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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-45 ADQと爆弾処理-Ⅻ

 声を揃え、場に居た紫姫を除く稔サイド全員がそう言った。稔がリーダーシップを取るとかいう話だったが、それは根本から崩れ去ったように見える。年齢が年齢であるし、織桜が取ったほうがいいとも思えるのは確かであるが。


「(でもやっぱり、なんだかなぁ……)」


 稔が折角持った強い意思を壊した、と反論を訴えても良かった。けれどラクトは、そう内心で思うに留める。もちろん嘆息を漏らすなど、形に出して表すような行為は行わなかった。


「まず、私から行かせてもらうぞ!」


 ラクトがどう思っているかなんて知る由もなく。織桜は紫姫の話し方に似た口調で言って、それから紫姫の方向へと飛んで向かった。右手に剣を持っているが、彼女の左手に剣は握られていない。ただそれは、当然の結果といえる。アスモデウス戦とは異なり、稔の剣一つも貸し出していないのだ。


「私も、織桜さんに付いていきますので……」

「そうか。でも、俺らも――」

「いえ、稔さん達は後方支援を」


 テレポートして向かおうか、と稔は提案しようとした。けれどユースティティアは会話を拒み、手段としてそれを用いないことを伝えた。言葉にして伝えてはいないが、拒んだのだから意味は同等である。


「残念だが、それは無理だ。後方支援は――無理だ」


 稔は二度言った。後ろで攻撃が来るまで待っているなんて、そんなの頭のネジが外れているんじゃないかと思うくらいだ。もちろん今回は理由も有る。だからこそ自信を持って、稔は真剣な表情を浮かばせた。そしてユースティティアを説得し始める。


「織桜がそういう方針なのは理解した。でも、この局面の指揮官は俺だ。何でもかんでも首を突っ込むのは止めておきたいところだが、今は仕方がない。自分の精霊も助けられない主人に何が出来ると言うんだ?」

「……」


 ユースティティアは口を閉ざした。織桜という自らの主人が口にしなかった最後の一文に、ユースティティアは感銘を受けたのだ。感想を言うこともままならないくらいで、まだ余韻が残っているようだ。


「まあ、ユースティティア。お前は俺の仲間だが、お前は俺の本当の仲間(しはいか)ではない。だから、関係なんか気にすんな。誹謗中傷さえ無ければ、お前の言葉を全部受け取るから」


 感銘した、ということを理解していない稔。そんな彼にラクトは頭を抱えた。髪の毛をクルクルと弄り、喉から出てきそうなくらいにため息が募る。一方、ユースティティアも返答に困っていた。


「(この人、勘違いしてない……?)」


 ユースティティアは、ようやく稔が鈍感であることを実感した。彼の召使や精霊、罪源がどれだけ苦労しているのかを思って考えると、少しばかし可哀想な目で稔を見てしまう。そして、髪の毛をクルクルとさせているラクトの方向を見て、「この人も迷惑してんだな」と感じた。


 ただ、大人びた対応を取るのがユースティティアである。敬語を使い、面と向かって煽ることもなく、稔の方を見ながら会話を続ける。けれど、自らも主人の後追いをしなければならない訳だ。故に、話は早急に終わらせる必要が有った。


「ありがとうございます」


 ユースティティアはそう言い、稔の反応を窺った。稔は特に喜んだような表情を浮かべていない。真剣な表情は少し解けていたが、彼の顔に浮かんでいるのは微量の笑み。もちろんそれが、彼の喜びを表しているとは考え難い。いつも通りの顔、というべきだろう。


「――優しいですね、稔さんって。異世界から来たのに、この世界を屈服させようとか思わないんですもん。……さて、取り敢えず私は、織桜さんの後追いをして戦闘に向かいます」

「死ぬなよ」

「精霊魂石を壊されない限り、精霊わたしたちは死にませんよ」


 稔に一言そう告げ、ユースティティアは織桜によって煙が消えたその先へと突っ込んでいった。イステルがどのような特別魔法を使用するのか、それはまだ不明だ。けれど彼女は、第七の精霊として向かっていく。怖さなんか無い。有るのは希望と勇気だけ。悲しみや怯えなど不要だ。


「……んじゃ、俺らも行くぞ」

「言われなくても分かってるって。名言製造機さん」

「お前、さらっと酷いこと言うな! それは主人公だから仕方ないだろ!」

「いやいや、そういうのって教師が言うようなものじゃん。やっぱ、――厨二病って痛いんだね」


 心に突き刺さる最後の言葉。『厨二病』がイコールで『痛い病気』となっていることに、反論する気はまんざら無い。ただ、稔は自らを『厨二病患者』とは思っていなかった。与えられた魔法をそのまま言っているだけの自分が、なぜ厨二病患者同等に扱われる必要があるのか。それはラクトと対せざるを得ない。


「いやいや、俺は厨二じゃねーよ」

「高二じゃん。一七歳でしょ? その歳で厨二とか、名言製造機さんは痛いですわー」

「……」


 生半可な反論では無理だと気づき、稔は更に対抗しようと考えた。対抗心を燃やそうとまで思った。だが、その前に一つ聞くべきことが有った。どうせ答えは分かっていたが、確認のために聞く。


「てか、厨二病って知ってたのか」

「脳内覗けば余裕」

「……でしょうね」


 稔は嘆く。確認する必要も無いというのは本当だった。


「まあ、稔が厨二病患者なのかどうかは後で考えることにしようよ。今はそこに敵意を剥き出すべきじゃない」

「その通りだな」

「じゃあ、なんで対抗心を燃やそうとしたんですかねえ……?」


 覗かれていたことを踏まえれば、そう言われるのはおかしくないことだ。もちろん、稔がそれに反論する為に使える根拠ソースは無い。取り敢えずは無視することにして、話題を変えてみる。卑怯な手法だが、今の稔に打てる最善はこれしかなかった。


「俺は剣を、お前は状態異常魔法を。――いいな?」

「人の話を無視るな! 罪だと思わないのか! ……思いませんよね。はいはい、分かった分かった」

「えっと……」

「だから、了解しましたって言ってんじゃん」

「そ、そうか……」


 ラクトの言っていることが稔の意見に対しての賛同なのか、稔のやり手に関しての批判であるのか。言われた本人がよく分からなくて反応に困ったが、少々キレたような言い方でラクトが言うと事態は収束した。


「んじゃ……」


 どのみちこの後、意見をぶつけあう。仲間だが後で敵となる。でも今は、最強のタッグを組む主人と最初の召使(ファースト)として。稔は、ラクトの手を握ってテレポートを即座に実行した。




 移動した先ですぐに目にしたのは、織桜が剣を振り下ろしたシーンだった。紫姫は拘束されているわけではなかったから、戦闘を行っている。ユースティティアも織桜の補助に回って、時々剣を振り下ろそうとする。でも、中々タイミングを掴むことが出来ない。


 そんな中、有効な魔法を使用できるのがラクトだ。彼女はいつも以上の火力を込められるよう、神へと願いながら魔法を波動にして撃つ。彼女は多種多様な状態異常系魔法の中から『麻痺パラリューゼ』を選択・使用し、魔法を使用することなど窺わせないような態度をした。


「なっ、なんですの……?」


 ラクトが波動化した後で撃った『麻痺』で、イステルは痛みを訴えた。もちろん、麻痺の魔法は瞬時に威力を発揮する。とはいえ、マドーロム世界はゲームの世界ではない。運営会社で権力を握るわけでも、開発者として権力を握るわけでもないラクトが、イステルに対しての『麻痺』の効果を持続するのは困難が有る。


「(隙を突かなきゃ、持続出来ないか……)」


 ラクトはイステルの戦闘力を軸に置き、これからどのような行動を取るべきかを考えた。その中で彼女は、自らが撃てる補助技には限りが有る上に隙を突く必要が有ることを再確認した。


「――痺れたから、なんですの?」

「ひっ……」


 剣を構えていた織桜とユースティティアだったが、イステルが後ろに背負っていた巨大銃をついに構えたのである。あの巨大な銃から銃弾を一度喰らえば、恐らく即死であろう。


 「巨大化は死亡フラグ」などと言われることがあるが、彼女のていが大きくなったわけではない。そのため、これからどうなるかは推測不可である。だが、そんなイステルへと立ち向かったのが紫姫だ。


「我を舐めるな、この低俗な悪に落ちた精霊が!」


 そう言い放ち、彼女は内心で魔法使用を宣言した。『紫蝶の五判決ベッシュ・バタフライジャッジ』の中から『第三の判決ドライ・ジャッジメント』へと進み、『一二秒間の時間停止タイムストップ・トゥエルブセカンド』と言ったのである。もちろん、時間を止める以上に強力な魔法は指を折るほどだ。


 そして、自分のみが動ける空間を作り出して一二秒が経過した時だ。イステルが一秒と感じたその間に、紫姫はイステルのすぐ目の前へと移動していた。必殺技と言うべき最終技を用いて、相当な火力を出した攻撃を喰らわす。双属性技であって物理技であり、魔力消費は相当だ。けれど、破壊力もそれ相当である。



「――最終の判決ファイナル・ジャッジメント――!」



 技名は敢えて言わないでおく。紫姫はこのパーティー会場を滅茶苦茶にしてくれたという思いも込め、イステルの腹部に体当たりを喰らわした。それは、腹パンという言葉に失礼なくらいの火力を出していた。


 そして、目に映るのは口から唾液を飛沫させるイステル。それほどの火力だったということだ。


「ぐはっ……」


 時間を止めたというのは、即ちスピードを上げるということ。喋っている暇は有ったが、それでも僅かな時間だった。だから、スピードが多少減少したところで意味は無かった。また一二秒間を一秒間だと捉えてしまった以上、イステルの目の前に遮るものが生まれることはない。だからその攻撃を防ぐのは、決して容易ではなかった。


 と、その時だ。


「――それが、貴方の実力でして?」

「えっ……」


 紫姫は前に居る死にかけのイステルの口が動いているのは確認できず、その声の主が会場内の前方以外に居ることを知った。そして、周囲を即座に見渡す。見れば、もう一人のイステルが存在した。


「なん……」


 倒されたはずのイステル以外に、碧色の髪の毛を手で整える仕草をするイステルが居る。もちろん紫姫は、何がなんだか理解できなかった。自分が知っているイステルは、こんなこと出来ない。だから、謎が謎を呼んでいく。しかしイステルは、その謎を解決に導こうとする紫姫の姿勢を崩しにかかった。


「貴方の実力、そんなものだったかしら? ――本気、出してくださいません?」

「こいつ……」


 煽るイステルに、売られた喧嘩は買ってやろうという態度の紫姫。これ以上戦闘を続けて疲弊されてもらっては困るし、休戦にはいいところだと稔が止めに入ろうとするが――何か有力な情報を入手できることを知ったラクトが阻止した。


「私、依然とは異なりますの。ええ、それは火力も、精神力も、人格も、口調は違いますけれど――」


 そう言いつつ、彼女は構えて撃てなかった巨大な銃を肩に担ぐ様にした。もちろん時を止めればそれまでなのだが、紫姫の魔法は連続使用が出来ない。一定の時間を開ける必要が有るため、魔力を大量消費した紫姫は今、何をされても対処するのが困難な状況だ。


 けれど、イステルは紫姫を狙わなかった。狙ったのは――


「危なっ……!」


 ラクトは即座に察し、稔にバリアを張るように指示した。しかし、稔だってテレポートする為に時間が掛かる。バリアの外側から内側へ歩いて脱出できない今、テレポートは有用だ。けれどそれをするには、手を繋ぐなり身体を稔と触れ合わせる必要が有る。しかし、今は緊急時だ。そんな時間なんて無い。


「エイブ様と、バレブリュッケでお待ちしていますわ。ふふふ……」


 イステルが付けていた白いバンダナが光を放ったと同じくし、彼女の攻撃も行われた。紫姫を狙ったわけでも無く、他の者を狙ったわけでもない。ラクトに指示を出されて五人で集まろうとしたが、稔が始めた時には既に遅かった。


「貴方たちが残り一つの爆弾を解除出来なくて、私は酷く憂愁して残念に思っていますの。でも、仕方ないですわ。これが【理】ですもの。貴方たち五人が選択なされた結末――ですものッ!」


 刹那。巨大な銃から、白い煙と共に巨大な銃声音が轟いた。五人の居るところを分けるように銃弾は進み、最後にイステルは捨て台詞を残してエイブの元へと去っていった。『第五の騎士(ハムサ)』に仕える『第五の精霊』としての仕事を全うし、彼女の顔は自然と綻んでいる。


「では、遠くない未来でお会いしましょうか。『第三の騎士(タラータ)』と『第七の騎士(サバーナイト)』さん――ふふふ」


 不吉な事を予感させる微笑の後で、イステルの姿が見えなくなった。それと同時にラクトが叫ぶ。彼女の叫びは、稔の張った二つの『跳ね返しの透徹鏡盾バウンス・ミラーシールド』によって木霊こだました。


「稔! 早く、早くバリアを張――」

「ああ、分かってる。心配するな」


 言い切る前に、稔は平然とした表情を浮かばせて言った。そして何の躊躇いもなく『跳ね返しの透徹鏡盾』をするのだが、その時に紫姫が拳銃を構えて銃弾を巨大銃から放たれた銃弾に向かって放った。



「――白色の銃弾(ホワイト・ブレット)――!」



 放たれ、そして拳銃に跳ね返される。でも、それは『白色の銃弾』の銃弾と巨大銃の銃弾が衝突し、白色の銃弾の銃弾が少し欠けたりして壊れたためだった。でも、ある程度は凍らせることが出来た。だからといってバリアを張らない理由にはならないと考えたので、稔の行うことに変化はない。



「――跳ね返しの透徹鏡盾――!」



 言い放ち、即座に透明なバリアを張る稔。少々凍らされた銃弾が目標に到達するまで、あとギリギリのところで間に合わすことが出来た。そして、稔サイドは爆弾が轟音を上げるのを待つ。


「(クソ……)」


 七つ、全て解除できなかった自分が悔しい。五人、まとめきれずに頼った自分が悔しい。まだ『第五の騎士』や『第五の精霊』との戦いは終わっていないけれど、稔は酷く落胆していた。そして、涙を流さないように必死にこらえて今回の反省をする。まだ戦いが終わっていないからこその反省だ。


 と、その時。爆弾がついに轟音を上げた。木箱がいつの間にかテーブルの上に有り、イステルの巨大銃から放たれた銃弾が命中している。


「――」


 ただ、爆弾が爆発してバリアとバリアに挟まれて燃え広がっていく様を見ることだけしか、今の稔には出来ないと本人は思った。でも、そんな時に励ましてくれたのがラクトだ。彼女は同じく悲しんでいた紫姫の事も、恋敵である以上に仲間であるから励ます。


「まだ、戦いは終わってないじゃんか。第五の騎士と精霊、両方倒すって強い意思を持っていたくせに、それを犠牲にして悲しむのか? ――そんなの馬鹿げてる。自信を持っていいんだ。まだ、戦いは始まったばかりじゃんか」


 ラクトはそう言い、嫣然えんぜんとした笑みを浮かばせた。紫姫は悲しい表情を見せたくないらしく、顔を下に向けたまま精霊魂石の中へ戻った。一方で稔は、励まされて「だよな……」と言う。声が小さいのは、悔しさを抑えつけているためだ。

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