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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-46 爆弾処理後の後始末-Ⅰ

 そんな風に稔がラクトに元気をもらっていた時だった。突如、ラクトが稔から預かっていたウェアラブル端末のバイブレーション機能が作動した。レヴィアが掛けたとは限らないが、カロリーネの治療を行っている誰かが掛けたのは間違いないだろう。


 しかしそんな時、笑って話を軽くしようとしたのがラクトだった。


「気持ちいいなあ、これ」

「手首凝ってるのか? 肩なら分かるが――」

「肩なんか凝りっ凝りだよ。ていうことで、後で肩を揉んでくださいな」

「俺は執事じゃねえんだが? ……てか、早く電話に出ろ!」


 ラクトは「はいはい……」とため息混じりに言った。反抗期の妹みたいに見えなくもないが、ラクトと稔はこれでも同年齢である。料理を作っていた時の真剣な表情は何処へやら、ラクトは不真面目な態度を取っていた。けれど、電話口に出て豹変する。


「もしもし?」

『ラクトさんすか。さっき私の魔法を持ってしても治療に限界が有ると見込んで、カロリーネさんを病院に運んだんすよ。今、サタンが病名を聞いているんすけど……。恐らく、手術すると思うんすよね』

「手術――」


 軽い話だと流したりはしないラクト。やはりこの女、人の事を思っていないような素振りを魅せることもあるけど、根底に有るのは人を思いやる心なのだ。だから、聞かされた衝撃の事実が嘘で有るように祈る面も有った。しかし、倒れたとなれば重大事であるのは自明の理。故に、手術する可能性も受け入れざるを得ない。


『その、それでなんすけど。手術し終わってもリハビリみたいな事が待ち受けてるじゃないっすか。それで、カロリーネさんが言ってたんすけど――』

「待って。まさかヘル、精霊を稔に管理させるみたいな……」


 ラクトはすぐに察した。話の流れからしてヘルが言いたいのはそれだろうと、即座に察した。ヘルが一歩下がったところから話をしているように見えるということは、承諾を得ようとしていることであろう。一大事の今、承諾を取らねばならない案件など指を折る程度だ。


 そして、ラクトの思った通りの返答が返ってきた。


『やっぱり、ラクトさんには敵わないっすね……』

「もっと褒めろ――と言いたいところだけど、それはいいや」


 ラクトはそう言って話が脱線しない程度に軽い口調を入れ、話の後に暗い雰囲気が漂わないように努力した。いくら電話口であろうが、結局は同じく稔と契約を交わした召使だ。ラクトとヘルは今後必ず何処かで目と目を合わせるわけだから、暗い気持ちや雰囲気を引きずるのはよろしくないのである。


「稔。精霊、また一人追加だってよ」

「……どういうことだ? エルジクスが俺の仲間になるのか?」

「臨時だけどね。カロリーネが手術受けている間だけ石を預かってろ、みたいな」

「それは別にいい。でも、電話番号くらいは控えておかないと後々カロリーネに返せなくならないか?」


 借りたものは返す、というのは至極当然のルールである。稔はラクトに問うた後、精霊を物扱いするのはどうかと思う節も有った。でも、精霊魂石に関して言えばそう扱わずにどうしろという話である。だから、特に批判される理由はない。石の貸し借りなのだから。


 稔が自己完結に至ろうとしている最中、ラクトはヘルから病室などを聞いていた。とはいえ、それは彼女も把握できていないらしい。もっとも、サタンが聞いているのだから仕方がなかろう。


「ごめん、稔。そのうちサタンが戻ってくるだろうから、そうしたら病室とか病名は聞けばいいさ」

「だな」


 稔はそう言い、ラクトの言ったことに賛同の意を述べる。続けて稔は、その後にヘルやスルトを自らの魔法陣の中に戻そうと考えた。しかし稔が言う前にラクトが彼の内心を読み、端末の向こうの二人に伝えてしまった。悪い事をしたような言い方だが、ラクトからすれば多大なる善意である。


「ヘル、スルト。稔が戻って来いだってさ」


 ヘルとスルトから返ってきたのは、「了解」と同義の台詞だった。七発目の爆弾のせいで滅茶苦茶になっている惨状を隠蔽するつもりはなかったし、手伝ってもらいたい気持ちも大いに有る。しかし、ヘルやスルトに休みの時間を与えたかった。自由人過ぎるのは行き過ぎだが、休まないで過労に陥っても困る。




 スルトとヘルが魔法陣の中に帰還したのは、稔の右手の魔法陣が薄っすらと光を浮かべたことで分かった。戦闘時に召使を召喚する時以外は目で見えないようになっているのだが、精霊魂石同様、召使の出入りの際にも浮かび上がるらしい。


 それはそうと。まだ通話を切っていなかったことを思い出し、ラクトは慌ててレヴィアに繋いだ。


「ごっ、ごめんレヴィアっ!」

『別に構いませんよ。あと、もしサタンさんがこちらに来てしまった場合には、追って連絡致しますね?』

「そうしてくれると嬉しい」

『把握しました。では、私はちょっと疲れたので仮眠を――』

「疲れたなら、しっかりと寝たほうがいいと思うけどな……って、切れてるし」


 ラクトが会話が続いていると思って言ったが、その台詞は聞こえていなかった。普通は切った際にその音が鳴るのだが、ラクトが真剣に通話をしていたせいで気づかなかったようだ。


「通話、終わったか?」

「終了した。レヴィアが、一二階にサタンが来たらパーティー会場のあるところに行けって言うらしい」

「そうか。まあ、最終的に点呼とか取れば良い訳だし、精霊魂石に戻ってくれてもいいんだがな」


 サタンには早く帰ってきてもらいたいと思った稔だったが、肝心な情報を入手できずに帰ってきてもらっては元も子もない。もし仮にそうなれば、何のために聞きにいったのか意味不明であり、行く必要が無かったのではないかとの結論に至りそうである。


 そんな風に稔は不安を募らせていたが、一方でサタンには期待を寄せていた。というか、やってもらわなければ困る。何処か威圧的な面もあるが、それだけ情報を知りたいということである。


「さて、愚弟とラクト。これから復旧作業を始めることになるわけだが」


 稔がサタンに対しての期待を寄せている時、織桜がそう言った。鉄道の時に続き、稔と織桜がタッグを組んで修復にあたるのは本日二度目である。しかしながら、一度目にタッグを組んだ時とは状況が異なる。目の前に枕木が有るわけでもなければ、何処かで歩道橋が崩落しているわけでもない。


「まずはバリアを解除するべき……だよな」


 稔はバリアの解除の重要性を示唆した。しかし彼は『瞬時転移テレポート』や『六方向砲弾アーティレリー・シックス』など、解除不要の技ばかりを使用している。そのため、どのようにすれば解除できるかが分からなかった。もちろん、召使に頼るという手もあるのだが。


「――『リシゾン』。『リリース』でもいいけど、格好良さを追及したいならそっちでいいっしょ」


 稔がラクトを頼ろうか悩んでいた時、頼られる可能性が有ったラクトが稔に近づいた。彼の肩を叩いてそう言うわけだが、それが自分の内心を呼んだ上で出た言葉なのかを確認するべくラクトに問う稔。


「それって、解除する時に使う言葉……か?」

「それ以外に何が有るっていうのさ。まあ、『rescission』ってこった。発音はどうでもいい」


 ラクトが英語に限りなく近いそれを発音すると、稔は目を丸くした。加え、彼女なりの譲歩で「発音はどうでもいい」と稔に対して言ったが、言われた側は下に見られているような気がしなくもない。そのため、なんだかラクトに自慢をされた気がした。


「やっぱり、淫魔だと舌が発達するものなのか?」

「なっ、何を考えているのかな?」

「質問に質問で返すな。三通りしか無いんだから、回答なんて簡単だろうよ」


 そうです、違います、分かりません。稔の言う『三通り』とはそれだった。もちろん三つの選択肢の中の最後は、言われた側が「妥協する」か「再質問する」かしないといけないわけだが。


「まあ、発達してるんじゃない? 別に長いわけじゃないけど、動かして小回りが利くのは確かだし」


 ラクトはそう言って喉の奥が見えるくらいに開かず、舌の長さが確認できる程度に口を開ける程度に開いた。舌を動かしてみる仕草をし始めたが、流石に稔から「やめろ」と言われてしまった。


「意味深な行動はやめろ。俺だからまだいいが、野獣みたいな奴が目の前に居たらどうする?」

「『麻痺パラリューゼ』と『入眠スパイト』と『凍結アインフィーレン』の三コンボ、かな」

「恐ろしいな、おい!」


 稔はツッコミを入れたが、笑っていることは出来なかった。自分で「野獣」などと言葉を使ったけれど、もし仮に媚薬を飲まされて美女を目にしてどうなるか、それは火を見るより明らかだ。言わずもがな、警察沙汰が待っているだろう。


「いやいや。私が媚薬へんなくすりなんか入れるわけ無いじゃん、常識的に考えて」

「そうかな?」


 ラクトは稔に言われ、まさしく「うわっ…私の年収低すぎ…?」の顔を作った。口元を隠し、デリカシーの無い奴が「口臭を気にしているんですか?」とでも言いそうだ。でも一つ言えるのは、それは全くもって違う。稔がラクトと四分の一日接し、その間で臭い息を吐かれたことが無かった為だ。


「それはそうと、愚弟とラクトよ。イチャラブ夫婦漫才を私の前でするとか、なんだよ。クリスマス終了のお知らせを聞きたい私を、彼氏居ない歴イコール年齢の私を、侮辱しているのか?」

「いや、そういう訳じゃ――」


 もし、「会話に没頭していた」と理由として会話内で稔が言ったら、それこそ「リア充爆発しろ」と言われるのは目に見えていた。だから言わないでおくことにしたのだが、隣の気が利く上に厄介な召使が言う可能性があり、安心は出来ない。


「(言うなよ、絶対に言うなよ……?)」


 まるで『ダチ○ウ倶楽部』のノリだった。バラエティであれば、ラクトはなり振り構わず言うだろう。稔になんて尻目にしてラクトは言うのだ。一方で稔は、ブルブルと熱湯風呂を前にして震えるときのように、言われないように手を合わせるくらい願って震えるのだ。


 しかし、そんな風に祈る必要性は無くなった。ラクトが何を考えているかは不明だったが、危険なゾーンは突破できたように見えたのである。それが狙いの可能性も否定できないが、稔はもう気にしたりしない。


「侮辱なんかしてないよ。だから落ち着こう、織――」

「散々貧乳と煽りやがって。貴様、許せん……」


 ラクトが織桜の苛立ちを鎮めようと努力するのだが、織桜の苛立ちは尋常なものではなかった。「貧乳だ貧乳だ」と煽ったのは自分だけではないじゃないかとラクトは思い、敢えて逆ギレしてみる。それは、事態を収束するために稔を扱き使うということでもあった。つまりそれは、召使がするべきではない禁じ手だ。


「確かに織桜は貧乳だけど、それを言ってたのは――ねえ?」

「お、俺には何のことか、さっぱり――」

「逃げるな。……そこまで言うなら、稔が考えていたことをバラしてやろうか?」


 ラクトからの脅迫とも言える行動に、稔はそれに抗う気など無くて黙り込んだ。そして、その場で謝罪した。とはいえ既に謝罪は終わっているし、織桜を『貧乳』だと煽らないことを条件に仲直りしている。だがラクトという悪魔のせいで、稔は謝らざるを得なくなった。


「……やっぱり、召使よりも主人が謝るべきだよね」

「こいつ、後でどうしてくれ――」

「よし、バラしますか!」

「止めてください!」


 稔が謝らざるを得なくなる口実となりそうな、ラクトが「バラす」とか言っていること。でも今一度考えてみれば、そこまで重要なことでもないように稔は思った。でも、「リア充爆発しろ」と言って織桜が暴れてしまう可能性を考慮したら、重要なことでもないように思えたなんて言えない。


「ラクトとの会話に没頭し、本来やるべきことを唆してしまいました。申し訳ございません……」

「リア充爆発しろッ!」


 稔の謝罪を聞いて泣き叫ぶように言う織桜を見て、稔は「やっぱりこうなるのか」と思った。そして今一度思い返せば、それほど重要な事でもなかった。会話して馬鹿にされるくらいで、何が駄目なのか。そう思うと、稔は「何を恐れていたんだ」と酷く落ち込んだ。


「貧乳の件はもう許しているから謝らなくてもいいんだ。イチャラブされるとムカつくから言っただけ」

「なんだよ……」


 そこまで本気で怒っていたわけではない、と最後に釈明するように言う織桜。そして時を同じくして、稔は自分が置かれている境遇を把握した。無駄に謝ったことも考えて、稔はこう口に出す。


「ラクトと織桜に翻弄されていた俺が、一番のダメージ受けたんじゃね?」


 言えば、織桜とラクトはその意見を肯定した。


「その通り」

「そうだね」


 しかしながら、その肯定は大ダメージに繋がった。でも、今の稔はそんなことで落ち込む続ける男ではない。後ろを見ずに前ばかりを向いて生きることも時には重要であると、稔は思って唾を呑む。そして織桜とラクトに嘲弄された怒りをぶつけ、彼女らに言う。


「作業するぞ!」


 稔がキレ気味なのは二人とも理解していたので、反応もそれにあったものだった。そして今更ながら、稔はユースティティアが居ないことに気がついた。でもそれは、紫姫と同じように魂石に戻っただけである。誰かに連れ去られたりした事実は無い。


 目を向ける方向を戻し、稔は深呼吸をして言った。



「――跳ね返しの透徹鏡盾バウンス・ミラーシールド解除リシゾン――!」



 ラクトが言っていたそれで、稔が設置したバリアは全て解除出来た。それに伴い、三人で作業を始める。机の下などに有る粉、風を立てた時に発生した水など、色々と集めたり拭き取ったりしていく。清掃作業は日本人なら学校で経験することであり、稔と織桜に心配する点は無い。一方のラクトも、料理を含めて家事なことが得意だったからテキパキと行動した。そのため、こちらも心配する点は無かった。

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