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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-51 ツヴァイ・バレイボウル-Ⅲ

 だが。そんな威勢の良かったクラウディアは、試合時間が残り〇分になった時に悲しい涙を呑んだ。エルヴィーラもそうである。つまりは、彼女たちは敗北を決したのだ。


「このリア充カップルに敗北するなんて……」

「二対二では負けてしまったが、まだ六対六での試合は残っているじゃろう。だから、悲しむ必要は――」


 エルヴィーラはそう言ってクラウディアの背中を擦った。しかし、同じくして鋭い眼差しで稔を睨む。


「なっ、なんだよ?」

「次は絶対に負けないんじゃからな……」

「その意思は有難いんだが、六人対決って即時でやるんじゃないのか?」

「そうしたい気持ちで山々に決っているじゃろ。しかし、まだ私達のメンバーが揃っていないのじゃ」


 バレーボールは、面と面を向かい合って一対一で対決することは可能である。単に、ルール上の同じ人が二回ボールに連続して触れてはいけない――要は、ダブルコンタクトを無くすというローカルルールを追加すればいいだけだ。そうすれば、一人対一人で楽しめるだろう。テニスを元に考案されたスポーツだ、さぞ楽しいはずである。


 ――が、そうも簡単にはいかない。


「だよなあ……」


 バレーボールを少数でやるとなれば、動く距離が広がる。だから、絆が問われるゲームとしては最高クラスに有るだろう。でも、公式ルールは六対六なのだ。二人の絆を問うのではなく、六人の絆――否、連携を問うのだ。そんなスポーツが、一人対一人になってもいいのだろうか。


 中学校では部活に所属していたわけでないし、況してや女子バレーボール部の後ろで一人だけ楽しんでいたなんて話などは無い。そんな稔が葛藤するのは場違いな気もしたが、彼は少し悩んでいた。でもそれは、会話が始まると同時に終わった。


「そういえば、クラウディア達ってどういうチームに属してるの?」

「私達は社会人バレーボールクラブのメンバーなんですが、決してプロではないです。というか、年下に負けるのは結構心に刺さりますね。褒めてあげたいところですが、イチャラブ勢なのが玉に瑕なので止めます」


 ラクトがクラウディアに聞いてみれば、「そうなんだ」と話に溶け込める内容が含まれていた。社会人スポーツクラブが存在することを知れて一つ知識を増やしたのだから、特に責め立てる理由も無かろう。


 だが。それまでなら損は無いのだが、そこから先で損が生れる可能性が有った。無論、ラクトは主人とイチャラブしようとして押し倒されたわけではない。喩えるなら、フラグという銃弾が入った拳銃の引き金を神が引いたせいで起こってしまったことなのだ。


「だから、イチャコラしたい為にやった訳じゃなくて……」

「そういうのいいです。――というか、メンバー来ましたよ?」

「なっ……」


 クラウディアがラクトに言い、ラクトは後ろから足音が聞こえたので振り向いた。見てみれば、そこにはバレーボールをしているとしか思えないような長身体の女性。身長は一七〇オーバーだろう。


「(でも、あんまり高すぎてもコンプレックス抱くよね……)」


 ラクトは自身の身長が適度で有ることに感謝をした。皮肉であり、称賛である。一七〇センチオーバーと一六四センチ。長身の女性に魅力が無いわけでもないし、需要がないわけでもない。だが、自らの身長以下の女性を嫁に貰いたくない男性が居るのも事実である。


 そう考えてみると、稔とその女性の身長を比べてみたくなった。稔はそれほど低身長でも無ければ高身長でもない、身長一七〇センチ後半の極一般的な青年である。とはいえ、一七〇超えの二人が立つとなると――大体結果は想像できるだろう。


「(あー……)」


 稔は威圧感を受けて無かったし、劣等感を抱いたわけでもなかった。ただラクトは、主人がそのバレーボール選手の身長と五分五分の高さで有ることを考えてしまうと、どうしても可哀想に見えてきた。


「どうした、ラクト? 俺の方をじっと見て、米粒なんか付いてないだろ?」

「いや、そうじゃなくてさ。そこの女性と身長同じくらいじゃん?」

「バカ言え。身長が同じで何が悪いんだっての。身長で魅力が掛けることなんざねえよ。女の命は髪だろ」

「男の命は……身長とカネ?」

「いや、身長低いほうがセールスマン向きだし。やっぱり、一概には言えないないが……カネか?」


 会話を弾ませるカップルにしか見えない稔とラクトだが、既に相手サイドはメンバー六人のうち五人がコートの中へと戻ってきていた。水を飲んでいたのはクラウディアとエルヴィーラだけであるから、恐らく高身長の女性含めてトイレ休憩を取っていたであろう。


 ――と。


「……ん?」


 それまで、相手コートの中に入っていたのは五人だ。うち一人がずば抜けた高い身長を有している。エルヴィーラの態度から見て、恐らくはアタッカーの一人であろう。クラウディアは司令塔というべきか。ブロッカーは言わずもがな高身長な女性。そして、前衛と後衛にそれぞれ一人の計二人。


 そして、それまでの彼女らの身長は一七〇をいっている者は少なくても、一六〇は越していた。だが次に稔が相手コートへ入る女性を見た時、入った女性の身長は低身長すぎた。小学生じゃないのか、と疑ってしまうくらいだ。


「……ああ、紹介しますね」


 別にバレーボールの小説じゃないのに……、と稔はメタい話を進めそうになる。だが、取り敢えずは専門用語のオンパレードであることを承知し、クラウディアの説明に耳を傾けた。


「取り敢えず、私はリベロです」

「守備専門で、アタックとかセッターとか、攻撃とか行動に制限が有るんだよな」

「よく知ってますね。流石は召使一人を堕とすだけ有ります」

「その漢字、ちょっと意味合いが違わないか? 『落とす』だとダメなのか?」


 稔はクラウディアに言ったが、彼女は無視シカトした。冷静な態度を見せるところは、エルヴィーラと大きく違うところである。それが個性というものではあるが、やっぱり話しづらい面もあった。


「本来は服も変えなくちゃいけないのですが、時間も無いので」

「それがいい――と思ったが、頼めば?」

「頼む? そこのラクトさんにですか?」

「名前覚えたのか。……ああ、そうだ。こいつは色々と作ってくれるぞ。雑用に見えるが、凄く気が利く」

「彼女自慢は止めて下さい、腹立たしい。歯を食いしばった無抵抗な状態で殴られたいんですか?」

「そういう訳じゃ――」


 クラウディアが見せているクールな態度は、暴力女としての素質を併せ持っているようだ。照れ隠しの一種なのかもしれないが、本当にラクトのように男嫌いの可能性も否定出来ない。そのため、稔はクラウディアの傷かもしれない物を抉らないように考慮した。


「まあいいです。続けます」


 考慮したと同じく、クラウディアはそう言った。そして、続く。


「ミドルブロッカーは、ヴァンダ。身長一七四センチが売りの、私達のチーム最強のブロッカー」

「おお。――って、俺と一センチしか変わらねえじゃん!」

「そうなんですか。低身長ですね。バレーボールでは不利ですよ?」


 クラウディアは稔を馬鹿にしているが、彼女が言えた立場ではない。確かに一六〇センチを越えて当たり前の世界なのが女子バレーボールなのかもしれないが、男女混合であれば更に引き上げられるだろう。それなのに馬鹿にされ、稔は頭に血が上りそうになった。でも、感情を抑えつける。


「オポジットは、エルヴィーラ」

「スパイクとか決める人だな――って、マジか。スーパーエースって攻撃特化型じゃん」

「挑発に乗られやすいので、私も罵詈雑言を酷い量浴びせられてきました」

「分かる分かる。どんなスポーツでも、大抵のアタッカーは罵詈雑言を発するよね」


 弱い奴は防御ディフェンスに回し、自分は必ず攻撃オフェンスに回る。自分より格上の相手には当たらないくせに、格下の相手には罵詈雑言のバーゲンセール。そして負ければ「面白く無い」「ふざけんな」と主張してキレる。挙句の果てにそういう奴が取る行動といえば、言わずもがな『ゲーム不参加』。


 子供時代、運動音痴の奴と体育会系の奴を一緒にしてスポーツする際には、本当に細心の注意を払う必要がある。バレーボールでこそ『サーブ神』という称号を貰った稔だが、部活に入っていないことから分かるように、彼は酷く運動音痴だった。そのため、昔の記憶を呼び覚まして同感した。


「貴方に同感されても嬉しく有りません」


 でも、稔に返ってきたのは言葉の刃だった。強い威力のままに胸部にそれは突き刺さってしまう。でも、そんな稔を相手チームの一人が励ましてくれた。その女の子――女性は、場違いなほどに背が小さい人だ。


「罵詈雑言、浴びせてるの、クラウディアも同じ」

「……」


 背の小さな女性が先陣を切って先制攻撃を喰らわすと、続け続けとばかりに攻撃に出るエルヴィーラ。否定出来ないところもあったが、言われているばかりで反論をしないままでは望まない方向での認識がなされる恐れがある。汚い言葉を使わず、エルヴィーラはクラウディアの意見に反論した。


「確かに過去の話を探ってみれば、そういう過去が有ったのは重々把握じゃ。でも今は、私よりクラウディアの方じゃなかろう? テレーゼが言っている通り、クラウディアもひどい言葉を浴びせているんじゃぞ」

「そう……ですね。すいません」


 クラウディアはエルヴィーラに謝った。ただ、尚も選手紹介は続く。


「この小さい子は、実質エルヴィーラの妹分のテレーゼ。担当はウィングスパイカー」

「スパイクをガンガン打つんだな。――頑張れよ。お兄さんは心の底から応援してるからな」


 稔はテレーゼを馬鹿にする意味も込めて言ってみた。果ては相手チームを馬鹿にしたことへ繋がるわけだが、テレーゼはそこまで目立った抗議の意の示しをしたりしない。言葉で言って伝えるだけだ。


「子供扱い、やめろ」


 だが。その周囲の悪い姉君が、テレーゼという社会人でもロリな女性の味方をし始める。


「気持ち悪いです。止めて下さい、吐き気がします」

「おろろろろ……」


 クラウディアが冷然な目つきで稔を見るが、稔にはそれだけでも効果的だった。別にマゾヒストという訳でもないけれど、自らのやった行為が気持ち悪い行為で有ったことを知るためには十分である。しかし、その十分だということを分かった上でやる奴が一人居た。


「――稔、審判に回っていい?」

「おいっ!」


 煽りでも何でも無く、「やめろ」という意思表示を行ったラクト。稔はツッコむように言ったが、ラクトが改善が見込まれなければ審判に回ってやろうとしたのは事実である。もっとも、対角線上にもう一人審判を設けた方が良いわけだが、そうなればヘルを採用するだろう。


 もちろん、そんなことをしたら六人バレーが崩壊する。審判に一人人員がいっているだけで人数に差が生じるというのに、そんなことをされたら溜まったものではない。ラクトでヘル不在、そんなサタンとスルトと稔の三人とクラウディアサイドが三対六で対決するのも面白そうではあるが――。


「(せめて五人だろ……)」


 いくら煽ろうが弱そうだと思もおうが、されどは社会人バレーボールのチームだ。何時、何処で、どのように牙を向くかは分からない。先の勝利のために覚醒したり、複合技を使ったりするかもしれないのだ。だからこそ、六人に届かなくてもいいが、四・五人は確保しておきたいところだった。


「――ところで、一体何人で戦うつもりなんですか?」

「四人か五人だ。六人はほぼ無いと言っておく」

「そうですか。分かりました。……あと、今ので作戦が決定しました」


 クラウディアはチームを招集して作戦の説明へ入った。あと二人説明が成されていないわけだが、一方の稔は後に期待することにした。そして、考えないように忘れることにする。



「――ヘル、スルト、召喚サモン、第一の精霊、降臨せよッ――!」



 意味さえ伝えわればいいので、稔はそう言って二人の召使と一人の精霊で罪源を呼んだ。しかし、サタンは召喚を拒否した。そうそう拒否することは無い精霊であるが、まだ病院にいるために結界でも張ったのだろう。主人命令を一時的に効かないようにするような、特殊でご都合主義的な結界を。


「四人か……」

「どうしたんすか、そんなに浮かれない気分で居るなんて?」

「いや、見ての通りだ。長身から低身まで、選り取り見取りの相手陣営六人とのバレーボール対決をする」

「怯えてるんすか? 意外とマスターってチキンなんすね」

「チキンじゃねえよ。サタンが呼び出しに応じてくれなかったから、ちょっと悲しいだけだ」

「意外とマスター、そういうところを気にするタイプなんすね」


 ヘルは笑いながら言っていたが、稔に関しての新たな発見に驚いていた。でも、ヘルは人数の事に関しては一切触れなかった。スルトは黙り込んだままで、バレーボールの開始の合図が来るまで待っている。そんな中で、ラクトが稔の方へと近づいてきた。


「取り敢えず、稔はブロッカーとレシーバーの仕事を全うしろよ?」

「分かってるって、気にするな。スルトは前衛に欲しいところだが……」

「別に背が高い訳じゃないじゃん。だから、私が左の前に居るよ。稔は『サーブ神』なんだから右の前」

「次にサーブするために、か?」


 稔が聞くと、「うん」とラクトは上下に首を振った。まずは相手のボールを稔がブロックし、点を一転確保した後に『ずっと俺のターン』状態をさせようというものだった。作戦として、それを採用したいと考えていたのである。


「四人チームが六人チームに勝てたら、それって喜ばしいことじゃん」

「そうだな」

「だから、稔。二対二から連戦して、今度は私達二人じゃなくて四人で連勝をしようよ」

「良い考えだな。でも何かするなら、早くしないと紫姫がブザー押せねえぞ?」


 稔が言うと、ラクトは即座に自分のポジションへと戻った。ボールは相手サイドに上げられており、相手サイドのレシーバは一発目を決める為に精神を統一しようとする。


 そして紫姫のブザーと手信号の合図とともに、七分のワンセットタイマーが付いた。これは紫姫が自らの特別魔法を使って時間を止め、自分だけが動ける世界で設定しなおしたのである。

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