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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-16 EMCT/墓地 Ⅵ

「九九階か……」


 九九階、と聞いてみてもやはり日本にある超高層建築物の中で該当するものはないため、稔からすれば非常に新鮮なものではあった。

 今ある日本の超高層建築物の階層で一番多いのは、稔の地元、横浜市のランドマークタワーで七〇階であるが、アメリカの一九三〇年代を象徴する摩天楼である、エンパイア・ステート・ビルディングは一〇二階まである。そういうことも考えたら、やはり『新鮮さ』を感じ取れる。


「あの、その」

「なんだ?」

「私の先祖様を慰霊した後、稔様は屋上階へ行くおつもりでしょうか?」

「雨が降っていないようだし、行っても構わないが……どうした?」

「いえ、お伺いしたまでです。……では、慰霊後に参ることに致しましょうか、稔様」


 リートは笑みを浮かべて会釈した。九九階、自分の家の墓地の前。そんな状況ゆえ、笑みにも若干何かの感情を押し殺し、創りだしたような感じが見え隠れしていた。


「では、参りましょう」


 言って、リートの先導でエレベーターに乗っていた全員が九九階の床に足をついた。王族だとか、そういうものは関係なく、五〇階の墓の床とそれほど変わらぬ床であった。……が、五〇階とは異なっていたところが見受けられた。


「この階には窓があるんだな」

「ええ。よく、御気付きになられましたね」

「そこまで視力がいいわけでもないが……。というか普通にエレベーターから出て見える時点で、そこまで隠し通そうとしていた訳じゃないことくらい、わかんだろ」

「そういうものですかね?」


 リートは首を上下に振って、稔が些細な違いに気づいたことに感心していた。


「このエルフィリア・メモリアル・センター・ビルディングは、東棟と西棟で交互の階数に窓が設置されています。俗にいう、偶数と奇数というものを利用したものになります」

「偶数と奇数って言葉も、ボン・クローネの女の言ったことか?」

「いえ、そういうわけでは有りません。以前、彼女が来られる前、戦争終結後にヒュームルトが使っていたので、それが――」

「なるほどな」


 ふーん、と稔は頷いてから聞く。


「それで、偶数と奇数をどういうふうに利用しているんだ?」

「はい。東棟は、偶数階に窓が設置されています。ですから、最上階層には窓が有りません。一方で、西棟は奇数階に窓が設置されていて、最上階層にも窓があるんです」

「そういう使い方ね」


 確かに、白色ばかりでは飽きてきたりするだろうし、何より太陽光がないと電気代を相当量使ってしまう。加えて、デザイン面でも窓が少しでも有ったほうがいい。太陽の光が反射したりしているほうが、白色と相まって美しく見えるためだ。


「それで、流石は王族って感じするよね、このドア」

「そうですかね?」


 ドア、と言っても自動ドアである。ただし、色は透明ではなく、白色だった。エレベーターを降り、そこから約二メートル程度歩いたところに設置されていたそれは、周囲の白色とマッチして美しく映える。


「やっぱり王国だから、王族は厳重な警備が付いているのか?」

「いえ、エルフィリアは立憲君主制国家では有りませんよ。王族の長である『王』は王国の象徴というだけであって、政治には参加しません。なにしろ、民主国家としてエルフィリアは動いていますからね」

「でも、やっぱりここだけ違う作りだと、立憲君主制国家の匂いが漂っている気がするが?」

「あのですね……」


 リートはため息を付いてから続けた。


「確かに、私の祖父は戦争犯罪を犯しました。なにしろ、この世界はあくまで実力重視の世界ですからね。戦争をしてはいけないなどという、世界的な法律は有りませんし。

 ……そもそも、国際的な法律なんて言うのは、マドーロムの全国家が従わない限り無意味なんです」

「まあ、法律なんてそうだよな」


 守る人が居れば、守らない人が居る――。何か一つの話題で盛り上がれる人が居れば、盛り上がれない人もいる――。それと同じ。

 人だけでなく、エルフィートにしてもデビルルドにしても、十人十色なのだ。


「守らない人が居れば意味が無い、か」

「あっ、み、稔様っ、その、すいませっ……」

「いや、別に構わないって。――それよりも、このドア自動ドアにしては開かない気がするんだが」


 稔がそう言ったのだが、それは稔が体験したために口から出た言葉ではなかった。実際に体験したのは稔ではなくて、ラクトだったのだ。エレベータを出て、すーっと、まるで幽霊のようにしてドアまで向かっていったのにも関わらず、ドアで足止めを食らって何もできなくなってしまったまでなのである。


「すいません。それ、顔認証が掛かっているので……」

「かっ、顔認証……だと?」


 益々、立憲君主制国家ではないのかという疑いが強まっていくが、彼女の主張は変わらない。『エルフィリアの王はエルフィリアの象徴であって、エルフィートの象徴である』とする、その主張は歪まない。


「かつては、私のお父様の顔やお兄様の顔も登録されていたのですが、何時の間にか二人の顔とも、登録が消されているようです。……まあ、二人共来ていませんからね、この施設には……」

「――」


 リートは言っていた。戦争をする目的の中に、『復讐』以外のことが有ることを。

 ――そう、それは「兄を救う」ということだ。消えた兄を、マドーロムの何処かに居るはずの兄を探し、救出する。それが王女リートの願いであり、目的だ。


「ところで、今登録されている顔は何人なんだ?」

「お兄様の近辺で言うと私のみですね。もう少々視野を広げて従兄弟いとこまで入れるとするのなら、私の他には妹、弟、そして二人の親が該当します」

「そうなのか」

「はい。――開きましたよ?」


 一秒以下で顔認証が終わった。これはエルフィリアの技術なのか否か、詳しいことはリートに聞かなかったものの、それでも驚いた。日本にも顔認証機能は有るが、稔の周りでは使ったことがなかった。

 高校生になってから友人関係というものが無くなったので、中学時代の話になるが、友人と遊んでいる間で見たことのあるのは精々暗証番号かカード程度であった。どちらとも、偽装が容易ではないが、顔認証に比べれば経費もかからず、容易にできるものであった。


「王族はこれだから……」

「スディーラは入ったこと有るでしょう?」

「一回だけだろ? それで入っただなんて、全く――」


 流石は幼なじみ、というところだ。顔認証機能が付いているということは、普通の人間であれば入れない。そんな中でも入れるというところは、幼なじみの特権といえるところだ。


「まあ、あの頃は僕もそこまで詳しく記憶に刻まれていないんだけどね……」

「そうですね。確かに、スディーラが王家の墓地に入ったのは本当に小さい頃でありました。――年齢にして五、六歳くらいでしたか?」

「ああ、それくらいそれくらい」


 リートもスディーラも、王族の墓地に入ったことはもう懐かしい事になっていた。そして当然のことながら、稔もラクトもその話についていけずに置いてけぼりにされた。

 ――だが。二人がため息などを付かないにも関わらず気持ちを察し、リートとスディーラは話を早く切り上げた。


「では、参りましょうか。このドア、認証後三〇秒以上経つと閉まってしまうので……」

「そうなのか? ――って、なんか時間が書かれてる!」


 リートが顔認証を使ってドアを開いた時には稔は気付かなかったが、その時から時間は経過していたようで、残り秒数は五秒を切っていた。


「では、もう一度」


 五秒のうちに向こう側へ無理して行って、何か事故が起きたら一大事だとリートは思った。そのため、一旦スディーラ、稔、ラクトを後退させて、残り秒数がゼロ秒になるまで待機させた。その後、また顔認証を使ってドアを開いて、今度は前進させた。


「……高いな」

「高所恐怖症かよ、ご主人様は」

「ちげーよ」


 稔は決して、そういうわけではなかった。ただ、改めて九九階の高さを思い知った稔は、口から言葉が出ないほどにその高さに驚いた。

 だが、その高さよりも驚いたものが有った。

 

「なっ……!」


 窓から太陽光は差し込まなかった。そのため、背中に強い光や暑さは感じなかった。……が、稔はそんなことよりも、九九階という高層階にありながら、相当な高さの墓を見て驚く。三メートル程度は有るだろうかというくらいだ。

 ――それだけではない。

 左の方には女神像が置かれていた。そして、その前には花を置くための場所が設けられていた。一方

右の方には男の神像が置かれており、こちらにもまた花を置くための場所が設けられていた。


「まあ、本格的な慰霊に関しては近々また来るわけですし、今日は軽く済ませます」

「本格的な慰霊ってどういうことだ?」

「えーと、日本で言う『お盆』というものに該当するものです」

「ああ、そういうことか」

「『お盆』は八月に行われているようなのですが、エルフィリアでは九月末に行われているんです」

「へえ」

「ですから今慰霊してもいいのですが、やはり正式なものは今するべきではないと思うんです。これから数カ月後に全国的に伝統の慰霊参りといいますか、そういうものが行われるわけですし……」

「そうなんだ」


 マドーロムが今一体何月であるか、そういった事は詳しく聞いていなかったが故、分からなかった。けれどリートの話によれば、六、七月で有るのではないかということは推測できた。


「それでは、稔様、ラクト様、あとスディーラ」


 何を言うのか分かった為、全員が頷く。そして、全員が察したことを実行する。エルフィリアの礼儀に沿って、四人全員が祈りを捧げる。当然ながら、稔やラクトは一礼してから沿った方法で行う。だが、スディーラは違った。

 でも、幼なじみであるのだから、特に問題はない。


「それじゃ、終わったことだし、ルーフトップへ行こうか」

「そうだな」


 スディーラが笑みを浮かべて言って、それに稔が反応した。


 四人全員、笑みを全員浮かべていたわけではなかったものの、誰もルーフトップに行きたくないとは言わなかった。そのため、顔認証搭載ドアを抜けてエレベーターに乗ると、全員一致で行くこととなった。

 ――天辺の『慰霊の鐘ベル・ペア・メモリアル』を鳴らすために。

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