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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-70 アイスプレゼント

「ラクトアイスを提供するとかバリスタは言ってるけど、やっぱり珈琲味なのか?」

「『お察し下さい』と言いたいところですが、まあ、そういうことですね。この店、珈琲専門店ですから」

「消臭剤も珈琲の香りに変えてしまうくらいだしな。食品なんてお手の物か」

「私が作るわけではないため何とも言えませんが、母は少なくともそう思っているのではないかと」


 自分の言った言葉に責任を持たないことを公言したわけではないのだが、どこか責任逃れのような雰囲気を漂わすその言葉。思わず、口から「はっきり言えよ」と稔はツッコミを入れたくなった。しかし、親の前で大胆な行動に出ることは出来まい。いくら客だろうが、店員との間には超えてはいけない線がある。そういうところをしっかりと理解し、稔は喉まで来て出かかっていた言葉を呑み込んで押し殺した。


「そういえば。みのるん先生、何か教えるようなこと言ってましたよね?」

「『みのるん』て。おいおい、どんなゆるキャラだよ……」


 目を細めて鼻で笑う稔。個人的に呼称など不問だったのだが、教師をあだ名などの軽い名前で呼ぶのは教育上間違いであるような気がして、黒髪男は真剣に悩む。とはいえ、円滑に話を進ませる能力も教師に求められるスキルである。それは親に対しても子に対しても必要なスキルだ。色々と悩ましい点はあったが、取り敢えずは一段落付けるために後回しして稔は話を再開する。その途中、一度咳払いがあった。


「ラクトよりも下に位置するかもしれないけど……俺でいいのか?」

「構いません。それに気配りができる方なら、異性の先生だと話が弾むように思いますし」

「そうかな? まあ、個人差は何にでも有るし一概に言えないってのは確かかもな」


「じゃあ、何の教科を教えて欲しい?」

「絵とか……ですかね」

「絵か。美術科に該当する感じで良いのかな? ……って、そんなこと言われても分からないよね」


 自問自答を行うことは控えるべきだと分かっていたのだが、稔はハイテンションガールの脳内を予測しながら話を進めていった結果、先程のように押し殺すべき内容の話――控えるべき内容の話まで口から漏らしてしまった。「やらかした」と稔は即座に思って否定に冷や汗を走らせる。でも、対面して座っていた女の子は首を傾げていた。どうやら事の意味を理解できていなかったようだ。


「稔って絵上手いの?」

「厨二病時代に努力しまくったからな。そういう創作系は割りといける口なんだよね」

「創作というと、文章とかもいけるんですか?」

「文章構成が出来ないことはないけど、俺に作曲は不可能だ。プロデューサーなんか出来やしない」


 技術教科において、体育と音楽は得意科目と呼べるものではなかった。五教科は基本的にどれでも対応可能なのだが、あいにく学ばせる場所がエルダレアという異世界の国。現実世界で学んできた日本史も世界史も通用しない。言語は日本語を学ばせても大丈夫なようだが、かつて厨二病だった名残として、無駄に難解な熟語を話たりする可能性があって中々踏み切れない。


「作曲なら私がやるよ、稔。衣装デザインや歌詞は稔に任せるべきかもしれないけど」

「おいおい、アイドルグループでもプロデュースする気か?」

「ヘル、スルト、紫姫、レヴィア、エルジクス、ティア、イステル、サタン、エースト。もう九人居るじゃん。声の作り方は織桜に学べば早いだろうし。それに、ヘルは喜びそうだし。いいんじゃないかな」


 九人でアイドルグループが結成できないはずがない。あまり多すぎても推しメン以外を見なくなるのは確実だが、少ないとファンの心を射れるアイドルが居ないことにも繋がるため、一長一短といったところだ。そんなふうに色々と考えてみると、何だかんだアイドル事情が難しいのだと理解できた。そして稔もラクトも双方とも、話をし過ぎないほうがいいという結論を思う。


「じゃ、検討ってことにしておこう。変な方向に時間を割くのはバカバカしすぎる」

「そうだね。それじゃ、厨二病で磨き上げた実力を見せてもらおうか」

「臨むところだ」


 ニヤリと二人とも挑発するような笑みを浮かべる。まるで、「喧嘩するほど仲がいい」ということを実際に表わしているかのようだ。同じ頃、冷凍庫の中から作り置きしていたラクトアイスを取り出してカップに移して生クリームを注入中だったバリスタが、殺気のようなものを生み出す。とはいえ、生クリームなんていう物を使用している以上は繊細でならなければならない。ゴゴゴ……、と燃え盛る炎を背後に纏いながら彼女はこう感じていた。


「(末永く爆発しろ、お前ら……)」


 近くにテーブルがあったら投げているかもしれないくらいの怒りの様。そんなバリスタの一方、娘は教師陣との話に夢中になっていて気が付かなかった。そういう事情を知ると、直後、喫茶店の店主ポジションに居る女が余計に怒ってしまう。「末永く爆発しろ」などという言葉で包み込むことが出来なくなりそうなくらいだ。だが、繊細な作業に苛立ちは不要である。


「(集中集中……っと)」


 集中力を取り戻すと、再びバリスタがラクトアイスに小細工を加え始めた。常温の場所に置き続けると客に提供する以前に溶けてしまうという問題が発生するから、生クリームでアイスに細工が追加された後にパタパタと団扇で冷風を送る。ちらし寿司でも作っているかのようだが、そもそも本業がアイスを作ることが本業で無い以上は責めることなど出来まい。


 そして最後。板チョコレートの一片を綺麗に切り取ると、バリスタは生クリームとアイスの間に設置した。アイスクリームにしてもチョコレートにしても既に溶け始めているのは確かであり、全体的に固形が保たれていると言えても断片的に見ると溶けていた。リア充に対しての苛立ちが激しくなった結果、燃え盛る怒りの炎によってアイスが溶け始めていたのである。


「ご注文のアイスになります。少し溶けていますが、何卒ご了承ください」

「溶けてるとは言わないでしょ」


 稔とラクトに、ラクトアイス+αの食べ物が入ったカップを提示するバリスタ。バリスタが必死に「溶けている」と主張しようが、二人とも溶けていないと考えた。その一方で貰ったアイスはすぐ口へと運ばれる。二人とも美味しそうなアイスを見て、迷う暇を無くしたのである。


「「いただきます」」


 早急に食べた二人だったが、食材に対しての感謝の気持ちを忘れることは無かった。声を合わせようとせずとも合う所はさすが心友と言える。振る舞われたアイスクリームをどんどんと口に運んでいく姿も重なり、料理人としてバリスタは感無量だった。そして店員が次に気付いた時。そのとき、アイスクリームではなくリア充に対しての怒りのほうが解けていた。


「流石は珈琲評論家のバリスタだけある」

「バリスタって本名じゃないと思うけど……」

「姓名の『バリスタ』じゃなくて、仕事内容に関して言ったつもりなんだが?」

「……こっ、このアイス美味しい!」

「話を逸らすな!」


 ラクトは銀髪でも邪神でもないが、すぐ近くに有ったフォークを装備して突く態勢に入る稔。とはいえ、それほど怒りが有ったわけではなかった。一方、シュンとした表情を浮かべて赤髪が謝罪する。論争で負けて実力行使をしなかった点は評価に値するが、論点ずらしは有り得ない。黒髪男はそんなことを言う。


「本当、仲いいですね。それって自然体なんですよね?」

「少なくとも俺は自然体だ。ラクトは――」

「私も自然体だよ。偽りの心で話を進めてたら仲良くならないって」

「なんか、互いを認め合ってる感じがします」


 簡潔に稔とラクトの関係をまとめるバリスタの養娘。無論、ハイテンションガールは決して二人をおちょくる姿勢で話している訳では無い。だが一方、心友は要点をまとめて話されて顔を紅潮させた。塗色度合いはラクトの方が上である。


「ラクト先生、今の一言で顔を染め上がらせないで下さい」

「そんなこと言われても、無理なものは無理だから!」


 目を瞑って頬を膨らまし、ラクトは怒りの表情を見せた。それから自棄やけ酒ならぬ自棄氷菓子(アイス)をする。口へアイスを運ぶと、ラクトは無言でもう一口運ぶ。基本的に話をするのが好きな赤髪だったが、その姿は然程気分が良くないと一目瞭然なものだ。けれど、ため息を吐いてはいない。


「では、先生方。親しみを込めて、『みのるん先生』『ラクティー』と呼ばせてもらいますね。ああ、『ティー』はティーチャーの頭文字です」

「それくらい俺にも分かるわ」


 もっとも、英語で教師を指す場合は『Mrミスター.』や『Msミス.』が一般的だ。とはいえ、エルダレア帝国で学ばれている言語が「日本語のようなもの」と「英語のようなもの」と考えられている以上、無駄な知識と思われかねないので言わないでおこうかと稔は悩む。「困ったな……」とラクトに助けを求めることも出来ない。葛藤の末に稔は、結局言うことにした。


「でも、基本は『ミスター』や『ミス』を使うんだぞ?」

「そんなの常識じゃないですか。敢えての『ティーチャー』ですよ」

「なら、いいんだが……」


 わかっている上で間違っていると知り、稔は葛藤した意味が無かったように思った。だが、ハイテンションガールが痩せ我慢している可能性は否定出来ない。稔は決着をつけようと、相手の心情を探ることが出来るラクトに依頼することを考える。だが彼は、意味のない行為だと思って結局やめた。


「まあいいや。ところで、何から学びたい?」

「似顔絵を描きたいです!」

「似顔絵か。……でも、初心者には難しいと思うぞ?」

「構いません。私、絵師になるって決めたので!」


 右手拳を強く握り、ハイテンションガールは頑張ろうとする意欲ばかりしか見えない笑みを顔に浮かばせる。そんななか、稔は気になっていたことがあった。名前なんか聞き出さなくても良いのだが、固定概念的なものは間違って持ちたくないと思って問う。教育の一環ではなく、自分の聞きたい心に押された形だ。


「そういや。君のテンションってそれが普通なの?」

「はい。でも、みのるん先生の彼女さんよりは話しづらいかもしれません」

「他の女と重ねないってのは弁えてるから大丈夫だ」

「教師と教え子、という意味も含んでます?」

「当然だ。というか、俺はロリコンじゃない」


 目の前に教育を受けたいという生徒が居るが、彼女は外見だけ見たら一二歳前後である。ロリコンでない稔だから、犯罪者のごとく幼女体型に燃えることはない。もっとも、性犯罪者がイコールでロリコンとは限らない。また稔は、「幼女がダメなら熟女か?」などという極端な意見とも相容れない。


「ロリコンって何ですか?」

「幼い女の子を愛する奴だ。そういう奴の顔面偏差値で気持ち悪さが決まる」

「顔面偏差値とは?」

「受験で偏差値って使うだろ? それを学校から顔に変えて当てはめただけだ」

「なるほど……」


 受験というシステムはエルダレアにも存在しているらしく、頷きながら生徒はそう言っていた。しかし時を同じくして、稔は負担を更に被ってしまうことになった。理由は簡単なこと。なんと、魂石や魔法陣から大量の受講希望者が現れたのである。稔陣営のほとんどが講座に参加した形だ。


「お前ら、なんで出てきたんだ……」

「先輩との絆を深めておいたほうが、実戦で役に立つと思ったんです」

「なら、なぜ今出てきた?」

「協議の末です。それはそうと、突然出てきたことに怒らないんですね?」

「それが俺のスタンスだ。これは揺るがない」


 講座参加者の代表役はサタンが務めているらしく、稔の問いはサタンが全て受け答えした。話に折り合いが付けられると、稔は続けて座るよう指示を出す。だが、喫茶店の座席は大人数を収容できるものではない。ゆえに稔は、ハイテンションガールが座っていた机とその隣の机に座らせていった。


「紫姫を除いて全員参加、か」

「えっと、私はラクトさんに音楽を学びたいんすけど……」


 稔が現場を見て言った時、ヘルが怯えるように小さく挙手した。稔は「そんな怖がんなよ」と笑い混じりに言い、ラクトの元へとヘルを送る。アイドルグループという話を聞き逃さなかったようだ。指導役となった赤髪は、ヘルが来たのを見て彼女を対面の座席に座らせた。同じ頃、稔は紫姫を呼び出す。


「紫姫も参加したらどうだ?」

「すまない。絵にも音楽にも興味が無いんだ」

「知ってる。文章だろ?」

「なっ、なぜバレた……」


 無駄に察しの良さを見せつける稔に、紫姫は思わず動揺を見せる。


「俺を見くびるなよ? ……で。俺、一人雑用が欲しいと思ってたんだ」

「我を雑務に回すつもりなのか?」

「嫌なら断ってもいいけど、これも貸し借りだぞ?」


 『黒白こくはく』の間で貸し借りを行ったケースは既に存在していて、主人に恋心を抱いていた紫姫としては絶好のチャンスだった。現状ではラクトに大差を付けられているが、また機会が巡ってくる可能性を考えると実に検討したい話。紫姫の心内や脳内では即座に一人討論会が始まった。そして、数秒後。


「我の言うことを呑むんだな?」

「常識の範疇なら何でもいいぞ。どんと来い」

「ならば、その話に乗ろう」

「流石、話のわかる戦友だな」


 稔が紫姫を褒める一言を発す。だが直後、ハイテンションガールが黒い台詞を言い放つ。冷たい態度では無かったが、稔も紫姫もラクトにも激震が走った。けれど、彼女はまだ学生で在るべき存在だ。そういう子に適当な台詞を選んで稔はきちんと返答を述べた。


「その一言だけ聞くと、みのるん先生にとっての愛人みたいに聞こえますね」

「紫姫は愛人じゃない。戦友であり親友だ」


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