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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-35 資料作成-Ⅰ

「ところで、稔。我は書記を担当することになったと聞いたが、後で書かれている言葉の意味を説明してはくれないだろうか? ……べっ、別に変な意味ではないからな?」

「保健分野だけ疎いもんな、お前。そこに教育して欲しいとか、マジ『それなんてエロゲ』状態だわ」

「彼女という存在を無視してまで、貴台はそういった物に興味を示しているのか?」

「違うから。断じて違うからな! 一八禁のビデオもゲームもやったことは無い!」


 某作品では、やたらと高い身長の金髪妹がモデル業の裏でエロゲーを買っていたりする。某作品では、素晴らしく肉の付いた金髪碧眼の巨乳が友達が居ないなどと言って、裏でエロゲーをプレイしていたりする。だが稔は、そんな「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」的なノリでアダルトゲーをプレイしたことはなかった。ギャルゲーはあっても、チキンたる彼には一八禁コーナーというのは禁断の領域だったわけだ。


「我は貴台を嘲弄する為に述べたわけでは有るまい。だが、女性らが数多く居る場所で言う言葉か?」

「馬鹿だな。俺みたいなチキンには、『残念なイケメン』くらいがちょうど良いんだよ」

「格好つけているのだろうが、至極ダサいぞ?」

「悪かったな。ファッションなんか気にしねえ、着れる服さえあればいい――。それが俺だ」

「なんだか、この男の精霊で良かったのか不安になってきたぞ……」


 紫姫がそんな風に言うと「安心してくれ」と言うのだが、稔のその言葉にはどうも安心できない紫髪。一方で、紫姫の頭上を陣取っている赤ティッ――アカウサギは、別に興奮して飛び上がったりはしていない。寝ている訳では無さそうだが、上と下で表情が違いすぎて稔は驚く。また、紫姫がズバズバ言うことが出来るところにも彼は驚いていた。


「なあ、稔。あまりにも監禁から処女喪失の流れが多すぎではないか?」

「それだけ役人が悪い趣味をしてたってことだろ。ホント、そういう時こそ風俗に行けばいいのにな」

「貴台の言うとおりだ。風俗店で有り金を溶かした場合、誰も悲しまないはずなのだがな……」


 一生純潔を失わないで生きることは、流石の紫姫でも「違うだろう」と否定したかった。しかしながら、まだ学力を身につけるべき低年齢で処女を奪われるのは余りにも可哀想すぎる。それこそ、時代にそぐわない『女献上』などという駆逐すべき文化で脳内が真っ白になるくらい犯される。もちろん、一切の抵抗は出来ない。それは、ラクトが拘束されていた姿を思い起こせば良く分かる。


「そうだな。マジ、暴行罪で起訴してやろうかってレベルだ」

「だが、安心すると良い。貴台が起訴しても良いだろう。けれど、しなくとも教育を受けている目の前の女性らが訴訟を起こす可能性は十分だ。無論、それで勝つか負けるかは目に見えた話だが」

「独裁国家の下じゃ敗訴確定だろうが、俺らが歴史を動かせばいい」

「格好つけて恥ずかしくならないところが尊敬に値するぞ、本当……」


 尊敬というより皮肉である。紫姫が言葉足らずで言っていたと考えておきたかったが、稔は「そう思っていたのかもしれない」と仮定して今後に活かすことにした。もちろん、それがどのような結果になるのかは火を見るよりも明らかな話。活かせるか活かせないかと言われたら、答えは後者になる可能性が高い。


「てか、雑談で時間潰すとか馬鹿でしかないだろ。ほら、ペンを構えろ」

「もう構えている。貴台から何か言われる筋合いは無い」

「遠回しで気が付かなかったのなら済まない。構えろってのは、『覚悟しておけ』って意味だ」

「そうか。それは済まなかった」


 互いに謝罪してしまうと、どうしても悪いほうがどちらなのか分からなくなるものである。けれど、紫姫はそんなことを知らないままに言っていた。一方の稔は、同時に『精霊』と『鈍感』という単語を繋ぐ記号は『等号』でないほうがいいと思う。でもそれは、あくまで『稔』という個人の意見でしかない。だから彼は、紫姫の個性を否定するような事を言ったりしなかった。


「謝んなくていいよ。『黒白』の仲は酷薄じゃないだろ」


 上手いことを言ったつもりの稔。だが、同音異義語を口頭で活用したとしても、理解してもらうことは至難の業だった。そもそも、『黒白』なんていう熟語は存在していない。在るのは『白黒』だ。読み方は『はっこく』か『しろくろ』の二通りである。一方の『黒白』は固有名詞。即ち、『DQNキラキラネーム』と同じ遺伝子を少なからず持っているのである。


 言い換えれば、それは他の名称と差別化が取れている証でもある。一方で行き過ぎた名称は、差別化が取れているどころか差別されてしまう原因にしかならない。フィクションの世界で生きるわけでもないのに、外国へ巣立つとも限らないのに、なぜか付けられてしまう馬鹿にされる要素てんこ盛りのネーム。


「(俺って幸せなんだな……)」


 稔は名前に関して自分の境遇を振り返る。名前でイジられたことは特に無い。彼は続いて親の顔を思い出し、感謝の気持ちを異世界から伝えた。反抗期を向かえてから話をろくに聞いていないけど、それでも親は親なのだ。参観日に来てもらいたくないとか、運動会に来るなとか、そういって反発したい気持ちも十二分にある。けれど、そんな本音中心の生き方はガキ。そう考え、稔は建前として感謝を伝えておいたのだ。


 そんなふうに外れた方向へと稔が進んでいく一方、紫姫は冷たい視線を稔に向けていた。時間経過がそれほど行われたとは思いたくなかったが、紫姫が言うには三〇秒は軽く越していたそうだ。もちろん、罪を認めない悪な男ではない。稔は指摘を受けて謝罪した。直後、紫姫が「うむ」と言ってこう続く。


「酷薄ではないな」

「その方がいいよ、やっぱ。冷たい関係より温かい関係のほうが俺は好みだ」


 話が一向に進まないことを後回しとして、稔は紫姫との会話に夢中になっていた。一人っ子だから一人遊びが得意という側面もあるけれど、異世界に来てから一年もの間行われていた友人との会話制限が解かれ、会話したい気持ちが爆発したのである。コントロールできないような強い感情とともにだから、もちろん手も付けられない。


 そんな稔は、話を一旦終わらせて紫姫に問うた。


「それでさ。ふと思ったんだけど、『紫姫』って名前を貰って幸せだったか?」

「幸せだ。それと、我は貴台の彼女の漢字名を『朱夜』から『紅月』に変えるべきだと思う」

「『夜』が二個入ってるからだろ?」

「よくわかったな。貴台にしては上出来だ」


 稔は「それはどうも」と言い、褒め言葉として受け取る。だが、一方で「おまえが言うな」という感情が内心にあったのは確かだ。それこそ、鈍感さは稔と紫姫で一二いちにを争う。喉から出そうに成る言葉も抑え殺し言わないでおいたが、紫姫に対してその感情を抱いたのは確かなのだ。


「ところで貴台。彼女との間に子供が生まれた場合、どのような名前を名付けるか決めているのか?」

「まだ決めてねえよ。てか、まだ時期として早過ぎるだろ」

「分からなくもないが、ラクトの言い分を聞いている限り貴台は子作りに相当熱心な様子であるし……」

「それ以上言うな。全く、俺の心に傷を負わせるとはいい度胸だ」

「褒め言葉として受け取っておこうかな」


 そんな会話を交わし、稔と紫姫は仕事の効率をまた落とす。馬鹿としか思えないが、本人たちは嫌に思っていないので問題無かった。けれど、それはすぐに嘘だと判明する。紫姫の一言によって場の空気が大きく変わった事も大きいが。


「まあよい。さて、稔よ。貴台の精霊として抗議をさせてもらおうか」

「どうしたんだよ。そんな改まって――」

「我も貴台の作戦に捕まってしまった一人だ。強く言うことは出来まい。だが、速く作業を終わらせるべきだと思うことに変わりは無いんだ」


 頷きながら紫姫の言い分を聞く稔。彼は、精霊からの言葉も重要な言葉として否定することはしない。切り捨てる必要のある文章とは到底思えず、むしろそのまま取り入れてしまった。それを受け、また格好つける感じで馬鹿にされるために言うかのごとく、稔は真剣な表情を見せる。


「なるほどな。……んじゃ、こっから本気モードということで」

「質問の一切も受け付けない、ということで良いか?」

「暴走だけはするなよ?」

「ああ、分かっている。貴台こそ、場の空気を乱すような行為はするでないぞ」


 両者ともに納得のいく結論が出たところで、稔と紫姫がグータッチを交わす。同時に互いの顔に浮かぶのは破顔した表情だ。ラクトとはまた違った紫姫の笑みに、稔は心に多少の動揺を覚えた。


「(不覚にも心を奪われそうになった。危ない……)」


 稔は大きく嘆息を吐き、続けて咳払いして作業に取り掛かった。書記担当の遅れを招くのが紛れもなく自分の行動だからこそ、やる気もどんどん湧いてくる。


「この部屋は入居者なし、か。次の部屋は一日平均一五回だな」

「一五回は相当な回数だな。名前と顔を対応させて覚えていないから、誰を指しているのかわからないが――今後の資料としては十分に活用できるだろう」


 時々目に留まるのは、あまりにも多い回数の記された書類。ラクトが虚偽したのではないかと疑ってしまうくらいの回数が真実なのだとすれば、それは絶句するしか無い。また、資料に目を通していく中で驚くべき事実を稔は知ってしまった。


「避妊対策をしたかも書かれてるみたいだな、この書類」

「どういうことだ?」

「ここに『対』って小さく書いてあるだろ? これが『対策済』を示してる」

「なぜ、そう断定できる?」


 紫姫は首を傾げて稔に問うた。一方の稔は、紫姫を納得させるために資料の中から漁って見つけた重要な証拠を提示する。バン、と机と書類の上から手を叩きつける様は警察官のようだ。


「ほら、この『追記』って書かれた部分に『中絶』とかが書かれてるだろ?」

「確かに書かれているな」

「でもさ、これより酷いのがあるんだ」


 稔はもう一枚手に取り、それを紫姫にまず見せた。自分は既に情報を知っているので、紫姫に確認してもらおうという魂胆だ。詳しく言わなくても分かるような場所に記されているのだが、それでも理解してくれるか心配で稔は口頭説明を始める。


「まだ一四歳なんだぜ? それなのに、孕んだ後は腹部を中心に暴行を受けていたらしい。中絶を拒否して子供は出産したそうだけど、政府の役人らはそのシーンを撮影して、その中で生まれた赤ちゃんにクスリを飲ませて殺したそうだ」

「ふざけている……」


 稔の説明に現実を信じたくなくなった紫姫。けれど彼女は、資料を見回しても否定する文章の欠片も見当たらなかったから、それが本当のことで有るとわかってしまった。その直後、紫姫は自分より若い女の子が被害に遭っていることに涙を流してしまう。


「胸を貸してくれ」


 紫姫は流した涙を少し手で拭い、直後に稔の胸へ飛び込んでいった。泣かないように自分の感情を否定しようとしていたが、それは不可能な話。もはやどうにも出来ず、自分が感情を露わにしても怒らないと睨んで声を上げないようにしながら紫姫は涙を流した。微量だが、彼女の涙もろい一面が見えた形だ。

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