表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章B エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
291/474

3-93 ドリンクサービス

 離陸から十分くらいが経過した頃、アナウンスが入った。座席の上のシートベルト着用サインも同時に消える。ただでさえ空気の薄い上空で酸素を消費されては溜まったものではないから、引き続き禁煙表示は点灯していた。もっとも、ライター等の持ち込みは厳しく制限が掛けられているわけだが。


「The captain has just turned off the fasten seat belt sign. You are now free to move about the cabin. For your own safety, please keep your seat belt fastened at all times while you are seated in case of any unexpected turbulence. Please open the overhead bins with caution, as the contents may have shifted during the flight」


 席を立っていい旨が告げられると、あちらこちらでカチャカチャという音が聞こえた。シートベルトを外す音である。アナウンス上では、「ご着席時は常にシートベルトを着けて下さい」と言われているのだが、監禁されているような恐怖を覚える人だって確かに居るわけで、外しても基本的に客室乗務員は声を掛けない。多くの人がシートベルトを外す理由はそこにある。


 カチャカチャ音が一段落ついた頃、リサがこうアナウンスした。


「You may now use approved electronic devices. A list of approved devices can be found in our in-flight magazine, "Sky Color", in your seat pocket」


 許可されたデバイスが使用可能になったことが告げられる。『スカイカラー』なる機内誌が各座席に置いてあることが告げられると、所々でペラペラと紙を捲る音が聞こえた。一方リサは、そんなことなどお構いなしに話を続ける。


「In a few minutes, the flight attendants will be passing through the cabin to offer you a beverage of your choice, as well as a light meal. And we will class regardless do the service」


 そのアナウンスが始まったと同時に、キャビンアテンダントが動き始めた。彼女らは、車の付いた二段構成の台をベビーカーを扱うように手で押している。一段目には茶色と黒色の中間のような色をした飲料と今にも白い輝きを放ちそうな黄金色の飲料、それに真茶色の飲料の入った透明なポット。二段目には積み重ねた紙コップが置かれていた。


「Our in flight entertainment system offers you a wide selection of the latest movies, music and games. If there is anything we can do to make your flight more enjoyable, you only need to ask」


 ジャスミンが挿していたイヤホンジャックの隣には、ディスプレイが設置されていた。それは稔とラクトが座っている座席とも同じである。稔は「使ってみるか」と思って、機器を起動した。飛行機初体験のラクトも、彼氏に影響されてディスプレイを発光させる。


「Now, sit back, relax, and enjoy the flight.」


 アナウンスは「快適な空の旅を」というメッセージとともに終わった。『主任』であろうが、客室乗務員としての仕事をする必要があったからだ。飛行機前方の操縦室側から、後方のトイレ側から、それぞれキャビンアテンダント一名ずつが業務にあたる。稔とラクトの座席列には、アナウンスから三十秒ほどして彼女らが訪れた。


「Good morning. We can offer tea, coffee and apple juice. Would you something to drink?」

「Coffee, please」

「Absolutely. Cream and sugar?」

「I'm good. Thanks」

「It's my pleasure」


 一通り注文が進み、キャビンアテンダントはコーヒーを紙コップに注ぎ始める。機内で頼めるコーヒーは温かい場合が多い。長旅のお手伝いをする身が火傷なんて溜まったものではないので、目線を他の場所にやって淹れることは不可能だ。そのため、キャビンアテンダントは入れ終わるまで無言を貫く。


「Here you are」

「Thank you」


 コーヒーを渡されると、稔はスピードをするために使った台を再度出した。貰ったコーヒーを机の一段下がった場所に置くと、キャビンアテンダントがそれを見てラクトに注文を取る。


「How about you?」

「Apple juice, please」

「Certainly」


 機内で提供されるコーヒーは温かい飲料だが、一方のアップルジュースは冷たい飲料だ。場合によっては常温となることもある。だが、ただでさえ凍える寒さの上空で温度が下がるなんてことは暖房を効かせていない限りあり得ない話だ。冷蔵庫が無くとも似た類のものはあるから、基本的には冷たいままで提供される。


「Here you are」

「Thank you」


 稔と同じように飲料を受け取り、同じ場所に紙コップを置く。ラクトの動作が終わったのを確認して、客室乗務員は二人に追加質問をした。もちろん、業務上の話である。


「What else?」

「We're okay. Keep it up」

「Thank you. Please spend a comfortable air travel」


 キャビンアテンダントはそう言い、稔達の座る座席列の前の席へと台車を押して移動した。それを合図に、ラクトが稔に対して少し馬鹿にするように言う。だが、内容は全く逆のものだった。


「稔、英語話せるじゃん。『No thank you』って断らないところは流石だよ」

「場合によっちゃ失礼だしな、その語は。俺の通う学校の英語教師、無駄に知識披露するからさ」

「うんちくは程々にって言いたくなる感じ?」

「まあな。でも、それで今みたいな知識が身につくのは良いことだと思う」


 文法デタラメでも日本語はまあまあ意味が通じるが、英語は文法を崩すと意味が途端に通じなくなる。かといって、日本語を単語のみで話すとなると難しい。その点、英語は単語を覚えるのみだから楽である。アルファベットのみで表記できるところもメジャー言語の特徴だ。けれど、病名などでは確実に漢字を用いたほうが分かりやすい。


「そういや、ギレリアルの公用語って英語なんだっけか?」

「そうだよ。でも、気にすんな。辞典と発音機が一つずつあれば対応できる」

「……秀逸な喩えだな、それ」

「それほどでも」


 自身の尻を露出させる金曜夜の国民的アニメの主人公が発すような言葉を言うラクト。だが、彼女にそのような意図はない。稔だって「ラクトがそんなことを考えるはずない」とすぐに分かり、それを話のネタとして使うのはやめた。心の支えとなっている彼女を闇堕ちさせて楽しくなるほど、稔は鬼畜野郎でない。


「……寝る?」

「まあ、寝てもいいけど……。昼飯食べないで寝るのは勿体無い気がするな」

「じゃ、予約しておけばいいさ。クラス関係なしで頼めるんだし」

「そうだね」


 稔とラクトはそう会話すると、同じようにデバイスを操作する。画面が光を帯びると、ディスプレイには『娯楽』『飲食』『飛行情報』『情勢』と四つに分割されたページが出た。航空機内で使用できる言語は英語のみ、という訳ではないようだ。――そう思っていた時である。


「表示、変わったね」

「そうだな」


 それまで日本語で表示されていたものが、一斉に『Entertainment』『Food/Drink』『Information』『World news』と切り替わった。意味合いは日本語で表記されていた時と同義だが、やはり言語が異なれば受け取り方にも若干のズレが生じる。とはいえ、押した意味が丸っきり変わった訳ではない。だから迷わず、稔とラクトは『Food/Drink』をタップする。


 押すと、続いて『Reserve』『Order』と二つのボタンが表示される。予約するか、それとも現時点で注文してしまうか、利用客に聞いているのだ。今すぐ何かを注文する気はないので、稔もラクトも『Reserve』のほうをタップする。すると、少し時間を置いてメニューが表示された。表示された中の三皿は、ファーストクラスのみが注文できる料理である。


「どれ食べる?」

「『ギレリアル定食』っての美味しそうだな」

「これ? ……なんか、凄くカロリー高そうじゃない?」

「まあ、そうだが――」


 出来る嫁――否、彼女は、彼氏の食事にも気を使ってくれていた。もちろん、弁当を食べること自体を制限するつもりなど全く無い。時間的に余裕がなければ自炊など難しいためだ。それゆえ、要所要所で外食をして済ますのはコストパフォーマンスが良い。けれど、栄養面では愚の骨頂。大量に使用された添加物、酷い時には常人の考えを超越するほどの脂肪や塩分が含まれていることもある。


「私としては、こっちのほうが美味しそうだと思うな」

「野菜炒め牛丼? まあ、画像見た感じ美味しそうだけど……」


 『野菜炒め牛丼』と呼称されたどんぶり。機内食としては、同じように記載されている他の弁当より遥かにカロリー計算が練られた料理であると分かる。隣には『野菜炒め牛丼セット』なるものも記載されていた。ジュースとデザートが一緒に付いてくる定食で、味噌汁は無い。


「出来れば、私はそれを頼みたい。他はパン食とかだから」

「お前、パン嫌いなのか?」

「白米にこだわりが有るわけではないけど、パンを食べるよりはご飯食べるほうが好きかな」

「そうなのか」


 『ギレリアル定食』は、パンやソーセージなどで構成されていた。ケチャップや辛子マヨネーズなど、顧客を太らせようとしている意図が見える。『野菜炒め牛丼セット』と同じようにジュースも付けられているのだが、そこで出されるジュースは栄光の『無果汁』。すなわち、果汁は皆無に等しい。代わりに、そのジュースには炭酸が付け加えられていた。


「だから私は、『野菜炒め牛丼セット』を注文する。稔は?」

「そうだな……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ