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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-42 傲慢罪源ルシフェル 【前】

「うっ……」

「こいつ嘔吐しやがったぜ! いい気味だ! ほらほら、死ねよ! 死んじゃえよ!」

「ふっ、いっ、うっ……」


 紫姫は涙を流しながらも堪え、テレポートして拘束から逃れようとする主人に希望を託す。既に、紫姫の瞳に輝きは無い。俗にいうレイプ目である。強姦とまではいかないが、望まぬ妊娠で中絶をして子供を産めなくなるまでの一連の流れが形成される可能性があることを考えれば、紫姫はレイプに近い被害を受けていると言っても良かった。


「――跳ね返しの透徹鏡壁バウンス・ミラーシールド――」


 一方、稔は悲しい状況に追い込まれた紫姫を救出するために得意の特別魔法を使用する。大切な精霊を捨てるなんて事は言語道断だったが、このような展開に持っていった最中にも断腸の思いがあった。歯を食いしばっただとか涙を堪えるだとかは、全て『断腸の思い』に当てはまる。


「しぶといんだよッ!」


 しかしルシフェルは、稔が魔法を使用している間でさえ「敵だから」と余裕を見せることは無かった。むしろ、稔が魔法の使用を宣言する時間を「余裕を見せている」と捉えて酷い攻撃を続ける。子宮の破壊を諦めたかと安堵しようかと思った矢先、稔の真ん前で紫姫の顔面を殴ったのだ。


「このクソアマ! 何が正義だ! 地面に突撃して死んでしまえ!」

「……」

「許さん。――絶対にお前は許さんッ!」


 稔は既に形成してあった二つの剣を構えると、紫姫の境遇まで批判し始めたルシフェルに対して突撃攻撃を行った。彼は暴走していた訳ではなかったが、既に「絶対に許さない」という雰囲気が胸の内で漂っており、そう簡単に止められない主人としての強さがそこには見えてきていた。


「無駄だ。ボクにそんな攻撃は通用しないぞ。……馬鹿野郎ッ!」

「――え?」


 稔はルシフェルを視界に捉え、彼女がテレポート系統の魔法を使用してもさほど威力が無いことを分かっていたはずだった。それに、ルシフェルは稔から逃れようともしていない。けれど、傲慢の罪源には圧倒的自信があった。その理由は至ってシンプルな理論である。


「殺られる前に――やればいいッ!」

「いぎ……っ!」


 紫姫という獲物に対して拷問を幾度と加えてきたわけだが、ルシフェルは更に残虐非道の限りを尽くそうと稔の襲来で決意した。理論は彼女の台詞中にある言葉なのだが、それを紫姫の処女を奪う形で形に表したのだ。紫姫は貫通してきた剣の柄と股間から垂れる血に恐怖と痛みを覚える。


「ひだひっ、ひだいっ……」

「泣いても無駄だ。一生に一度を、こんな形で迎えられたんだ。……ボクに感謝の言葉は無いのかい?」

「感謝なんか……する訳ぐあ……ッ!」


 紫姫が反論した刹那、彼女の残虐さに呆れ返った稔がルシフェルに対して成敗をしに到着する。だが、その前にルシフェルは強烈な一発を食らわしていた。首の骨を折る程の勢いで、悶絶するような痛みを発生させるピンタを起こしたのである。


「精霊を助けるためにヤキになってやんの。これだから男は単純な害悪なんだ」

「悪いな、単純で害悪で! ……けど、こんな仕打ちに耐えれる主人は居ねんだよッ!」

「自分が緊縛状態に陥って負けそうだからって精霊を捕虜にして、挙句の果てに逆ギレか?」

「これの何が逆ギレだ? ああ?」

「逆ギレだろう。誰が見てもそう言うさ」


 稔の行った攻撃は成功した。でも、ルシフェルの右肩をかすった程度でダメージソースとしては不十分。それゆえ、彼女の口は開けることが出来るものだった。それだけで自分の攻撃が失敗だと稔は理解する。だが、それだけでは良くない。行動に移さなければ何事も始まらないのである。


「まあいいさ。キミが暴れれば、この紫姫がんぐが更に屈辱を受けるだけだしね」

「……どういうことだ?」

「柄の部分を大きくすれば、最終的には内蔵の破壊となるだろう?」

「……最低だな、お前」

「カッ。罪源は最低で結構だ。――それに、少なくともボクは姉のように簡単に堕ちない」


 しかしギャルゲーマーとしては、そういう風に強そうな面をしている方が燃えやすかった。稔もその一人で、誰かと比較して自分を強いと言っているようなキャラクターの攻略にはがぜん燃えてしまう。捕虜を抱えていることもあり、正義心が更に強くなっていくのも感じた。


「(……まずは、紫姫を守らなくちゃダメか)」


 紫姫すら守れないなら、燃えたところで無意味。稔は紫姫と二人三脚で戦っていることを再度確認すると、ルシフェルの目を盗むように『瞬時転移』を使用した。立て続けに、彼は追加で『六方向砲弾アーティレリー・シックス』も使用する。この魔法に関しては波動化とし、見えないように工夫を凝らした。


「その魔法を使用したところで、ボクに対して効果は――」


 ルシフェルはそう言って余裕を見せる。だが、彼女の余裕は一瞬で消えてなくなった。ルシフェルが稔の内心を読んで知ったのは、『六方向砲弾』に関する魔法使用を除いた内容だったのである。それこそ波動化されてしまっているのだから、常に読んでいなければバレないも同然。いくら範囲制限が掛かっていなかろうが、ルシフェルは余裕を見せて内心を読む行為を一時的に止めていたから、余裕とは裏腹に攻撃を喰らってしまった。


「なん……だと……?」


 砲弾の痛みを上下問わず身体の六箇所で感じるルシフェル。紫姫を苦しめた罰だと、稔はルシフェルに対して攻撃を食らわせられたことを誇らしげに思う。同時、紫姫を護るために作ったバリアを張った状態で移動を完了した稔。直後に紫姫へ『回復の薬(ハイルリン)』を使用する。紫姫は端ない姿を稔に見せまいと背中を向け、垂れていた血が止まったことを確認した。


「ありがとう」

「ごめんな、遅くなって。――痛かったよな?」

「痛かった。悲しかった。けれど、助けてくれただけで我は嬉しい。……ありがとう、稔」

「……」


 精霊の中でも笑顔を出さない態度で知られている紫姫。稔が見てきた中では、本当にラクトの対極と言っていいくらいの冷たい外見だ。そんな彼女が、稔に感謝の思いを伝えようと満面の笑みを浮かべたのである。様々な難が去った後だったことも相まって、稔は紫姫のその表情に堕ちそうになる。だが自分には彼女が居るからと、首を左右に小さく振って感謝の思いを受け取るだけに済ませた。


「こんな俺を頼ってくれて、ありがとう……」


 稔は返答として述べると、即座に後ろを向いた。張られたバリアを意地でも破ろうと、ルシフェルが二つの剣を用いて何度も襲いかかっている。姉と妹、共通点は戦闘狂状態に陥ると大変だということだと、稔はそのときに姉妹の恐ろしさを理解した。もっとも、それはラクトとカースの間に置いて言えることなのかは置いておくとしてだったが。


「やっぱ、怖いか?」

「済まぬ。また奴の攻撃にハマるかもしれないと思うと、怖くて足が震えてしまうのだ」

「なら、時間を止めればいい。――最初から最後まで通せばなおいいと思うぞ」

「これ以上我が高速化したところでどうするんだ、馬鹿主人よ」


 稔は紫姫からの指摘を受け、「確かに……」と頷きながら彼女から受けた言葉を真摯に受け止めた。とはいえ、そこさえ省けば魔法使用に関する問題が特に無いのは事実である。しかし稔は、最後が突撃型の魔法だからと回復したての紫姫には重労働と思った。だが、内心を読んだ使用者が首を横に振ったために心配を無くす。


「作戦は決定だ、紫姫」

「うむ。では、『我らに敗北の文字は無い』ということで良いな?」

「しないし、させてたまるかってんだ」


 稔と紫姫は会話を短時間で済ますと、主人は剣、精霊は銃をそれぞれ構えてバリア越しの攻撃態勢に入った。銃弾は足りていたし、刃の切れ味も良い。おまけに相手は混乱状態のような状態に陥っていて、千載一遇のチャンスだ。そんな好機を無かったことにはしまいと、稔も紫姫も成敗に重点を置くことを共通の認識にして戦闘をすると決定した。


 主従の関係で言えば、『黒白』は二番目にランクインするカップリングだ。しかし、それは総合評価の話である。戦闘面において考えた時、一番上位に来るのは言うまでもない――『黒白』だ。


「バリアが頑丈だとはいえ、この調子で行けば限界が来るのは目に見えている」

「継続は力なりという言葉があるしな」

「故に、我らは今こそ絆を刻む」

「ああ、そうだな。異議はない」


 稔はそう言い、瞬時に砲弾を発射した。紫姫に剣は預けていないが、自分がバリアから出るということは跳ね返す範囲を変更するという意味である。安易に出来ることではない。だからこそ、攻撃技は限られていた。特別魔法以外からも魔法を繰り出すのも一手と思った時も有ったのに、最終的に稔の心中しんちゅう審議から外されたことも大きい。


「二回目の更正だからって、気を緩めるな。いいな、紫姫?」

「分かっている。野暮な真似はしないと誓おう」


 互いに健闘を祈り、ルシフェルに尻目を向けてグータッチを交わす二人。その直後、紫姫が稔の砲弾攻撃に続く形で銃弾攻撃を行う。『白色の銃弾(ホワイト・ブレット)』、言わずと知れた紫姫の特別魔法である。


「そんなの、ボクには効かないよ!」


 ルシフェルは降伏する意思の一切を見せないまま、バリアの奥にいる紫姫を対象として剣と素手を交互に使い分けながら戦闘を行っていく。バリア破壊を素手でするのは結構難しいし、剣で斬り裂くとしてもダメージを蓄積させなければ難しい。それゆえ『黒白』にしてみれば、もはやルシフェルの暴走は悪あがきにしか見えなかった。


 けれど、その認識は一変する。


「……ん?」


 なんと、ルシフェルは稔と紫姫の攻撃を吸収していたのである。跳ね返っていく銃弾も砲弾も、全ての行き先を自らの方向へと指定したのである。自爆攻撃でもするのかと思った稔だが、そんな事はなく、むしろ強い攻撃を撃つ為に準備をしているのだと知った。だが直後、稔の予想だにしない展開が訪れる。


「鳥? いや、あれは――」

「グリフォン……だと?」


 鷲のような翼と上半身と鳥らしく獣のような足。その動物は二足歩行をしているが、尻尾があるため意外な印象を受ける。直後、その獣はルシフェルの指揮の下でバリア破壊計画に携わる。鋭い爪と用い、バリアを削ろうという魂胆だ。


「なあ、紫姫。魔法陣から精霊と召使を呼び出せないのはどれくらいだ?」

「少なくとも一五分は封じられる。使用者の効力を無くせば解決するがな」

「それは、息の根を止めるってことか?」


 稔が問うと、紫姫は首を左右に振って否定した。


「降伏でも良いだろう。――が、この状況で平和的解決に持っていくのは至難の業だろう。ルシフェルは『異性』という言葉に惑わされない猟奇好きの女だ。貴台も、悪女ルシフェルに何をされるかは身を持って体験したはずだぞ?」

「そうだな。でも、殺すのは躊躇いが――」

「ならば一か八か、彼女の姉を使用するのはどうだろうか?」


 紫姫は拳銃から銃弾を発砲するのを一時的に止める。紫姫からの提案は悪くはなかったが、仕事の邪魔をするべきではないという考えが強くなる。けれど稔は、紫姫の案を将来的なものとして受け入れて採用することにした。数秒後、唾を呑んで決意を固める。後ろを振り返らないために、悪を更正させるために。


「――ルシファー、召喚サモン――」


 右手にあった魔法陣の少し上あたりに左手を置き、ルシファーを呼び出して召喚した稔。仕事に負われていたことも有ったし、先程の一連の流れで疲労困憊状態なのは目に見えた話だ。取引する展開になることを予測し、稔はルシファーの護衛に当たることにした。


「ルシフェル。今すぐ、その行動を停止しろ!」

「姉を使って脅そうって言ったって、ボクの場合は一筋縄に行かないんだよ!」

「傲慢さを前面に押し出して、暴行を加えて。自分が情けないと思わないのか」

「思わない。罪源には罪源なりの生き方があるからね。主人も精霊も然りだ」

「不幸な生き方が自分の生き様? ふざけやがって。改善する気は無いのか」


 ルシフェルの生き方を根っこから否定する気はなかったし、不幸が訪れない者はどんな種族だろうと居ない。けれど、そんな『不幸』に立ち向かおうとしない姿は情けないし、クソみたいな人生でしかない。たとえどん底に落ちたとしても、改善する気があれば浮上してこれるのだ。


 しかし、そのような理論にルシフェルは猛反発の意を示した。口頭だけではない。召喚したグリフォンの主人として、ルシフェルは召使に命令を下したのだ。野蛮なものではない。けれど、その命令によって生まれた攻撃力は相当なものだった。攻撃が大変な強さになっていることを紫姫が把握すると、バリア内で彼女が叫ぶ。


「稔! バリアが噛み砕かれるぞ!」

「そんな訳――」


 安全神話なんて無い。それはどのような場面でも共通するのだと、稔は瞬時に知ってしまった。自らが張ったバリアに対し噛み付いたグリフォンを見ると、首を横に振って理解出来ないことを表す。


「ルシファー! 応召リターン!」


 稔は即座に命令を下し、ルシファーを職務――陣内へと戻した。同時、『黒白』に対してグリフォンが襲い掛かってくる。

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