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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
三章A エルダレア編 《Changing the girlfriend's country》
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3-14 エルダレア政府臨時庁舎

「政府庁舎ってのは、ロパンリの旧風俗街に在る建物の事でいいんだよな?」

「その通りですわ。推察になりますけれど、あの淫魔はカース様を連れ去ったのでは無いと思いますわ」

「性処理道具として今日から使ってやろうって魂胆か。全く、頭にくる淫魔だ」

「その点はわたくしも同意ですわ。しかし、あの方のバックには政府が居ることを御忘れでなくて?」


 稔はイステルに指摘されたが、それは初めて耳にすることだった。緑髪マスクがエルダレア政府の味方であったかの如き発言に聞こえ、途端に稔はイステルに聞き返す。エイブの精霊となる前に何をしていたのかを聞くためではない。独裁国家の政府に関して何か関わりを持っていたのかイエスかノーかで答えて欲しい、というだけの話だ。


「政府が後ろにいるってどういうことだよ?」

「無知な主人に貸し出しに出されてしまったと思うと、非常に胸が一杯になりますわね」

「こいつ……」


 生徒から反感を買うような行動をするのも教師を引き受けた自分の仕事であることは何となく分かっていた稔。でも、それをする時は極力罵倒するような言い方を避けて欲しかった。しかしながら聞きたくなるような気持ちもあり、イエスかノーかと言わなかった自分のせいでもあると思って、グイグイ前に足を出していくのは止める。


「質問だ。政府がインキュバスの後ろに居るってことはどういうことか聞かせてくれ。ソースも頼む」

「ソースは推察ですわ。……私の話を聞いておられなかったんですの?」

「いや、別に、そういう訳じゃ――」


 それは真っ赤なウソであった。しかしここで引き下がる訳にはいかない。格好悪い姿や弱みを見せまいとの魂胆である。それこそ心が読まれていないのだから、まだまだ希望は残っていると言っていい。もちろん赤髪が行動を取ったならば、その時点運の尽き――つまりは「詰んだ」と言っても過言ではないが。


「インキュバスは今も生存している魔族デビルルドの一人ですわ。そして、彼は該当女性の望む男像に成ることが可能ですことよ。もちろん通常は――いえ、昼間はそんな姿を見せませんわ」

「生きた人狼、ってとこか」


 夜になると人を喰うという点で、捕食するというわけではないが人狼に共通する点があると稔は思った。しかし、心も読めない緑髪は首を傾げて説明を求める。一方でラクトは頷いて理解を示していた。だが、彼女が居たのは稔の背後。影が薄いとかではなく、単に主人に対して特殊電波も送れないため、イステルと会話をしている稔に気づかれることはなかった。


「でも、昼間に姿を見せないとすると、現れたのは絶好のチャンスだったのか?」

「そういうことになりますわね。ただ、私の耳を疑われては困りますわ」

「ああ。こうやって待機している時間が勿体ないしな。――行くぞ」


 稔は即座にイステルを魔法陣の中へと帰還させた。それに続き、彼は自身の後ろに居たラクトの方に視線を向け出発の旨を告げようとする。しかし、ラクトは稔の口から出てきた『人狼』というゲームが気になったらしい。稔が業務連絡を告げ始めるのを阻止するかの如く、ラクトは笑顔を見せて妨害トークを始める。


「人狼やろうよ」

「いやいや。今そういう時頃じゃないだろ。カースを助けなくちゃ駄目だし。てか、妹なら姉を心配しろ」

「押し付けがましいことは止めよう――なんか言う訳無いじゃん。ほら、行こう?」

「なんなんだよ……」


 稔は大きくため息を付いた。翻ってラクトは、稔が自分の姉を大切に思っていることを知れて嬉しい気持ちになった。そのため彼女は、それまでの稔を馬鹿にするような笑みから本当の嬉しい気持ちからの笑みにして顔に映した。主人は赤髪の笑顔で溜息のやり場が無くなったことを確認し、再度嘆息を付く。


「アニタ。お前も行くよな?」

「行くに決まっているじゃないですか。――それと、写真は撮ったほうがよろしいでしょうか?」

「本業に活かせるなら撮ればいいさ。俺が撮影の被写体になることを拒んでいる事実は何処にも無いしな」

「ありがとうございます。では、記者として撮影を行わせて頂きますね」


 アニタもラクトが後で顔に映した笑みと同様、嬉しさからくる笑顔を破顔して浮かべた。話し口調も含めて、何処かクールな雰囲気を持った女性の笑いは上品だと感じた稔。もちろんそんな事を考えて反感を買ってしまうのは事実だった。話しやすい彼女になろうとしていたラクトからすれば、方向性を見失うような話を聞き流すのことは取るに足らないに同じ事だった。


「何が上品だ、このバカ」

「うっせ」


 そんな会話をし、稔とラクトとアニタは風俗街を去る。この際に使用したのはテレポートだ。気配を消すために優れた魔法だと言えるが、それでは不審者同様の扱いを受けても然程問題ないように稔は思う。しかし『瞬時転移』を使ったほうが早く移動できるため、稔は今後も同様の理由の場合は使っていこうと決意した。




 移動したのはロパンリの駅前である。帝国の臨時政府に反政府軍の猛攻が迫ってきていることから、街にあった活気は無いに等しかった。某文豪執筆のシラクスを舞台にした主人公がしょっぱな激怒する小説とは異なり、別に帝皇が人を殺したために活気を失ったわけではない。


 だが、活気が無いなんて悲しい話よりも先に気づいた事があった。一番に見つけたのは稔ではなく、アニタだ。彼女は稔の右肩を軽くトントンと叩き、自らに注視するようにさせてこう発した。


「あれって、俗にいう『ラブホテル』ですよね?」

「……」


 稔は瞬時に状況を理解した。ロパンリ駅に出口が幾つあるのかは定かでは無かったが、少なくとも確証が持てる事実を知ったのだ。自分が移動した方向にあった風俗街の上にはラブホテルが建っていたのである。流石に魔族の経営するホテルと言えど、昼間からピンク色の装飾で如何にも如何わしい行為に及ぶような施設と示したりはしていなかったが。


「稔さんとラクトさんで泊まったらどうですか?」

「アニタは本当に英才か? 停戦協定を結ぶために反政府軍の司令官と対話しようとしている俺が、なんでロパンリに戻ってくる必要があるんだよ? てか、そういうのは普通にラブホじゃなくていいし」

「野外ですか」

「そんなことしないから! あり得ないから!」


 稔から強烈なツッコミを受けるアニタ。自身を処女だとカミングアウトしても特に反応を示さなかった稔は信頼できる男性だと考え、それから暴露しても問題無いと言える内容は増えていたのである。


「野外は上級者向けだろ。……それはともかく。ここは駅だ。公衆の面前でそんなことを話すんじゃない」

「しかしながら、稔さんは信頼できる相手です。営業の好意でも、信頼出来る相手に変わりはありません」

「なら、重要な話を口頭でする時は周囲を窺ってくれ。そもそも戦場カメラマンなんだから、それくらい慎重になってもらわないと俺が困る。それに、俺とラクトの夜の営みに関してはこれ以上言及すんな」

「分かりました。以後、気を付けます」


 アニタは言って一五度くらいの礼をした。相当軽い礼だったが、稔は年上からの謝罪はこれくらいでいいと思っていたので気にしない。むしろ決めたことに熱を入れるのは得意な方だったから、こういった必要のない会話なんか断ってしまいたい気持ちで一杯だった。いつもの稔とは全く持って異なり、もはや『誰だお前』状態である。


「さて――」


 稔はアニタとの会話に蹴りを付けたと思い、そう言って一息ついた。それに続け、今度はラクトに対して質問をぶつける。希望として駅前に観光案内所が有ると思ったが、目に捉えたのは閉鎖している観光案内所。故に彼に残された希望の光は、従業員として所属していた風俗街が有ったという理由を元にラクトから案内を受けるという、ただそれだけだった。


「カースが退場してしまった以上は政府庁舎までの案内役が欲しいところだけど、引き受けてくれるか?」

「引き受けるに決まってるじゃん。バトルじゃ前線に出られないんだから、役に立たせてよ」

「さり気ない自虐は要らないぞ?」

「ふーん。ところで、私は歩いて案内を受けるよりテレポートした方がいいと思うんだけど――どう?」


 テレポートして政府庁舎までを目指そうと稔が思ったのは確かだ。しかし、それを拒みたくなる点は二つ有った。それを彼は分割する旨を告げないまま、疑問としてラクトにぶつけていく。


「ダメかどうかの判断材料として聞きたんだが、一般市民は政府庁舎の場所を知っているのか?」

「意味さえ伝わればいいんだし、『元風俗街』と言えば問題は無いと思うけど……」

「なるほど。でも、インキュバスが既に政府庁舎へ着いているとは限らないだろ?」

「残念でしたわ。だって私、到着しているのは確認済みですもの」


 突如としてイステルが稔とラクトの前に姿を現し、彼女が回答した質問を行った稔は黙ってしまった。謎の登場で別人かと思ったが根拠はなく、話し方も含めて本人だと知り、稔は緑髪マスクの目の前の少女の話を聞き入れることにした。その直後、お嬢様言葉のマスクは魔法陣の中へと戻る。


「まあ、歩ける距離ってのも確かな事なんだけどね」

「いや、テレポートでいい。足を使ってる暇があったら口を使って討論した方がいいしな」

「そうだね。じゃあ、賛成ということでテレポートを――」


 稔の左手を右手でラクトが握る。一方アニタは対称になるよう、稔の右手を自身の左手で握った。温かく柔らかな感触を感じると、稔は目を寸秒ばかし瞑ってこう言い放った。駅前で厨二病要素を全開にすることには若干の抵抗があったため、言い放ったと言っても彼の声は抑えめだ。


「――テレポート、ロパンリの旧風俗街へ――」


 該当地点があったために押し返されることはなく、稔とラクトとアニタは臨時政府庁舎の前まで一飛び出来た。目の前に見たのは質素な灰色塗装の建物と、銀色の鎧を光で輝かす騎士。悪魔の国に似つかわしくない装備と様子に指摘を加えたくなる稔だが、騎士だって仕事着でしかない。そのため、任務を全うしている自分が指摘される筋合いは無いと思っていた。


「誰だ貴様!」

「夜城稔だ。帝皇に会いに来た」

「帝皇に会いに来た……だと? ええい、招待状等はないのか!」

「俺はエルフィリアの使いだ。それで居て、この帝国を救う為に来訪したんだ。無くて当然と考えるのが妥当じゃないのか? パスポートは所持しているが」

「ならば、そのパスポートを提示してもらいたい」

「構わない」


 稔は言い、ラクトにあずけていたパスポートを自分の右手に持った。特に差し障りの無いパスポートを貰った騎士は、複製物の可能性を指摘せずに警備を解除する。理由は単純であり、パスポートに判子が押されていたのがその証拠だ。それをラクトは理解し、同時に「警備はザルだな」と自身の母国を皮肉った。


「通りたまえ。万が一、貴様が帝国を揺るがす危険行為に及んだ場合は即刻処刑をさせてもらう。見た感じでは貴様らは武器を持ってい無さそうだが――。通行するなら、施設に入ってすぐの受付嬢に身体検査を依頼することを条件とする」


 途中で咳払いし、悪魔の騎士は言って塞いでいた入り口から稔とラクトとアニタを施設の敷地内へと入れる。口調は硬いままだったが、稔は中央政府の敷地内に入れただけで満足だった。一方、これが罠の可能性も脳を過ったのも確かだった。


「身体検査ってことは、全裸になるのかな?」

「言いながらくっつくな。何を考えてるか見え見えだぞ」

「見せてんのさ」

「『あててんのよ』的な言い方やめてくれないか? お前、また俺の脳内ハードディスクから情報引っ張ってきたんだろ? 見え見えなんだよバーカ」

「味方に当たらない方が良いと思いますよ、稔さん」

 

 アニタから指摘を受ける稔。一方のラクトは、主人といえど彼を哀れだと思ってバカにしてやった。けれど、口から言葉を発したわけではない。右腰を右手で掴むように当てて左手は口を覆うような感じで添え、大笑いしたのだ。


 そんな笑いが収まった後、稔ら三人は政府庁舎の施設へと前進し始めた。もちろん帝皇の出迎えなど有る訳がなく、騎士が言っていた受付嬢の居る施設を入ってすぐ――要はロビーに向かっていく。と、その道中だ。


「誰だッ!」

「それはこちらの台詞だ。全く、不法侵入をするとは非常識な野郎だ!」

「俺は警備をしていた騎士から許可を貰って入場しているんだが?」

「済まなかった。通りたまえ」


 突如として現れた男に脅しを食らうが、稔は驚いた反応をしない。一方の政府関係者は驚いていたけれど、事情を知って先に進むことを許可することにした。


「(……ザル警備かなにか?)」


 心の中で稔はそう言い、憫笑して息をつく。けれど足を止めていては射撃の対象物に限りなく近い何かと思われると思い、稔は他二名を連れて足を前にした。


 そしてようやく、質素な臨時政府庁舎が目と鼻の先に現れた。

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