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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-50 ツヴァイ・バレイボウル-Ⅱ

「そう簡単に、負けるわけ無いじゃろッ――!」


 クラウディアが取れない場所で有ることを察知し、エルヴィーラは稔が決めてきそうな場所へと向かった。コートの中央部、角からの対角線が交わる、点対称にするならもってこいの位置だ。


「エルヴィーラッ!」

「クラウディア、後はよろしく頼むのじゃっ!」


 エルヴィーラは稔からのスパイクを下で受け止め、それを高く上げた。高く、といっても二メートルを少し越すくらいである。無論、その程度の高さではネットを越えるはずがない。言い換えれば、もう一手か二手が必要であるということだ。


「分かった!」


 そして、その役はクラウディアが買って出た。二回目なのだから、トスをするという選択肢も無いわけではない。しかし、エルヴィーラは前に出ることを躊躇った。稔から受けた攻撃を受け止めた時、相当な痺れを負ったためだ。


「お返しだっ!」


 クラウディアは言い、頭の上でパス――つまりは、オーバーハンドパスでボールをネットの向こうへと送った。それは集中線が引かれることなんて無い速さだ。簡単に止められるくらいの程度の速さである。上でも下でも、どちらでも大丈夫だ。


「稔!」


 俗に言うチャンスボールが飛んできたと考え、ラクトはそう言って更にオーバーハンドパスで上へと上げた。無駄にしないように稔も後ろから前へと駆ける。だが飛び上がらず、そのボールを相手コートへと向かわせた。走って向かったのは、体力を必要以上に使うフェイント攻撃だったのだ。


「次は――クラウディ……っ!」


 稔はボールの行方を追った。しかし、追跡して見えたのは――クラウディアだ。それも、ネットから相当近い位置にある。ジャンプするなりしてアタックされれば、後衛不在の今、稔サイドは点を取られかねない。


「……稔、来るっ!」


 ラクトは心を読まずしても、クラウディアのそのジャンプで行き先をおおよそ予測した。クラウディアがジャンプしたその姿は、まるで稔のフェイントからのオーバーハンドパスがトスだったかのようである。


 そして稔は、後取り消せない以上にコンティニューが出来ない人生いきざま現実リアルを痛感すると、持ち場へ即座に戻って攻撃を待った。でも、攻撃はすぐに来る訳である――。


「く……っ!」


 稔はクラウディアのスパイクを受け取りに向かったが、それを受け取って返すことは出来なかった。相手のチャンスボールをチャンスボールで返すという、意味不明な行動を取ってしまったつけが回ってきたのである。当然ながら、終わった時の後悔は大きい。


「やった!」

「じゃなっ!」


 クラウディアもエルヴィーラも喜ぶ相手コート。一方、稔は酷く落ち込んでいた。ラクトに託されたボールという名のバトンは相当な威力だったのに、それを踏み躙る行為をした気がしたからだ。でも稔は、されたと考えていた彼女から励ましの声を貰えた。


「大丈夫だ。まだバトルは始まったばかり。最悪、紫姫に賄賂売ればいいじゃん」

「やんねーよっ!」

「ほら、元気でた」

「……」


 稔は黙り込み、同時に思った。ラクトの言ったそれが、励ましの声というよりはウケ狙いであると。もちろん、そちらの方でより稔が元気になれたのは言うまでもないだろうが。


「(こいつ根がポジティブって訳じゃない気もするけど、なんでこんなに――)」


 ラクトが色々な面で自分をサポートしてくれていることは、稔からすれば大歓迎だった。一人で苦労する事柄であろうが、多少人員が増えるだけでも違うことは有るためだ。でも稔は、それが一方的な支援に――言い換えれば、『奉仕』であってはならないと考えていた。だから、彼女が自分の心情に嘘を付いていないのかを思う。


 でもそんな心配は、紫姫のブザーと手信号によって消えた。ゲームが続行されてすぐ、ラクトは真剣な表情を取り戻したのである。作り出したような表情ではなく、寿司を作っていた時と同じ真剣な表情だ。


「稔さんには、私の華麗過ぎるサーブを見ていて欲しいのじゃ。恐らく、腰を抜かすじゃろうが」

「そんなわけ無いだろ。俺の右に出るサーブの神なんざ、居ないはずだ」

「その自信を、私の攻撃が消して払うのじゃっ!」


 エルヴィーラの顔に真剣な表情が浮かぶ。同時、会場の空気も静寂に包まれるような感じになった。ブザーの余韻は何処にもなく、聞こえるのは自分の吐息だけ。でもすぐ、エルヴィーラが後方へと下がったことで音が生まれた。声、そしてボールに手が触れる音。それが、それぞれ生まれたのだ。


「二点目、取ってやらあっ!」


 声と共にエルヴィーラは前方方向へと駆け、飛び跳ねて相手コートを狙い打つ。サーブを打ち込み、一挙大量得点を狙いたいところだが、理想になる可能性も否めない。もう少し具体的に言えば、ネットを越えなければ何も始まらない。


「あ――」


 エルヴィーラの狙い打ったボールはネットの高さなど苦も無くと越え、相手コートへと入った。しかし、その高さは変化を見せない。前衛のブロックが効かない高さで有るのは良い点だが、後衛が動かなくてもいいような高さであるのは悪い点だ。


 要するに、その先に有るのは『アウト』の三文字ということである。


「くっ……」


 紫姫がブザーを鳴らし、エルヴィーラが自信満々に打ったボールがアウトだったと判断された。床ならまだしも、壁に当たってのアウトである。そして高すぎるサーブボールを見て、稔サイドで赤髪の少女が嘲笑った。聞こえる声だったので、エルヴィーラは外したショックの上に苛立ちを覚えた。


「ざまあ」

「ちっ――」


 スポーツマンシップ的なものからいけば、ラクトの行動は道理ではない。しかし、『煽りの神』にそんなものは通用しない。相手を煽って苛立ちを高めさせて集中力を破壊する、それも一つの手なのである。


 そして、次のサーブを行うのはラクトとなった。サーブに相当な自信が有るわけでもないが、何だかんだ言って各方面で成功をおさめるのがラクトである。彼女が口論で理性的な主張を貫く裏にある、煽れる程の理性。それを何処でも貫く訳からこそ、成功を何だかんだで収めるのかもしれない。


「主人が恥を欠かないサーブ、お見舞いしてやるか」


 まるでフラグのようであるが、稔は特に心配していなかった。「どうせ成功するんだろ」と、そう思っていたのだ。少し冷たいような気もするが、ラクトはその方が助かった。プレッシャーを掛けられるのは望んでいないからだ。


「よいしょ!」


 ラクトは壁を蹴り、遅めにラインギリギリまで走ってアンダーサーブを打った。言葉をそう零し、相手のコートに入るぐらいの上方向を狙う。そして意外なことに、ラクトのサーブは無音のサーブだった。


「(無音サーブか。すげーな)」


 稔は心の中で褒めた。ローテーションは既に行われており、稔とラクトが前衛後衛を入れ替わっている。言い換えれば、ボールを追うということは隙を見せる行為なのだ。でも、その隙は相手への挑発でもある。


「クラウディア、前を頼みたいのじゃ!」

「了解!」


 しかし、無音で打ち込まれたラクトのサーブがクラウディアの手に触れることはなかった。一方で託されたエルヴィーラは、コート後方の落下予測地点へと移動する。そして手を上に上げ、オーバーハンドパスのポーズをとった。同時に煽ってくれた張本人を負けさせたかった為、脳内には作戦を思い浮かばす。


「(ちょっと落としてから上げたほうがいいかな……)」


 だが、そんなことを考えているだけではダメだ。数秒で上がれば数秒で落下してくるのがボールなのだから、作戦を頭の中に入れた上で臨機応変な対応が求められる。


「クラウディア、トス上げるぞ!」

「はい!」


 エルヴィーラは考えた通りの行動を取った。直立して目線と同じ高さぐらいまでボールが来た時、作っていたオーバーハンドパスでボールを上へと上げたのである。その際に若干しゃがみ、高さ十分のトスへと変換した。


「チャンスボール、逃しすのは言語道断じゃっ!」

「そんなの、分かっていま――すッ!」


 二打目はクラウディアの担当だ。上げられたボールを相手コートの左角目指し、強烈なアタックに出た。後ろを担当しているラクトが動かなくちゃ取れないような、そんな位置である。


 だが。


「……俺がジャンプしたら、お前らのボールくらい余裕で弾くんだよ!」


 稔の存在があった。彼はそう言い放ち、クラウディアが強烈なアタックを決めようと放ったボールをブロックする。右手のみで相手コートへ落として左手は添えるだけというのは、まるでバスケのシュートシーンのようだ。


「クラウディアっ!」

「無理……!」


 ブロックされて落ちてきたボールを、もう一度上げようとするクラウディア。しかし、床にダイブすれば痛みが発生する。ブロックされて落ちてきたボールを返すのも難しい。そして、その先に待っている結果は言わずもがな『イン』である。プレイヤーが跳ね返せないのだから、ボールは床と接触する。


「ぐぬぬ……っ!」


 紫姫がブザーを鳴らすと、エルヴィーラは酷い形相を浮かべた。クラウディアのボールはそれなりの高さで打たれていたはずなのに、稔に邪魔されてしまったことがが相当なショックだったのだ。


「残念じゃが、サービスは向こうが二連……」


 エルヴィーラはそう言い、ボールをネットの下を通して稔サイドコートへと向かわした。稔サイドのコートではラクトが準備をしている。稔は態度に示して応援する気など毛頭なく、ネットの先の相手陣営に視線を送っていた。でも、サーブ後のボールの行方を知りたくなって視線の方向を移した。


 ブザーと手信号というサーブ許可が出たので、ラクトはボールを数回バウンドさせてからサーブを行った。バウンドのさせ方はバスケットボールのそれと酷似している。バレーボールのコート周辺でするのだから、受け取り方次第では挑発行為となり得た。


「行くぞ! クラウディア、エルヴィーラ!」


 ラクトはそう言い、今度は上からのジャンプサーブを行った。彼女は相手サイドが自分の巨乳に嫉妬していたのを聞いており、揺らして嫉妬させようと企んだ。そのため選択されたのは、上からのサーブの中でも『ジャンプサーブ』だった。しかし、助走などは一切付けらていない。


「……」


 でも、そのサーブは相手コートへ届かなかった。サーブミスである。ローカルルールで打ち直しを設定していない以上、ボールはラクトの手元へと戻ってくることなんて無い。サーブミスした後に使用されているボールが向かうのは相手コートのみだ。


「残念じゃな!」

「そうだね」

「(やけに冷静じゃな、この巨乳女――)」

 

 クラウディアとエルヴィーラが場所を交換ローテーションしている中。前衛に来て、エルヴィーラはネットの下を通ってきたボールを掴んだ。そしてそれをチームメンバーであるクラウディアへと受け渡す。


 そして紫姫からのサーブ許可を受け、彼女は即座にサーブを打った。即打ちする必要が有る訳ではないのだが、クラウディアはそこまで考えてスポーツをしていないらしい。根性で戦っていくスタイルのようだ。


「(それじゃ上手くならねーよ)」


 ラクトはそんなクラウディアを馬鹿にする一方、そのスタイルを改善するべきだとアドバイスを送ろうとした。けれどまず、このボールを打ち返したりしなければ無理である。そこでラクトは、クラウディアのサーブしたボールを稔にトスしてもらって自分が決めようと考えた。


「稔、ボールを上に上げて!」

「いやいや、その場所は俺の範囲じゃな……」

「ちょっ、こっち近づいてくんなっ! 見えないだ――」


 でも。ラクトが稔へ作戦を言った時には、既にクラウディアの打ったボールは前半分よりも後方へと来ていた。稔が言うように、「そこは自分の担当エリアではない」との主張が出来る位置だったのだ。


「うわっ……っ!」

「足踏むなっ! じゃなくて、こっち倒れてく――」


 そして。前に行くのは目で物を捉えての行動になるが、後ろは物を捉えない行動になる。トンボでも無い稔が、ラクトの居る位置を来にしたとしても大雑把なもの。ラクトが避けきれなかった以上、ぶつかってしまうのは避けて通れない道だった。


「……」

「いや、これはだな――」


 まるで押し倒したかのように、稔がラクトに覆いかぶさる構図となっていた。クラウディアがサーブを打ったボールは、同時に稔サイドのコートの後方のラインギリギリへと落下する。紫姫はブザーを鳴らし、加えて得点が相手サイドに入っていると手で合図を行う。


 でも、試合は一時的に中断された。審判役を務めていた紫姫が稔とラクトの元へと駆け寄ったのである。それは「危ない」とか言うためでは無く、相手サイド、クラウディアとエルヴィーラの声を届けるために行ったものだ。でも、台詞には相当な改変が加えられていた。


「『リア充よ いちゃラブすんなら 自室でな もげてしまえ 我の主人』」

「川柳じゃなくて短歌――って、そこじゃねえっ! 別にこれは、狙ってやったわけではなくてだな……」

「では、アメジストに提案したい。早く退ければいいではないか。何故しない?」

「事態を把握するのが遅れて――」

「そうか。ならば、早く退くと良い。時間は少ししか無い上、貴台らのイチャラブを見てると苛つく」


 その苛立ちが短歌には込められていたわけである。そう考えると、稔は即座に押し倒したような構図になっていたのを解除した。簡単にいえば、ラクトの上から退いたのである。


「ラクト。悪かった」

「別にいいよ。まあ、あの体勢に何故なったのかを聞きたいところだけどね」

「神がそうしたんだよ、きっと」

「ふーん」


 会話が止まった後、紫姫はサーブの許可をクラウディアに出した。そして彼女は、やはりすぐにサーブを打つようだ。アドバイスをしていないし、集中力を高めようという気も無い彼女がそのプレイ姿勢になるのは、至って当然である。


「イチャラブ勢には、追放という罰を与えます!」


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