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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-28 対帝国政府-Ⅵ

 既に自分が従っていた主人は倒れてしまった。だが、罪源は魔法陣へと戻る特徴を持っていても、召使のように主人が死んだら契約切れで消えてしまうなんてことはない。ヘルのように誰かを回復させる魔法をルシファーが未所持だったことも幸いし、戦闘員の数を考えても優位に戦いを進められる気がしたが――油断は禁物だった。


「な――」


 サタンがルシファーの怒りの感情をエネルギーとし、自身の使用する魔法の効力を高めたのは記憶に新しい話だ。けれど、それはサタンにだけ出来る話ではない。罪源ならば全員が使用可能な業だったのだ。その法則で行けば、サタンが憤怒ならルシファーは――『傲慢』だ。



「――覚醒形態(アルティメット)――」



 怒り狂って戦闘狂と化すところは罪源と精霊が似ている所為だが、その『感情』を自分のものに出来る罪源が居るのは違うところである。サタンがルシファーの怒りを吸収しているかと思えば、ルシファーはサタン含め稔サイドの傲慢さを吸収していく。そもそもの作戦で相手に圧倒的な差を付けることを目標としていたこともあり、ルシファーが吸収できた『傲慢』の力は計り知れないものだった。


「先輩。恐らくこのバリアは、もう役に立ちません」

「だろうな。罪源の『覚醒形態』だし、そんなもんは知れた話だろ」

「意外と先輩は冷静なんですね」

「『傲慢』の感情を抱くべきじゃないって分かったしな。それこそ戦闘狂になって魔力を大量に使ったら、控えた救出作戦に支障が出る可能性も否めないだろ? だったら、冷静に戦うのが一番だって思ってな」


 稔は余裕を見せるように言った。でもそれは冷静さを貫いているだけである。内心では怯えていた。しかし意を決した話に異論は無く、目の前をじっと見つめてルシファーに白状させる方法を稔は模索する。そうやって失っていく『怯え』と、同時に生まれてくる『自信』。二つの感情に左右されながら、遂に稔は目の前の敵へと攻撃を行う準備を始めていく。


「どうせバリアが破壊されるなら、こっちにも手がある……」


 稔は格好つけたように言い、自身の右手に紫色の光を放つ剣を持った。これは特別魔法ではないから、紫姫が時間を止めようが使用可能である。それに加え、ある情報が飛び込んできて話が一気に進展した。その情報源ソースは紫姫の台詞。彼女はルシファーの内心を読み、嘘ではないと判断してこう言ったのだ。


「貴台。既に『魔法使用不可』の範囲は消えたようだ。その面であれば、バリアは必要性なかろう」

「それは朗報だな。けど、バリアは解かない。何度も強烈な魔法を弾き返してきたんだしな」

「うむ。確かな根拠を持った話だ、異論は無い」


 紫姫がそんな風に評価した直後だ。相手サイド――もとい、ルシファーが『明けの明星(ダウン・ザ・ウェヌス)』を使用したのである。刹那、バリアで防げるものではないと紫姫は即座に判断した。サタンもその方向で異論は無い。そんな中で、稔は考えるよりも先に行動を取っていた。


「サタン。お前も特別魔法から選んで対抗してくれ」

「わかりました、先輩」


 サタンは稔の考えに同調すると、ラクトの特別魔法を転用して剣を二つ作り出した。時間にして僅か二秒のことだ。ルシファーが剣を振り下ろしたのは確かだが、それでも魔法がバリアを破壊するまでは数秒だけ掛かる。つまり、それを利用した形だ。サタンは直後に剣を左右に握り、瞬時に場を飛び立つ。その一方、稔も特別魔法の使用に踏み切った。



「――六方向砲弾アーティレリー・シックス、光に向かえ――」



 砲弾の向かう場所の指定は初めてのことだ。しかし六方向に向かった後、一極に集中していく事は不可能ではないと考えて稔は言い放った。光は即ち、明星の光線だ。ルシファーが斬る仕草をしてから間を置いて上空から降り注いでくる光のことである。稔は視線を一度そこへ向け、たちまち俯いて一度合わせた焦点へと向けて砲弾を放つ。


 その一方、サタンは握った二つの剣に魔力を込めていた。二剣を覆うは紫色の光。憤怒の罪源は凄まじい眼力をルシファーに向けており、充血しているかの如く目を紅に染めていた。そして彼女は、敵サイドの残兵を斬りに行く。その一方、先程の魔法使用時に稔が呆然とした表情を見せたことを思い返し、防御力の欠片もないことを考慮して少しだけ魔力を弱めた。


「サタンッ!」


 しかし。最強で最凶の精霊罪源は、『覚醒形態』に到達した罪源に敗れてしまった。眩い光線を向かっている道中に浴びたのである。同時にバリア強化へ動き出す稔だが、それは『明けの明星』が成立した後だった。その前に行ったことといえば、サタンの名を叫んだことだけである。紫姫のコントロールの訓練はしていたが、サタンはまだだったことが仇となった形だ。


 しかし。魔力を解き放っていく者が居る一方で、紫姫はサタンの無事を願う稔に対して全面から抱きついた。何を考えているのか分からなかった稔だが、触れた唇に過去の話を思い出す。ラクトが話していた、召使と主人の間における魔力の回復行為。場所を選ばず短時間で出来る行為で魔力を最大限回復出来る方法と考えた時、紫姫が行ったことが一番に当てはまっていた。


「接吻行為は貴台の彼女も認めている行為だ。これで魔力は回復しただろう。今すぐにバリアを張れ」


 時は既に遅いと思った稔だったが、紫姫はその直後に時間を止める魔法を使用した。紫姫は直後にバリアから飛び出してサタンの救出に向かう。それは、明星の光線から攻撃を受けない一二秒間だからこそ出来ることだ。その一方、稔はバリア内に留まって弾き返すための魔法使用を行う態勢を整える。


「――覚醒形態――」


 稔は対抗する為に必要だと思ったことを最初に行った。使用範囲から除外されている人物は特別魔法の使用以外であれば殆どの行為が許されているため、稔は権利を活かして魔力を最大限に活かせる状態を作り出したのだ。


 そして、時はあっという間に流れていく。一二秒という時間が経過した時、稔は遂に魔法使用を宣言した。それは、言い換えるなら『黒白』の魔力を結集した特別魔法を放つことと同じである。



「――跳ね返しの透徹鏡壁バウンス・ミラーシールド――」



 言い放ったと同じくバリアは構成されていった。バリアが構成されれば、もはや戻る術は『瞬時転移テレポート』しか無い。だからこそサタンを頼ることにした紫姫。けれど、『覚醒形態』によってサタンの魔力使用量は相当なものになっていた。


「サタン! ちゃんとしろ!」


 サタンの名を叫び、紫姫は彼女が着用していた衣服の襟を持って壊れてしまった身体を揺らした。続けて、場の状況から跳ね返された魔法が自分たちの方向へと当たらないことを確認する。そして紫姫は、魔力に頼らず体力で上空待機すること、サタンの目を覚ますことを行うために翼を広げた。


 だがそんな時だ。サタンが大ダメージを受けてしまったことを知り、稔が主人の権限を持って精霊魂石へと戻したのである。続けて『明けの明星』の魔法が終わったことを確認すると、稔はバリアを破壊して『瞬時転移テレポート』した。紫姫の元へと向かったのである。


「今のは俺の作戦ミスだが、ルシファーに魔法の一部が跳ね返ったのは確かだ」

「そうか。だけども、貴台は戦線を抜けないように注意を払えばそれで良い」


 紫姫は稔の作戦ミスを口頭で批判したりしなかった。内部分裂なんか戦闘中に起こすべきことではないと知っていたのだ。サタンが身を粉にしてまで突撃していったことも批判することはない。その一方、黒白が共に覚醒形態となったことを喜んだ。


「貴台も覚醒したのか。喜ばしいことだ。――だが、魔力は無駄遣いするな」

「ああ。無駄に遣ってちゃ散った仲間が可哀想だもんな」


 サタン、イステル、ティア。ここまでで既に三人が帝国政府と戦っている。駅前での一件も加えれば、稔の配下に有る精霊も罪源も召使も殆どが戦線に出ている。だからこそ彼は、勝利を掴んで幕を閉じることをもって責任を取ることとした。彼女らが戦線へ出向いたことが「無駄」ではないと証明するために。


「紫姫。これは俺達の戦いだ」

「そうだな」


 そう言って頷くことで稔の考えを支持した紫姫。その直後に稔はサタンの握っていた剣二つを山分けし、『黒白』それぞれが剣を持つこととなった。紫姫は加えて拳銃も所持している。稔は二刀流する機会を息を整える事で調整し、ルシファーからラクトの監禁場所を聞く本来の目的を忘れないように脳裏に刻み、そして敵の残兵へと向かっていった。


 それに続け、どこぞのラノベ主人公のように説得を始める稔。相手の立場を尊重しながらも自分の考えていることが伝わるように強気で言った。対話の機会は設けていることを主張し、それに同調しろという事を言っていったのだ。


「……ルシファー。なんでお前は戦闘を止める決心をしない?」

「コチラハ帝国ノ民ヲ思ッテ戦ッテイルダケダ。オ前ラコソ戦闘ヲ止メル決心ヲスルベキダト思ウノダガ? オ前ラノ意見ダケヲ押シ付ケルノハ止メルベキダ」

「そういう意見もあるのか。……けど、この帝国の民はお前らの統治で悲しんでいるんだ。別に俺は、今ある君主制を批判している訳じゃない。『女献上』も含め、お前らの独裁政治は狂っているって言いたいだけなんだ」


 稔は言い、ルシファーに無条件降伏をしてもらう為の行動を取り始めた。主人も同胞も失った彼女と自分たちの間には圧倒的な差があるから、それを利用して降伏してもらうように段取りを始めたのだ。でも、生まれた傲慢を感じてルシファーは引き下がらない。


「シカシ、対抗スルタメニ政府ノトップ二人ヲ殺ス必要ハ無カッタハズダガ?」

「馬鹿言え。政府にデモを起こしたラクトが処刑されたんだぞ? 過激デモで逮捕されるのは分かる。でも、なんで殺される必要があるんだ?」

「政府ヘ逆ラッタタメダロウ? 常識的ニ考エレバ分カルヨウナ話デハナイカ」

「その『常識』が間違ってるって言ってんだよ!」


 怒号を飛び散らす稔。確かに罪を犯した者を罰することはおかしい話でもなんでもない。けれど、政府への反逆者に対して処刑という罪を押し付けるのは間違っている。ラクトがやろうとしていたのは、言わば独裁政権を崩壊させようとする行為だ。それこそ暴力を振るって解決しようとした訳でもないのだから、問題点は無いも等しい。


 稔は怒号の裏にそんな思いを持っていた。この国の『常識』は、司法が行うべき裁きの度を超えている。つまり、行き過ぎている裁きになっているのだ。


「一二歳の未熟な体のが水商売してるとか、毎月政府に女を献上しなくちゃいけないとか、デモが抑圧されるとか、戯け話もいい加減にしろ!」


 地団駄を踏んで頭へ血を上らせ、稔は配慮の無い声の大きさで言い放った。ラクトや献上されそうだったカース、自分と関わったことで拉致されそうになったアニタ。戦時下だとかどうでもいいから負けを認めろと、街の悲しみに包まれた重々しい空気を解消しろと、様々な思いと共に庶民の代表として意見を述べた。


「何かをしたいなら、内輪で決めないで周りの意見を聞け。そうすれば庶民の批判は最小限で収まるさ。そして、今すぐに戦争をやめろ。証拠に政府軍は後退している。テロだって、さっきロパンリで起きたばかりじゃないか」

「ソンナノ、ソンナノハ分カッテイル!」


 ルシファーは思いをぶちまけた。主人が独裁政権を築いた後、過激派組織が国家を侵略している事は明々白々。でも、幾多の対抗手段を持って抑えられなかった事は事実なのだ。その一方、政府軍の上層部に敗北の二文字を噛みしめることは出来なかった。


「シカシ、コノ帝国ハ帝皇ヲモッテ初メテ帝国ナンダ。デモ、奴ラガ狙ッテイルノハ帝皇廃止ナンダゾ? コノ国ノ存続ヲスルタメニハ、決シテ呑ムコトハ出来ナイ。帝国軍兵ノ全員ガ玉砕スルマデ、帝国軍司令部ハ戦イヲ続ケル覚悟ダ」

「兵士をなんだと思ってるんだ。全てが志願者だと思ってるのか?」


 稔が問うと、ルシファーは首を左右に振って否定した。


「違ウ。強制的ニ向カッタトシテモ、ソレハ国民トシテノ義務ダ。批判サレル筋合イハ無イ。ムシロ、帝国ノ為ニ散レルコトヲ誇リニ思ッテホシイクライダ」

「馬鹿か! 『帝国のため』にすべきことは、お前らが降伏することだろ!」


 稔は母国の隠したいような過去を学んだ身として、負けることが分かっているなら早急に降伏を決意するべきだとアドバイスした。戦争を続けることで兵士の数も少ない軍が変わるはずないのだ。それこそエルダレア北部も中部も制圧された今、帝国政府の影響力は末期の江戸幕府並に小さい。押し付けようが、跳ね除けられるだけだ。


「ダッタラ、同ジ立場ニナッテミロ。降伏ナンカ出来ッコ無イダロウガ! 第三者ガ政府ニ口出シスルナ! 君主制存続ト独裁政権排除ヲ同時ニヤッテミロ!」

「……お前の考えていることは、それで間違いないんだな?」

「アア。デモ、ソンナコトガオ前出来ルハズナイ」

「そうか。でも、残念だ。俺は必ず君主制存続と新政府の設立を行うからな」


 稔は自信満々にルシファーの提案が可能なものだと言った。直後、実現不可能だと考えていた罪源は貫いていた傲慢さを一時的に解除する。そして、着ていた服のポケットから照明によって金色に輝く鍵を取り出した。


「それは?」

「オ前ノ召使ガ監禁サレテイル部屋ノ施錠ヲ解除スル鍵ダ。受ケ取レ」

「ありがとな。じゃ、俺がお前の望みを叶えてやるよ。ルシファー」


 受け取った鍵には施錠されている部屋の名前――即ち、向かうべき場所が記されていた。稔は即座に剣を片付けてバリアを解除すると、鍵で解除する施錠が何処で掛けられているかを紫姫に探してもらう。僅か一〇秒程度でルシファーの内心から場所を読み解くと、紫姫はその場所を稔に伝えた。


「稔。場所が判明した」

「何処だ?」

「第三会議室、とのことだ」

「分かった。じゃ、今すぐにそこへ向かおう」


 稔が紫姫を勧誘すると、彼女は迷う間もなく首を上下に振った。続けて三秒くらいの僅かな時間で、『黒白』はラクトが監禁されている部屋へと瞬時転移テレポートを行う魔法使用宣言を行った。


「――瞬時転移、臨時政府の第三会議室へ――」


 場所の間違いが無いことを示すため、紫姫は首を上下に振った。稔はそんな彼女の左手を優しく握って魔法の範囲から出ないようにし、転移する。




 帝国政府の臨時庁舎の中をテレポートで移動し、第三会議室へと辿り着いた二人。だが、その矢先に目にした光景は現実ではないと思いたくなってしまった。なんと、二人の目の前では、裸の男と裸で拘束されたラクトが居たのである。


 けれど白濁とした液が流れている証拠はなく、稔はラクトが強姦の被害に遭ったわけではないと察した。でも、既に性器を露わにした男達が居たのは確かな話。だから稔は言い放った。


「そいつから離れろ」

「お前は何者だ? もしかして、こいつを助けに来たってのか?」

「そうだ。俺はその赤髪の巨乳の彼氏だからな。だから、今すぐ離れろ!」


 帝国の闇。それが目の前に修正無しで映っていた。ルシファーが言っていたことを実現するために、現在の帝国政府を変える必要がある。そんなことを新たな目標に組み込むためにも、こういった間違った思想の奴等は更生させなければならないと思い、稔は強気で数名の男らと対峙した。

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