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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-59 605号室-Ⅵ

「そういや、稔の居た世界では『女は家事など、男は仕事』みたいな社会だったの?」

「全ての家庭の話ではないけど、少なくとも俺んはそうだったな。もっとも、俺の父は休みの日でなければ家にほぼ帰ってこないような男だし。定時で飲みに行かないくせに、ジムに行くんだぜ?」


 稔は笑い混じりに父親のことを紹介した。自分の父親の事を「お父さん」などと常識から逸脱した喋り方ではなく、「父」と呼び、受験でも使える紹介方法で話していく。もっとも、稔はラクトへは親愛の感情を抱いている訳だから、砕けた喋りでも問題はないのだが。


「ジムか。そういや稔、腹筋割れてるの?」

「割れてねえよ。もしお前が「男が全員割れてる筋肉を持ってる」と思っているなら、それは幻想だ」

「そんなこと思うわけ無いじゃん」


 洗濯機の前までに辿り着くまで、稔とラクトは他愛もない世間話をしていた。ラクトは現実世界での稔がどんな人物だったのか聞いているが、彼の心を読めばある程度は分かることだと知らないはずがない。では何故聞いていたかといえば、それは稔の家事スキルを聞いてみたかったからだ。


「本題なんだけど……。稔って家仕事だと何が出来ないの?」

「家庭科の教科書にある事は基本出来るけど、子供の面倒を見るのは絶対に無理。小学生以下は特に」

「暴行は――」

「馬鹿か、するわけないだろ。俺の臆病がどれ程なのか分かってないな?」


 稔はコミュ障のように見えるチキンである。目を背きたい自らを表す言葉を尻目に、自分がやらなければという強い意思の元で戦うことは偶にこそあるが――やはり根底にあるのは臆病な心なのだ。無論、そんな奴が法律に怯えない訳がない。つまりは、暴行を加える可能性はそれほど多くないということである。


「なら、子作りしても安心なんだね」

「ヤる気満々のようだが、俺はお前の淫魔らしい考えにはひれ伏さないぞ」

「最悪、拘束してしまえばいいんだけどね」

「最悪、転移してしまえばいいんだけどな」


 ラクトは子作りをすることを仄めかす供述をしているが、稔はそんな考えにひれ伏さないという強い思いを持っていた。いくら相手が許そうが、子供を育てるにしてもお金が掛かる。出産後に死んでしまう女性も居るのだから、ラクトを思う気持ちや自分が責任から逃れたいなどがあって、急かされてやろうとは思えなかった。


 そんな意思を心の中に刻む。同時、ラクトの言ったことを少し改変して言ってみる。


「まあ、私は求められたら応じるんで」

「俺が求めるんじゃなくて、お前が求めるんだろ?」

「そうともいうー」


 稔はラクトの軽すぎる言い方を許す気になれなかった。別に親愛の情を抱いてもらっているのだから、彼女の口から発せられる言葉は砕けたもので何ら問題ない。でも、それは原則としての話だ。日本語はそこが難しいところで、「全てが全てそうなる訳ではない」のである。


 いくら相手が許そうが、稔は「時期が早い」と何度も主張していく。それだけ重要視しているのだ。そんなことを軽く考えられてしまっては、稔も少し怒ってしまった。


「待てよ。そんな気持ちで子供を作る気なのか? お前は馬鹿か?」

「ちょ、いきなりどうし――」


 稔は苛立ちを暴行で示したりはしない。それは彼を象徴する性格だと言えよう。もちろんしなければ他の策が必要となる訳だが、こちらも一般常識の範疇内だ。「まずは話し合いで解決、相手から無慈悲な攻撃を受けるなどの対抗せざるを得ない場合のみ、最終手段に暴行」という考えである。


 今回で言えば、ラクトは一切歯向かったりはしていない。一方で稔はラクトの両肩に手をおき、自身の話す内容をしっかりと聞いてもらえるようにした。言うまでもなく、暴行を加えたくないだけの話であるが。


「そりゃ、子供を産むのはお前だしな。お前の意思は尊重するべきだと思う」

「う、うん――」


 稔はラクトと自分との顔の距離が近くなっていることに気が付いていなかったが、それに気が付いていたラクトは一気に頬の上部から準に下へと紅潮させていった。


「だが、今のような軽い考えで通ると思っているのか? お前はお金を作れる、料理も作れる、娘に対してなら愛情を十二分に注げるとは思う。でもな、一番重要なのはお前の命なんだよ。新しい命は今在る命からしか生まれないんだ。妊娠してから出産した後まで、確かに子供も重要だが――まずはお前なんだよ!」


 稔に言われると、ラクトは自分が軽い喋りで「子作り」と言ってきたことを反省した。反省したことでラクトは当然黙りこんでいる。会話を繋ごうという気持ちも多少あった稔は、そのまま続けて言った。


「小学生以下を扱うのは得意じゃない。でも、赤子が生まれたってお前が生きていなくちゃ駄目なんだ」

「それは――」

「俺は赤ん坊に飲ませられる液体を生成することは出来ない。だからお前を欲するんだ」

「な、何言ってんの……」


 敢えて名を伏せて稔が言ったため、ラクトは更に照れた。でも、ここまで来ると話は落ち着いてきたも同然だ。だから、色々と言っていた稔の頬にも熱が怯えてきてしまう。もちろんそれは、照れているからだ。


「今更だけど……、悪いな、こんなに顔を近づけて」

「いいよ。『お前を欲する』って言われて嬉しかったから、不問だし」

「あ、あれは出産時の母体を指して言ったわけであって、恋愛感情を意味するものでは――」

「心を覗けば色々と考えているのは見え見えなんだぞ、馬鹿主人」


 ラクトは可愛らしく微笑を浮かべる。そして、ふと稔は疑問に思ったことを問うた。


「その場合の主人ってのは、マスターって意味だよな?」

「心の中で考えて留めてる、そのもう片方も思って言ってるぞ」

「つまり――」

「『主人』の意味は『マスター』と『旦那』と二つ意味があるけど、どっちもってことだ」


 先程あれだけ顔を近づけられた仕返しと言わんばかりのラクトによる攻撃は、稔をたじたじにさせていく。自分でも格好つけて言ったように思ってしまい、余計に恥ずかしいという思いを加速させてしまうのだ。だから、ラクトの言っていることに平伏すかのようになっている。


「じゃ、呼び名変えよっか? 呼び捨てじゃなくて、『旦那様』とか『ダーリン』とか」

「いや、普通に下の名前を呼び捨てで読んでくれてる方が落ち着くから遠慮する」

「キャラ崩壊が起こるのもあるか。まだまだ精霊戦争で登場していない精霊、それに罪源だって――」

「メタいことを言うんじゃない!」


 稔がツッコミを入れた。『私』という意味を表す言葉が多くあることもそうだが、日本語は多くの同義語を持っている言葉が多い。他の言語に直したら一つになるところは日本語の特徴といえる。エルフィリアで使われている言語が限りなく日本語に近い言語であるからこそ、稔はそんなことを思った。


 そしてラクトの両肩から対応する手を離すと、謦咳を入れる。


「洗濯をしにきたのに雑談で一分以上も潰すとか、お前は相当な馬鹿だな。四人をのぼさせる気か?」

「ないない。稔が人の肩掴んで、厨二――格好良いような台詞を言い放ちまくっただけじゃん」

「今、『厨二病』って言おうとしたか?」


 ラクトは黙り込んだ。それは図星であることを示しているのだが、半ば逃げるように彼女は言った。


「さ、さて、洗濯物の移動作業を始めようか」

「――ったく」


 稔はラクトが逃げ気味であることを把握したが、先程のように言い放つことはしない。「異性に触らせるわけにはいかない」と強く主張していたくせに、今じゃ真逆の「手伝って下さい」と言われているのだ。一人でするだけの重要なことではなく、それほど重要なことではないという意味が込められていると言えよう。


 稔は臆病でもあったが、断ろうに断れない性格でもあった。それに、「手伝って欲しい」というのは召使からの頼みであるし、断ろうに断れない彼の性格が強く働いてしまうのは些か仕方が無いことだ。


「それで。マニュアルとかはあるのか? ――あ、指南書があるって言ってたな」

「そそ。でも、大体は形見れば分かるでしょ。三種の神器に『洗濯機』が入っていた国に住んでいるなら」

「まあな」


 ラクトは日本に来たことはない。でも、稔の学習してきたことなどが脳にあることは確かである。不確かなものと正確なものが玉石混交している為に取捨選択する必要があるが、テストで悪い点を取るような奴ではない稔が、誤った認識を貫いているはずがなかった。


 だから、ほぼ正答。ラクトが今言った「三種の神器」は、稔の心ではなくて脳から得た情報だ。心が読めれば思っていることを知れる。考えるためには脳を中継するのだから、当然、脳から情報が得れるのだ。


「でも、むやみに触って機械を壊すのは嫌だから、指南書を読んだお前がやるべきだと思う」

「チキン」

「黙れ」


 仲がいいからこそ悪い言葉を使っても無問題。あまりにも酷い言葉を言うと、「言ってはならない」と論が返ってくるが、「黙れ」「チキン」くらいならどうでもいい。それが稔とラクトの仲である。


「取り敢えず、そっちが脱水エリア。最新式のものじゃないから手間掛かるけど、仕方ないよね」

「そうだな。――それで、俺は洗濯物を洗浄エリアから脱水エリアに移せばいいんだな?」

「うん、そういうこと」


 稔はラクトから指示されると、「了解した」と返答を述べた。――とは言うものの、結局はラクトも脱水エリアに洗い終わった洗濯物を移す作業をすることになるので、監督役が居ないわけではない。もちろん稔も、自信が有り余るくらいじゃなくても洗濯程度出来る。アイロン掛けこそ雑になるが、洗濯に関してはバッチリだ。


 言い換えれば。ラクトも稔も、ロボットのように正確な作業を熟すことが可能ということだ。


 そして、ラクトがボタンを押したことによって作業が開始される。――と思いきや、ラクトが稔に問うた。彼は風呂場の四人の事も考えて「早く進めろよ」と思う一方、「何か重要な話なのかな?」ということで耳を傾ける。息を整え、ラクトが話をし出す。


「洗濯用洗剤が紛れ込んだ水を使ってるから、潔癖症だと洗剤の感じが残る可能性があるんだけど」

「やっぱり安価な洗剤使ってるんだな」


 液体洗剤と水が合わさった水溶液。それで洗った服を脱水する時、完全に服から洗剤が落ち切らない可能性があるというのがラクトの説明だ。稔が感想を述べると、ラクトは続けて言った。


「違う。エルフィリアの液体洗剤って、シミを落すくらいの強い漂白剤も含まれてるやつが多いんだよ。それに『液体』と銘打ってるくせにカレーのようにドロドロしているから、水流を起こさないと水に溶けないんだ」

「そうなん」

「だから、長い間使っていないと沈殿が始まる。――もう、意味分かるでしょ?」


 稔はラクトの言っていることを理解できていた。ドロドロしている液体洗剤をかき混ぜる必要が、即ち水の流れを発生させる必要がある。もちろん、起こさなければ合わさることはない。ただそのかわり、その容器では沈殿が始まってしまう。


 沈殿が始まったとしても、その水の中にある成分は同じだ。けれど目の前にある洗濯機は、液体洗剤を毎回入れる形式ではない。つまりは、始めに入れた容器内の液体を全てを使うわけではないのだ。だから、必然的に最初に入れた量と異なる量の液体洗剤が使われる。


 もちろん液体洗剤の成分が沈殿しているのだから、下に行けばいくほど効果が強くなる。そしてラクトは、洗濯機の上部のデジタル文字を指さした。赤文字で「2」と表示されている。左枠外れと右枠外れに、それぞれ「残り」「g」が書かれてあるが、これはデジタル文字で表しきれなかった結果だろう。


「考えてるところ悪いんだけど、ここを見てもらっていい?」

「大丈夫。理解し終わってたところだから」

「そっか。――で、残り二グラムしかない事を示している残量表示これ。洗剤を投入する必要があるわけだけど、そういうのはホテル従業員が行わなければいけないようなことだし、手は付けないでおいていい?」

「いいだろ。ところで、俺らはいいのか? 深夜に洗濯機を使いづらくはないか?」


 稔は疑問に思う。女衆四名は既に風呂に入っており、これから洗濯し終わった衣類が乾くまで浴衣を着ることになる。でもその後、乾かされた衣服を彼女らは着ることをするだろう。だがそう考えれば、稔とラクトはまだ風呂に入っていない。


「大丈夫だよ。稔には『跳ね返しの透徹鏡盾バウンス・ミラーシールド』があるじゃないか」

「まさか、音を跳ね返すつもりなのか? そんなことしたら、余計に音が出るんじゃないか?」


 跳ね返すということは、壁と対象物の間を音が行き来するということだ。音は対象物に塞がれることはなくても、ほとんど通さない壁もある。防音壁のような、ああいうものだ。しかし、稔の魔法で出来るのは『跳ね返し』だけだ。三六〇度の方向から音が飛び交うのは想像できても、音が煩くなりそうである。


「でも、やってみなくちゃ分からないじゃん」

「まあ、まだ二〇時半だしな」


 小学生以下のガキであるまい。昼寝という仮眠も取った奴らからすれば、まだまだ寝静まる頃ではない。他の宿泊客のことを考えなければならないのは確かだが、パーティーでガヤガヤしている部屋があるというのに、この時間から寝静まっている者は相当疲れてなければ居ないだろう。


 結果、稔は魔法を使用することを決定した。

 それと時を同じくして、ラクトは思っていたことを言った。


「私らが夢中で話していたからかは分からないけど、七分間の間に洗濯機の音って聞こえてたっけ?」


 目の前の洗濯機は、洗濯物が洗浄エリアから脱水エリアへ移されることを心待ちにしている。そしてその洗濯機が、洗濯物をラクトが投入してからの七分間で大きな音を発したのは二回だけだった。


「二回だけ、な。ホテルだからか、騒音関係は居座古座が起こらないように設計されているのかもな」

「きっとそうだよ。じゃあ、あんまり気にしないでいいか」

「そうだな。変なことを言わないでもらいたいが、この部屋で雑談して過ごせばいいだろうし」


 稔が「変なこと」と言ってラクトを疑うような目で見る。一方でラクトは、頬を膨らませてムスッとしてしまう。けれど、あれほど平然と「子作り」と言ったのだ。いくら意中の男の前であろうと、あそこまで言うのは如何なものだろうか。――なんて、そんなことを思うと稔はため息を付いてしまった。


「んじゃ、取り敢えず一時停止のボタンを――」


 ラクトはそう言うと、デジタル文字が書かれている枠の隣にあった丸形のボタンを押した。ボタンは緑色で分かりやすくなっており、発色の良い赤色LEDのライトが点滅している。でもこれは、「押せ」という機械からの信号であるから、ラクトが押した瞬間に点滅しなくなった。


「ところで、そのボタンの意味ってなんだ?」

「洗濯物を移すためのボタンだよ。移す時に水流が起こってたら手を怪我するかもしれないし、移しづらいじゃん? 時間を止められるなら別だけど、それが出来ない一般人や魔法使用者のためのボタンってこと」

「なるほど」

 

 稔は頷いた。洗濯機の一部分の蓋を開けて洗剤を入れるのが一定量だ、という形式で使用者を困らせる一方、こういうところには良心的な気配りが聞いているのである。困らせるところもあるけど気配りができるということで、稔はそう考えると、何処かラクトに似ているような気がした。


 そんなラクトは、鼻歌を歌いながら洗浄エリアから脱水エリアへと移していく。もちろん、彼女が優先的に移しているのは下着だった。極力稔には触らせないようにしたい思いが、手伝ってと言っているくせに根強くあるのだ。


「稔、しっかり仕事しろ」

「馬鹿か。精霊の戦闘時に着る衣服が今無いってことは、お前の戦闘状態みたいな特殊仕様じゃないか。殆ど下着しかないっていうのに肝心のそれを根こそぎ取っていくんじゃ、俺の仕事が無くなって当然だろ」

「だって、触らせたくないし」

「自分以外の下着には触れてほしくない、と?」


 稔は問うと、ラクトは首を上下に小さく振って肯定した。料理を作る時の真剣な表情とも違えば、煽ったり弄ったりする時に浮かんでいる笑みも無い、ただ小さく首を上下に振るか弱そうな少女の姿。ラクトは、言うならばそのような姿だった。


「ちょっと無口な感じだと俺を慕って呼びそうで、俺らが出会った時を思い出すな。――まあ、俺は砕けた会話が一番好きだ。敬語が嫌いじゃないし、慕われるのが嫌なわけでもないんだけどな」

「でも、『ご主人様』は礼儀を弁えてるんでしょ?」

「そりゃ、初対面の人に敬語を使わないのは無礼だろうよ。もっとも、精霊戦争とかいう戦争で対峙した主人や罪源との戦いとかであれば、交渉が無駄だと悟った瞬間に敬語を使うのなんかやめてやるけど」

「まずは対話、最終手段が実力行使。それが『ご主人様』だもんね」


 稔は「ああ、そうだな」と言った。でも、一つだけ思ったことがあったので言う。


「『ご主人様』って呼び名は止めろ。それはレヴィアが俺を呼ぶ時に使うんだ」

「なにさ、私には呼び捨てしか選択肢が無いってこと?」

「その通りだ。半日近く過ごしてわかったんだ。お前からは『呼び捨て』で呼ばれる方がいいって」


 二四時間を共に過ごしたわけではないが、稔とラクトは半日近くを共に過ごしてきた。稔が最初に呼び出した召使である。過ごしてきた時間の長さで言えば、逮捕された爆弾魔の男から譲渡された三人とも違うし、主人を失った怒欲の罪源とも違うし、妬欲の罪源とも異なるのだ。


「まあ、あんまり肩入れしすぎないでね」

「なんで?」

「私以外の召使との関係も保つとか言ってたじゃん」

「それは言ってたな。けど、仕方ないだろ。純粋な召喚で生まれたのはお前だけなんだから」


 ラクト以外は、全て元から存在していた召使や精霊や罪源だ。紫姫――否、『死を恐れない紫蝶デッド・エンド・バタフライ』は稔と降臨戦形式になった訳だから、元から存在していたというのは石であって精霊では無いと言えるかもしれない。けれど石だったからこそ、「召喚で生まれた契約」とは言い難い。


 稔の脳内には、多くの『考え』というランナーが掛け巡っていたが、全てが倒れてしまった。つまりは、稔とラクトのこれまでを考えることをやめたのである。そして稔は、この場所に来た意味を再確認するために主軸へ戻す。


「それはそうと。俺らが来たのは洗濯物を移すためなんだし、早く終わらせちゃおうぜ。女衆四人は俺らを待ってるんだし、脱水なんてすぐに終わるだろ?」

「ごめん」

「大丈夫。気にしてないから」


 ラクトの謝りに、稔は「お前らしくない」と思いながら笑って慰めた。そして、二人は特に何も言わずに移す作業を始める。

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