を包囲すると、持っていた拳銃の焦点を稔に設定した。そして――。


「さあ、女子供を賭けたゲームを始めよう!」

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