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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-34 対帝国政府-Ⅻ

「ご苦労さん」

「結局、一人で運べたんじゃん。女手おんなで、使う必要なかったんじゃない?」

「そうかもしれないけど、時間が短縮されたのは事実だろ。調整に関しては、息が整ってれば二人一組デュオのほうが早い」

「いちいち格好良い言い方しなくていいよ、厨二病」

「厨二じゃねーし、高二だし!」


 などと会話をする稔とラクト。周囲が頭を抱える様子など目もくれず、自らが従っている主人の暴挙に頭を悩ませた召使や精霊、罪源が続々と住居へ戻っていっている事実も分かっていない。とはいえ、『永久に気が付かない』という訳ではなく、少し経って周囲から人影が消えて気がついた。もっとも、遅すぎるのは言うまでもないが。


「まあいいよ、そんなの気にしないし。ある程度の知識があれば、教えることなんか容易でしょ」

「ろくに免許も持ってないけどな」

「免許無くてもいいじゃん。欠落した箇所を埋めるための、言い換えれば『補習授業』なんだし」


 実際のところ、捕虜となっていた女性たちの中には成人年齢を迎えた人が数多く居た。最高齢はラクトの母親だったようだが、彼女ですら四十代前半。十代に集中しているわけではないことも確かで、となれば二十から四十歳が多いことが窺えてくる。しかしまだデバイスを弄っていないから、政府の役人らが好んでいた女性を発見するに至っていない。それでも、多い年齢を発見できただけでも良い収穫と言えよう。


 だが一方。政府の悪態を暴けることとは裏腹に、年下が年上に教育をするということになれば反発が生まれるのは火を見るよりも明らかな話である。教師へ言いがかりを付ける生徒が出てくるのは考慮しておかなければならない。それこそ、ラクトの話にあった「欠落した――」なんていうのは、人によっては「見下している」と言われてもおかしくない。


「ラクト。考えは概ね分かったけど、年上相手の時も考えて敬語を使ってほしいな」

「キャラ崩壊させる気か! てか、敬語なんか使ったら最初の頃に逆戻りだよね。そういうシチュ好き?」

「違う。教師一人の言動が生徒に与える影響は大きいから、年上には敬語を使ったほうが無難ってことだ」


 稔は自分の意見を押し付けるような行為はせず、取りあえず提案の範疇でラクトに言ってみた。ラクトと親しい仲なのは母親くらいなので年上と面識が無い以上は敬語を使うべきだ、との考えを伝えたのである。しかし、ラクトにも考えはあった。鵜呑みすること無く、彼女は議論へと持っていく。


「年齢関係なく授業受けるんだし、敬語なんか気にしなくていいでしょ。その方が授業も弾むはずだよ。それに、敬語なんていう上級の敬体表現されたら生徒も嫌になると思う。授業は明るく楽しくやんなくちゃ」

「わからなくもないが……」

「結論を出すことが仕事じゃないんだし、即決する必要は無いと思うよ? 焦らず、自分なりの方法で授業を進めていくことが大事だと私は思う。指揮する人だからって何もかも完璧な人は居ないんだからさ」


 ラクトは笑顔を浮かべて稔を励ました。何をするにしても最初は赤子、見ず知らずの世界に放り出されたゼロ歳なのである。だからこそ、情報を得て自分に必要なものを身に付ける必要があるのだ。玉石混交とした中から必要な物を取り出すのは難しい。けれど、取り出して積み重ねた先には大きな力が待っている。それはもちろん、作業をした自分に返ってくる。


「ありがとう。なんか、凄く安心した気がする」

「それは良かった。でも、教育面では私が進めておくから気にしないでいいよ」

「なんでだよ。俺にもさせろよ」

「バーカ。てめーには残ってることが有るだろ。『献上』の被害にあった女性らの中で一番使われたのが誰だとか、誰がどういう性癖をしているのかとか、そういうバラされたら恥ずかしい情報を探る作業がな」

「忘れてた……」


 稔は「すっかり忘れていた」と思って咄嗟に口に出した。しかし彼のこれまでを振り返ってみても、その作業を引き受けるなどと言った事実はない。即ち、『忘れていた』などという話は無事実で根拠の一切がないデタラメなのである。それに気が付き、稔は咳払いして訂正した。


「忘れてた訳じゃなかったな。まあ、何だかんだ俺が引き受けるべきだわな」

「そうだよ」


 どこぞの動画サイトでは『(便乗)』と追加で付け足されそうな台詞であるが、そう思うに留めて先へと連想することは止めておいた。その先は【禁断の領域】である。物言いこそ格好良く聞こえるが、それとは裏腹な答えが待っているので知られてほしくはなかった。けれど、ラクトは稔が言っていたことの先を彼の脳を探って見ていたので無駄な抵抗でしか無い。『ネタ』という事を知っての行為なので、彼女もそれに関して口に出していなかった。


「ところで、引き受けたとして一人で作業を進めるのは大変だと思うんだが?」

「あと一つの償いをさせるために場を設けたんだから、その女の子とどうぞ」

「そうか。でも俺は、赤い髪の毛のハッカーに協力してほしいな」

「はあ……」


 ラクトが大きく嘆息を吐く。翻り、稔は彼女をプロジェクトへ参加させたい気持ちで一杯だった。それこそ、ハッカーを自白していたのである。デバイス全てをハッキングしてしまえば情報を入手出来るし、女性らが監禁に遭っていた薄暗く寒い部屋へ行く必要もなくなる。記録だって取りやすいから、一石二鳥と言えるだろう。


「人の思いを踏み躙んな、バカ」


 稔はラクトの考えを見抜いていたから、余計にたちが悪いとラクトは思っていた。分かっていて分からないふりをする以上の最低な行為は無いのである。親しくなった人物との関係を守るために心に嘘を付いて質問をするとは情けない。そういった考えの下、ラクトは稔に自分の考えを伝えておいた。


「解析データは個々に出てくるから、稔と紫姫でまとめの作業をどうぞ」

「了解だ。寒い部屋に行くのは御免なんだ」

「嘘つきめ」

「悪かったな。でも、時間短縮するためには必要な行為だったんだ」


 稔はラクトから注意を受けた自分が行った行為を反省する。一方のラクトは、直後に自身の特別魔法を転用して黒縁メガネを作り出した。同時にパソコンも作り上げる。スペックはそれほど高くないが、ハッキングには十分な性能の物だ。


「……ちょっと待って」


 カタカタ、カチャカチャ、と慣れた手つきでキーボードをタイピングしていくラクト。初期設定なんていうふざけた時間を要する事柄は既に済んでおり、起動時間は僅か十秒であった。自分専用なのでパスワードは入れてない。もちろん、それだけで起動時間が速まるのは言うまでもない。




 わずか十五秒という短時間。起動時間を含めても、掛かった時間は三十秒だ。デバイスはネット上に管理されていることを掴み、即座にラクトはIPアドレスから侵入したのだが、繋いだネットワークのパスワードを解読するのに多少ばかし時間が掛かったようで本人は悔やんでいた。


 ハッキングを成功させた後、ラクトは「どうせ使わないのだから」とデバイスの機能を停止させる。簡単にいえば「データ破壊」だ。その後、得た情報をラクトはどんどんと特別魔法を転用させて作っていく。


 そして彼女は、出来た資料をそっぽを向いて稔に手渡した。その際に言葉は一言だけだ。それも鼻声で言えるような、五十音の最後の言葉のみである。


「ん……」

「サンキュー」


 稔はラクトから受け取る。彼女はそのミディアムヘアの赤髪を揺らして授業をするために会議室内にあったホワイトボードの方向へと向かった。起こっている様子はない。むしろラクトは、自分が思ったような行動が出来ていないことが影響して照れていた。


「さてと。授業の邪魔にならない席は……そこか」


 誰も座っていない椅子と物の一切が置かれていない机を見つけ、稔はすぐにそちらへ向かう。けれど、そんな彼を怖がらせるかのように紫姫が魂石から出てきて椅子に座った。突如として現れた彼女の姿に、稔は少し怯えを抱いてしまう。


「怖いことすんな」

「作業を速く終わらせようという貴台の考えに賛同し、それに従って作業を進めただけなのだ。怖がらせてしまったことにはお詫び申し上げる。すまなかった」

「そこまで怒ってないから」


 稔は笑い混じりに紫姫に言った。言われ、紫髪は「そうか」と安堵の表情を見せる。続けて稔は、ラクトから受け取った書類を机に置いて眼下の椅子に腰掛ける。直後、書類を紫姫の座っている方へと持っていく。


「それで。紫姫には記録を頼みたいんだけど」

「了解した。極力綺麗な文字を書けるように努力する所存だ」

「……もしかしての話だが、紫姫って汚い文字を書くような奴か?」

「そういう訳ではないと思うが、……試しに書かせてもらっても良いか?」

「いいけど――って、ペン無くね?」

「貴台は馬鹿だな。ラクトがどれだけ気の利いた嫁か分かっているのか」


 紫姫は言い、ラクトがデバイスをハッキングして出てきた資料を数枚捲る。すると、そこには黒色に塗色されたボールペンがあった。紫姫はカチカチっと押して壊れていないことを確かめ、直線をビーと簡単に引く。


「性能は問題なしだな。では、どのような文字を書くべきだろう?」

「紫姫のフルネームを漢字で書いてみろ」

「『夜』『城』『紫』『姫』か。書きたい気持ちは山々なのだが、本題へ至らなければ本末転倒。面倒臭いことを考慮し、後ろ二文字で許してもらえないか?」

「自分で書くんだ。文字数の削減は構わない」


 主人と精霊という関係も含め、指示した本人が言うべき台詞とは思えない。けれど、そこに稔の誰かへ押し付けることが不得意な本性が浮かび上がっていた。それこそ『主人の指揮』だと考えれば、主人と精霊を分ける立場の人達から批判されることもあるまい。


「では、書かせてもらう」

「書き初めかよ!」


 文字を書くという単純作業への余りの集中ぶりは稔を大いに驚かせた。気合の入れようが相当だったのである。そんな一連の流れから、紫姫が深呼吸して筆を持ったことに稔はそんなツッコミを入れていた。


「楷書じゃないんだな。てか、上手すぎるだろ……」


 書かれていた『紫』と『姫』の文字は、それぞれ行書体に変換されて書かれていた。『紫』を構成する『止』と『ヒ』はそれぞれ繋がっており、『糸』の下部は三つの点となって書かれている。『姫』は『コ』を支える縦棒二つを中心に変換が加えられており、こちらも味のある行書体だ。


「やろうと思えば草書でも良いが?」

「馬鹿か。本題はそこじゃねえよ。お前は書記だ。パフォーマーじゃない」

「そうだったな。では、本題に取り掛かろう」


 紫姫の書く文字が綺麗だと判明し、稔は安心して書記を任せられると思った。たとえ行書だろうが、読めればどうってことない。崩しすぎて分からなくなっている訳でもなかったので、稔は気にせずに話を進めていった。


「んじゃ、一〇三号室からな」

「了解だ」


 そうして、稔と紫姫の調査が始まった。けれど、やはり召使の事も気になっていた稔。赤髪の動向を窺うために視線を横へと逸らす。見れば、ラクトは前の方にあった教壇らしき場所の机に手を置き、既に授業を始めようと紙とペンを取り出して計画を練り始めていた。一方で生徒は、そんな教師に応えるかの如く次々と着席してゆく。


「やはり、貴台にとって最重要な女はラクトなのか……」

「そりゃまあ、彼女だしな。でも、紫姫を嫌いってのは嘘だ。むしろ好きだぞ」

「すっ……」


 誤解を与えるような発言をされ、紫姫は一気に顔を赤らめさせた。俯いて頭から水蒸気を出しているかのように見える。でも、照れ顔は次第に冷静な表情へ変化し、彼女は稔の言っていたことの魂胆を知る。直後、紫姫は抗議を行った。


「胸の内に抱えた気持ちを告白することは悪いことではないのだろうが、けれども、相手ひとを困らせるような発言をするべきでは無いと我は思うぞ」

「ごめんな」


 稔は言われ、謝罪した。

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