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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-54 「反政府軍」VS「新政府軍」-Ⅰ

 攻略開始と同時に『瞬時転移テレポート』が行われ、『黒白』はそれと同時に反政府軍が拠点として利用しているらしい政府庁舎――すなわち国会議事堂へとやってきた。白色の塗装からは洋風建築の匂いがするけれど、既に戦乱の中で使われているらしく一部がボロボロになっている。


「先輩。そのヘッドホンは片耳のものです」

「お前さっき『イヤホン』って言ったよな……」

「精霊と言っても作業詰めなんですから、当然間違うこともありますよ」


 サタンに入れた批判は見事に反論に捕食されたため言い返せず、稔は何事もなかったかのように話を切り替えた。得意の咳払いは無い。稔はサタンと作戦を練ることに一所懸命になっていたのだ。


「それで、このイヤホンを片耳に着けたらどうすればいい?」

「……聞こえますか?」

「ヘッドホン越しか。ああ、聞こえるぞ」

「こうやって、バレないようにやり取りをしようと考えているんです。……よろしいでしょうか?」

「素晴らしい作戦だと思う。てかこれ、ネット回線越しにしてるのか?」

「その通りです。よくお分かりで」


 ラクトを派遣したのは何もハッキングする為だけではない。ヘッドホンに向けて情報を発信するためのサーバーを管理する役割など、その他諸々のネットに関することをしてもらうためでもあった。サタンは機械音痴という訳ではなかったけれど、やはりブラインドタッチも出来ない状態で稔と対極をなすのは難しい。その判断からサタンはラクトを呼び、真の司令官として採用することにした。


「では、私は引き続き情報を集めます。今後はラクトさんが指揮官です」

「分かった。頼むぞ、ラクト」

「機械系なら任せておけよっ! それと、こっちから指令を出すけど中央の指令にしか過ぎないから、現場の判断で動いても構わないってことで。ただ、その判断でどうなっても稔の責任だからね?」

「おう」


 ヘッドホンを取れないように装着し終えると、稔はヘッドホンがコードレスだということに気がついた。音を取る側も出す側も右耳に集中しているが、出ている音量は小さい。これらも作戦の指揮同様に魂石の向こうでラクトが調整しているようだ。でも、壊される程の音量を出される可能性が無いわけではない。だから稔としては、ラクトに大声を出すだとかしないように願うしか出来なかった。


「司令官に問おう。最初の攻略ミッションは何をすればいい?」

「国会議事堂に突撃して、紫姫は『回復の薬(ハイルリン)』の有無を確認。稔は『跳ね返しの透徹鏡壁バウンス・ミラーシールド』と攻撃」

「「了解」」


 ラクトの指示を受け、稔と紫姫は声を合わせて返答する。直後、稔は紫姫が自分と同じヘッドホンを使用していることに気が付いた。社名の一切は書かれていなかったが、余りにも似ている形状からして、ラクトが自身の特別魔法を転用させて作ったとしか思えない。稔は戦闘を始める前、自分勝手ながらその内容の質問をした。


「ラクト。ヘッドホンはお前がコピーして作ったのか?」

「そうだよ。それこそネットなんか、大多数の人が情報を閲覧するプラットホームなんだし。サーバーに空きがあるかぎりは、応用すれば二人同時に情報を配信することなんか余裕だよ」


 ラクトから答えをもらい、ようやく疑問に思っていたことが晴れた稔。これで、ようやく戦いに専念することが出来るようになった。紫姫は質問を抱えているわけではないから戦闘態勢は問題ない。統率が取れるようになった『黒白』は、先程の「攻略開始」の言葉をグータッチを交わして示し、国会議事堂の中へと『瞬時転移』で向かった。


「『戦友』よ。心して戦え」

「それはお前もだろ、紫姫。――んじゃ、頼むぜ」

「了解だ」


 不法侵入をしたと言われても過言ではない稔と紫姫。無論、警備に当っていたマインドコントロールされた兵士達が彼らを襲撃する。剣と銃を巧みに操り、侵入してきた二人の中でも稔を特に狙って攻撃を何度も行った。しかし、罪源との戦いでもその威力を発揮した『跳ね返しの透徹鏡壁』の前では、彼らの力の限りを尽くした攻撃ですら無残に散っていく。


「情報は掴めたか、紫姫」

「現在のところでは、『回復の薬』がグリモワールサイドに有る訳ではないと考えている」

「了解。続けてくれ」


 稔は紫姫に作戦続行を指示し、『回復の薬』を探す作業を続けさせた。一方の現場の司令官は、何度もしぶとく攻撃を続けてくる敵軍の構成員に対して、紫姫から『白色の銃弾(ホワイトブレット)』を借りて攻撃を行う。稔が放った銃弾は狙った反政府陣営の一人に見事命中し、チートドラッグを探していた本家本元から高評価をもらう事が出来た。


「シュヴァート。復讐と攻略を履き間違えるなよ?」

「そんなこと心配されなくても分かってる」

「まあ、その銃弾の殺傷能力は低いのは確かだ。気絶にはもってこいだろう」


 稔が紫姫から借用した拳銃に関しての情報が紫姫の口から出されると、「そうか」と言って情報提供のお礼を軽く返した。とはいえ、あまりにも長い時間凍らせてしまうと生命活動に危険が生じる。眠らせるならまだしも、凍らせる以上は手や足を狙うべきだと考え、作戦を変更して稔は射撃を続けた。


「とりあえず、場に居る戦闘員などの内心をある程度覗かせてもらったが、敵陣営に『回復の薬』を使用できるものは居なさそうだ。それに、仮に使用されてもマインドコントロールをしている輩である。上層部に使用するとしか思えん」


 射撃を続けている稔の後方で一報を流す紫姫。紫姫が稔に貸し出していた拳銃を返却するように求めると、主人側は情報提供との交換として銃を返した。振り返って稔が射撃したグリモワール陣営の歩兵らを見ると、彼女は一つ稔に問う。


「拘束……ということか?」

「そういうことだ。装備もそれなりにあるし、冷傷にはならないと思うけど」

「我はその面を気にして問うた訳ではない。作戦を質問しただけだ」


 稔が行っている作戦に自分も参加するべきだと考えていたから、紫姫は迷わずに彼の作戦を聞き出していた。それが『復讐するための攻撃』ではないことを確認すると、紫姫は返してもらった拳銃を構えてバリア越しに敵陣営へと銃弾を発砲し始める。言うまでもないが、狙ったのは稔の撃っていない方面だ。


「砲弾使うか……」


 手や足を狙って攻撃をすることは効果的な攻撃法だ。だが、砲弾のような硬いものが激突した場合に大変なことになるのは言うまでもない。凍らせたりした箇所は解除を宣言すれば基本的に融けるが、砲弾はそう簡単に解けない痛みを発生させてしまう。いくら正義の為と主張しようが、病院送りを大量に作ったら正義とは言い難いはずだ。――と、そんな時。


「ナイトさん。自分に任せて下さい」

「エルジクス……」


 それだけではない。バリアという安全地帯で死ぬ要素が殆ど無いことを知った精霊や召使が、次々と自分の意思で魔法陣から出てきたのである。エルジクスを皮切りに、イステル、ティア、ヘル、スルト。総勢が召喚された訳ではないが、これだけ居れば十分だ。


「ありがとな、みんな」

「困っている時にマスターを助けるのが私たちの仕事っす」

「そうですわ。貸し出しされているからと動かないのは考えが甘すぎますもの」

「ありがとう……」


 ヘルとイステルから励まされ、稔は瞳に涙を浮かばせた。大量殺人をした後に涙を流したわけではないが、既に二人殺している稔。これからもう一人追加で殺す羽目になってしまったことは運の尽きだと感じつつも、何人もの精霊や召使から励ましの声を貰って感極まってしまった。


「格好悪いな、俺……」

「格好つけて戦うより、マスターの姿勢の方が共感を呼ぶと私は思います」

「そう、貴台は一人では無い。出しゃばらず、自分の持てる限りを発揮すればそれで良いのだ。あとは指揮官として我々を動かせば良い。役目を全うしろ、稔」

「ああ、分かった」


 国会議事堂の前で大量召喚を行い、稔陣営は正門前で襲いかかってきた総勢一〇〇名を超えるグリモワール率いる部隊の歩兵らを気絶ないし拘束していった。弓矢、拳銃、砲弾、美声、角礫、岩石――。大量の魔法が飛び交う中で、そこに居た歩兵らは次々と気絶したり拘束されたりしていった。


「よし。突破だ。次は入口を突破するぞ」

「おう。じゃ、行動しやすいように皆は戻――」

「バリアがこれだけ広いのですし、私としては無駄な行為だと思うのですけど」

「じゃ、無しの方向で行こう。……これくらいのペースで走るからな?」


 バリアを切らさないように歩調を合わせて走って行く稔たち。既に施設外に反政府軍の歩兵はおらず、正面突破で稔陣営の七名は国会議事堂の中へと入っていった。入り口の扉はは地上から階段を少し上ったところにあり、そこから先には赤色のカーペットが続く。天井部にはシャンデリアが取り付けてあり、ここが国の要衝であることが窺える。


「稔陣営全兵に告ぐ。――警戒を敷け」


 移動している最中に紫姫は言った。流石は心を読めるだけある行動だ。たとえバリアが有ると言っても、それが完全に相手の攻撃を防ぐ限りではないことは既に証明されている。だから紫姫は、ある程度の危機感を持って戦闘に望まなければならないとたがを締めていた。そんな彼女の考えに賛同した稔陣営全員は、気を引き締めて正面玄関を通過していく。


「ラクト。政府庁舎に関する情報は手に入ったか?」

「ルシフェルかルシファーに聞けばある程度はわかると思うけど……」

「ラクト、もしかして遠回しに『情報を持ってない』って言ってんのか?」

「ご名答。私は心友で、好きになる気持ちを阻害する悪友じゃないからさ」


 稔とラクトの関係は暗黙の了解で認められていたと言っても過言ではない。紫姫のように露骨なアピールをしてくるをしてくる女の子は数少なかったが、それでもある程度の感情を持っている異性が居るのは事実だ。気が利く召使だからこそ鈍感な稔が気づかないような箇所を理解し、ラクトは彼氏の周囲まで束縛しないよう心掛けた。


「新参さんとのコミュニケーションも大切なのは確かだぞ。じゃ、頑張れ!」

「ありがとな。お前も頑張れよ」


 ラクトはそう言って稔に向けた応援コメントを残す。それでも回線を切断するような小作な真似はしていなかったから、稔からの感謝の言葉は届いていた。直後、心友が会話を交わしたと同じ頃。紫姫は反政府軍の僅かな動きを察知して言い放った。稔陣営の総勢へと剣や銃などを構えるよう指示を出したのだ。


「構えよ!」


 当然だが、その言葉が聞こえたのは稔陣営のみではない。微動すら感じ取られてしまった反政府軍サイドにも声が届いていた。彼らはマインドコントロール下に置かれている戦闘狂であり、殺してしまうのは上からも下からも攻撃されているも同然。先程と同じように『気絶』か『拘束』が求められた。


「掛かれ――ッ!」


 翻って反政府軍てきぐんサイド。そのリーダーは大声を上げて攻撃することを宣言し、部下にしか見えない兵士らを次々と稔らの近くへ送っていった。だが、跳ね返されているところから彼らが武術の達人という訳で無いと分かる。


 遠距離から魔法で攻撃せず近距離から物理の攻撃を何度も行う彼らは、稔らからしたら可哀想で可哀想で仕方が無かった。しかし、これはあくまで戦い(バトル)だ。気絶ないし拘束を目標に、稔サイドが攻撃をしなければならないのは言うまでもないことである。


「稔さんはバリアを出られますか?」

「いや、俺が出たらバリアは意味を無くすからな。そもそも出られない」

「そうですか。でしたら、『終焉の剣シュヴァート・エンデ・ツヴァイ』を頂戴できませんか? 織桜さんの精霊ですし、ある程度の成果は出せると思うのですが……」

「分かった。その考えに乗ろう」


 ラクトの言っていた『信頼』の形にそぐうものなのかは不明だったが、稔は前を向いて自分の取った行動に自信を持つことにした。剣二つをティアに貸すことを二つ返事で引き受け、同時に自らの攻撃を『砲弾』に懸けることを決める。


「大事に利用させて頂きます。稔様に神からの祝福あれ――」


 精霊らしく正義感に満ち溢れた台詞を捨て台詞として言うと、ティアはバリアの外へと出て行った。自明の理ながら、上空に襲来されては物理専門部隊が太刀打ちできるはずもない。ティアは薄情とした表情を見せると、続けて魔法使用の宣言と使用に移った。

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