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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章B エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-81 ロパンリへ

 観覧車を降車して歩き始めた頃、時刻は五時三〇分だった。午後五時四五分まで遊んでいいという事にはなっていたが、そろそろ戻ったほうが良いのではないかと思い、稔はアイス屋探しに没頭する。やっとの思いで見つけたアイス屋でバニラとチョコのアイスをそれぞれ一つずつ買うと、チョコのほうを紫姫に渡し、バニラのほうを食べ始めた。


「アイスとはこれ程までに美味しい食べ物だったのか!」

「これ、ソフトクリームだけどな」

「アイスには種類があるのか」

「まあな。あと、アイス溶けるからな。早く食えよ?」

「了解した」


 頷き、紫姫が答える。そのすぐ後、稔は紫姫の手をとった。暗くなる中で歩く以上、お化け屋敷で恐怖を隠し切れない紫姫を支えてやるべきだと思ったが故だ。稔の右手と紫姫の左手が、握り合う。そんなとき、紫髪は視線の先で薄っすらと魔法陣が光っているのを確認した。


「どうやら召使達は、次々と自主応召セルフリターンしているようだ」

「そっか。紫姫は、最後まで一緒に歩くか?」

「アイスを食べ始めたばかりであるし、そうしてもらえると助かるな」

「了解。じゃ、そういうことで」


 アイスを食べながら、稔と紫姫は来た道を戻っていく。観覧車に乗る前、紫姫が釘付けになってしまってつい購入してしまった例の衣服屋は既に閉店していた。お化け屋敷は夜ということもあって、中々の盛況ぶりである。ウォータージェットコースターは、レールから前方方向にライトを点灯しながら続行していた。そして進んで行く中で、稔と紫姫は無駄に大人数な集団を発見する。


「ここは……映画館?」


 『CIP Cinema Tower』と看板が取り付けられていることから、大量の人々を虜にしていた施設は映画館だという裏付けが取れる。と、その時だ。身動きがそう簡単には取れそうにない集団の中で、稔と紫姫に手を振る美少女の姿を『黒白』が捉えたのである。よくよく見れば、それは赤髪巨乳の方。音信不通で拉致されたのではないかと疑惑を抱かせてくれた、稔の彼女である。


 彼女は左手に戦利品――否、何かが入った袋を持ちながら、稔と紫姫に近づく。彼女として他の女と手を繋いでいる彼氏に怒号を散らせるかと思わせるスピードの歩きだが、しかし、ラクトは基本的に人をイジる一方で温厚な性格。約束した件もあったから、彼女が怒るはずなかった。


「楽しかった?」

「まあな。ラクトは何してたんだ?」

「映画を見ていたんだよ。アニメ映画をね」

「へえ。でも、なんでグッズゲットしてんだ?」

「これ? これは入場者プレゼントだよ。中には時計が一つ入ってる。――ほら」


 ラクトは取り出して言った。見せびらかすため、左手の手首に時計を装着する。長針と短針などが一点に集う場所を中心としてイラストが入っているが、注視しなければ痛い時計とは分からない。加えて、時計には目玉機能もあるらしい。


「これ、目覚まし機能あるんだって。流石に声は搭載できなかったみたいだけど」

「まあまあ。入場者プレゼントだし、仕方ないだろ」

「そうだよね」


 稔が出した結論に納得するラクト。すると、その刹那。彼女は視界に大好物を捉えた。


「それはアイスか!」

「やべ……」

「隙ありっ!」


 真面目な話をし終えて早々、稔は彼女によって窃盗の被害者となった。だが、奪われた時にふにゅっという柔らかな胸の感触を身に感じたので、プラスマイナスゼロという結論に至る。同じ頃、隣では紫姫がアイスを食べ終えた。だが間もなくし、自分の胸に手を当てる。


「格差社会だ……」


 チラリと赤髪の胸を見て、紫姫は落胆した。しかし、嘆息を吐いたところで成長する可能性は絶たれている。精霊の体型が意思を継いだ男性もとの好むルックスなのだから、既に死んでしまっては変わることが無いし、つまりそれは精霊の胸が成長しないことを示す。だが、稔はそんなこと知らない。というよりか、彼はラクトにアイスを奪取されて一杯一杯だ。


「このアイス、すごい美味しいね」

「人から奪ってご満悦ですか、そうですか」

「ち、違うし! これは譲渡だし!」

「捏造も大概にしろよ、全く」


 そもそも、稔は食べたくてアイスを購入したわけではない。紫姫の分を買うなら自分用にも買おうか、というレベルで購入したまでだ。だから、ラクトから奪取されたものを返してもらう必要はない。ただ、それは正々堂々と「奪いました」と主張する場合のみだ。捏造してまで正当化するのは、流石に頂けない。


「ごめん……」


 だが、赤髪は心を読める人材だ。稔の苛立ちを誤解なく理解した彼女は、素直に謝る。ちょうどその頃、二つの精霊魂石が光を発した。アイテイルは魂石で治癒を行っている途中であるから、二つ魂石が光ったということはサタンと紫姫が戻ったという意味になる。言い換えれば、稔と直接の契約をした精霊達は全員魂石へ戻ったというわけだ。


 そういった状況を確認し、理解した後。頭を下げ続けているラクトに対し、稔は「分かった」と言った。同時にラクトが顔を上げる。しかし同頃、赤髪は自分にとって理不尽な質問を受けた。


「そういやお前、映画館って一人で入ったのか?」

「そうだよ」

「おいおい、複数行動してくれよ」

「嫌だよ。映画は一人で見るものじゃん」

「まあ、分からなくもないが……。けどそれ、俺の前で言うか?」


 稔は、自分のことを嫌っているからラクトがそうしたのではないと分かっていた。けれど、付き合っている相手に言われたダメージは案外大きい。見たい映画だからこそ一人で思い切り楽しみたい気持ちも分かるし、誘いたくない映画だってあるのは重々承知の上だ。けれど、そういう気持ちは心の中に潜めておいて欲しい。――と、そこまで考えて。


「いやいや、質問したの稔じゃん」

「……」


 稔は自分が天を仰いで唾を呑んでいるのだと知り、恥ずかしさの余り一気に顔を赤く染めていく。それに対して、ラクトは大笑いだ。当然反論したくなるが、ラクトの前では不可能である。味方にしても敵にしても強い。それがラクトなのだ。


「まあ、稔が心配している理由は分からなくもないんだよね。だから、今度から注意します!」

「ぜひ、そうしてくれ」


 ラクトによる宣言を聞いた後。稔はコメントをつけてから、続けざまにこう問うた。


「そういや、召使達は大丈夫なのか?」

「無問題だと思うよ。デバイスによれば、皆もう魔法陣に戻ってるはずだから」

「そうか。あ、このデバイスどうするんだ?」

「皆の分はロパンリ駅で回収する予定。稔の分、今回収したほうが良い?」

「じゃ、そうしてくれ」


 稔はそう良い、配下の召使・精霊・罪源に手渡したデバイスよりも大きな親機と呼ぶべき機械を取り外した。それを躊躇なくラクトに渡す。もらってすぐ、彼女は手中にそれを置いて何物にも変化する物体へと変換する。


「そういや、ラクトはもう外してるんだな」

「痕つくの嫌だからさ。てか、どうせ映画見るだけなんだし着けてる必要ないでしょ」


 ラクトは笑い混じりに言った。するとその刹那、彼女が稔の手をとる。


「さあ、ロパンリへ戻ろう!」

「お前、本当に夜型なんだな……」

「昼間に仮眠取ったらこうなるってば。ほら、行こうよ行こうよ」

「わかったから引っ張るな」


 手を繋ぐことに抵抗はないし、むしろその方が嬉しい。けれど、引っ張られるのは嫌だった。が、それは自分勝手と言えなくない。紫姫を振り回したことが無いわけではないから、稔が批判する立場ではないのである。でも、そういう塗りつぶして消し去りたい過去すら見抜けてしまうのがラクト。赤髪は、口から出てしまった稔の本意を知って黒髪を馬鹿にする。


「言える立場じゃないくせに」

「悪かったな。でも俺、行きたくないなんて一言も言ってなくないだろ?」

「確かに」

「まあ、そこまで馬鹿にしてくれるなら――こっちが引っ張ってやるよ」


 ラクトが引っ張ったスピードと同じくらいの速さで、稔が仕返しに引っ張る。もちろん、突然の行動に驚かないはずがない。ラクトは腰を抜かさなかった一方で怯んでいた。それと同じくして、顔にムスッとした表情を浮かばせる。


「酷い攻撃だ」

「不意打ちだったのは確かだな。それは済まない。ただ、これでお互い様だろ?」

「そうだね。じゃ、早く帰ろうよ」

「そうだな」


 言い争いを続けても成果を得られないと判断し、ラクトは稔の言い分を呑んで早く遊園地を出ることにした。もっとも、遊園地の敷地内からでもテレポート出来ない訳ではない。けれど、それでは他の客を驚かせる可能性がある。結果、取る手段は敷地外でテレポートするという一択のみだ。


 出場ゲートを目指して歩き始めて十秒ほどが経過した頃、稔はふと思ったことを質問した。


「てか、ラクトは何か食べなくていいのか?」

「映画でポップコーンとココア飲んだから大丈夫だよ」

「そっか。まあ、あんまり食べ過ぎても夕飯入らないもんな」

「そうだよ」


 ラクトは勢いよく頷く。それからまた、稔とともに更なる雑談を交えて出場ゲートを目指す。左右に広がる土産コーナーなど眼中に無く、直線道路の先に見える敷地外と繋がっている場所のみを見て二人は進む。


 三分くらい歩いて、稔とラクトは出場ゲートへと到着した。入場した時とは違って、チケットを提示する必要はない。とはいえ、出てすぐに魔法を使用した場合、係員を驚かしてしまうのは明白だ。そのため敷地外に出てから追加で歩き、ゲートから少し遠くの場所で立ち止まって魔法を使用することにする。でもそこは、遊園地の夜景が綺麗に写るポイントらしい。


「記念に写真撮らない?」

「いい考えだな。じゃ、俺のスマホで」

「うん」


 ラクトのスマホを用いて写真を撮ることはできるが、メモリに移す必要が出てくる。二人はそれを踏まえ、稔のスマホで写真を撮ることにした。機械の所持者は慣れた手つきで操作し、カメラアプリを起動してバックカメラに設定して二人を写す。


「タイマー、十秒でいいか?」

「大丈夫だよ」


 タイマーを設定した後、稔は右手にスマホを持って天を仰ぐように上げていく。二人の顔が見える位置かつ夜景が綺麗に写る位置を確保すると、そこで稔はタイマーボタンを押下した。画面中央には秒数が表示され、ドキドキしながら二人はその時を待つ。そして――。


 カシャ。


 写真が撮られた音が二人の耳に届いた。ボヤケていないことを確認すると、稔と紫姫は一八〇度回転する。そして手を繋いだ後、稔が魔法使用宣言をした。


「――瞬時転移テレポート、ロパンリ駅へ――」


 待ち合いの時間まで、残り五分弱。遊園地付近はもう真っ暗だ。ロパンリはどうなのだろうとか思いつつ、稔とラクトは飛行機よりも早いスピードで指定の場所へと向かう。

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