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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-45 傲慢罪源ルシフェル 【末】

 ラクトへの感謝を口頭で行う稔。彼はその後、更なる総司令官への追及を行った。煽りに煽りを重ねるスタイルはラクトを意識しているとも考えられるが、稔は故意ではなくて無意識にそうなっていただけである。


「早く答えろよ。情けないぞ?」

「操った理由は……無い」

「『無い』? ――なら、お前は最低の極みだ。自分の配下を実験道具さながらに洗脳しやがって。そんな奴が『正義』を求めるのか? ……所詮、お前のやってることなんか帝国政府の二番煎じだ。早く止めろ」

「言わせておけば……」


 敵方の総司令官は更なる怒りを見せるが、稔から指摘された箇所への言及は一切なかった。理由付けをしながら論戦を繰り広げることなど、敵方の土人司令官には出来なかったのである。だからこそ彼女は、ただ怒りを震えに変えたり暴言を吐いたり、幼稚な行動しか取れなかったのだ。


「帝国政府の二番煎じなんかじゃ無い! 先代の帝皇――魔王様の意向を示しているだけなのに!」

「――先代の帝皇?」


 どさくさ紛れに入れられた厨二要素満載の言葉に、稔は首を傾げる。『帝皇』という言葉がエルダレアの王様であることは既に知っていたが、その人物が『魔王』という事は知らなかったのだ。先代とかいう話に関しては、継承権などの小難しい話が付き纏っていると思って極力考えないようにした。けれど稔は、自身の意見だけではダメだと考えて説明を求める。


「王様を侮辱した奴に話すことは無い!」

「そうやって強気で居れるなら強気で居ればいいさ。俺は帝皇を侮辱したつもりなんか無いしな」

「証拠は?」

「俺は『帝国政府』を非難したのであって、『帝皇』を非難した訳じゃない。――お前、頭大丈夫か?」


 庶民が苦しんでいる現状を知ったこと、ラクトが政府に対してデモを起こしたことなどを理由にし、帝国政府がいかに悪なのか分かった稔は打倒するために決起した。しかし、帝皇に手を付けた覚えはない。本来怒らなければならない人物に「帝皇を守れ」と頼んだくらいに、真逆を行っていたのだ。


「政府も帝皇も一緒だ!」

「――残念だが、それは貴様の妄想物語にしか過ぎないぞ?」

「精霊は黙っていろ。これは主人同士の会話で、お前のような亡霊が入ってくる域ではない!」


 総司令官は強く言い、紫姫に発言権や傍聴権が無いような言い回しをする。しかし紫姫は、そのような敵軍の総司令官の話を聞いて笑いを堪えられなくなった。総司令官はなおも強情な態度を取るが、弱みを握った紫姫は主人を守るための一環として敵軍総司令官の失言を元にした煽りを言い放つ。


「亡霊が入ってくる域ではない? 馬鹿め。我々『精霊』は『意思』を具現化しただけなのだが?」

「ぼ、亡霊とは魂も含め――」

「おいおい、エルフィリア帝国の軍人は全員男だ。仮に我が亡霊なら、我は男になっているはずだぞ?」


 紫姫は腹を抱えて笑いそうになるが、そんな気持ちを抑えて冷淡な笑いにしておく。ルシフェルに処女を奪われたことを根拠として主張すれば、紫姫が男だという可能性はゼロでしかない。トラウマをネタに使うラクトとはまた異なるが、ある意味同じような手法を紫姫は取った。


「それに、帝国政府が国内の政治を行うとエルダレア帝国の憲法には書いてあるそうだが」

「そ、そのような嘘には騙されな――」

「貴様が頭に焼き付けていた情報から読み取っただけだが?」


 心の中だけではなく、相手の脳みその中まで対象範囲なのは紫姫も同じだった。ラクトの手法を真似し、紫姫は暴走せずに事実や相手が内心で思っていることなどを中心に相手の隠したい部分を突いていく。敵軍総司令官のような沸点の低い人間にしてみれば、そのような敵は実力行使でぶっ潰したい対象でしかない。そのため、クズ女の怒りはすぐに現れた。


「情報はデタラメだ! 嘘を付くな、詫びろ!」

「――何を言ってるんだ?」


 しかし同時。ラクトのハッキングで操り人形状態から解かれたルシフェルが、それまで従うしか無かった総司令官様に対して反抗心を見せたのである。ラクトは続けて歩兵たちも解こうとするが、気絶まで追い込めばハッキングして解かなくても大丈夫だと考えて作業の一切を停止した。


「エルダレア帝国憲法ノ第一条。『エルタレア帝國ノ帝皇ハ象徴テアツテ、コレハ他ノエルタレア國民同様ニ侵サレルモノテハ無ヒ』。第二条。『帝國ノ統括ト帝國軍ノ統率ハ帝皇ニヨツテ任命サレタ首相カ行フ』――」


 ルシファーの声だ。稔の魔法陣から自身の意で出てきて、ルシフェルという妹を擁護する発言を行っていく。エルダレア帝国に関しては稔も紫姫もにわかだったから、こういった優秀な人材が現れたのは嬉しい限りだ。そんなふうにルシファーが敵軍総司令官に対して言うと、少し間を開けてルシフェルがこのように話した。


「まとめると、『帝皇は他の国民と同様の権利と権限と義務を持つが、象徴』である。そして、『帝国の運営は帝皇ではなく帝国政府が担う』。そう考えた時、帝国の政府と帝皇は完全に分離していると言えるんだが?」

「ふざけるな! 任命されているということは、帝皇も帝国政府も同罪だ!」


 ルシフェルの説明には何ら反論は無いはずである。しかし、帝皇制の廃止を訴えていた反政府軍の総司令官はこじつけを行った。帝皇と帝国政府が分離しているという主張には一切聞く耳を持たず、自らの主張だけを通そうとし始めたのだ。けれど、そのようなクズ女の話にはルシフェルも稔も首を傾げる。


「「……は?」」


 二人だけではなく、ルシファーも紫姫も含めて場に居た全員が即座に理解した。「この女の頭は狂っている」と。とはいえ敵と捉えた人物を侮辱するだけでは相手と変わらないクズである。そういったことを理解し、稔が敵軍の総司令官を論破しに掛かる。


「常識的に考えろよ? 帝皇は『【他の国民と同様の権利と権限と義務を持つ】象徴』なんだ。そんな帝皇が任命した人物ってことは、帝国民の総意だろ。まあ、それを受けた奴らが国民を苦しめる奴だったことは確かだけどな」

「つまりは、同罪ではないか! 帝皇が任命した人物が間違いだった。これは間違いのない話だ!」

「『帝皇が』じゃなく、『国民が』な?」


 絶対王政ではない時点で、エルダレア帝国で選挙が行われていないと考えることは出来まい。憲法に関しては詳しくなかった稔だが、何となくそんな感じがして相手の間違いと思わしき部分を訂正していた。しかし、敵軍の総司令官は稔やルシフェルの話した一連の台詞を『隠蔽』と見なす。


「いつまで隠蔽を続ける気だ?」

「それはお前のほうだ。――クソ司令官が」

「クソ司令官? お前に侮辱される筋合いは無――くっ!」


 既にルシフェルは総司令官という捏造と諸悪の製造機から解放されており、命令を画面の向こうに指示しようが伝わらない。そんな単純な事も忘れていた彼女は、近くの机に向かって手を強く振り下ろす。一方、それまで敵軍の総司令官に仕えていたルシフェルは憲法の条文を引っ張ってきて話した。


「エルダレア帝国憲法、第一五条。『エルタレア帝國ノ國家運営・自治体運営ヲ担フ者トシテ、公務員ヲ配置スル。コレハ職業ニ就ヒテイル者ニヨツテ公平ナル選挙テ選ハレルモノテアツテ、帝皇ナイシ帝國政府・自治体首長ノ独断テ決メ手ハ成ラナヒ』。――要約すれば、国家の運営は国民に任せるという話だ」


 ルシフェルの主張を聞く態度を示す敵軍の総司令官。しかし彼女は、自らの思惑通りに行かないことから関係の無い部分を指摘する。平和的な解決が出来そうで出来ないモヤモヤ感に襲われつつも、稔は頭を抱えながら総司令官の話に耳を傾けていた。ため息が出るのも頷ける。


「そんな憲法がある癖に、デモを起こして政府は抑圧した!」

「そうだな。――で、それのどこに『帝皇』と『帝国政府』の関係が?」

「政府がデモを抑圧した。これはつまり、帝皇の意向だ!」


 事実上でいえば『旧来の帝国政府』と『帝皇』だが、その二つに関するこじつけが雑になってきたことは場に居た稔陣営のほとんどが理解した。というより、過激化する隠蔽により、敵軍の総司令官がした『先代の魔王の意向』という最初の話を相手方は既に忘れているんじゃないかと思ってしまうくらいである。


「私の考えですが――。そもそも、敵軍の総司令官さんが帝皇がどうたらこうたらと言い始めた時点で【帝皇制廃止】なんて言えたものじゃないですよね」

「確かに――って、サタン?」


 頭が痛くなるような総司令官の台詞が聞こえた後、魂石越しに聞こえてきたのはサタンの声だ。彼女の言うとおり、帝皇の言っていた事をそのまま実践しようとしているような人物が『帝皇制廃止』を訴えるのは理に適っていない。方針転換をすることは論戦でも重要な作戦であるが、それとこれとは違う。


「私はラクトさんの護衛をしていますので。参考程度に利用下さい、先輩」

「まあ、言ったところで聞き入れてくれるかは分からんけどな」

「そうですかね? 私はそこに重点を置く必要は無いと思います。結論を急いで自らの弱みを晒さないためにも、地道に活動を続けることが重要なんですよ」

「サタンの言い分も一理あるな……」


 稔は頷きながら言う。その直後、サタンは茶を濁すような言い回しで話した。何処か逃げ腰のような雰囲気を漂わすが、これは加担しすぎて主人を困らせる訳にはいかないという彼女なりの気配りである。

 

「まあ、そういうことです。では、また後々」

「ああ。そっちも頑張ってくれ」


 サタンにそう言って、稔は魂石越しでの会話に区切りをつけた。敵軍の殆どの陣営は『黒白』中心とした稔サイドの周りに集まってきているから、サタンがラクトを守ることになるのは余程のことがない限りはあり得ない。だが、彼女を招集した後に何かが待ち受けている可能性も否めない話だ。そのため、稔は魂石の向こうに待機させた。


「現実――いや、論戦から逃げた訳じゃないんだね」

「逃げたいさ。捏造の圧力は鬱陶しいだけだからな」

「笑わせてくれるね。こっちは真実を言っているというだけなのに」


 その『真実』という言葉の読みは『しんじつ』ではない。本来の意味とは真逆の言葉の読み方、『ねつぞう』である。もっとも、そんな下らないルビに関しての話をするよりはサタンの言い分の方が相手の為になるので、稔は傲慢で強気な態度を取る敵軍の総司令官に対して問うてみた。


「そういや。総司令官さん、『先代魔王の意向を受け継いでいる』とか言ってたよな。そんな人が『帝皇制の廃止』なんてものを訴えていいの?」

「別に帝皇の文化を消し去る訳ではない」

「そういうことなら、別に『帝皇制』を廃止する必要なんか無いじゃん」

「これまで帝皇が行ってきた暴挙を振り返れば、廃止する意義は大いに有る」

「ちょっと待てよ。その先代魔王も帝皇の一人なんだろ?」


 稔は遂に敵軍の総司令官を追い詰めた。サタンに感謝の気持ちを抱きながら、弱みを握るためにも更に深くまで質問をする。稔が感謝している情報提供者には赤髪との仲介役になってもらって、主人の作戦伝達をしてもらうことにした。魂石へと小声を当て、稔はサタンに指示を送る。


「総司令官の情報もちゃんと調べてくれよ?」

「既に調べ終えていますし、やろうと思えば回線も切断できますよ」

「そっか。ありがとう」


 追い詰められた総司令官が回答に困る中、稔陣営は密かに会話をして連携を強めていた。一方の敵軍陣営は会話出来る相手など現場におらず、論戦で訴えてきた物事の根本が揺らぐ可能性を孕んでいた場面で決断は早々に下らない。


「先代魔王は――帝皇ではない!」

「嘘だッ!」

「ひっ……」


 稔は敵軍司令官を怯えさせるくらいの大きさで声を上げ、地面を強く踏んだ。ボイスレコーダーを誰かが所持していたとか、起動させていたとかいう話は聞いていない。しかし、『魔王』と『帝皇』の関係を話すことの出来る人物が不在な訳ではないのだ。稔はルシフェルとルシファーをそれぞれ見て、こう言った。


「罪源の姉妹に聞きたい。――魔王と帝皇は『イコール』で結ばれるのか?」


 自信あり気な稔。一方の罪源姉妹は、そんな自信をサポートする言葉を敵軍の総司令官へと突きつけた。事実を曲げること無く彼女らが言い放ったのである。


「魔王は帝皇の別名称でしかない」

「魔王ハ帝皇ヲ指ス言葉ダ」


 ルシフェルとルシファーの回答を聞くと、それに便乗した稔は総司令官にこう言った。


「捏造を認めろ」

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