表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
128/474

2-35 ADQと爆弾処理-Ⅱ

「何勝手に仕切ってるんだか。――指揮権を私に渡したくせに」

「うっ……」

「男に二言はない、っていう名言を何処かで聞いた覚えがあるんだけど、それは人によって違うんだね」


 ラクトはクスクスと笑みを浮かばせ、笑っている表情を隠せていないのに口に右手を当てている。ただその仕草は女の子らしい仕草でもあったから、稔は少し目を奪われていた。バレないようにするとか思ったりせず、自然と見てしまっていたのだ。


「(こういう小さいところに目を奪われるのか、私の主人は。細かいことも気にするって解釈すれば爆弾解除の作業で役立ちそうではあるけど、それとこれとは違うような気もする――)」


 自然と見てくれたことに喜びを感じつつ、ラクトは稔が爆弾処理でどのような活躍を見せてくれるのかを考えていた。でも、あからさまに考えているような態度は取らないでおくことにした。


「でも、個人的には指揮されるのは立場的に嫌ではないけどね。――てことで、権利は貴方に譲りまっせ」

「なんだよもう……」


 クスクスと笑っていたラクトは一旦笑いを止めると再度笑い、そう言われて稔は酷く落ち込んだ。自分の召使らの中で一番信頼を置いているというのに、そんなラクトに騙されたような気がした。故に、ため息も溢れる。


「べっ、別にそんなに落ち込まなくてもいいじゃん……」

「お前に騙された気がしてな」

「だ、騙してないよ! 私、詐欺なんかしてないよ!」


 稔に言われてテンションが上がってきたラクトには、詐欺をした自覚はない。そして言われてから、「信頼を置いている主人に対してそんなことを普通するか?」と逆に問いたいくらいだと感じた。


 そんな時、そこに割り込んだユースティティアは言った。


「『詐欺』って言うよりも、『騙された』ってことじゃないんですかね?」

「ああ、そういうこと……」


 詐欺は行き過ぎている、とユースティティアは主張した。無論、ラクトの言い回しでは『お前に権利はない』とか言っていて、そこから百八〇度転換したのだ。騙された、と思われてもいささか仕方がない。


「――ラクト。今夜、お説教な」

「なっ……」

「紫姫に色々と問い詰めたみたいだが、今度は俺の番だ。――覚悟しておけ」

「私の何が悪いのさ……」


 ラクトは稔の話に不満を持っていたが、どのみち部屋は同じである。故に、説教されることは避けて通れない道だと言って良い。だからラクトも、言うだけ言ってみたのだが――効果は薄かった。


「まあ、あんまり良くない雰囲気を漂わせるのも筋違いでしょうし、本題に戻しましょう」

「そうだね、ユースティティア。この主人はネチネチしてるからもっと言っていいよ」

「ネチネチなんざしてないわ!」


 稔が言うと、ラクトが堪えられずに笑いを溢した。中立的だったユースティティアも、ツッコミが入った時に微笑を浮かべる。そうなると『美女二人に笑われた』という誇れそうで誇れない事実が出来る訳だが、笑われた本人はちっとも嬉しくなかった。むしろ、反抗する気力を吸い取られたような気がした。


「まあ、ラクトから権利は剥奪――譲渡してもらったからな」

「おいこら」


 剥奪、という言い回しにはラクトが反応する。それは、戦いを起こして稔が奪っていったわけではないからだ。一方でユースティティアはそれといった反応を見せることは無かった。でもそれは、話を聞いていないわけではない。


「まあ、やるべきことはやるのが俺のモットーだ。爆弾処理の作業は効率良く進めるという意味の話はさっきした訳だ。さあ、総員持ち場へ付け! 作業開始は一八一五ひとはちひといつだ!」

「……爆弾処理で、死ぬなよな」

「バーカ。フラグ立ててんじゃねえよ」


 稔は微笑を浮かばせながら言ったが、彼の内心にも怖さは有った。爆弾処理なんて初めてのことだからだ。指揮をすることになってしまったのは自分のせいだから何とも言えないが、頼られても相応の対応しかとれないのは嫌だった。


 しかし、そんなことを考えて作業の支障を出すようでは問題である。そんなことをするくらいであればと、フラグを立ててしまった責任も一緒に消し去ろうとの思いからラクトが一つ提案した。


「それこそバリアを張ればいいじゃん」

「まあ、処理する時にあれば十分だろうしな……」


 稔はラクトの意見に賛同の意向を示したと時を同じくして、時刻は一八時一五分を回った。爆弾の解除は残り四六分の間にやらなければならず、『探し出して解除』という工程を三度繰り返さなければならない。


 爆弾のサイズがどれほどかにもよるが、残り四五分強の時間でやるなら一五分で一つは終わらせるペースが好ましい。そのためには、出来る限り早く見つけて早く対処するのが良いわけだが……。


「(一体、何処に有るんだ……?)」


 敵方を裏切ったことから、信頼出来ない情報ではないカロリーネの情報。しかし、その情報は大雑把なものであった。今、ウェアラブルデバイスを使用して再度聞くことも考えられなくはないことではあるが、悲しくもそれは無理だ。エイブからの解析を恐れたのか、繋がらないのである。


「ちくしょう……」


 歯を食いしばる稔。しかし、立ち尽くしていては時間は経過する一方だ。人を救うのが正義なのだから、その正義の任務を果たさなくして『新国家元首ネクスト・エルフィリア』が務まるはずがない。


「何処だ……何処だ……何処だ!」


 六〇五号室がバタつくと色々と不審がられそうなのは重々承知だったから、言葉ではそう言うが足音は小さかった。トイレや下駄箱を探してみるが、不審な箱も不審な音も見えないし聞こえない。


「一体何処に……ん?」


 稔は不思議に思ったのは箪笥だ。もちろん、どう考えてもそれは怪しい。ホテル側が衣服類を保管するために設置しているのだろうが、箪笥は幸いなことに鍵が必要ないタイプだった。つまり言い直せば、部屋の鍵さえ閉めてしまえば無問題だというセキュリティ管理方針のようだ。


「(箪笥の中に絶対有るだろ、これ……)」


 稔は内心でそう思いながら、箪笥を最上段から最下段へ向かって開けていく。爆弾と思わしきものが有るのであれば奥のほうだと考えたから、稔は奥までしっかりと見渡してから無ければ戻した。衣服も持ち上げて確認してみるが、それも当然崩さないように行う。


 ――と。


「これだ……」


 捜索開始から僅か四分という時間で、稔が箪笥を漁るようで丁寧に捜索していた為に早い時間で発見できた。ただ、それは『箱』だ。黒塗りの木箱である。形はそれほど大きくなく、言うなれば和菓子が入っているような箱だった。もし仮に爆弾が入っているのだとすれば、それは小さくて高さも低いものといえる。


 しかし、そこまで順調に進んでいた作業が止まってしまった。


「なん……」


 その箱が尋常ではない重さだったのである。重さは軽く一〇キロは有るだろうし、もしかしたら二〇キロオーバーかもしれない。子供を抱くよりも重たいそれは、稔からすれば苦痛以外の何物でもなかった。しかも箪笥の上段の方であったから、余計に取り出すのに力を使ってしまいそうになる。


「俺もここまでくると流石に無理だ。――よし」


 言って、稔は召喚陣からスルトを呼び出す。本来はゆっくりと休ませてあげるはずだったのだが、こうなってしまっては仕方ない。重さが尋常ではない上に持ち上げるのに苦労するほどで有る以上、ここは力持ちが自慢のスルトに任せるべきだろうとの考えに至るのは無理もない。


「マスター、女の人に重いものを運ばせることでプライドがズタズタにされるとかは思わないんですね」

「男だからって力が有るとは限らないし、女だからって料理ができるとは限らない。……そういうことだ」

「把握しました。では、これを……って、相当重いですねこれ。普通に四〇キロ有るんじゃないですか?」

「マジか!」


 稔が考えていた重さとは比べ物にならない程の重さを言われてしまい、稔も「そりゃ仕方ないわな……」と思った。でも同時に、スルトが一生懸命運ぶ姿を見て微笑ましく感じた。応援したくも感じた。


「こういう時にマモンが居ればいいんですが、居ませんしね……」

「そうだな。あいつの質量減少ってめちゃくちゃ役立つだろうな、こういう時」

「でも、私みたいな召使の出番が消えるのは嫌といえば嫌です」

「仕事を奪われたような気がするからだろ? ――ハハハ、心配するな。俺はお前を今後も頼るから」


 稔はそう言ってスルトを慰めた。まだ完全に回復していないところでの呼び出しだったことも大きい。


「では、戻りますね。召使、罪源、精霊、ともに回復中ですが、寝ていなければ召喚に応じると思います」

「も、もしかして起こしちゃった……?」


 稔は話から深く考えてみる。そして、スルトへ謝罪する気持ちが後ろに隠れているように言う。だが、返ってきた答えは謝罪する必要が無いことを示すものだった。スルトは顔を綻ばして微笑して話す。


「いえ、私はまだ寝ていなかったので大丈夫です。でも、紫姫とサタンが寝てますね。疲れたみたいです」

「ヘルはどうだ?」

「ヘルは――まだ余力が有るようで、歌を歌っていますね。歌に関わる特別魔法が使えることもあって、凄い上手いんですよね。……マスターも今度聞いてみたらどうですか? 衣服の提供はラクトにお願いして」

「いいなそれ。でも今日は無理だ。後日な」

「はい」


 主人に提案を受け入れてもらえて嬉しそうな表情を浮かべるスルトを見て、稔は元男だとは考えられなくなった。巨人が擬人化されてこうなったことは十二分に分かっていたが、擬人化なんてされていないんじゃないと思える。去勢なんて無く、性転換なんて無く、本当に女の子として生まれたんじゃないかと思ってしまえる。


「では、気をつけて作業を続行してください。失礼しました」


 スルトは言って頭を稔に下げ、応召した。頭を下げられて嫌な気はしなかったが、そんな初対面の召使と主人がするようなことはしなくてもいいと考え、稔が「そんなことをしなくてもいいのに」と言いたくなったのだが……。もう時は既に遅く、打てる策は無かった。


「よし、気を取り直して……」


 しかし、あまり引きずらないようにして作業を進める。この箱が爆弾ではない気もしたが、念の為に防御用の壁も張っておいた。もっとも、その壁は吸収する壁ではなくて跳ね返す壁だ。跳ね返しでもすれば爆弾を解除できない際に大変なことが起きるのは目に見えている。


 でもそれは、自分を壁で囲ったような風に使った時の話だ。自分ではなくて爆弾を囲うようにさえすれば解除が失敗したとしても手を抜けば良いだけの話であり、効率が良くて自分にもホテルにも被害が出づらい。そのため、躊躇する無く稔はその手法を取った。



「――跳ね返しの透徹鏡壁バウンス・ミラーシールド、爆弾を囲むように――!」


 

 テレポートと同じように無ってくれれば良いと願い、稔はテレポートを行うときと似た事を付け足して魔法使用を宣言した。事実を知りたくはなかったので目を瞑ってしまったが、結局は開けなくてはならない。


「きた……!」


 願いは叶った。稔が言ったとおりに爆弾を囲うように――否、木箱を囲うようになっていたのである。そして効力を試してみるが、流石は『透徹』と謳っているだけあった。それと同時、稔はこの魔法の本当の意味を知った。


「これ、俺が居る方からは壁を破れるんだな。俺が居ない方からは破れないっぽいが……」


 そう言って壁を破って作業が出来る事を確認し、それから稔は時計を見てみた。時刻は着々と一八時半へ迫ってきている。一五分毎に終わらせれば丁度いい訳だから、視線を木箱に戻し、稔はそこから急ぎで作業を進めた。


「これは――」


 木箱の蓋を取って下箱を上箱の上にしてみれば、見えたのは時限爆弾だった。一九時一分に爆弾が爆発することをカロリーネから聞かされていたから、残りの時間がどれくらいかは大体分かっていたが、改めてデジタル文字で刻一刻とそれが迫っているのを見ると稔の集中力が増した。


 加えて赤色のコードと青色のコードが見えると、彼は集中していたのに「面白いことになった」と顔を綻ばす。そして鼻でも笑ってから、壁の外側から内側へと手を戻して言った。


「来やがったか……」


 稔はこういった展開に心を踊らせる一方で、やらなければならないことは早急にした方がいいとの思いでラクトとユースティティアを自分の方へと呼んだ。そして、コードを切るために必要な道具を作るようにラクトへ要求した。


「爆弾が見つかったから、これより解除を実行することにする。だから、ラクトはニッパーを作ってくれ」

「仕方ねえな……」


 笑いながら言うと、ラクトはいつも通りに魔法を転用してニッパーを作り出した。硬い導線コードだと困るので硬いものも切れるニッパーを作ってあげることにし、作り終えたものをすぐに稔に手渡した。


「これから作業をするんなら、デバイスを私にプリーズ!」

「レヴィアかカロリーネと連絡を取る気なのか? それならさっきデバイスで着信拒否――」

「ふうん。……でも大丈夫。――てか、稔は召使に期待し無さ過ぎなんだよ」

「そんなことは無いと思うが……」

「いや、ある」


 ラクトも稔も一歩も譲らない。そうなれば話にならないことは目に見えていたから、稔がそれ以上反論することは無かった。一方のラクトは、反論してこないと余裕を持ったので満面の笑みを浮かばせ、稔の胸部の凹んだ部分に握りしめた拳を優しく当てた。そして、言う。


「ハッカーの実力、見せつけてやんよっ!」

「ハ、ハッカー……?」


 稔は驚いていたがラクトには相当な自信があると悟り、躊躇すること無くデバイスを手渡した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ