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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-57 「反政府軍」VS「新政府軍」-Ⅳ

「貴様には既に見抜かれているかもしれないが、私は誰かを信用するということが出来ない」

「何か幼少期にトラウマでも有るのか?」

「簡潔に話せばそういうことになる。……具体的なことを言うべきか?」

「そうしてくれると助かる」


 稔はグリモアを決して突き放したりせず、親身になって対応した。『元帥』だからと侮辱したり、傲慢な態度を取ったりはしない。「話してくれる」というだけで九割がた満足だったから、ここで相手の本心を踏み躙るような言動に走る必要は無かったのだ。稔は真剣な場面ながら、極力は顔を綻ばせて話を進めた。


「今から数年前の話だ。私は家族総員に騙され、家を追放された」

「追……放?」

「そうだ。追放だ。言葉に間違いは無い」


 稔は言葉一つ一つを重く捉えていて、なかでも「追放」という言葉には傾けていた耳を光らせるくらいだった。同時に自分がどれほど恵まれた環境に居るのかということも把握できるのだが、やはりかといって傲慢な態度を取るわけにもいかず、稔は内心に押し留めてグリモアの話を聞くことを続ける。


「当時は相当な就職難でな。私は面接で努力をしたにも関わらず落ちてしまったんだ」

「それで家族が怒ったのか? 普通、多少は慰めると思うが……」

「昔はそういうことが出来る家族だったんだけど、同時多発的に父が病気で倒れてしまってね。頼りきっていた父は病院送りで生活資金の収入源が無くなった上、当てにしていた娘の受け入れ先も見当たらなくなって、専業主婦たる母親が大発狂した訳だ」

「……」


 下手すれば、グリモアが置かれていた家庭環境はラクトとそれと同じくらい酷い。否、生活資金が手に入らなくなった時点でラクトの家庭環境よりも残酷だ。性欲なんてものは風俗で解決しろと指導することは出来るが、生活資金の調達は指導出来っこないから死活問題である。


「大発狂した母親が――お前を?」

「そうだ。一人娘だったから教育費も相当入れていたらしくて、私に預金通帳の一切を渡さないまま追放してくれたのさ。それこそが、私のマインドコントロールをしようと思った原点でもある」


 献身的になって父を支えたり慰めたりするところには共感を持てる。だが、その一方で誰かが苦しむのだとすれば話は別だ。苦しみを分かち合えるくらいは許しても、一回の失敗で大切な我が子を突き放すことが出来るとは言うまでもなく『クズ』である。とはいえ、今の話は全てグリモアの証言でしかない。全てが全て本当とは限らないから、稔は一意見として活用することにした。


「でも、グリモアがマインドコントロールをしたのは事実だからな。その点で親の影響だなんだ口酸っぱく主張しても無駄だ。その点に関して俺はお前を認めるつもりはない。許してくれ」

「ああ、わかっている」


 稔の言葉にグリモアはそう言う。決して自分の主張を分かってくれていない訳ではないから、諦めるような言い方ではなかった。稔は引き続き聞く姿勢を見せたが、一方のグリモアが「それにてお話終了」という雰囲気を漂わせていたから態度を一変させて、慰めに入る。翻って、ヘッドホン越しに司令官から声が聞こえた。赤髪は稔の事をバカにしてから真面目な話を始める。


「グリモアに相当な敵対心見せてたくせに、擁護に回るつもりなの? 主軸を乱すような真似は本来すべきじゃないと思うんだけど」

「まあ、事情が事情だろ?」

「殺すとか倒すとか言ってた癖に。贔屓?」

「贔屓って訳じゃない。俺にだって考えは有るし、それを実行してるだけだ」


 もっとも、稔の考えはグリモアの話を取り入れて多少の変化を遂げていた。ラクトにはバレバレだったようで、その点を突かれたことに稔は思わず苦笑を浮かべている。とはいえ、主人たるもの心を読めない場面では説明する責務があると思い、咳払いしてから主人はラクトに対して方針を表明した。


「俺らの目的は『革命』だが、同じくらい大切にしてきた言葉が有るだろ?」

「『更正』か」

「正解だ。基本的に俺の主義は『不戦』ってことは把握してるだろ? 武器や魔法で戦いを起こしても憎しみしか生まないから、本当に自分の取れる手段がそれしか無かった時だけ用いる。対話で解決が可能だった今、取るべき手段は――」

「分かったよ」


 稔の話を聞いて言葉を簡単に返すラクト。赤髪は説教のように聞こえる長文があまり好きでは無かったから、後に吐いた嘆息でそういった面を見せていた。しかしため息でラクトの考えを察することが出来ず、稔は長文を更に展開する。


「それに、グリモアと同盟を組んでおけばこの国は安泰だと思うんだ。ルシファーとルシフェルがこの地の統治役になろうと手を挙げてることもあるし、旧政府と反政府で協力して政治を行うほうが良いと思うんだが……」

「そうだね。でも、前科が完全に払拭されるのは少し先の話だと思うよ?」

「大丈夫だ。帝皇を帝都に呼んで監視役になってもらえば良い」


 帝皇は政治に足を踏み込んではならないと法律で明確に示されているのは確かだ。しかし、国民の代表として総理となる人物に任命状を手渡す以上、政治に対して一番の効力を発揮できる人物でもある。政治利用だの何だの言われようが、この混沌とした革命後の雰囲気を立て直せるのはただ一人。帝皇しか居ない。


 現憲法を維持したまま自分の指揮する革命を終了させる。稔はグリモアと同盟を結ぶことが現実的になってきたこともあって、更に先の野望を見つめていた。憲法改正はその道の専門家オタクに任せるべきだと考えたのだ。その一方、自分で出来ることは自分でやろうという思いになる。稔のそんな内心を感じ取って、ヘッドホン越しにラクトはこう話した。


「こっちに帝皇の居場所に関しての資料あるけど……使う?」

「ああ、是非とも使わせてくれ」

「分かった。――読み上げるべき?」

「いや、ロパンリの方に俺が向かうから良い。同盟も締結した後でな」

「そっか。私は裏付けの資料を探すから、現場は稔がよろしくね」

「了解だ」


 稔はラクトの話にそう返答する。数秒後、座席から立った音が聞こえた。一方の主人は「離席するくらいならミュートにすればいいのに」と内心で思う。けれど、そのような余裕を見せる暇があれば同盟締結を急ぐべきである。唯でさえ混乱真っ只中のエルダレアを早急に立て直すためには、協力が必要不可欠なのだ。


「話は終わったか」


 グリモワールの問いに稔は頷いて返答する。それを合図に、紫姫が後方で召使や精霊に指示を出した。稔の内心で得た情報を基にするべきことを考え、自分なりに答えを示したのだ。敵軍サイドの総司令官が武器の一切を手に持っていないと理解し、同盟締結に圧力を掛けるように大量の人員を配置するべきではないとの考えに至ったのである。


 大量の精霊や召使が稔の魔法陣、精霊魂石に戻った後。紫姫という副主人デピュティを隣に置いて、稔は同盟締結に相応しい場が設けられたと考えて話を始めた。だが、締結に向けた話合いが始まった中で開口一番に飛び出してきたのは紫姫の台詞だった。召使や精霊を戻した後だ癖に不安を持っていたのである。


「グリモワールに問いたい。貴女が把握している人数で結構だ。この政府庁舎の中にどれほどの『ルルド・デビル』構成員が居るだろう? 抽象な答で構わん」

「ざっと五〇〇名程かね」


 紫姫はグリモワールの言葉を聞いて戦慄を走らせた。自分達が気絶ないし拘束したエルダレア帝国の国会議事堂を警備する役割を持った人物らは、ざっと数えても二〇〇名ほどだったのだ。『この政府庁舎の』という言葉が聞こえていないのかと思って聞き直すも、紫姫がグリモワールから得た情報は変わらず終い。余計に身震いするだけに留まった。


「シュヴァート」

「なんだ?」

「エルジクスを呼んでくれ。我とエルジクスで洗脳を解きに向かいたい」

「でも、『洗脳ブレインウォッシング』を使用したところで、今度は俺を崇拝することになるとしか思えないんだが……実際は違うのか?」


 ふと思った疑問を言いつつも、紫姫からの指示で稔はエルジクスを魔法陣より再び呼び戻した。僅かな時間しか休憩時間を与えてもらえなかったことに多少の憤りを感じるエルジクスだが、基本的に忠誠心旺盛であるから声には出さない。そして稔の問いに答えたのは、そんな氷雪を巧みに使う第四の精霊(ソーダライト)だった。


「『洗脳』は足し算と引き算の関係に有りますし、心配は不要です」

「つまり……どういうことだ?」

「洗脳の効力を受けている方に『洗脳』を使用すれば、効力は解けるということです。解けるというより、以前の状態に戻ると言ったほうがいいと思います」

「化学変化に似た感じか?」

「自分、あまり学問には精通していなくて……」


 エルジクスが謝る。自分の短所だからと謝る必要なんか無いのは言うまでもないから、稔は「頭下げなくて大丈夫だ」と離して背中を擦って慰めた。そんなことをしている最中、第四の精霊が『化学』で躓いていることを知ってヘッドホン越しに咳払いが聞こえる。実に分かりやすい行動だ。


「頼って欲しいのか?」

「別にそういう訳じゃないよ。助けてあげるってだけで希望してない」

「そっか。お前に話してもらえばエルジクスも理解できると思ったんだけどな」

「そ、それなら私が――」

「でも、話したくないんだもんな……」


 稔はニヤリと笑みを浮かべる。「この女、罠に掛かったな……」と、オークさながらに破顔していた。迎えうつラクトは、主人から受けた仕打ちに歯を食いしばって対抗心をどんどんと燃やしていく。双方譲らぬの展開だ。――と。


「また彼女とイチャラブしてるんですか。いい加減にしてください」

「爆発しろ。いや、白弾はくだんを撃ってやろう」


 イヤホン二つを駆使して稔と紫姫に戦闘やらで指示を出していたわけだが、司令官がマイクの切り替えスイッチを入れ忘れると双方に情報が届いてしまう問題点があった。つまり紫姫は、結託した二人から攻撃を受けていたのだ。一方エルジクスは紫姫が情報を得る前、稔のニヤリとした顔で判断していた。


 精霊二名からの激怒を受け、稔はラクトとの会話を一旦断つ。そして、エルジクスから説明を求められていた『化学変化』についての説明をしようとした。だが、紫姫とエルジクスの結託が強化されたことで稔の説明する時間は無くなる。


「では、我々はこの施設に居る『ルルド・デビル』と対戦してくる」

「気をつけてな」

「了解した」


 紫姫は口頭で、エルジクスは首を上下に振ることで承諾の合図とした。稔との連絡は魂石、ラクトとの連絡はヘッドホンで行われるという点が二人を送り出す時の安心感に繋がっていた。一方、安心感の後に同盟締結の作業を思い出してハッとする。そのため、得意芸の謦咳けいがいを入れてから稔は話を始めた。


「じゃ、グリモア。同盟の締結な訳だが――紙面でいいか?」

「そのほうが良いだろう。けれど、この議会場に紙面なんてものは無いぞ」

「大丈夫だ。ヘッドホン越しに居る司令官達が色々と準備をしてくれる」


 本望とは異なったけれど、頼られた点は揺るがない。ラクトは主人から依頼を受けただけで嬉しくなり、一瞬にして顔に浮かんでいた真面目っぽさを消してしまう。転送はサタンに頼まなければ出来ないが、司令官も精霊罪源も同じ部屋に居たから、頼んでから『転送』までの時間は二桁の秒数に入らない位だった。


「とりあえず、ボールペン二本と白紙一枚ね。内容さえ教えてくれれば打ち込むけど、印刷までの時間が掛かると思うから条項も手書きだと助かるかな」

「手書きな。分かった」


 稔はそう言うと、サタンの『転送』によって送られてきた白紙の紙を冷蔵庫の隣の机に置いた。文鎮代わりにペンを置き、グリモワールを先に椅子に座らせて自分も隣の椅子に座る。先に稔がペンを取り、進行役と調印者を兼ねることを決意した。そして、取ったペンで文章を書きながら話を進めていく。


「《互いを敵として戦わない》 ――これはいいな?」

「大丈夫だ」

「《互いの地位は平等であり、侵されることはない》 ――これは?」

「文章はそれで良い。でも実際問題、貴殿が引っ張っていく立場だと思う」


 責任転嫁の一声だ。けれど、稔としてはそのほうが良かった。極力は他国の政治に干渉したくないのである。稔はエルフィリア王国の地位向上と王族のトップを奪還するために働いている訳で、他国の政治を動かす為に戦いを挑んでいるわけではないのだ。だから、『かぶれ』のほうが稔としては嬉しかった。


「《互いはあらゆる方面で協力し合う》ということも追加してくれ」

「分かった」


 細かな内容を書くと面倒くさいので、臨機応変に対応するために大雑把な同盟条項で話を進めた。そして、最後の四項()に稔は『ルルド・デビル』に関して盛り込むことを提案する。既に降伏したも同然だったグリモアは、稔の提示した条項に少しばかし頭を悩ませてしまったが、最終的には頷いた。


「じゃあ、《ルルド・デビルは解散し、集めた資金と構成員は返金・返還する》って条項を四項目にするぞ。嫌ならこのタイミングがラストチャンスだが……」

「構わん。その条項を加えてくれ」


 グリモアはそう言い、紫姫とエルジクスが行う作戦――自分の作った反政府軍の解体を承認した。稔は『攻略完了』と内心で思いつつも、一方的な押し付けのように見える同盟のことを考えて口には出さない。でもその一方、情報を伝えることはしっかりと行った。魂石越しに紫姫へと速報を伝える。


「紫姫。グリモアとの間で同盟締結が完了した。それと、『ルルド・デビル』の解散が決定した。くれぐれも敵陣営を殺さないように洗脳解除の作業を頼む」

「把握した」


 視点を再びグリモワールに向ける稔。一応は敵軍の本拠地で一人で居る訳で、実に無防備な状況をどうにかしようと考えて音の察知に優れた第五の精霊を魔法陣から呼び出した。けれど、イステルは魔法陣を出た瞬間に稔にこう告げる。


「稔さん。紫姫さんとエルジクスさんだけでは力不足ですわ。防御面に欠けますもの。ですからわたくしは、稔さんも行くべきだと考えますわ。とはいえ、戦闘時は『黒白』とエルジクスさん、グリモアさんでお願いしたいですわね。『防御役』『解除役』『見届け役』『補助役』という配置がベストと思いますし」

「分かった。じゃ、イステルは魔法陣に」

「了解ですわ」


 イステルに指示を出し、稔は彼女を魔法陣の中へ戻す。その一方で、彼は躊躇なくグリモワールの手を握った。そして、力不足をまだ感じていない紫姫へ魂石越しに話そうとする。しかし、稔がそれをする前にイステルの予言が的中してしまった。魂石越し、ヘッドホン越しに紫姫の悲痛な叫びが聞こえたのである。


「紫姫! お前、何処に居るんだ?」

「転送す――」


 弱々しい声。いつもの紫姫とはまるで変わっている。そんな時、ラクトがヘッドホンの位置から紫姫の居場所を特定してくれた。そして、その情報を司令室から緊迫した声で稔に届ける。さながら地震発生後すぐの報道フロアのようだ。


「紫姫の居る場所は左院だ。エルジクスは稔たちが気絶やら拘束やらした人達の洗脳を解除したから魔法陣へと戻ってる。だから急いで!」

「わかった。グリモアも向かうか?」

「私も行きたい。同盟を結んだんだしな」


 稔がグリモワールに質問を振った頃、ラクトは自然とマイクをミュートにしていた。司令官は帝都から何百キロも離れた場所に居るから、臨機応変な対応を素早く行うために戦闘指揮の一切を現場監督へ丸投げしたのである。そんなことを知らないまま、稔はグリモアの手を握って魔法使用宣言をした。


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