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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-21 ヴェレナス・キャッスル

 そして、景観を保っているその街の中央にある城。それこそがヴェレナス・キャッスルだ。


「これは――」


 日本の城とは違う作りのそれは、地表の黄緑に近い色の芝生、正面入場口の目の前にある噴水、歩く道は白い色のレンガ。日本風の城にはない物があって、それはヨーロッパの宮殿に近い。

 そして何よりも稔が驚いたことは。


「何故、メイドや執事が居るんだ?」


 そのことだった。


 日本の城、世界の白に目を向けたとしてもだが、メイドや執事が城の中、宮殿の中にいることなどレアケース。滅多に見ることなど出来ない。そしてそのほとんどが、コスプレという名目だったりする。

 故に、稔はそれほど期待はしていなかった。「どうせ、コスプレなんだろ?」と思ったためだ。

 しかし、予想外の事をしでかすのが稔の召使である。


「コスプレじゃないみたいだよ」

「えっ……」


 ラクトは、主人ではない者の心まで読んだのである。当然ながら、それを知っていない稔は驚く。


「お前、俺以外の人の心も読めるのか?」

「人にかぎらず読めるよ。『心』を持っている生き物であれば何でも、ね」

「そうだったのか」

「ごめん、確認とらなくて……」

「いいんだよ別に。――で、奴らの目的は何だ?」


 謝ろうとしたラクトに、稔は必要性のないことをしなくていい、という感じで言った。そして、その気持ちを読み取ったラクトは、一旦唾を呑んでから言った。


「彼らは、特に悪いことを行おうとしている集団じゃなくて、ティッシュ配りをしているみたい」

「なんだ……。じゃ、あの衣装しているのってあれか? 城に映えるからってことか?」

「恐ら――いや、そうみたい」


 憶測で言おうとしたラクトだったが、どうせなら性格な情報を伝えるべきだというふうに考えが変わり、その考えを実行してそれを話した。


「そうか。……まあ、その。俺も一応デートっていうのは――」

「初めてなんでしょ? まあ、安心してよ。私も昔は違ったけど、今は……」

「それもそうだな。……まあ、頼りない彼氏だと思ったら、ラクトがリードしてくれよな」

「私がリードしたら、恐らく大変なことになると思うけど。……いい?」


 稔は首を横に振った。スピードは早い。

 稔は、それだけ恐怖を感じたのだ。これまでの行動でも、際立った異常行動というのはなかったものの、稔が気がついたらほんの一瞬で違う場所に居たり、気の利いた行動を取っていたりと、そういうことがあったため、少し恐怖を感じていたのだ。


「稔がそこまで必死になるとは……」

「まあ、出来る限り俺も頑張る」

「おう」


 ラクトはそう言って拳をグーにすると、稔の頬に当てた。ただそれは、『当てた』だけであって、『殴った』訳ではない。


「な、なんだ?」

「稔が拳を前に出していれば、拳同士を当てようと思ったんだけど、出来なかったら」

「そうか……」

「落ち込むな! デートの前に落ち込むとは、本当に初心者だな」

「悪いかよ……」

「取り敢えず! デート中は、相手が喜ぶ事を真っ先に考えろ! で、相手が特に気にしていないようなら、お前は深く考えるな! 相手が落ち込んでいたら、それに準じた対応をすればいいだけなんだし。……いいか?」

「わ、分かった!」


 召使に色々と教えてもらうのは、人間界ではない魔法を使える国の者であれば異常だ。だが、そんなことは笑い話になる。稔とラクトの間だったら、そこまで大きい沙汰にもならないし、馬鹿にしたって許される。

 少しずつ。デートの前だったが、稔とラクト、二人の絆は少しだけ強くなっていた。


「――んじゃまあ、これ」

「これは……?」

「この宮殿の中の地図が書かれているパンフレットだ。さっき、これを持っている人からデータを無断コピーして、それを基にして完全再現したのがこれ」

「……」


 稔は「凄い能力だ」と思った。だが、単なるラクトの使う魔法を転用しただけだ。そう、簡単に衣装を変える。あの魔法の転用だ。


 瞬時に思い浮かんだ衣装をコピーして、そのコピーした衣装に瞬時に着替えられるという、デザイナー泣かせの魔法。ラクトが軽々使う事ができるその魔法の、『コピー』というところを『服』から『説明用紙パンフレット』に置き換えただけなのだ。トレスさえしてしまえば、もう服が出来ている技術を転用しただけなのだ。


 とはいえエルフィリアでは合法でも、これは日本であれば犯罪になってしまう可能性があるため、注意が必要だ。


「それでなんだけど……。何処行こっか、稔?」

「宮殿の中に入るか?」

「それもいいんだけど、ちょっとトイレ行っていいかな?」

「いや、そういうのって普通言わないものだろ、女は」

「そうかな?」

「そう思うのは、お前が男っぽいからだろ……」


 胸も大きく、女性的な容姿は大体兼ね備えているラクトだが、喋り方だとかは少し軽い。重い喋り口調は、ラクトの過去を稔が認識した時に見せた照れた顔くらいだ。


「まあ、取り敢えずその周囲まで来て欲しいんだよね。稔はテレポーターなんだしさ」

「だけど、場所を認識しないといけないだろ……?」

「それもそうか……」


 デートで一番あってはいけない事、『相手と逸れる』といったことが起きないのは、テレポートの優れているところで有る。しかしながら、テレポートする先は使用者が脳内で考える必要がある。

 結局は口に出さなくてもその行き先を言わなければならず、場所の名前が詳しく記されていない場合は緯度経度を言う方法しか手段はないため、至極難しい。


「でもさ、『ヴェレナス・キャッスル_トイレ』じゃ、本当に駄目なのかな?」

「まあ、やってみなきゃ分からないけど……」

「んじゃ、やってみようよ! やってみなきゃ始まらないでしょ!」

「それはそうなんだが、万一女子トイレの前とか、俺的にやばい場所だと……」

「はぁ……」


 ラクトは稔が深く考えていることに気づくと、ため息を付いて言った。


「『考えこむな』って言ったじゃんか。デートなんだぞ、デート。相手を喜ばさないでどうするんだよ?」

「わ、忘れてた!」


 考えるのは悪いことではない。だが、それの対象が自分になるのは少なくていいのだ。自分が対象になる事を考え、考えこんでしまうのは、本当に危機的なときや、ヤバイことになってしまった時だけでいいのだ。テレポート先が何処であれ、そういうことになったら考えればいいのであり、最初から考えていたのでは、冒険心が無いデートになる。

 加えて、稔は『やってみなきゃ分からない』と口で言っていた。


「ヴェレナス・キャッスル、トイレへ」


 だが、そんな稔の言っていたことは影響せず。忘れていたという稔自身の気持ちにより、すぐにテレポートが行われた。勿論、テレポート対象は稔とラクトの二人だ。何しろ、目的を言ったのは稔ではないのだから。




 宣言後、すぐにテレポート先に着く。一秒も掛からないのは、交通手段としては非常に便利であるのは言うまでもない。……が、これは魔法であり、対象も限られているので便利であると考えたところで、使えるのは少数だ。そのことも、言うまでもないことだ。


 そして目に映ってきた光景は、そこまで心配するような光景ではなかった。単にトイレの建物が目の前にあるだけで、危険な物はない。稔が危険に感じていた場所にテレポートは行われなかった。


「ほらな」


 そして、そのことをラクトが勝ち誇る。


「まあお前が来たんだったら、俺もトイレ寄って行こうかな」

「一緒のトイレに入るの?」

「んな訳あるか!」

「知ってた」


 ラクトのボケに稔がツッコミを入れると、稔もラクトも笑った。「本気で言ってない」ということを二人共感じていたことが生んだ結果である。

 

「でも、此処のトイレは男性用と女性用の対比が異なるみたいだね」

「ホントだ……」

「中性的な顔立ちだったら、コスプレもできる私は勝ち組だっただろうなぁ……」

「いや、そこはメークで誤魔化そうぜ。てか、お前の執事服姿良かったと思うけどな」

「マジで? 男の子に見えたの?」

「まあ、髪とか結べば男に見えるんじゃないか? ……出来れば、髪の毛で片目を隠す形で」

「なるほど!」


 女性の髪型などにそこまで詳しくない稔だったが、それでも男に見えるようにするにはどうするかということを、ラクトと一緒に考えるつもりでいた。結局は、教えているような構図になったものの。


「よーし。チェンジするぞ」

「でもやっぱり、思ったことをそのまま形にできる人は勝ち組と思う」

「箪笥業者からすれば、私は嫌われ者だけどね」

「そうだな」


 自虐ネタを言いつつ、ラクトは着ていた服を着替えていく。一方、稔は笑みを浮かべていた。別に、着替えているラクトの事を考えて浮かべた笑みではない。ラクトの提供した自虐ネタに笑ったのだ。

 自虐ネタはウケないと悲しい目をするのは自分だ。しかし、稔が笑ったことも有って、ラクトの顔にも笑みが浮かんだ。


「そういえば、お前のコスチュームチェンジって、一々手の動作入るんだな」

「まあね」


 稔の質問に回答すると、ラクトは続けた。


「前に見せた時は上から着たけど、本当は下から着るんだよ。あれは、魅せつけたかっただけだ」

「そ、そこまで詳しく聞いていなかったんだが……。でも、本当に下から着てるな」

「理由としては、やっぱり上よりも下のほうが見られて恥ずかしいからかな」

「胸はお前の武器だもんな」

「そうだよ。大部分の男は大きい胸のほうを好むし、稔に出会う前は強力な武器だった」


 そして、そんなことを話しながらも手際の良さは衰えず、すぐにラクトのコスプレが完成した。話の途中、稔が胸の話をしてきたこともあって、今回もラクトは胸の谷間にネクタイを通す風にした。

 だが、これで今回のコスプレは終わらない。前回の執事服コスプレ時とは違って、今回はここから女子っぽさを出来る限り払拭して、男に見えさせなければいけないのだ。


「さてと。髪の毛結びますか」

「でも、お前慣れてるのか? 髪の毛結んでるの見たこと無いけど」

「見せてないからでしょ。大丈夫、結べるから」


 そう言うと、これまた手際よくラクトは進めていく。

 勿論、主人であり彼氏(役)である稔の意見にそったものを作り上げるように。


「うおっ……」


 稔が驚くくらい、ラクトのヘアースタイルは変わっていた。結んでいなかった赤い髪の色は手際の良いラクトの手さばきで形が変わり、そこまで対比が大きくなく、例えればぱっつん前髪に近かったラクトだったが、前髪は八対二の対比に変わっていた。

 そしてこの、八の方の髪を目を隠せるくらいにし、ヘアピンで止めたのだ。


「――って、髪伸ばした?」

「そういう能力も有るんだよ」

「なんだと……?」


 ご都合主義的な魔法であるが、いかにラクトが変装に向いているのかを示す為には、非常に重要な魔法であることは間違いないのは確かだ。


「後ろポニーテールか。……似合うな、お前」

「惚れんなよ」

「お前が可愛いからな。あと今のは、惚れたんじゃなくて褒めたんだからな?」

「まあ、そういうことならそう受け取っておくけどさ……」


 今の発言が『ツンデレっぽかった』というのは、ラクトも稔も認識していた。そして、二人共それを感じたために、少しトイレに入ることを急ごうとする。


「んじゃ、男子トイレに行くんだよな?」

「変装した意味を考えろ」

「そうだな」


 そんな会話を交わすと、稔とラクトは男子トイレに向かった。

 ただ、テレポートで向かうのとばったり誰かが入っているところに入ってしまう可能性があり、魔法は使わなかった。

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