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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-40 ADQと爆弾処理-Ⅶ

「爆弾……?」

「はい。――午後七時一分、このホテルは消し去られてしまうでしょう」


 ラクトは平然と喋っているが、それはカロリーネから聞いた話を重々理解していた上、自身がそれを解除していたからだった。爆弾なんてホテルで見ていないメイド達からすれば、それが存在すること自体に驚きが隠せない。加えて時間まで言われてしまったのだから、メイド達の行動にも変化が訪れた。


「なんでそんな重要な情報を……」

「話し始めてから、隠すつもりなんて有りませんでした。でも、言い出す機会が無かったんです」


 メイドのリーダー格の人物は状況――情報把握に追われていた。やはりリーダーであるという自覚からか、責任感は人一倍強いようだ。その為、彼女に代わっていったメイドが居た。でもメイドのリーダー格の人物も、把握するために質問をラクトへ投げる。


「それは――私のせいなのかしら?」

「一概には言えませんが、理由の一つかもしれません。ですが、私のマス――主人もデリカシーが無いのは確かでしたし、ここは互いに責め合うのは止めましょう? むしろ、助けあって解除しましょうよ」


 日頃のラクトが言うとは思えない台詞だ。煽りの言葉無しに敬語を使っているので、『美女で言葉遣いも良い』と思われそうである。否、実際メイドの何人かはそう思っていた。でもそれは、大きな間違いだ。『言葉遣いをよく出来る』であって、日頃から『よく出来ている』ではないからだ。


「そう……ですね」


 メイドのリーダー格は、稔と対峙した時の台詞と共に有った強気な態度を消し去っていた。でも、確かに状況が状況であるため、そういったところで異なる点が有るのはおかしくない。しかしラクトは、先程の論争へ発展しそうな時に言い足りなかった点が有ったので、「しめしめ……」と内心で思った。


「爆弾に関して特徴はどんな感じなのか……、稔、教えて」


 ラクトは稔に対しては通常の態度に戻した。これは、ラクトなりの配慮である。メイドのリーダー格の人物に対抗する際は共闘するのは目に見えていたため、少しでも仲間の傷を癒してやろうとしたのだ。それに、『女性恐怖症』になっては困る。だからこそラクトは、そう毛嫌う男の中でも嫌えない主人に言った。


 しかし。言われた方の稔は、もはや察することが困難な情報になっていた。顔は青ざめる程ではなかったが、こてんぱんにされたのではないかと考えてしまうほどに悪い。要約すれば、元気が無くなってしまっていたということだ。


 でも彼も、召使の為にやれることはやるべきだと意思を取り戻した。それから大きく深呼吸をし、唾を呑み、数秒だけ目を瞑ってから言った。でも稔は、「メイドのリーダー格の人物が聞く耳を持たないかもしれない」と若干心配していた。だが、流石にメイド。そこまでヘイトな態度を取ることはない。


「爆弾が入っているのは、木箱の中です。木箱の中には時限爆弾装置が入っていて、基板は剥き出しになってはいませんがコードが見えます。コードは箱ごとに違う色ですが、切るのは俺がやるので大丈夫です」


 ラクトが主人で稔が召使のような気がしなくもない連携だが、ラクトは召使である。馬鹿にされたり、鍵を掛けていなかったことが原因で非難を受けたりした稔が、実際は召使を指揮する者――つまり、主人である。けれど、まるで立場が逆転しているかのようだったので、稔へメイドから質問が飛んだ。


「……あの、貴方は本当に爆弾を解除出来るんですか?」

「(なんて失礼な……)」


 ラクトはメイドの態度に怒り心頭だった。無理もない、失礼なことを聞くことを恥じていないからだ。「恐縮ですが――」とか、もっと度が強ければ、「慙愧の念に堪えないことで、誠に申し訳ないのですが――」とか。そういう、「恥ずかしいことをこれから聞きますよ」的なことが一切含まれていなかったからそうなってしまったのだ。


「はい、出来ます」


 しかし。ラクトが怒り心頭している裏腹で、稔は平然を装っていた。失礼な事が出てくるのは自分のせいだ、と思っていたからである。そしてそこから、「そもそも人数的にも性別的にも自分は負けるリスクが高いのだから、そんなに強気な態度で臨む必要はないだろう」との考えに至った。そしてそれが、行動にも出た。


「意外ですね」

「(こいつ、本当になんてこと……)」


 ラクトの怒りは大変なまでに溜まってきていた。そしてその、『怒り』という『ガス』は排出する必要があるのだが――それが『悪口』に繋がれば、最悪訴えられる可能性すら生じる。怒りを生んだのが相手方だとしても、自分が賠償しなければならなくなる可能性があるのだ。


 もっとも、メイド達ならそんなことはしないと考えることも出来る。だがそれが、もし仮にメイド達の内心から飛び出して彼女らの主人へと伝わったとしたならば――大変な事態が起きるのは火を見るより明らかだ。


「(『正義』……)」


 稔はそれを貫きたいと考えていた。その大きく掲げた言葉が有るからこそ、精霊である紫姫を戦闘狂にしないで済むというのは確かかもしれない。でもラクトは、理解は出来ても多少の行動は出来ても、自分の遺伝子に『デビルルド』の血が流れているが影響して悩んでしまった。


 ――主人へ、尽くしたい

 ――主人と共闘したいし、補助したい


 でも反面。


 ――正義って……何?


 紫姫も一度言っていたが、伝染病のようにラクトにも伝わってきていた。『悪』も『正義』も、結局は自分から見てそう思っているだけであって、相手からしたら違うかもしれないとか。そう考えれば考えるほど、「なんで正義を貫くんだ?」とラクトは思ってしまう。


 でもラクトも、一つだけ分かっていたことが有った。

 それは、「手を出せば負け、太刀打ち出来なければ悪」ということである。


「(……これ以上、考え込むのは止めよう)」


 最初は疑問を抱いたことで考えこんでしまうという負の連鎖が続いていたが、次第にテーマが謎めいた事になってきたので、なんとか連鎖から脱することが出来た。そしてラクトの内心からは、憤怒の感情も同時に消えていた。だから、メイドに対しても苛立ちを覚えることはない。


「メイドの皆さんが、この部屋の構造を隈無く知っているとは限らないと思います。でも、手当たり次第で探すにしても人員は十分です。不可能じゃないんです。なので、早く見つけて解除しましょう」


 失礼な態度を取っていたメイドに手を出して暴力を振るうこともなく、ラクトはそう言ってメイドに協力を呼びかける。怒りも晴れていたので、当たったりすることもないから事は早く進むと思えた。だが、そんな矢先のことだ。


「……ん?」


 ラクトは稔から借用――否、預かっているウェアラブル端末のバイブレーション機能が作動していることを確認し、何か呼び出しを受けているんだと考えて画面を見た。見れば、そこには『レヴィア』の文字が浮かんでいる。極秘会話にしなければいけないものではなかったが、すぐさまイヤホンをラクトは作り出し、画面の向こうの二人の話を聞くことにした。


「どうかした?」

『ラクトさん、ご主人様に繋いでください……』

「ど、どうかしたの?」

『カロリーネが倒れてしまいました。出来ればヘルさんが欲しいです。ご主人様に許可を――』

「分かった」


 ラクトは稔に繋がなかったことでレヴィアから叫びを聞くと、ウェアラブル端末での通話は一時中断して音声が聞こえないようにした。それから稔の背中を叩いて自分の方向に向けさせると、ラクトは彼の耳元で囁いた。


「カロリーネが倒れたらしい」

「嘘だろ?」

「いや、本当だ。けど、バリアが張れる稔をこの部屋から駆り出す訳にはいかない。だから、サタンとヘルに手伝ってもらおう。……いや、病院行かなくちゃ行けないかもしれないからスルトも――」

「ああ、力持ちが居たほうが安心だな。けが人を地面に落とすなんて以ての外だ」


 紫姫以外の召使と罪源をカロリーネの方に回すことにし、指揮官は重要な人物となり得るヘルに行ってもらうことにした。サタンは魔法を用いることに関してなら臨機応変に対応できるということで、指揮官であるヘルの補佐役に就いてもらうことにした。


 メイド達に先に探させることにして、カロリーネという同盟関係のようなものを結んではいなくても中が良くなった者に対し、稔は、召使と精霊罪源一人を派遣することを再度確認してから内心で言った。



「――ヘル、スルト、召喚サモン! 憤怒の罪源にして最初の精霊セット・ファースト、サタン、召喚――!」



 いまいちサタンの召喚方法が分からず、稔は少し厨二病っぽく詠唱風に言った。それで召喚されなければ意味はないわけだが、既に稔とサタンはキスをした仲である。稔と紫姫との関係よりは発展していないが、それでも主人の呼び出しに関してはすぐに反応し、召喚に応じた。


「では、先輩の力になれるように頑張ってきますね」


 魔法陣と精霊魂石の中では構造が全くもって違うのに、今更ながら稔は気がついた。精霊魂石の中では、絶えず主人の声は聞こえているのである。それでも、シャットアウトするために睡眠を取るわけだが……。ただ一つ言えるのは、「召喚命令だけが聞こえる魔法陣の中とは違う」ということだ。


「マスターも、爆弾処理を頑張ってください」

「応援してるっすよ。がんばれ、がんばれ」


 スルトもヘルもいつも通りの口調だった。メイド達を前にしても緊張していないところは、頼りない主人とは違うということを示してくれる。だから、更に稔は情けなくなってしまう。けれど、そういうことを思わないで前向きにいるためにも、敢えて稔はネタに走る。


「(伊藤○イフさん意識してんのかな? ……いやいや、ヘルに限ってそんなことは)」


 そんなことを内心で考えながら右手を振り、稔はサタン達がテレポートしてカロリーネの元へ向かうのを見ていた。そしてそれと時を同じくして、稔の二つある精霊魂石のもう片方の魂石が光を発した。


「アメジスト。我も爆弾処理作業に参加したいのだが――ダメか?」

「ああ。お前はカロリーネとの戦いで相当負傷しているはずだと思うしな。ましてや、ラクトは後方支援系の魔法だからまだしも、お前は前方で突撃する系の魔法なんだ。お前が戦えないなんて、俺のパーティーが死んだも同然だぞ」


 稔はそう言って紫姫を説得した。彼女の気持ちが相当強いことは稔もしっかりと理解していたから、手伝いの人員として抜擢しようとしたのは当然の如いことだった。でも、抜擢して体力を使うのは後先を考えたらよろしくない行為。だからこそ稔は、敢えて『帰れ』と告げた。


「スルトの『大噴火アオス・ブルフ』は、今回だから役立っただけだ。サタンやレヴィアが使える『罪』に関する技も、相手がその感情を薄っすらとしか持っていなければ意味は無い。ヘルの『歌』は最終手段だ。『相打ちの攻撃』ってことでな」


 稔は『帰れ』と告げても戻らない紫姫に対し、さらなる説得を続けた。その説得が実ってくれれば自分の勝ちであることが言えるのもそうだが、やはり大事にしたいのが一番だった。「苦慮して決断した俺の気持ちを考えろ」と、愛の拳グーパンで刻みこみたいくらいにだ。


「つまり……、それだけ貴台は我を大事に思っているということか?」

「簡単にいえばそうなるな」

「そうか。うむ、貴台が思っての命令とあらば、我も従わないわけにはいかぬだろう」


 紫姫はそう言って稔の意見に反論を述べたりすることは無く、稔が紫姫に対して告げた言葉の全てを理解した上で呑んだ。もちろん紫姫は行動を早く出来ないような欠陥のある精霊ではないから、すぐに行動に出た。だが、かわりに別れ際の話が相当続いてしまうことになった。


「では――我は貴台の考えていることが成功するように、精霊魂石の中から幸運を祈ることにする」

「ああ、そうしてくれ」

「では、誓いの印に――」


 紫姫はそう言うと自らの右手をグーにし、前の方向へと出した。稔に当たらない程度に出しているわけだが、これは彼女が言うとおり『パンチ』ではないから当然だ。そしてそれに応えるよう、稔も拳を握って、優しく彼女のグーにした拳に触れ合わせる。


「処理に失敗したら、貴台に食らわすのは銃弾一二発を発射する」

「おいおい、主人への反抗はよしてくれよ」


 稔が小さく笑いを浮かべて言った。ただ、紫姫はそんな彼に対して励ましの言葉を渡す。


「貴台が期待に応えられないことはないだろうし、そういったことはないから安心していい」

「そうかな?」

「ああ」


 紫姫はそう言うと、こちらもまた小さく笑みを浮かべる。その刹那、紫姫は「ファイト」と一言残して魂石の中へと戻っていった。そして部屋には、メイド達がありとあらゆるところを探して爆弾を見つける光景しか無くなった。


「私達も探すぞ、バカ」

「あ、ああ……」


 一応は年頃の男子だ。ラクトから信頼を受けていはいたが、メイドが大勢居る光景には目を奪われてしまった。だから反応も咄嗟のものだったので声が小さなものになってしまう。もちろん、ラクトには笑われる始末だ。内心も読めるため、相手が何を考えているか分かっているから強敵である。


 ――と、その時だ。


「これ……!」


 時刻は一八時五〇分だ。全爆弾の時限装置が作動するまで残り一一分。メイド達も時間が時間なので移動しなければならないこの時間で、ギリギリに先程の失礼な言葉遣いのメイドが木箱を見つけた。でも時間が来てしまっていたから、それが稔に渡されると同時にメイド達のリーダー格は一つ台詞を残して去った。


「では、これを貴方にあげましょう。私達はパーティーの最終準備へと向かいます」

「了解」


 稔が言ったと同時に木箱は手渡され、同時に稔はその木箱の重みを感じさせられた。メイド達も二人がかりで運んでいたのだから、重さがどれだけであるかは再度確認できる。



 そしてメイド達の移動完了後、すぐに稔は処理を始めた。

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