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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-59 「反政府軍」VS「新政府軍」-Ⅵ

「嫌われ役になってたまるか!」


 そう言い、稔は『瞬時転移』を使用してグリモアの目の前に移動した。それと同じく、ろくに魔法が使えない構成員たちを次々と左院入り口へと送り返す。「息をしないように」とか、「手で鼻と口を抑えろ」とか、バリアのなかから稔は大声で叫んだ。拘束したり怯ませたりする戦法でしか交えていなかったが、それでも今は自分の同胞。第三極として革命を起こすことに賛同してくれた残兵たちを、稔は必死に左院の議会から追いだそうと頑張った。


「薬の転送はまだか?」

「十個を突破したところ。ところで議会、どれくらいの兵が逃げれた?」

「目視上は二十名くらいか。もがいてる奴が五十人……七十人くらい居る」

「悪いけど、全員救命は時間的に難しいかも」

「構わない。重症と軽症の中間の奴らから救っていく」


 繋がりがなければ生きていけない生き物。それがヒトだ。無論、緊急事態の時は助け合って対応する。けれど、時には仲間と思っている人物を見捨てることも必要だ。ラクトが提示した『五十個』という数は、それこそ救える可能性がある人数である。一〇〇名をゆうに越している以上、稔が倒れた患者を回って注射を打つなんてしていたら救える命が救えなくなる。


「俺は『中症、重症、軽症』の順で行うつもりだ」

「分かった」


 ラクトは言い、PAMとアトロピンを製造する作業を続けた。無毒化用の物質を含む注射の製造に関して言えば、化学式を脳内で綴るだけの簡単な作業だ。だが、注射器を作ることも同時に行っていたこともあって時間が余計に掛かってしまう。――と、そんな時だ。


「先輩。注射時、くれぐれも服に触ったりしないでください。貴方も摂取してしまいます」

「分かった。でも、触られる可能性は……」

「こちらから軍手を送りますから、安心してください。それと、VXガスは効き目は強くても当たりどころが悪くなければ簡単に死ぬような毒ガスでは有りません。至近距離だと死ぬ確率が高いですが――」

「分かった」


 稔は『VXガス』についてサタンから情報を得た。ラクトの内心を読んで把握したことを司令官の机上にあった据え置きのマイクから話したのだ。言うまでもないことだが、紫髪本人は決して化学の分野に関して詳しいわけではない。鵜呑みにして伝えることの怖さを知らないサタンに言葉の一つも言えず、けれど、稔は今起きている状況を打破するためにPAMやアトロピンの提供を急かした。


「早く、早く送ってくれ! まとめて送らなくてもいいから!」

「ラクトさん、先輩は――」

「ラクトに聞かなくていい! お前が、サタンが俺の責任で送ればそれでいい! 許可なんか要らん!」

「分かりました。それをご命令とし、転送いたします」


 サタンはラクトが作り終えた注射器三十本程度を、精霊のみに使用が許された『転送』を用いて稔に届けた。稔が『跳ね返しの透徹鏡壁バウンス・ミラーシールド』を使用しているのを分かっていたから、場所も稔の足元に設定しての転送だ。箱に詰め込む余裕なんか無かったが、注射器を患者に握られてはどうにもならないから最低限の対応として大きなビニール袋の中に入れていた。


「どうぞ、ご使用ください」

「ありがとう。追加注文分もよろしく頼む」


 再びヘッドホンを着けると、足元に届いた袋を手に持って稔は中症者と見られる残兵数十名を助けに場を移動し始めた。しかし、ふと残兵達を見た時に稔は驚愕の表情を浮かべてしまう。一つは、軽症者――つまり逃げ切れた残兵らと逃げ遅れた残兵の行き来を閉ざすように、左院入り口の扉に鍵が掛けられていたことが理由だ。そしてもう一つは、明らかに重症者と思わしき残兵が酷い目に遭っていたことが理由だ。


「クズめ……」

「燃やして証拠を隠滅してしまえば勝ちさ! ハッハッ――」


 教団幹部の二番目。グリモワールの側近中の側近のソロモンが、重症者と思わしき倒れている人物に対して灯油を掛けていたのだ。一人だけではない。二桁に到達しそうな勢いである。それは、下劣なものを見る目と笑顔を浮かばせた要因の一つだ。その一方で、ソロモンというクズ男の行動によって治療中の精霊が自分の意思で魂石を飛び出してしまった。それは、『黒白』を形成する稔の相方だ。


「消え失せろ、このクズが!」


 バリア内に突如として現れたかと思った矢先、紫姫は震えながらも両手で拳銃を構えて銃弾を発砲した。放たれた銃弾は『白色の銃弾(ホワイト・ブレット)』で使用するそれだが、紫姫は魂石を飛び出した瞬間にリミッターを解除、『覚醒形態アルティメット』になっていて殺意しか込められていない。グリモアには「甘い攻撃」と言っていたが、やろうと思えば誰かに致命傷を負わすことだって可能なのだ。


 ――しかし、炎は氷を殺す。


「死ぬなら僕は自分で死ぬよ。君みたいな処女ババアに殺されはしないさ」


 そう言って自分に灯油を掛けるソロモン。彼は胸のポケットからライターを取り出し、ドロドロとした血が付着する着ていた衣服を脱いで火をつけた。布は火に弱いことは明々白々であり、燃えないような対策を一切していないこともあって服のあちこちに火が燃え広がっていく。


「革命も『ルルド・デビル』も、これで幕引きだ。皆、地獄でまた会おう……」

「我の体など気にしなくて良い。貴様は症状を訴える奴らに注射を打て!」


 紫姫の浮かべた表情は必死そのものだった。稔も重要な戦友パートナーを裏切るわけには行かないと思って、当初の予定とは異なる方法で注射を打ち始める。症状の段階ではなく、ソロモンとグリモア――つまり教団幹部と近い場所に居る残兵から助けることにしたのだ。一方、紫姫はバリア無しで懸命に戦う。


「今、助けるからな」

「ありがとう……」


 まだ手袋が送られてきていない状態だったが、稔は気にせずに人命救助を優先した。現場監督は注射の打ち方なんてことは少ししか知らない。でも、そんな彼氏を親身になってラクトが支えてくれた。ヘッドホン越しに情報を伝えてくれたのである。同時、一所懸命に戦闘をしてくれている紫姫の声も聞かせてくれた。


「氷弾が炎に勝てるはずがない!」

「それは……どうだろうな!」


 傷ついた身体ながらも、紫姫は拳銃を二丁にして発砲攻撃を続ける。考えの根底に有ったのは『逆手に取る』という言葉だ。氷が炎と対決して負ける理由は分かりきった話だが、ならば消火できる程度の氷を与えれば良い。二丁した理由は言うまでもなくそれだし、また、紫姫は気づきづらいところに手を加えていた。


「残念だ。機関銃にしてしまえば、氷だろうが火に勝てる」

「……あ?」


 不良さながらの大きな態度を見せるソロモン。手に持っていた衣服は完全燃焼間近だったが、彼は焼身しようと思っていたから手放すことはなかった。だが彼は、その熱さを超すように冷たさと痛みが襲ったので思わず手放してしまう。



「――白色の銃弾ホワイトブレット・ザ・セカンド――」



 銃弾はソロモンの身体を連打した。両刀するように両方の手で拳銃を所持した紫姫が間を開けずに何発も撃ったのである。話を最初にした時こそ傲慢な態度と思われる話し方をして見せた余裕の根拠を提示しなかったけれど、紫髪はソロモンの手をぶっ壊す勢いで銃弾を何十発も撃ち放って遂に目標を達成し、余裕の根拠を示すこととなった。


「痛い痛い……」

「煩い男だ。焼けたほうが痛いに決まっているというのに」


 始めの二十発程度はソロモンの両手を直撃したが、それら全ては風で布へと落下していた。それだけで火は燃えなくなったりしなかったけれど、落下した後の炎に向かって更に何発も撃ったことでライターの火は消え失せて無くなる。


「我に殺されるのが侮辱と言うならば、その侮辱とやらを受けてもらおうか!」

「僕は処女ババアから侮辱など受けるつもりはない」

「理想論だけを言い放って勝てると思ってんなら大間違いだ、自己中野郎が!」


 言葉はソロモンに向けられたものだった。しかし、その言葉を聞いたグリモアも自分が批判されたと感じ取ってしまう。紫姫は相手の心情を理解することが出来ない訳ではなかったが、緊迫した状況下で二つの魔法を同時進行で使用するのは不可能。魔法を転用して心を読むことなんて頭の何処にもなかった。


「私を裏切った以上、攻撃を受けることは承知してるんだろうな……」


 グリモアはそう言ってソロモンを庇う。対する紫姫にはグリモワールの話など届いておらず、自分が最善策だと思った方法で『ルルド・デビル』へ攻撃を行っていた。機関銃に進化させた二つの拳銃で『白色の銃弾』を用い、紫姫はグリモアとソロモンを狙って射撃し始める。だが、それと同時に稔へ向かって叫んだ。


「バリアを二重にしておけ、シュヴァート!」

「分かった!」


 自分は既に『跳ね返しの透徹鏡壁バウンス・ミラーシールド』で覆われていたが、残兵達を覆うバリアを築いたわけではなかった。緊迫した状況であることは普通の人間なら察することが出来る訳で、稔は紫姫の思いを汲み取って依頼通り『跳ね返しの透徹鏡壁』を残兵に対して使用する。範囲は自分を基軸にメートルで指定し、敵軍を除く球状の防衛面バリアとした。


「ありがとう、シュヴァ――」


 しかし、感動的展開になることは問屋が卸さなかった。『逆手に取る』という事を目の前で見せつけられた教団幹部二名は、自分たちも同じようにそれを実行したのである。また、二人が手の内を明かしていなかったことも上手く作用していた。グリモアが魔法使用の宣言をして効力が発揮されたと同時、『黒白』は唖然とし、目を丸くして言葉を失ってしまう。



「――効果逆化エフェクト・レボリューション――」



 なんと、稔が張ったバリアを逆手に取ってグリモアは自分たちの攻撃が通るように変更したのである。『黒白』が考えてもいなかった攻撃を喰らったことに動揺を隠せない中、教団幹部サイドは紫姫と蜂起した者らに向けて攻撃を行った。


「――黒書の導き――」

「――鍵弾キーブレット――」


 グリモアは魔導書を作り出して綴られていた文字を人差し指でなぞる。一方、ソロモンは穿いていたズボンの左右ポケットから鍵を取り出し、それを手に握って手の甲の上に幾つもの金色に輝く鍵を作り出す。そして、声を合わせて二人は言い放つ。それと同じ頃、グリモアの後方に何匹もの黒い雌鶏が見えていた。


「「――魔導書よ、勝利へ導きたまえ――」」


 その言葉が耳に聞こえた時、稔が注射を打って命を救ったはずの残兵に対して無慈悲にもその雌鶏が直撃した。大きく黒色の翼を広げている箇所こそ異なるけれど、その鶏は紫姫の特別魔法にある『闇と氷と駆動紫蝶(バタフライ・ドライヴ)』に似たような攻撃をしたのである。同じ頃、ヘッドホン越しにラクトの声が聞こえた。


「稔。紫姫をこっちに」

「え?」

「魔法群を使用できるのは不利だ。精霊同士で交換すれば負担も少ないし、サタンと紫姫を交換しよう。手の内を明かしていない方が戦闘面で優位になる」


 紫姫をロパンリに向かわせることに不満を持っていた稔。しかし、稔の戦友は葛藤する稔を見て首を上下に振った。普段は察する力を発揮できないような主人だけれど、その時は言葉に出ていない紫姫の言葉を察する。


「ラクト。それ、頼む」

「分かった」


 そう言ってロパンリの司令室に指示を送る稔。彼は、サタンがディガビスタルに来て紫姫をテレポートさせたりすると頭では予測していた。しかし、彼の予測は見事に裏切られてしまう。稔が驚かないようにとの配慮からヘッドホン越しに紫姫を転送させたのである。聞きやすい声で『転送』と言われた後、主人はやるべきことを見越した行動を取り始めた。


「あの処女アマ、戦闘から逃げたのか?」

「逃げた訳じゃねえよ。引くも攻めるも作戦のうちって理解出来ねえのか?」

「出来ないね」

「なら、教えてやるよ。戦闘員を入れ替えたことが勝因になるってことをな」


 稔は自信ありげにそう言うと、刹那にサタンが『瞬時転移』を行って稔のサポート役として就いた。移動してきても口は堅く閉ざしたままで、紫姫に「冷静」と評価されたことも頷ける。数秒が経過した頃、「冷静」なサタンが遂に動く。


「(――複製レプリケイション、効果逆化――)」


 内心を読んで敵軍に心を覗く魔法や能力が無いことを知ると、サタンは胸の内で魔法使用の宣言をした。『黒白』に代わって自分と稔との同盟関係、主従の関係を表すような語が欲しかったサタン。しかし、彼女はそのような自分に関しての事柄は後に回す。『全ては稔陣営の勝利のために捧ぐ』という感情が一番の要因だ。

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