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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-29 対帝国政府-Ⅶ 

「まあ、この場所へ来たということは相当な実力の持ち主ということだろうが――容赦はしない」

「偉そうに言いやがって。俺は彼女を監禁から解放するために助けに来ただけだ。今なら、俺はお前らに一切の危害を加えないことを約束する。俺はお前らと戦いたくないんだ。平和的に常識的な行動を取って欲しい」


 稔は対峙したが、だからといって武器を手に取って向かっていくような奴ではなかった。「共に人間同士なのだから、まずは話し合いで解決できないか探ってみるべき」という考えだからだ。もちろん、解決の兆しが見えなければ問答無用で武器を手に取って襲い掛かる。目的の達成――『正義』のために必要な事だからだ。


「平和的なんて言っている野郎が、なんで突然この部屋に登場できるんだ? 奇襲攻撃をしに来たんだろ?」

「奇襲攻撃をしに来た事実はない。ほら見ろ、これが証拠だ」


 稔は敵側が自分たちのことを信用していないことを知ると、即座にルシファーから借りた鍵を見せた。ルシファーにラクトのような物体を形成する魔法が使用できない以上、指定された場所でしか使えない数少ない鍵であることは明白な事実である。無論、帝国政府サイドも監禁部屋となっていた『第三会議室』の鍵ということは即座に理解出来た。けれど、認めれば敗北したも同義だと思った彼らは抵抗を続ける。


「格好つけているところで残念だが――この鍵は『偽物フェイク』だよ。嘘を証拠にするな」

「戯け! 嘘を証拠にしているのは貴様らの方だ。我が主人が嘘を付いた証拠の一切は無い!」


 稔に対して批判が起こるなかで主人を擁護したのは紫姫だ。否、正確には『擁護』ではなく『正論の主張』と言うべきだろう。彼女は怒号のような大声を言い放った後、右拳も左拳も強く握って感情を出しても収まりきらなかった怒りを表情から露わにしていた。


 何しろ、稔が間違った鍵を持ってきた事実がないのはルシファーの内心を読んだ時から分かっており、それこそ相手が事実を隠蔽しようとした事も僅か数十秒前の話である。主人が最初に契約した大切な召使の代わりとなろうと決心した紫姫が重要な話を忘れることなど、とてもじゃないができなかった。


「抵抗するとはいい女だ。程よい肉付きも素晴らしい……」


 けれど、敵サイドの男たちに映った紫姫の姿は、論争を経て解決できるとは思えないような野蛮さに満ち溢れたものだった。もはや彼らの視界は肉食動物のそれである。まるで陰部に脳があるような土人加減だ。もっとも、稔はそんな土人たちに大切な精霊を渡すような主人あくではない。肉付きを褒められて紫姫が反応に困っている中、稔は冷酷な視線を政府サイドの男たちに向ける。


「後半の文章は有難い褒め言葉として受け取っておきたい。けどな、前半の文章で殺意を覚えてしまった」

「おいおい、正義を主張する奴が武力行使に出るのか?」

「彼女や精霊の一人も守れない主人になる気は無いからな。守る為に使わないなら、俺に魔力は要らない」

「言ってくれるじゃないか。まあ、その格好付けはとてつもなく見苦しいだけだがな」


 主人公ヅラしている稔を敵サイドが気に入っていないことは、強姦未遂を犯した男たちの態度を見れば何となく分かることである。けれど、そんな彼らに屈するような主人になりたくはなかった稔。エルダレア帝国が新たな国家へと歩み出す一歩を自分が作っているのだと噛みしめ、続けて彼は唾を呑んだ。その後、稔はラクトの開放へと向かう為に紫姫のほうへ近づき、紫髪によって隠れそうになる彼女の耳に小さな声で言葉をぶつける。


「紫姫。俺が『瞬時転移テレポート』したのを確認したら、お前は『時間停止タイムストップ』を使ってくれ。続く秒数がどれくらいなのかは知らんが、俺を停止対象に含まなければいい。それだけ頼む」

「了解した」


 紫姫は頷き、それで作戦を呑んだ事を表意した。その一方の帝国政府側は、稔らによる作戦決行が近づいていることに恐れを抱くこともなく『黒白』を煽る作業を続けていた。ここまでくると尊敬の域である。


「おいおい、正義が情報を後悔しないのはダメだろう。正当さを評価するためにも必要じゃないのか?」

「お前みたいな奴が国家機密を否定するんだな。――陰部に脳の中枢がある土人野郎が」

「暴言を吐くとは頂けな――」


 煽りを続けていた強姦未遂事件を起こした性犯罪者一同の代表は、稔から言われた言葉で頭に血が上る衝動を覚えた。「煽っていたツケが回ってきた」と話せば解決するような事であったが、彼は嘘偽りのない鍵の存在から否定に入っている。だからもう、捏造した情報を論破されないように逃げるしかなかったのだ。


 そういう他人の価値観や考えを受け入れない奴に限ってプライドが高いから攻撃的な言葉を使用したのだが、稔の作戦は彼らに対して効果抜群だった。急所に当たった訳では有るまい。だがそれは、例えるなら黄色い電気ネズミが登場する某ゲーム内における「タイプ一致で六倍」である。加えて「ひるみ」と来た。そのターンは衝動で攻撃が出来ない。


「紫姫。頼んだ」

「分かっている。――心配するな」


 紫姫に作戦の実行時期が来たことを告げる。すると、彼女は破顔して一笑した。続き、稔が紫色の光を放つ剣を右手に構えて『瞬時転移』を使用する。ラクトが裸体となって拘束されている場所へと彼は向かい、彼女の拘束を解こうとしたのだ。その一方、紫姫は後方から移動する前に『十二秒間の時間停止タイムストップ・ツヴェルフ』を使用した。今回の魔法使用宣言はドイツ語読みである。


「悪かった。今、助けるからな……」


 稔はそう言い、紫色の剣が小さく出来ないことを悔やみながらも巧みに剣を操って縄を解く作業を行っていった。ケーキを入刀するときのような慎重さを見せつつ、彼はラクトの生まれたままの姿に傷が付かないよう努力する。それは、もしも稔が白衣を着ていたのなら手術している医者に見えてくるくらいだ。


「稔。我も手伝う」


 稔だけではない。紫姫も主人と恋敵の戦友のためを思って手伝い始めたのだ。会議室の中はそこまで広い訳でもなかったから、ダッシュして稔の元へ駆けつけて稔と同じく剣を巧みに用いて縄を解いていく。


「しかし、やはり我には届かない大きさだ……」

「仕事しろ」


 冷静さの裏に紫姫は本音を口にしたが、一二秒間という僅かな時間の中で『黒白』はラクトを縛っていた縄を完全に解くことが出来た。赤髪巨乳の意識は一二秒間を一秒間と感じている魔法の効果を受けている側だったから、解いた直後にラクトから感想を聞くことは出来ない。けれど、そんな事は後で良いと時間停止が解除されるのを二人は待つことにした。


「なあ、紫姫」

「そうした貴台。残り三秒――?」

「お前、さっきキスしただろ? ――借りも含めて今のうちに返却するわ」

「えっ……」


 紫姫が驚いているなか、稔は右手でラクトの左手をぎゅっと握った。それに続けて開いていた手を精霊の頬にやり、自分の顔を近づけていく。彼はそんな数秒の残り時間で、紫姫との間に結んでおいた行わなければいけない事柄の二つ目を終わらせた。


「ん……」


 目を閉じて紫姫は稔に身を委ねていた。『瞬時転移テレポート』は魔法使用者に触れていれば特に問題なく転移できる事もあり、稔と紫姫の唇が互いに触れ合っていたこともあって問題なくテレポート出来た。


 唇を離す稔と紫姫。ディープキスをしたつもりはなかったが、離した時に少しだけ唾液が糸を引いている。だがその後、稔は「やらかした」という強い衝動に襲われた。ラクトに「浮気ではない」と説明することは証拠を持って可能だが、赤髪は変なところで正論を悪用する癖があったので困難を極めそうだと嘆息を喉まで上らせる。


「なん……だと?」


 一二秒間の時間停止期間が解除されたのだ。稔がテレポート出来たということは、即ち特別魔法の使用が解除されたということ。一二秒を一秒と換算したラクトや敵の代表者も行動の制限が解除されていた。


 そんななか、稔は相手から驚きの声を聞いて敵への攻撃を更に行った。一方の紫姫は後方でラクトを慰めている。ラクトに特別魔法を使用させる指示を出して服を着させるが、それでも魔法陣内へ戻れないことを考慮して自分が守ろうと自身の後ろにラクトを配置し、精神的な治癒と護衛に努めることにした。


「お前らが調子に乗っているから悪いんだ。……まあいい。それで、女献上で政府へ捧げた女性らが元居た場所へ帰されたのか聞きたいんだが?」

「か、帰した! 身元不明にしている事実はない!」

「正反対の嘘、か。――そんな嘘で俺が信じると思ってるのか?」


 稔は「勝った」と内心で思った訳ではない。だが、まるでそう思わせるような態度を取った。それは心も読めない上に察しすら付けられない土人性犯罪者にからすると厄介以外のなにものでもなく、敵サイドの代表者はアガっていく。


「反論するなら根拠を提示しろ。俺は監禁した事実から、他の女性が同じ目に遭っていないか考えを巡らせただけだ。そしてそれは根拠。お前らはどうだ?」

「……」

「まあ、さっきから気になっていたんだ。なんで施錠された扉がもう一つ有るのかってな。会議室に準備室は付き物だが、密室という事も考えると――なあ?」

「だから言っているだろう、期間が終わった女性らは帰してい――」

「証拠を出せ、証拠を。証拠のない反論は反論じゃねえんだよ。馬鹿か?」


 稔は冷たい表情を貫き、アガっていく相手を嘲弄する姿勢を態度では一切見せなかった。それこそ、温かみの無くなった強気の人物の怖さは計り知れない。だから、性犯罪者サイドの稔へ逆おうとする意思は次第に小さくなっていった。


 そして、遂に性犯罪者が他にも捕虜が居ることを認める供述を行う。


「ああ。そうだ、帝国に献上させてもらった女のほとんどは施設の中に居る。年齢も一二歳から五一歳までと幅広い。――でも、それが何だって言うんだ?」

「『それが何だ』? ふざけるのもいい加減にしろ!」


 稔は怒りを性犯罪者に向かってぶち撒けた。もはや、言葉遣いが汚い事で引き下がる気など皆無。ラクトを救出できたことも含め、自分の望んでいた結末を迎えるためのラストスパートに入ったのだ。それには数学などで使われる、「早く正しく正確に」を基本の方法として用いている。


 思いは正確に、けれど簡潔に。捏造した話を紛れ込ませる事は無いよう、稔は細心の注意を払って話を進めていった。もはや引き返す道は残されていない。灯された『前進』というロウソクの灯火に従って、彼は読んで字の如く前へと進んでいく。


「エルダレア政府『だけ』が慰安婦の問題を捏造した、と言うことは出来ない。けど、俺の配下に居る罪源の一人は慰安婦やってたせいで殺されたんだぞ? まともな武器も無い中、彼女は殺されることに一切の躊躇いを覚えなかった」

「それがどうした? 敗戦した国家の人民としては普遍的な個人の対応と言えると思うが? そもそも国家元首の血筋が止められていないのだから、それだけでも感謝するべきだろう。――というか、いまさら終戦直後を振り返るな」


 代表の男は言い、稔の事を嘲笑した。自分たちが圧倒的優位な立場で行った愚行に関して同情するつもりなど無いのである。稔も「勝ったものが歴史を作ること」は否定しておらず、それに反駁するつもりはない。だが、慰安婦がいくら軍の関係者だからといって、無残かつ冷酷に一人だけを殺すのには心火を感じた。


 そんな状況下、稔は脳内に看板のようにある言葉を建てた。そして彼はそれを使用し、代表の男が考えているであろうことを推考して彼の論を否定していく。


「お前、人の『感情』だけじゃなくて『歴史』まで否定するんだな」

「歴史? 他国の事も知らないような男が何を偉そうに――」

「悪いな。けど、お前だって自国の歴史は学んできただろ? 振り返ることの何が悪いんだ。それこそ『過去を振り返るな』なんて言ったら、お前の論理は崩壊するぞ。それも『終戦直後だけ』だ。明らかに狙っているようにしか思えない」

「……」


 稔の論理に矛盾は無く、帝国政府の性犯罪者らを率いる代表者は重く口を閉ざした。捕虜であったラクトがいつの間にか解放されていたことも相まって、もはや自分たちが正しい反論をすることが出来ないのではないかと思うに至る。


 けれど。「言葉が通じなければねじ伏せればいい」ということを、帝国政府の関係者は殆ど十二分に理解していた。そんな彼らは、いわば本当の姿を裏に隠している『戦闘狂』。そのため、戦いで不利な展開が来ることも考えられた。けれど、そこで登場したのが最強にして最凶の精霊罪源。


「……え?」


 いきり立ち、帝国政府サイドは強く反抗の色を示す。だが、使用しようとした魔法は一瞬にして消えて無くなってしまった。もはや原形は無く、有り余る魔力は行き場を失っている。そんな中で目を大きく開いて驚いた表情を見せる性犯罪者の代表。彼は状況を呑み込めずに左右に首を振る。


「嘘だ……」

「嘘じゃないです。だって貴男あなた、一時的に魔法を使えない状態になってますし」


 魔法を奪う魔法は、サタンがサタナキアから『複製レプリケイション』した技である。そう多くの魔力を使わずして相手の魔法ちからを封じる姿は、どこかチートキャラを演出しているような気がしなくない。


「独裁政治は終わりだ。これからは庶民の声を聞く政治を目指せ」


 サタンに命乞いしたと感謝をし、稔は性犯罪者へ冷淡な姿勢で言う。けれど、もうここまでくると相手も反論する気力は無かった。帝国政府のツートップが亡くなって性奴隷が監禁された部屋の鍵を手に入れた今、現実を呑んだことで事態が自分たちにとって勝ち目のないものとようやく理解したのである。


「帝国政府庁舎を明け渡そう。――それが、君たちの為だと思うから」

「ありがとう。でも、お前ら役人は何処で生活するんだ?」

「僕らは帝皇の隠れている場所で君が勝利を手にする時を待つことにするよ」


 性犯罪者は強者に従順なのか、と稔は疑問に思った。そういう人が現に居なくもないからだ。けれど、最後の言葉で払拭された。「帝皇と時を待つ」と言ったのだ。それは即ち、帝国としての誇りを胸にしている意味である。強者に従ったのではない。彼らは『協力』したのだ。


「無血で明け渡せなかったことは大変申し訳なかった。ところで、謝罪は先にするべきなのか? もしそうなら、帝皇の在居へ向かう前に行うが――」

「反政府軍はこの場所に迫って来ているんだ。謝罪は戦が終わってからで良い。そもそも、男が女の心を一から十まで分かってやれるはずがない。逆も然りだ。だからここは、俺が――いや、俺らが担当する。早く逃げろ」


 稔の言葉に感極まり、性犯罪者一同は瞳を潤わせる。けれど感情的な自分に蓋をし、続けて代表の部下らしき人物が他数名を率いて稔のようにテレポートする体制を作った。でも部下が使用したのは『通常魔法』だ。



「――瞬間移動テレポーテーション――」


 

 そうして、ラクトが監禁されていた部屋に居た性犯罪者らは去っていった。

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