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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
一章 エルフィリア編Ⅰ 《Knowing another world and the country》
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1-13 EMCT/墓地 Ⅲ

 エレベーターは、日本の高層ビル、超高層ビル、様々なビルで使われている表示が使われていた。『乗客可能人数』、『階数を表す画面』、『ドアの開閉ボタン』。そういうものが使われていた。


 見てみれば、乗客可能人数は二三人、ドアの開閉ボタンは日本の物同様に出入口側、つまり前方部と、手すりが付いている方、つまり後方部の二箇所につけられていた。


「思ったんだが、このビルに使われているエレベーターってヒュームルトが作ったものなのか?」

「いえ、ヒュームルトが作ったものでは有りません。エレベーターはエルフィートが作ったものです。とはいえ、やはり我々には働いたりする技能は最高峰なのですが、考える能力が余り無くてですね……」


 稔は思った。「『学校』という言葉すら彼女は知らなかったのだから、それでも仕方ないのではないか」と。けれど、考える能力くらい魔法で補えるような気がしなくなかった。


 今は全盛期よりも国土面積は小さいものの、それでも暮らしている種族者数は二〇〇〇万。人口で考えてみれば、「メガシティ・東京」の約三分の二の人口を抱えているということだ。


 つまり、労働力は少ないかもしれないが、精鋭部隊を作ってしまえばそれなりに戦いには強くなれるし、国土強靭化も出来る。それに、リートの祖父がやったように、マドーロムの統一も夢ではない。

 魔法を使って戦っていけるのは限られるだろうが、それでも魔法が使えるというアドバンテージは大きい。


「やっぱり戦争――否、リートの兄の救出もそうだけど、教育するべきだと思うんだよね。この国の将来を担う人たちに、学問を教えるべきだと思うんだよね」

「『考える』ということをさせるのですか?」

「ああ。確かに、戦争を急ぐ気持ちはわからんでもない。けど、戦争が長引いたと仮定したら、誰が戦場へ行くんだ?」

「それは……」


 大日本帝国がそうだったように。戦争が長引き、国力が低下し、資源も尽き果てれば、やってくるのは『敗北』である。大日本帝国は昔、海軍に関して言えば抜群の強さを誇っていた。将校もあったし、教育だって行われていた。


 ――だがやはり、資源の乏しい国は戦争に弱かった。


 大日本帝国が戦争を始めた大きな理由は、単純に『資源が欲しかった』ということに限る。『植民地開放』という名目もあったけれど、それは第二の理由である。当時あった人種差別を無くそうという動きを大日本帝国は盛んに行っていたが、それでも一番大きな目的はそれでなく、『資源確保』だった。


 そして、今のエルフィリアの領土は他国から見れば狭い。資源も豊富でないし、加えて海洋国家でもない。


 大日本帝国は、一つの離島程度失ったところで変わるような話ではなかった(ただし、暮らしていた人たちの事を考えればそれは違う)。だが、エルフィリアは違う。大陸国家である。海に面しているとはいえ、四方八方が海に囲まれた国ではないのだ。


 即ち、国内の資源が確保できなければ海からも陸からも攻撃されるかもしれない、ということだ。そんな中で、戦争が激化し、長引き、必要な兵士が足りなくなって……。十分な教育を受けていない若きエルフィート達が戦地へ出て行ったらどうなるだろうか。


 ……答えは見えている。


「俺の国にはな、『神風特別攻撃隊』ってのがあった。通称『神風特攻隊』、または『特攻隊』だ」

「『トッコウタイ』……?」

「ああ。現実世界でもな、有ったんだよ。『第二次世界大戦』ってのが」

「そうなんですか」

「それで、日本は色んな国と対立した。最初はやばい強さを見せたんだが、最終的には国土が廃土と化すくらいにまでなった。世界初の使用禁止級核兵器である『原子爆弾』が二都市に使われ、二○万人以上が僅か三日、使われた時間で言えば数秒で消え去った」

「数秒……」


 エルフィリアには――否、マドーロムには原子爆弾という物自体が存在しないし、その概念を作り出すことはほぼ不可能だ。一応、ヒュームルトは『ヒト』では有るけど、現実世界に生きている『ヒト』とは少し違う。


 ギレリアルという国家を形成しているといっても、その国家の経営方法が現実世界の連邦制と同じということ以外、殆ど同じ所はない。作り方を知らないから、原子爆弾を作ることも、異世界人である稔やボン・クローネ市に居るという、リートの知り合いの女でなければ無理なのだ。


「おいおい、エレベーターの中で立ち話か?」


 静まり返ったエレベーターの中で、スディーラが言った。そもそも、このタワーに来た理由はリートが連れてきたということであるものの、結局今は『スディーラのお墓参り』と『リートのお墓参り』も兼ねている。その為スディーラからすると、待つことは(悪い意味とイライラする意味で)心に来る事だったのだ。


「悪い。……まあ、このエレベーターが現実世界のものと同じかわからないから、出来ればやってくれ」

「機械音痴なのか?」

「理由をスルーするな! そんなこと言ってない!」

「冗談だよ、冗談。……ほら、行くぜ?」


 稔を馬鹿にするような発言を混ぜつつも、スディーラは稔を傷つけているような感覚はなかった。もっとも、稔自身がそう思っていなかったが。


「……んじゃ、五〇階まで行きますぜ」

「スディーラ家の墓は五〇階なのか?」

「そうそう。五〇階だよ」


 稔は「そうなのか」と後に言ったが、その後はもう何も言わなかった。そして、ドアが閉まってエレベーターが上昇し始める。階数を表示する画面に赤いデジタル文字が浮かび上がり、此処が五階であることを示してくれる。


「案外早いのな」


 日本、それも横浜に生まれた身である稔にとってみれば、エレベーターというのは身近――とまではいかなかったけれど、ランドマークタワーが地元に有ることもあって、速さに関してはそれなりに身に染み込ませられていた。


「しかしながら、エルフィリア・メモリアル・センター・タワーズ・ビルディングに使われているエレベーターでは、外が見えませんからね……。ニューレ・イドーラ市内にある一番高い建物とかでは、外が見えるようにエレベーターが有るのですが、やはりこの建物は見えないですからね――」

「でもま、俺はこういう建築系好きだけどな。むしろ、この場所は外が見えないほうがいいだろう」

「周りが山だから……ですか?」

「いや、そうじゃねえよ。螺旋階段の支柱の中にエレベーターが有る形にしているんだから、そうするべきだろ」

「……というかですね、稔様。そもそも、支柱の中にエレベーターを作った事自体が駄目なんじゃないですかね?」

「だーかーら。俺は別に悪いなんて言ってないんだっつの」


 なんでこうリートは自虐的なんだろうか、と稔は感じた。けれど、それが個性といえば個性では有る。そういうところは、結構難しいといえば難しいところであった。


「そうなんですか?」

「そうなの」


 稔は言ってため息をつく。だが、そんなことをしている間にエレベーターは五〇階へ到着した。音声と同時に扉が開く。そして、墓が並ぶ部屋が見える。


『五〇階に到着いたしました。一〇秒後にドアが自動的に閉まります――』


「へえ、閉まる時間言ってくれるんだ」

「はい。……もしかして、現実世界にはなかったんですか?」

「まあ、少なくとも俺の見た限りでは無かったな」


 稔がそう言うと、自慢げにリートは笑みを浮かべた。


「それじゃ、お墓参りをしようか」

「といっても、スディーラの家と私の家だけですけど」

「まあな」


 スディーラとリートが笑みを浮かばせていた。一方で稔は、初めて見た異世界の墓の光景に目を奪われていた。日本で見るような墓、十字架のようなものと石碑が一緒になったもが有る墓、色々あった。


「――では、参りましょうかね」

「何度も言うなよ、分かってるから」

「す、すいませんでしたっ!」

「謝る必要はないよ」

「分かりました」


 リートはそう言うと、一礼してからスディーラの墓の前に急ぎ足で向かった。この国では、他人の墓に入る時は一礼するのが『儀礼』なのだ。自分自身の墓の前ではそういったことをする必要はないが、家族や従兄弟でもない人間が墓参りする時に付いて行った時は、その人は一礼しなければならないのだ。


「早く来いよ」


 稔がエルフィリアの文化をまた一つ知って、礼をした時だった。スディーラがそう言って稔を呼んだ。稔はそう言うと、「OK」と言ってからスディーラの方へと向かった。勿論、連れのラクトも礼をして向かった。

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