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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章B エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-84 宿泊部屋

 ラクトの言うとおりにプリンを作った後、稔は赤髪監修のもとでサラダを作った。そんなこんなで夜の七時半頃を時計の針が刺した頃、後はプリンが出来上がるのを待つだけという時間帯。アニタの姉が台所の扉をノックして入ってきた。


「お風呂入り終えたんだけどー、どれくらいで出来上がりますかねー?」

「八時頃です。でも、プリン完成するのを待つだけなんですよね」

「そっかー。じゃ、八時に来るねー」

「お願いします」


 アニタの姉と受け答えしたのはラクトだ。変にイジることもなく、金髪姉は扉を閉めて自分の部屋へと戻っていく。だがその刹那、再び扉が開いた。同一人物による仕業である。


「やめてくださいよ」

「ごめんなさーい。帰る前に、君達が泊まる部屋を教えておく必要があるからさー」

「そういえば聞いてなかったですね」

「でしょー?」


 だが、部屋への案内はアニタの姉の役割でない。戦場カメラマンを名乗ったほうの金髪が担うべき案件である。しかし、話したい気持ちを阻害するわけにいくまい。暴力が降られていることが浮き彫りになった以上、突き放すなんていう行為は「最低」と言われても何らおかしくないからだ。


「それで、どこなんですか?」

「乗り気だねー。まあ、案内するよ。付いてきなー」


 アニタの姉はそう言い、台所から出ようと二人を誘う。カレーもサラダも作り終えていた稔とラクトにとってみれば、拒まなくてもいい話だ。付いて行きたくないという強い思いなど無かったから、当然、二人はアニタの姉に付いていく。道中、金髪姉は己の真骨頂を見せた。


「二人はどういう関係なのー?」

「交際関係に有る間柄、といったところです」

「彼氏と彼女ねー。確かにお似合いだー」

「あ、ありがとうございます……」


 一〇センチ程の身長差。ヒールを履けば身長差なんてものは殆どなくなる。そんなことを考慮してアニタの姉は言った訳だが、聞いた側は必要以上に意識してしまった。稔はギリギリ受け答えができていたが、ラクトに至っては顔を赤らめて口ごもっている。


「どこまでいったのー?」

「ど、どこまでって、そんな……」

「意味わかってるくせにー。教えてくれれば既婚者からアドバイスするぞー」

「色々と問題抱えてるじゃないですか……」

「そうだけど、でも、教えられることは一杯あるんだぞー」


 クスクス、とアニタの姉は馬鹿にしているような笑顔を見せる。論戦で培ったスキルを存分に発揮できない以上、ラクトを頼ることも出来ない。既婚者からのアドバイスで得られる情報の価値は大きいと思ったが、一方、稔は話しづらさを感じた。そうこうしていると、二人は渡り廊下に差し掛かる。


「ここから向こうは民宿の敷地なんだよー。下に川が流れてるでしょー?」

「川ですか? ……ええ、確かに」


 民宿が立っているのは川を越えた先だ。だが、アニタの姉が『川』と呼称するそれは、それほど大きな川ではない。わずか幅三メートル程度だ。川岸にある光に照らされた白色の礫岩も相まって、下流より上流に近い印象を受ける。


「一応、『島』って設定でねー。川底までは深さ五メートルくらいあるんだよ」

「凄い本格的なんですね」


 川の両岸には花々が植えられている。園芸にも抜かりはないようだ。外から見た限りでは『川』の設定も『島』の設定も分からないようになっているが、民宿に宿泊するとよく分かる。渡り廊下を歩きながら、稔はそんなことを感じた。




 渡り切っても仕切りは無い。が、次なるエリアに突入したかと思うと、そこは物置のようになっていた。所々に『厨房』『受付』と書かれたプレートが付けられた扉があって、置かれていた物が通路を塞がないように整理されている。そんな場所を更に奥へと進み、突き当りまで来たところでアニタの姉が方向転換した。目の前には階段が映る。


「この上は従業員の休憩スペース……と言っても、家族経営だから使わないんだよー」

「つまり、今日泊まる部屋は――」

「休憩スペースってことだね。でも、お金を払う必要無いんだし、いいと思うよ?」

「そうですけど……。でも、休憩スペースってソファとかロッカーとかが有るようなイメージで」

「大丈夫だよー。畳とテレビと机しかないスペースだしさー」


 稔は内心、「本当かよ……」と疑問を拭いきれていない気持ちだった。しかし、百聞は一見に如かずと言う。アニタの姉の言っている情報が嘘であるか真実であるかなんて、見なければ分からない。そのため黒髪は、最後の案内を依頼しようとしたのだが――。


「ああ、確認は二人で取ってねー。私は子供の面倒見なくちゃいけないからさー」

「そうですよね……」

「では、良い夜をー」


 狙って言っているとしか思えない台詞を吐き捨てるアニタの姉。そのあと猛スピードで渡り廊下を越え、金髪姉は我が子のもとへと帰っていった。一方二人は、階段の前に立たされる。渡り廊下を歩き終え、イジられて赤面になっていたラクトもいつものような顔色を取り戻し、ようやくまともな会話が成立する雰囲気が整い始めた矢先のことだ。


「……部屋、行こっか」

「そうだな」


 階段の照明を点け、二人は段を上っていく。互いに意識しすぎて手を繋ぐことも出来ないし、もちろん会話も出来ない。そうこうしているうちに、稔とラクトは二階部分へと到着してしまった。


「開けるぞ」

「う、うん……」


 料理を作っていた時とは大違いな、ドキドキとした感情。稔もラクトもその感情でいっぱいだ。互いに顔を紅潮させたままの状態が続く。しかし、今日泊まる部屋を確認しない訳にもいかない。口数少ないまま、二人は休憩スペースへと続く扉を開けた。そして、入って早々に電気を点ける。


「結構広いな」


 休憩スペースと謳っているが、実際は会議室並みのスペースだった。アニタがしっかり許可を取った証拠なのか、机の隣には布団が置かれている。机の上にはポットと最中の入った籠。アニタの姉が言っていた通り、部屋には机とテレビしか無い。でも、トイレとシャワールームがあった。稔が予想で挙げたロッカーなどはないようだ。


「そういや、ラクトってシャワーだけで済ませられる系の人?」

「問題ないよ。誰かさんと違って、動き回ってないしね」

「確かに」

「もちろん、浴槽に浸からないからって洗濯しない訳じゃないけどね」


 照れで会話が弾まなかった稔とラクト。だが、一つ言葉を交わしただけで会話が軌道に乗った。言いづらい雰囲気さえ無くなってしまえば、相手と会話をしたいという気持ちだけが双方の感情を支配するためである。でも、内容は下品なものだった。


「何してんの」

「リモコンを谷間に入れてみた」

「やめなさい。――と言っても、俺が手をだす訳にはいかないんだな」

「ほれほれ」

「やめなさい」


 テレビをつけるためにラクトがリモコンを手に取ったのだが、起動したかと思うと机には戻さず、彼女はリモコン置き場として胸の谷間を選択した。やめろと訴えるが、そんな稔の言葉などお構いなし。むしろ、火に油を注ぐだけだった。胸を中央に寄せたり戻したりし、遊びはじめたのである。


「上下に擦ろうか?」

「やめてください。リモコン戻して下さい」

「気持ちに昂りは見られない、か……」

「狙ってやったってことだな? そういうことなんだな?」

「ご名答」


 ラクトはそう言い、ニコッと一笑した。だが、彼女はそれと同時にリモコンを谷間から抜刀するように抜く。続けざま、パソコンのディスプレイなどから埃を除去する為に使うブロワーを作った。そして、リモコンの至る場所に風を吹きかける。稔からこれ以上の反感を買うことは望ましいことではないと思ったが故の行動だ。


「悪気がないわけじゃないけど、責めないでもらえると嬉しいかな」

「分かった。まあ俺も、嫌よ嫌よも好きのうちというか、見てて嫌なわけじゃなかったしな」

「なるほど。目の保養になるなんだね」

「そういうことだな。ちょっと見上げる感じなのも高評価」


 一六四センチに対して一七五センチ。抱きしめる場合にはもう少し身長差が欲しくなるが、胸に対して向かう視線は下に向いている。つまり、ラクトが少し上に視線を送る程度ということだ。加えて、元気の良さをアピールする場合に視線が上を向いているとなると――その破壊力は抜群と言わざるを得ない。


「これから何する?」

「今日一日の反省でもすればいいんじゃないか?」

「いいね、それ。じゃ、手始めに紫姫とのデート話を」

「彼女が『デート』と口にすることがあっていいものか……」

「そんなこといったって、あれ、私が認めたようなもんじゃん」


 ラクトは独占欲が無いわけではない。だが、映画館から出てきた時に本人の口から飛び出した通り、「本当に見たい映画は一人で見るべき」という考えを持っている。もちろん、稔との付き合いに嫌気が差したなんて気持ちは一切持っていないが、映画を見たくないなんていう気持ちも持っていない。一人になれる上に映画を見れる時間が確保できない彼女にとって、遊園地は待ちに待った機会だった。


「まあ、色々とあったんだよ。それに、好きな気持ちは変わらないし」

「ちょ……」


 稔の身体にラクトが寄りかかった。同頃、柔らかな感触とともに体温が伝わる。それから間もなくして、稔に対して上目遣いを向ける赤髪。紫姫に色々プレゼントしたとはいえ、稔は本命を振り捨ててまで逃げることは出来ない。


「余計なお節介をした件は悪かった」

「いいよ。そう思っても仕方ないもん」

「そうだぞ。でも互いに楽しめたんだし、結果オーライってことで良いんじゃないか?」

「そうだね――と言いたいところだけど、そこは話を聞かないとダメ」


 稔は「えー」と躊躇いを見せる。が、『黒白』の真の力はラクトのサポートがあって始めて発揮されるようなもの。重要な一戦、つまりは取り返しの付かない此処ぞという一戦の場合、現場監督と全てを統括する司令官の存在は絶対だ。その指示によって、下に立つ戦士が狂うか快進撃を見せるかが決まる。なれば、話しておかないで絆を壊すのは後に響く。


「わかった」


 だから稔は、そう返答した。咳払いをした後、ラクトに対して遊園地で一連の流れを話し出す。


「ジェットコースター、お化け屋敷、バトルツリー、ウォータージェットコースター、観覧車……と、色々と回ったぞ。お化け屋敷で紫姫が恐怖の呑底に落ちたのは見ものだったな。流石に、あそこまで表情を豹変させるとは思わなかった」


 一人称が『我』で、話し言葉を言いつつも、必ず常体で結ぶ紫姫。そんな紫姫が見せた驚きと恐怖を訴える表情は、稔に喫驚を与えた。一方ラクトは、話だけでは情報が掴めないということで脳内を探る。絵面にして内容を理解すると、「確かに」と言って頷いた。


「バトルツリーは最終階層まで行ったぞ。それで、新たな精霊が俺の配下に加わった」

「どんな精霊?」

「良くも悪くもラクトみたいな精霊」

「なにそれ」

「ともかく、召喚してみれば分かると思う。――ということで」


 ラクトに似ているのは胸の大きさだけ。アイテイルが使用する魔法や口調は、彼女と比べたら全然違う。今の話し方では誤解を与えかねないと判断した稔は、一先ず銀髪を召喚することにした。


「――アイテイル、召喚――」


 召使を魔法陣から呼び出す時に言い放つ、『サモン』という言葉は伏せておいた。精霊を魂石から呼び出す時に使う言葉には基本の言葉があるが、意味さえ通じれば違う言葉でも構わないという魔法使用と同じ基本方針である。だから、新鮮さを味わうのが容易だ。だが、そんなことに心を打たれている暇はない。


「やばい、胸の大きさ負けてる……」

「やめろ、紫姫が可哀想だ。いや、織桜か?」

「やめて。よく見えないかもだけど、凄い傷ついてるから」

「さっきのリモコン案件が嘘のようだな」

「うるさい!」


 怒りの感情を露わにし、稔の頬を抓るラクト。それに対し、アイテイルは首を傾げていた。契約した主人が彼女を持っているなんて聞いていなかったから、なんら不思議なことではない。


「二人はどういう関係ですか?」

「そうだそうだ! こんな巨乳美少女と契約したなんて聞いた覚えはないぞ!」

 

 稔の配下に居る他の召使や精霊達の一部を除いて知らされていない話。それに関してラクトから追及を受け、黒髪男は言葉を失ってしまった。「お前の乳も中々だが」なんてセクハラじみた言葉を言って火に油を注ぐ訳にもいかず、両者から話すよう迫られて十秒が経過する。だが、そんな時だ。


「精霊の睡眠を邪魔するとは貴台の鬼畜さに呆れた――と思いきや、なんだこれは?」

「紫姫……」


 黒船来航――否、大砲なんて向けていないし、むしろ味方だから白船来航と言うべきだろう。精霊魂石で休憩を取っていた紫姫が、睡眠を妨害されたとして魂石から出てきた。稔は舞い降りた天使のように思え、降誕した女神に縋ろうとする。だが、神は救いを求める信者を一蹴した。


「残念だが、我は貴台が望むような都合の良い機械ではないから、貴台からの『指示』を呑む気は無いぞ。それに、相手を擁護するだけが愛情なのではない。相手の気持ちを思って、その者を成長させようとする気持ちこそが愛情というものだ」

「深いな」

「何を詠嘆している。事態を悪化させたのは貴台のはずだ。迅速に彼女らとの関係改善に努めよ」


 溜まったストレスと言う名のガスを吐き捨て終えたようで、直後、紫姫は精霊魂石へと戻っていった。一方稔は、『戦友から何か言われないと行動できない主人』という濡れ衣を着せられたと自分を恥ずかしく思う。が、それによって逃げる手段は消滅した。同時、解決方法として最も適切な方法だとして、二人に対して説明を始める。


「まず、ラクトから。彼女はアイテイル。第六の精霊だ。借りているわけではないし、契約で接吻を交わした以外に何かした訳じゃない。強いて言えば、契約前に戦闘があった程度か」

「新入りってだけなんだ……」

「そうだぞ。だから、心配は要らない。仲良くしてやってくれ」

「分かった」


 ラクトはそう返した。一先ず、赤髪からの信頼は回復したようである。それに対し稔は、「おう」と理解してくれたことへの感謝を咄嗟に一言吐く。続いて彼は一八〇度回転し、アイテイルにはラクトとの関係を話す。


「こいつはラクトだ。俺の彼女で、召使。一言で言うなら、掛け替えの無い存在ってところだ」

「掛け替えの無い存在、ですか」

「そうだ。今じゃ何人もの精霊と罪源と召使を雇う事務所になったが、こいつとの契約が最初な訳だし。だから、名実ともに特別扱いしてる訳だ。そういうのを理解してくれたら有り難い」


 そう言い、アイテイルに理解を求める稔。翻り、銀髪は少し間を置いて返答した。


「分かりました。そういう関係だったのですね」

「理解、してくれたのか……?」

「主人と精霊が相互理解するのは大切なことでしょう。ここで抜かりを見せてどうするんですか」

「そうだな」


 考えに不足があったと言わんばかりの落ち込んだ表情を見せる黒髪。その一方、言葉の意味は違えども、『主人』と関係を持っているラクトとアイテイルは良好な関係を築く第一歩を踏んでいた。


「その服、可愛いですね」

「ありがとう。着たければ作るよ?」

「服は要りません。でも、友達が欲しいです」

「分かった。じゃ、友達の印に『むぎゅー』をしよう!」

「『むぎゅー』とはなん――」


 アイテイルが疑問に思って言葉に出した、その刹那。レイプ犯さながらの素早い動きを見せてアイテイルの後ろを取ると、ラクトはトップバスト目掛けて手を前方へと進めた。そして、一揉みする。


「ひゃ……!。な、なにするんですか!」

「敬語使ってるから、ちょっと硬派なイメージ持っちゃってさ。でも、ちゃんと反応するんだね」

「そんなの気にしないでください。それが個性です。まったくもう……」


 アイテイルはラクトに対してムスッとした表情を浮かばせ、嘆息を漏らした。赤髪だって他人の嫌がることを徹底して行うのは会議だけにしたかったから、ため息を聞いて胸から手を離す。だが、行き先は自分の方向ではない。そのまま下へと下げ、アイテイルのへそのある場所を一周するように抱きついた。


「友達になろうか、アイテイル」

「はい、お願いします」

「お願いされました!」


 いい雰囲気の二人。ラクトが言った後、終始満面の笑みを浮かばせていた。一方稔はというと、自分に与えられたイメージを払拭するためにはどうしたらいいかと考えこんでいる。だが、ラクトもアイテイルも汚名を記憶していない。そんな重要なことを稔が知っていないことを知り、ラクトはアイテイルと友達になった後、すぐに稔に近づいて言った。


「そう悩まないでよ。そこまで重大なことじゃないんだしさ。てか、私もアイテイルも、事情を話してくれたことで満足だよ? だから追及する気なんかないし、頼りない主人とも思ってない」

「本当、なのか?」

「もちろん。頼れる時に頼れれば、話して欲しい時に話してくれれば、それで十分だよ」


 出しゃばって話しても嫌、隠し続けて話さなくても嫌。ラクトはそう言い、適度に話せていれば問題無いと主張した。その話にはアイテイルも納得していて、「私もそう思います」と頷き、同様の主張をする。もっとも、二人は全ての女子を代表して言っている訳ではない。あくまでも私見だ。


 でも、重要人物の言い分を呑んで損はない。自慢話や過去の話は程々に、責任逃れはしない方向で、と稔はラクトの話を元に今後の方針を決めた。信頼される主人を目指し、稔は決意を言葉に表す。


「分かった」


 その言葉を聞くと、ラクトが大きく首を上下に振った。一方アイテイルは、言葉を聞いてすぐに魂石へと帰還した。それから数十秒の間を置いて、シリアスモードが終わる。


「さてと。この雰囲気を打破するためにゲームをしよう」

「なにするの?」

「ゲームと言ったら、決まってるだろ!」

「ちょっ!」


 そうして、約束の時間へと時計の針は進む。

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