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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-79 ボンイン飯店

 ごはん処とはいえど、街の中でも知られたホテルの一角にあるような店である。自分以外に二名の主人が相席するのは話に聞いていた稔だったが、案外な繁盛ぶりに口に手を当てて驚いた。――が、それは過剰反応でしかない。確かに驚いてはいたが、そんなことをする暇なんて無かった。


「遅いぞ、愚弟」

「ナイトさん、早く座って下さい」


 単純な話であった。織桜にもカロリーネにも声を掛けられたのである。一対一ならまだしも、二対一では勝ち目が薄れない方がおかしいはずだ。況してや、相席する二人が先に来て待っていたというのに無視するなど、それこそ言語道断である。


 稔は何も言わずに織桜とカロリーネの指示に従い、開いていた席の一つに座った。一〇人で食べることを想定していたため、席が四つしか無いことに最初は疑問を抱いた稔。けれど、ラクトから小声で「テイクアウトでいいじゃん」と言われ、「そうだな」と回答してそれに賛同の意を評した。


 目の前にカロリーネと織桜を前にしているが、カロリーネを除けば電車の中で相席した仲である。仲の良さもそれなり。年齢の件で織桜と稔は話が噛み合わないようなところがあったりするけれど、それでも多少だ。ノリもいい織桜である。そこまで心配しうることではない。


「稔。ほら、ご飯――」

「悪いな。セルフだったか」


 稔はカロリーネと織桜によって急かされてしまったため、入店したごはん処がセルフ式だったことに気がついていなかった。セルフ式であることすら告げてくれなかったところには疑問を抱くが、遅れた稔が悪い。開店後一桁台の分間で辿りつけなかったのが悪いのである。


「私は四人分のテイクアウトを注文するから、適当に選んでおいてもらえるかな?」

「適当でいいのか?」

「稔と同じメニューで良いよ。その方が二倍にするだけなんだし、値段を把握しやすいじゃん?」

「折角のバイキング形式なんだから、好きなもの食べろっての」


 稔は言い、ラクトに考えを改めるように求めた。けれど彼女は考えを変えようとは思わない。それこそサンドイッチ一つやスムージー五〇〇ミリリットル程度で構わなかかった。けれど、流石にそれを真に受ける稔ではない。彼女の言っている『同じメニュー』というところは承諾したが、敢えて自分の分よりも多い量をラクトの分とすることにした。


「てか、四人分も頼むって言うけど――運べるのか?」

「確かにバイキング形式で食べるものを選んで注文することも出来るけど、あそこの既成品を見なよ?」

「なるほど……」


 稔はラクトの考えていることを察した。弁当箱で運ぶというのである。おぼんを重ねて運ぶことができるが、それは容器を乗せていない場合だ。おぼん同士の間に味噌汁が入った容器でも入れてみれば、相当な神経を使うのだから、身体的な苦痛は大きいと言わざるを得ないだろう。


 ただ、わざわざ弁当箱で運ぶ必要が有るのかと疑問を抱いた稔。無理もない、すぐ近くにプラスチック製の透明な容器があったのである。緑色の輪ゴムと透明の袋が置かれている事も考えても、そちらを使ったほうが良いような気もしなくない。


 けれども、重要なのは『形を維持すること』だ。ラクトが言う前に稔はそうだと察し、頷いて他に言うこともないので誤魔化すように「じゃあ、よろしく」と言って違う方面へと歩き出した。、稔の考えていることなどラクトにバレバレであることは明白な事柄なのにも関わらず。


「――四人分?」


 稔は置かれていた数種類の副菜料理――要するに野菜を主軸としたメニューを選んで皿に乗せようとした時、ふと思い返して疑問を持った。ヘル、スルト、紫姫、サタンの四人に渡すのは検討が付いたとしても、残り二人の精霊に渡っていないと思ったのである。


 だがしかし、そんな心配は無用だった。


「ああ、そういう……」


 稔や織桜が座る四人のテーブル席から離れた席、それも死角となるような席に二人の精霊が座っていたのである。対面座席とでも言おう。一人用の椅子同士を向かい合わせただけ、小さな机を置いただけの単純な作りの座席だ。


「(俺の召使も精霊も、陣の外に出てくることが多くないからな……)」


 稔は内心でそう考えた。治癒とか何とか理由を付けて自分勝手に戻る四名は、当然、食べ歩きするような話でなければ陣や魂石の中で食べたいのである。親しい人と向き合って食べるのが嫌いなわけではない彼女らだが、「それを無理してまですることでは無い」という考えなのだ。


「やっぱり、そう考えるとラクトって特殊だよな……」


 ちらっとラクトの方を見るが、すぐに止める。内心を読まれて視線を向けられたのだ。笑うわけでもない彼女はまた視線を下に落として弁当を選んでいたが、稔は背筋に氷水が掛けられたような冷たさを感じた。

 

 けれど、このまま居てはダメだ。動かなければ朝ごはんの時間はどんどんと遅くなっていく。稔はそう考えておぼんを二つ持ち、同じものをそれぞれのおぼんへと入れていく。汁が含まれたおかずを選択したわけではないため、味噌汁だけに神経を削げばよかった。


 そうして彼は主食と主菜、副菜と汁物を共通の食べ物としておぼんの中に入れ、左手に自分の、右手にラクトのおぼんを持ってレジへと向かう。そんな稔はラクトのおぼんに、ちゃっかりながらアイスを入れておくことにした。いつものお礼という意味もあったが、それは同時に欲望のままに夜を過ごした詫びでもあった。


 けれど、ラクトは稔に対して質問をぶつけた。皮肉って言うわけでもなく、ドストレートに聞く。


「朝からアイスって、センス大丈夫?」

「アイスは嫌だったか?」

「嫌いな食べ物じゃあるまいし。でも、ヨーグルトとかプリンが朝のデザートじゃないかなって思って」

「そっか。まあ、確かにお前は雰囲気を気にするもんな」


 昨夜――というか、今日の深夜の一件。稔はラクトが『雰囲気』を気にしている姿を思い出して言う。ラクトは「その通り」と肯定するが、内心では深夜の行為がバラされるのではとヒヤヒヤしていた。けれどチキンと嘲られるくらいの主人に、そのような所業は無理難題でしかない。


 ラクトは稔が言わないことを知ると、冷や冷やしていた自分を捨てて彼に問うた。


「購入したけど、召使がまだ来てな――」


 しかし、ラクトが言い終わる前に召使達がぞろぞろと現れてきた。美味しい料理の入った弁当箱をお目当てに来ているのである。いい匂いに誘われたわけではなく、ラクトに叩き起こされたも同然だったので腹が減っただけだ。そんな、共に二人の召使と精霊はラクトのから弁当箱を取っていく。


「なんだこいつら」


 ラクトは思わず口に出したが、召使も精霊も腹が減っていて有りつけた食料を前に会話なんて出きっこなかった。まるでサバイバルの最中に突如として出現した水のようだが、そういう訳ではない。腹が減っているだけで苛々するとは「どれだけ食欲に飢えているのか」という話だが、けれど三大欲求なのだから無理もない。


 召使達が勝手に稔の魔法陣やら精霊魂石の中から出てくる光景には、ごはん処に居た他の客も驚いた様子を浮かべていたが――それが日常のように思えている稔やラクト、織桜やカロリーネは全く動じなかった。


「手が開いたから私が担当するよ、一つ。アイスが入っている方が私の方だっけ?」

「常識的に考えればそうだろうよ」


 ラクトは特に何も言わずに稔からおぼんを受け取る。表情からは少し怒っているようにも見え、稔は少々ながら反省した。言葉の選び方が悪かったと反省するが、半ばで彼は反省することを止める。そして彼は「代金の支払いをお願いします」と、主人とは到底言えがたいような行為に及ぶ。


「財布の紐を握ってんのはお前じゃん」

「共有財産みたいに扱われてるけど、稔が所持しちゃダメとは言った覚えなんか無いんだけどな……」


 ラクトは稔の言い分に納得はしつつも、言い換えての納得にしておいた。稔にしてもラクトにしても、強請りたいときは強請りたい気持ちがある。分野は違えども共通点だ。そういう意味も含め、別に「紐を固く握っているわけではないのだから」という風にラクトはアピールした。


「まあ、取り敢えずは私が払うことにするよ。雑用はよろしく頼むね」

「……二つは持たないからな?」

「持たせないっての。割ったりしたら弁償しなきゃいけないじゃん」


 ラクトは稔とそんな会話を交わすと、顔を店員の方に向けた。「二人分でよろしいでしょうか」と店員に問われた彼女は、「はい」とそれに答える。どうやら、店員はどの場所に何があるかも正確に把握しているようなチーフ的な立ち位置だったようだ。会計作業もスムーズに進んでいく。


「スプーンお付けしますね。合計で一一二〇フィクスになります。一〇〇〇フィクス以上お買い上げになられましたので、一〇〇フィクス分のドリンク券をお渡しします。どうぞ、ご利用下さい」


 店員は言い、会計中のラクト――ではなく稔にチケットのようなドリンク券を渡した。ドリンクバー的な感じで、コーヒーでもコーラでもオレンジジュースでも良いらしい。要するに、ジャンルは不問ということである。だが悲しきは、それが『一回分』ということだった。


「いいよ。私はアイスが有るんだし、稔が飲みなよ」

「サンキュー」

「まあ、実際は糖分を必要以上に摂りたくないだけなんだけどね」

「そうなんだ。――ご飯はいいのに?」

「いいよいいよ。食べ物に気を遣ってるのは確かだけど、遣い過ぎて食べなくなるのはまた問題じゃん?」

「確かにな」


 二人はレジの前でそんな会話をし始めたわけだが、もちろん店員は戸惑いを隠せなかった。「何だこの客は」と、リア充カップル爆発しろと言わんばかりの笑みを浮かばす。――が、それに気が付かない二人。


 結局、炭水化物を抜くにしても肉類を抜くにしても、それこそ野菜だけを食べるにしても、程々にしておくべきなのだ。運動と睡眠と食事を適度にしておけば太ることなど無い。病気でも有るまじき常人が食事制限で体重を減らすのは、あまりするべきではないのだ。


 食べなければ当然ながら体重は減るに決まっている。単純な話、食事をせずに運動しなくても基礎代謝でエネルギーは使われているのだ。――が、それは危険な流れだ。体の各所で異変が見られるのは言うまでもない。そうして元の生活に戻した途端にリバウンドするのである。


「お客様。次の方が待たれていますので、早急に退いて頂けないでしょうか?」

「「す、すいません!」」


 二人で声を合わせ、稔とラクトは店員から受けた指示に従ってその場から机へと戻った。




 織桜とカロリーネが控えていた机へと戻ってきた二人は、帰ってきて即座に二人それぞれから大笑いされてしまった。「店員に馬鹿にされやがって」とか、「迷惑行為は止めたほうがいいです」とか、散々な言われ様だ。こんな関係の主人三人が精霊戦争で対峙しなければならないなんて、端から見れば気が付かないと思わざるをえないくらいだ。


 顔を赤らめ、「辱めを受けた。訴訟不可避」とか言い出しそうになる。けれど場が場なので言わないし、それは単なる例えに過ぎなかった稔。取り敢えずは笑われている時間は耐えるだけ耐えることにして過ぎ、一分くらい経過してようやく収まったので稔が話の主導権を握るチャンスが来た。


「カロリーネの弁当はコンビニ弁当か?」

「そうです。今日もホルスとコンビニへ行って購入してきました」

「あんまりコンビニの弁当ばっか食べないほうがいいぞ。添加物ばっか入ってるようなもんだし」

「そうですよね……。私も料理を作れなくないのですが、ナイトさんのように簡単に作れる訳ではないので、どうしてもコンビニの弁当という誘惑に手を出してしまうんです」


 コンビニの弁当を常用するわけではない稔からすると、発言中の『誘惑』という言葉がなんとも共感しづらかったが、一応頷いて話を聞いていた。聞き終え、稔は続いて織桜のほうを見る。彼女は黒色にピンク色のサクラの模様が刻まれた弁当箱を風呂敷と共に持ってきており、手作りであることが窺える。


 稔が織桜の事をいじり――否、彼女と会話をしようとした矢先だ。先にラクトがきっかけを作った。


「司令は手作りの弁当なんだね」

「貧乳が女子力保つためにはこれくらい必要なんだよ、バーカ」


 織桜は既に自分の無い乳のことを自虐ネタの一部として使用することに抵抗を感じていないようだった。公衆の面前である以上、それなりの恥ずかしさを彼女が背負っているのではないかと稔は不安になるが、織桜の表情からは自分を馬鹿にしている様子が窺えているから、あまり心配する必要は無いと理解できた。


 そんな自虐に乗っかるカロリーネ。


「そう考えると、ラクトさんは持ち過ぎですね」

「よいしょするつもりはないけど、そういう要素しか無いから困るよね」


 二人ともに視線をラクトの胸に集中させた。ラクト以下の二人は共に視線をそこから変えなかったが、やはり言うまでもなく巨乳である。走ればぶるんぶるん揺れるような、揉み応え抜群の二つの丘である。


「つか、ラクトは早く髪を長くするべきだと思う」

「――司令。それは出来ないよ」

「なんで?」


 織桜は振ってはいけないような話題だったと、ラクトの表情からすぐに推測することが出来た。それまで高かった両者のテンションが一変したのは確かである。けれど織桜は落ち着いて不幸を共有しようという思いから、ラクトの抱えているトラウマを聞き出すことに耳を傾けたままでいた。


「髪を切ったのは、過去との決別を意味しているんだ。もう、金輪際ロングヘアにすることは無い」

「残念だったな、ラクトよ。所詮は貴様も俺の召使だ。俺からの命令が下ったら従ってもらうぞ」

「あ……」


 ラクトは「やめてね?」と怯えながらに言うが、稔は一切の回答を口に出さない。とはいえど、彼女は稔が何を思っているのか彼の心の中を覗いたことで把握することが出来た。そのため、話は解決へと導かれたことになる。――が、織桜とカロリーネには伝えられていない。


「二人でイチャつくなよ、飯の時間まで」

「そうです。こっちは彼氏が居ないこともありますけど、すごい苛つくんです」

「けど。私らは応援してないわけじゃないから、そこは理解してもらいたいかな」


 最後に織桜とカロリーネが笑顔を浮かばせ、話が良いムードに戻された。その直後、稔は「では、手を合わせて――」と四人に聞こえる程度の声で言う。そうして、パン、と手を合わせる前。日本の文化にカロリーネが付いて来れなかったことを見て、稔は少し小馬鹿にする感じで聞いてみた。


「食べる前の儀式だ。俺と織桜の母国のやり方なんだが、実践してみて欲しい」

「分かりました、ナイトさん」


 カロリーネが見様見真似でしてくれることを理解し、稔は笑みを浮かばせて「ありがとう」と軽く口頭で感謝の気持ちを伝えておく。そうして振り出しに戻った食前の儀式は、今度は織桜の声で始まった。


「では、手を合わせまして――いただきます!」

「「「いただきます」」」


 外国人が日本のお店に入って、「いただきます」と言って食べる文化に驚く様子が何となく稔は理解できた。周囲の人たちが変な宗教に入っているんじゃないかと思っているのである。無論、自身が実践したわけでもないやり方だから、そう思うのは無理もなかろう。


「ところで、『いただきます』という言葉の意味はなんなのでしょうか?」

「食材、生産者、加工者、調理者、全ての人への感謝の気持ちだ。日本は今も昔も資源が乏しいような手足がもげた状態の国だから、そういう大切に物を扱う精神が根強く残ってるわけなんだな、これが」

「なるほど」


 稔がそう説明すると、カロリーネは首を上下に振りながら興味深そうに聞いていた。今更ながら見てみると、彼女のコンビニ弁当は箸を使わずしも食べられるものとわかり、稔はアジアの文化繋がりであることを聞いてみることにする。


「カロリーネ、もしかして箸が使えない系女子?」

「そういうわけではないです。でも、未だに両方の箸を開いて物を掴んでしまうんです」

「……馬鹿め」


 稔はカロリーネを馬鹿にしているが、そのような打ち解ける雰囲気を作り出していたのには訳があった。簡単な話である。今日この後に控えたエイブとの戦いに一番詳しいのが、何を隠そうカロリーネだからである。戦いの前に話し合いで解決する段取りを踏むのは稔も胸に刻んだ上、それでも敵地へ奇襲攻撃に近い戦法で挑む以上、後ろを見ることは出来ない。


 となれば、作戦にはかなりの正確性が必要となる。いくらアジトがどのような構造なのかは知れたとしても、問題はそこへ辿り着くまでの道程だ。場所がわからない以上はテレポートも使用不可能である。


「カロリーネ」

「なんですか?」

「バレブリュッケに有るらしいエイブが滞在している場所が何処にあるか、教えてくれないか?」


 稔の問い。それはカロリーネを困らせてしまう話でもあった。けれど、服従すると誓った相手でも有る。そういうことを含め、カロリーネは場が場だという理由から後へと回すことにし、その旨を伝えた。


「分かりました。ですがそれは、食べ終わってからにしましょう」

「場所は――何処でする?」

「六〇五号室で行いましょう。私は立ち会うわけではありませんし、ラクトさんも同席をお願いします」


 カロリーネに振られると、ラクトは食べるのに忙しいようで頷くに留めた。


「そういや、織桜は今日から軍の司令官として働くつもりなのか?」

「見習いだけどな」


 織桜は笑って回答した。だが、それだけに留まらない。渡すべきものがあったようで、彼女はそれを取り出したのである。ベージュのような茶色い封筒は、中央に『王国より』と書かれているが、左下には『リート殿下より許を頂き秘書が書した』と追記されていた。恐らくこれはラシェルの直筆だろう。


「もしエルフィリアを出るのなら、他の国との国境には検問所がある。バレブリュッケから一番近いのはギレリアルかエルダレアな訳だけど、行くならこれを持っていけって」

「了解した。――まあ、午前中は留まると思うけどな、この国に」

「そっか。それと、行くんだったら、『新国家元首ネクストエルフィリア』と呼ぶことは無いらしい」

「分かった。じゃあ、それを貰っていくことにするよ」


 エルダレアについてもギレリアルについても真実を知らなかった稔。ある程度エルダレアについては理解していたが、それでもギレリアルの詳細は分からないラクト。そんな二人に対して国王代理が手紙を出すのは前代未聞の話であったが、それはこの王国を救う救世主だと思ったが為だった。


「ちなみにナイトさんは、バレブリュッケに電車で行くつもりなのですか?」

「食べてすぐに戦闘するのは腹を痛めるだけじゃんか。だから、ある程度の休憩時間を挟んでから戦うよ」

「そうですか。因みに、ボン・クローネ駅からバレブリュッケ駅までは二時間少しの長旅だった気がします」

「ちょうどいい時間に着くじゃないか。ありがとうな、そういう助言」

「いえいえ」


 カロリーネは助言をしたことを当然のように言っていたが、小さなことでも大きなことになる訳である。それが仮に大事なものだと最初は分からずとも、後々知っておいて損はなかったことと理解できたのなら、それは一番感謝できる事柄。そう思い、稔は最初のうちからカロリーネに感謝の意を述べておいた。


 ボンイン飯店というごはん処にて、稔とラクト、それに織桜とカロリーネは一日の予定についてそれ以上に話すことはなかった。そこから繰り広げられたのは世間話だ。でも、それも食事が終われば終わる。




 朝の七時三〇分を過ぎた頃だ。食べ終わり、食器を片付けて稔たちはごはん処を後にした。織桜は急ぎの用事が有ることを食器を片付けている最中に話していたから、出てすぐに少し会話をして稔ら三人は送ってやる。


「では、私は先に王都に戻ることにする」

「リート達はもう帰ったのか?」

「早朝の列車で帰ったよ。この街に長居させておくのは危険だって判断したらしい」

「まあ、昨日あれだけテロ事件が起こったわけだし、そういう判断が下されて当然だわな」


 稔がテロ犯に対してそんなことをブツブツ言っていると、織桜の姿は既に遠くなっていた。拗ねて王都へ戻ると向かおうた訳であるまいが、「行っちゃったじゃん」と、ラクトが稔に対して非難の声を飛ばす。


「では、お二人さん。テレポートして六〇五号室に連れて行って下さい。私はそこで話をします」

「ああ、了解した」


 稔はそう言い、ラクトとカロリーネの手をほぼ同時に握る。そして、魔法使用宣言を行った。

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