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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-86 敵地襲撃 -精霊篇Ⅲ-

 そんな時だ。


「……稔?」

「彼氏を守るのが彼女の役目っていうなら、彼女を守るのは彼氏の役目だよな」

「大丈……なの?」

「呂律が回ってない、か。ヘルに治癒をしてもらうのも負担が掛かり過ぎるしな。――全く、この世界に回復の薬系は無いんだろうか」


 稔がそうため息を付いて平然を装い、拘束されていたティアの糸を壊した。彼女には即刻退避してもらい、痛みが特に無いことを知って同時に自分サイドの戦力とした。そんな彼女は稔に対してこう述べた。


「稔さん。回復系の薬は――こんなもので大丈夫ですか?」

「それはなんだ?」

「『回復の薬(ハイルリン)』と言われている薬です。戦闘に『死』がない時、要するに『気絶』と言われる場合には状態異常の他にHPまで全回復します」

「そういう薬を求めていたんだ。――飲み薬か?」

「ですが、水は要りません」

「素晴らしい薬じゃないか」


 稔は『ハイルリン』と呼ばれる薬をティアから3錠譲ってもらった。年齢によって摂取限度があるようだが、一五歳以上は一回三錠が基本とのことだ。水要らずの薬を容易くラクトは飲んでいる一方、稔はティアと会話を続けていく。


「もしかして、織桜って道具とかは揃えている派なのか?」

「そうですね。連絡系や回復系といった、いざというときに役立つものはありとあらゆるものを揃えている気がします」

「なるほど。――で、ティア。お前はエイブの元へ行って、ラクトとヘルの護衛を頼む。戦力として使いたいが、まずは元々の俺の陣営でイステルにかたを付けるからな」

「分かりました、稔さん」


 ティアはそう言って頭を下げると、ラクトをおんぶしてエイブの元へと駆けていった。残った稔は、ラクトのように怪我をしないように気をつけながら身の安全を確保してサタンの背後へとテレポートする。その後、稔はエイブの護衛にスルトを配置し、残ったサタンと紫姫と共に前線へと一歩を踏み出す。


「よくもやってくれたな、イステル」

「精霊戦争とは残虐であり、勝者が哄笑するのが普通なのですわ!」


 稔がイステルに対話を持ちかける隙を作ること無く、彼女は構えていた巨大な銃から銃弾を放った。猛烈なスピードの銃弾。バリアを破る可能性すら浮かぶが、稔は取り敢えず『跳ね返しの透徹鏡盾』を行った。


「……なら、その銃弾を跳ね返してやんよッ!」


 稔は言い、自らを中心に球状のバリアを張る。そしてそのまま、イステルが巨大銃から発砲した銃弾に向かって突撃していった。左右の手に剣を一つづつ握っている現在、彼の脳裏にはネットゲーム上の世界のように思えてきていた。


 そして起った稔を合図にし、『覚醒状態アルティメット』してしまった精霊をもとに戻そうと、サタンと戦意を取り戻した紫姫が共にイステルへの攻撃を実行していく。紫姫は得意の銃を構え、サタンはある程度の魔法を『複製レプリケイション』して特定の魔法を一時間だけ特別魔法とした。


 翻って、稔はイステルに向かっていた。何処かに突撃する飛行機のように思えなくもない容姿である。夕陽のような灼熱の焔を纏い、イステルは構えた巨大な銃からもう一発銃弾を発砲した。


「来ないでくださいまし!」

「嫌だ! 俺は行く。ただ俺は、お前と停戦協定を結びたいだけなんだッ!」


 発泡した銃弾は稔のバリアを貫通しなかった。『跳ね返しの透徹鏡壁バウンス・ミラーシールド』は使用者が始めに使用した地点を中心として作り上げられるが、特徴上、その場所からバリアの外側へは剣などを突き刺すことが出来る。全身がバリアの外に出なければ、内側からに限るが、バリア内とバリア外の境目に剣を走らせることが出来るのである。


 稔はイステルの放った銃弾が跳ね返るのは分かっていた。しかし、敢えて剣で斬り裂いてやる。相手への挑発行為というわけではない。これで平伏して停戦へ持って行きたかったのだ。戦争と名しているが、稔は勝ち負けを明確な線引きで表すのには抵抗を感じていた。


 エイブは我を忘れたように気が動転して今のようなことになったが、それでもイステルは借りたい気持ちで居た。第一から第七までの精霊七体全てを回収し、他国への差別撤廃交渉を促進させたかったのである。誰もが良い話で終わるためには、線引きに勝敗を絡ませるべきではないのだ。絡ませるべきは『停戦』だ。


「イステル。銃を置くんだ!」

「嫌ですわ!」

「俺に逆らったところで何が出来るってんだ。こっちは精霊四体を支配下に置いているんだぞ?」

「数の暴力になど簡単に平伏しませんわ!」


 二発目に放った銃弾は、イステルが強く言い放った時に稔のバリアを跳ね返った。斬って実力を見せてやろうとも思ったが、稔は既に交渉の段階へと入っている。そう思っているのは稔だけなのだが、自分の考えというネジを緩めるのは大変なことも有る。特に、正義感の強い稔だと尚更だ。


「大体、主人でも無いような人が他の精霊のことに首を突っ込むこと自体が非推奨行為なのですわ!」

「お前は精霊と会話することすら、他の主人に禁じようというのか?」

「そうですわ。――戦闘狂を持ったところで、幸せになれる主人なんて居ませんもの」


 イステルは銃を置いてはくれなかったが、他の主人との会話に応じないという姿勢ではない。それこそ、他の精霊であれば私利私欲の為に行動に出るような場面だ。稔は相当なまでにエイブから訓練を受けているのだと感じた。


 ただ、感嘆を受けただけでは話にならない。敵地へ襲撃しに来た野郎が論破されて背中を見せるなど、恥ずかしいものである。もちろん、他人の意見を聞いて自らの意見を変更させることが駄目なわけでは無いが、やはりそこは主人という立場である。率いるものが感嘆に倒れるようでは話にならない。


「『幸せ』か。でも、紫姫とサタンと契約して嫌だと思った覚えはないぞ?」

「嘘を言わないでくださいまし」

「イステル。自分の思ったことを軸としてブレないということは評価したい。――が、他人からの意見を一切聞かない硬い姿勢というのは評価に値しないな。俺が言っているのは本心からなんだぞ?」

「『我が道を行く』と言うでしょう? 私が理想としているのはそういうことですわ」


 イステルはそう言い切り、自身が強い心を持って折れないことを示した。未だに銃を下ろしてくれてはいないが、既に弓矢を使用する気はないらしい。何時の間にか稔の眼中から消えていた。ふと思い出し、先程跳ね返した銃弾が何処へ行ったのか辺りを見回す稔。少しして、ドアから煙が出ているのが窺えた。


「(ドアに命中して銃弾は力尽きたってわけか)」


 稔は内心で吐き捨てるように言葉を零し、それからイステルの方を向いた。そして続け、こう述べる。


「我が道を行くというのは素晴らしい考えだと思う。けどな、一匹狼じゃやれることには限界がある。協力したって解決しないことは有るだろうが、それでも失敗した時の負担は軽減されるはずだ」

「共存をしろ、と言いたいのでして?」

「違う。俺が言いたいのはな、『そいつを否定するんじゃない。そいつの考えを否定しろ』ってことだ」


 イステルは自分以外の言っていることを理解しようとするが、それでも見えるのは否定の顔色だ。主人に忠誠を誓っているのだろうから、仲間であるエルヴィーラらとも関係が悪くないのだろう。だが彼女は、自身が精霊だからという事に重点を置きすぎている。戦闘狂であることも自覚している。だが反面、だからこそ「自分は他人の意見を受け入れるべきではない」と、「主人にただ従えばいい」と思っていたのだ。


「イステル。頼むから考えを改めてくれ。エイブが嫌なら、許可を取って俺の元へくればいい。――俺が幸せにしてみせる。それに、緊急時を除けば俺はいつも放任主義だ。お前の好きなように生きればいい」


 稔は彼女であるラクトの事を念頭に置いていたが、けれど精霊には幸せになってほしい思いも同じようにあった。――否、精霊だけでは無い。召使も罪源もそうだ。考えてみれば自分だってそう。どんな時代であれ、皆が勉強をしているのだ。それが『育てる』なのか『学ぶ』なのか、はたまた『狩猟』なのか『改善』なのかは別として。


 誰だって悲しみを持っているし喜びを持っている。放任主義でそれを共有出来れば、押し付けがましいことをしなければ、ある程度の関係を保って信頼は築くことが出来る。稔は今までの約二四時間、マド―ロムの世界でそんなことを学んだ。爆破テロが数回あったが、精霊戦争が二回もあったが、その先には信頼を強くした結果がある。


 そして最後。稔は言葉を弾丸として放ち、イステルに答えを求めた。自分の思い通りにならなくたって悲しむことはない。なにせ、精霊は契約した主人のものであることに変わりはないのだ。エルジクスとティアは借りているだけであり、前者がカロリーネ、後者が織桜の召使であるように。


「イステル。お前は俺が育ててやる。――俺の元へ来るか来ないか、決断を下せ」


 エイブを話術で攻略するのはイステルの仕事ではない。それは稔の仕事だ。けれど、そうなる前にはイステルにその気があるのか聞く必要があった。好きとか嫌いとか、そういう話ではない。親元を離れる事を呑むか呑まないかという話である。


「私は――」


 乙女な一面こころが花開いたわけではないが、イステルは稔が真剣な表情を浮かべて台詞も告白そのものだったため、少し意識してしまっていた。とはいえ、やはりまだ根底には折れたくないという思いもある。後もう一押し、というところだ。――そんな時である。


「イステル。結論から言おう。君は今すぐにでもこの男の元へ行け」


 後方から聞こえたのはエイブの声だった。ラクトがキャラクターを演じているわけではない。むしろ、そのラクトの静止を振りきってでも声を上げたのである。精霊や召使に対して人一倍に思い入れが強そうなエイブの発言には驚いてしまう稔。イステルも同じく驚いていた。


「僕の元を去るのはいい気分では無いが、それでもこの男の気持ちは強いものだと思う。べた褒めするのも照れるが、こいつは芯を貫き通している癖に相手の事を思いやる奴だ。それも鵜呑みしない程度に」

「エイブ様……」

「イステル。頭を冷やす時間が欲しい。――主人からの命令だ」


 エイブは結論を先に言ったため、理由付けを後からしていく。貸し出しの話に関して彼の口から出た最後の台詞は、まるで包装紙か何かで包んだような言い回しだった。エイブが台詞中に「主人命令」と言って話を進めたのは他でもなく、イステルが人を否定するかもしれないと思った結果だ。


「分かり……ました」


 イステルはいい気分という訳ではない。論破されたような感じになっており、それまで積み重ねてきた骨組みが一気に壊れたような気がしたのだ。そうして残るのは、自分だけ。要は土台を構成する部分だけというあられもないような姿だ。


「エイブ。これは『貸し出し』ってことでいいのか?」

「『留学』ということにしてくれないだろうか?」

「言葉を巧みに使いやがって。――まあ、そこら辺は流石は実験室を持っている奴だと言いたいが」

「褒めてもらって光栄だ」

「褒められた礼だよ、礼」


 エイブは稔に対してすっかり心を開いた。ラクトが自分の目を盗んで何かしたんじゃないかと思ってしまうのを嫌に思ったが、稔がそんなことを考えているのを捉えたラクトが小さく首を振っており、それでも分からないと思ったのか、胸前で左右の腕を交わさせて『×』を作っているのが窺える。


「(敢えて言葉に出さないスタイルってことか)」


 稔は内心でそう思うと、ラクトが居る方向に笑顔を撒き散らかした。バカにしているような笑いであるが、「そういうことか」という共感の意味もあった。気にしていないうち、同程度の奴同士なのだと再認識していたのである。


「エイブ。今後は種族を気にせずに介入できる警察という組織を作ることと、それによって活動を更に赫然かくぜんさせることなどを望みたいな」

「出来る限りを尽くしておくよ」


 エイブはそう言ったが、その台詞は政治家の「全力を尽くす」という台詞に近いようなものであった。もっとも、公的機関なんてそんなものだ。不祥事が起きたって「全力で究明する」とか言って会見は終わるのである。それ以上でもそれ以下でもなく、ただ遺憾の意を示せば終了なのだ。


 そこで稔は、エイブが言葉巧みに逃げるのを避けるために念を押すことにした。難易度が同じくらい――という訳でもないような感じが薄々してきていたが、もう思ったことを口に出し始めては戻れない。


「――じゃ、約束な。俺はイステルを育て上げる。エイブは組織を育て上げろ」

「ああ、分かったよ」


 稔は「本当にそうなのか?」と半ば疑心を抱くが、そんな稔の疑いの目を潰すようなことをエイブは言った。話をひと通り終わらせた後、今度はエイブが稔に対して念を押すようにこう言ったのである。


「とはいえ、精霊を親元から離すんだ。一応は文通も交わしておきたい。それでだ。どうだ、メルアドの交換は? 加えてなんだが、出来れば僕は君と不可侵と共戦の同盟を結んでおきた――」

「話は一個ずつ進めていこうぜ。――まあ、聞き取れたから無問題だけども」


 稔はエイブが話をどんどんと進めていくのを一旦止め、自分のペースに戻した。エイブは局長として部下を持っているが、他人に対しての配慮が余り出来ないのである。またそれは、エイブ直々の精霊であるイステルの考えにも繋がっていると考えていい。


「メルアドの交換もそうだし、不可侵同盟と共選協定は結んでおく必要が有ると俺も思うな。口約束で良いのならそれだけにするが、取り敢えずはメール上で協定と同盟の文章は決めていくとして――交換だ」

「ああ、そうだな。操作は良くわからないんだが、『赤外線』というのをすればよかったか?」

「コミュ障かっての。――俺が全部やるから、エイブはイステルと会話でもしておけ」


 稔はエイブを少々嘲笑するが、対してエイブはそれといった反応を見せたりしなかった。特に言葉を発することもなく、彼はイステルの元へと近づいていく。『覚醒状態』を止めた彼女は夕陽のような橙の色を纏っていた状態から変わって、銀髪から緑髪へと戻っていた。白色の布を口に、即ちマスクも再度着用している。


 一方で稔はエイブから携帯電話を預かった。たかが数秒で全ては済まされる話である。エイブは俗にいうガラケーに近いタイプの携帯を所持しており、それで赤外線という名前が浮かび上がったのだろうが――稔はアドレス帳を引っ張って、そこに自身のメールアドレスを打ち込んだ。




 空のメールをエイブの携帯電話のメールアドレス宛に送ると、「You got a mail」というお馴染みの言葉フレーズが聞き取れたため、稔はメルアドの交換を終わった。メルアド交換後、預かった携帯電話を畳んでおくのはマナーだ。そして、人が誰かと話しているのを待つのもマナーである。


 イステルと話を始めて一分くらい経過した頃、エイブは「頑張れよ」とイステルの背中を押してやった。戦地へと赴く兵隊に声を掛けている気がしなくもないが、留学先で事件や事故に巻き込まれないでくれと言っているだけである。


 もっとも、『精霊魂石』のように砕けば壊れるものではなくて『魔法陣』という最強の住居で生活できるのだから、それほど気にするべきことではないとイステルは思った。しかしながら、忠誠を誓った相手から受けた激励に言葉一つ発せずに去るのは礼儀知らずというところである。故、彼女はエイブに感謝の意を述べていた。


 エイブとイステルの会話が終わると、エイブが稔の方向へと近づいてきた。預けた携帯電話を返してもらおうと来たのである。変に恐怖心を抱くわけでもなく、稔はエイブに交換したメールアドレスの入った携帯電話を畳んだ状態で手渡した。翻ってエイブは、稔からそれを笑顔で受け取る。


「エイブ。メールアドレスは交換しておいた。確認もしておいたから、すぐにメールを送ってもらっても関係はない。既読をスルーするのは極力控えるが、寝落ちしたりしてたら返信に遅れるのを承知で頼む」

「……『既読』とか『寝落ち』とか、どういう意味なんだ?」


 稔は話を進めすぎたかと思ったが、エイブのように「ところで――」から始めるような内容を強引に接続させた訳ではないため、それは話の進め方への質問ではないことなど容易く分かった。もちろんのことだが、回答しないのは人が悪い。稔はエイブに対し、同盟を結んで仲良くなる意味も含めて説明した。


「既読ってのは読んで字の如くってやつだ。『読みました』って意味だ。一方で『寝落ち』っていうのは、ゲームとかの作業中に寝てしまうってことだ。要するに途中に寝るって意味」

「そういう意味か。理解したよ」


 エイブは知らない単語を聞いて意味を理解すると、そう言って会話を〆た。その後に彼は一歩後ろへと下がるとイステルが前へと足を踏み出す。彼女は目の前に稔を見た刹那、今後教育を受ける意味でお世話になる稔に対し、一礼してこう言った。


「稔さん。よろしくお願い致しますわ」


 お嬢様言葉も相まって、何も知らぬ人ならどこかの国の姫君のように思うかもしれない。だが、一戦を交えた稔は驚いた。イステルが礼儀を知っていたということ、人に当たるのではなく、人の考えに当たることを呑んだことを。けれど、あからさまに喜んでいる様子を浮かばせるのも弱みを握らせることになる。一応は教師となるのだからと、稔は喜んでいる様子に蓋をして話を進めた。


「イステル。俺からもよろしく頼む」

「いくら教師と生徒という立場とはいえ、呼び捨てで言わないでくださいまし」


 稔は首を傾げた。本来、教師に対しては敬語から入るべきである。もっとも、最終的には愛称で呼んでもいいというのは教師サイドの自由だが。とはいえど、イステルの言っていることは訳が分からなかった。確かにフルネームを知ってはいたが、挙手した生徒に姓名両方を読んで呼ぶ教師が居るだろうか。殆ど居ないだろう。


「(一応は同年代だもんな、見た目としては)」


 問いが大きく膨らんでいくのが分かったが、風船が破裂する前に稔はその結論に落ち着いた。イステルから稔に対して礼が済むと、今度はエイブが稔にメッセージを送る。


「メル友として同盟関係にある主人同士として。今後も交流を続けていこうじゃないか、良き友よ」

「もしかして、エイブって俺が初の友達的なやつ?」

「失敬な。けれども、確かに僕の人間関係は良好という訳ではないかな。――まあ、気にしないでくれ」

「そうか。――じゃ、俺らはこれで」


 稔が言うと、エイブは「ああ」と言ってから右手を出した。握手をしようという話である。流石の稔も鈍感さを見せるほどの場面ではなく、エイブに対して対応する手を出した。そして力強い握手を交わし、同盟を結んだ時に言った公約のようなものを実現できるように努力する道が目の前に作られていく。



「――紫姫、サタンは魂石へ。ヘルはティアとイステル、スルトはエルジクスを連れて応召リターン――」


 結局は魔法陣で合流するが、ヘルだって外見は至って普通の女の子である。故に三人も任せることは出来なかった。そのためにサタンと紫姫には魂石へと戻ってもらう。けれど、それでもヘルには二人を魔法陣へ連れて行くという使命が残ってしまった。だが、特に彼女は気にしていないようだ。


「戻ったな」

「そうだね」


 そうして二人になり、必要最小限の魔力で稔は魔法使用を宣言してアジトを後にした。



「――テレポート、バレブリュッケ駅へ――」

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