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チートなしで敗戦国家を救うことになりました。  作者: 浅咲夏茶
二章 エルフィリア編Ⅱ  《Fighting in the country which was defeated.》
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2-34 ADQと爆弾処理-Ⅰ

 稔がラクトの方を見ずに言ったことから、彼女は微笑を浮かべて誂った。ついさっき、レヴィアにされたこともあって度が増しそうな感じすら覚えた彼女だったが、実際はそんなことなどなしに進む。


「突然話題変えるとか、……それは照れ隠しか何かなの?」

「何か悪いか!」

「悪く無いよ。むしろ、稔が自分からキスしてきたところで堕ちたかなって思ってるし」

「お、俺はお前を慰めるためにキスしたまでなんだが……」


 稔は弄られていることを即座に把握したが、だとしても主張が有るので入れておく。


「でも、されて嬉しいのは確かな事実だよ。紫姫とかサタンにしてるそれとは別の意味な訳だし」

「……」


 紫姫とラクトは正妻戦争をしていると考えられなくもない。だからもし、ここでラクトを稔が特別扱いし出すとややこしくなる。だから稔の内心にあった、『特別扱いしたい』という気持ちは一気に無くなってしまった。そうせざるを得なかったという一面もあるが。


「――稔と私の分だけ、赤飯を後でまた料理長に承諾取って作ろっか?」

「何を考えてるのか見え見えだぞ、ラクト……」

「言ってみてよ」

「言うか馬鹿! ……全く。前世がどうたらこうたら言ってるけど、淫魔はやっぱり淫魔じゃねーか!」


 ラクトが笑みを浮かばせながら質問してきたところで、稔は軽く怒った。大体こういう時にラクトが言うようなことは、相場が決まっている。ふざけた戯言か、無視したら大変な目に遭う話か、どちらかである。当然、前者でも後者でも反応をしないでいるのは難しい。故に、稔も会話の続行を余儀なくされた。


「ごめんごめん……」


 稔に対してラクトが軽く謝った。もちろん稔の逆鱗に触れた訳ではないから、特に問題は無い。


「まあ、分かってくれればそれでいい。でも俺は認めるぞ? 赤飯が美味しいことに関してはな」

「話が逸れてんじゃねーか!」

「神からのお告げだろうよ。ほら、爆弾処理行くぞ。――それと、デバイス」

「把握した」

「そこで敬礼すんな」


 照れていた彼女の表情は大きく変わって、ドヤ顔を見せながら右手を額に持っていって敬礼を行った。ただ、ある程度は時間が掛かったとしても、やるべきことは絶対に最後まで貫き通す主義だったラクト。寿司の一件でもそうだったが、やろうと思ったことへの責任感は人一倍強く、敬礼を解除してから三秒以下でデバイスを稔に手渡した。


「まあ、さっきカロリーネに連行されてたから事情は知っているはずだしな。人頼みにするのは気が引けるが、今は仕方ないだろう。――ってことで、レヴィアよ」

『はい、ご主人様』


 稔が言うと、デバイスの向こうから声が聞こえてきた。それは紛れもないレヴィアの声である。言いながらデバイスとデバイスを通じて会話する際に忘れてはならない操作、必要な行わなければならない動作をしっかりとしながら話をしていたから、稔は格好良くデバイスとデバイスでの話のスタートを切れた。


「今、何処だ?」

『ここは――んぐっ……!』

「だ、誰だ!」


 稔はレヴィアの口が塞がれたことで危機感を察知し、先ほどのように召使一人を洗脳状態にされてしまわないように対策は施し、すぐに状況を把握するということを目指してみた。――が、登場したのは悪役では無かった。最初は悪のようだったが実際は良人、そんなカロリーネだった。


『私です。カロリーネです』

「なんだ、お前か」

『あまりこういうデバイスを通しての会話はしたくないんです。何か悪いことを企んでいるんじゃないかと疑われかねませんからね。――そういう意味でデバイス上での話は避けたいんですが……します』


 カロリーネはそう言い、深呼吸をした。デバイスを通しての会話が避けたかったのは、悪用された時に取り返しが付かないことになるからだ。だからこそ、テレポートも可能で有る上に、ある程度の作業妨害を排除するための魔法も使用できる稔と補助員にラクトを自分の方へとテレポートさせることを避けたのである。


『爆弾は全部で六つ仕掛けてあります。取り敢えず私とレヴィアさんが一一階と一〇階、それに八階の爆弾を解除し、最終確認も行います。それで、貴方とラクトさんにはその都度指示を出すので――」

「分かった。解除個数は三個、でいいな?」

「その通りです。――では、早速指示に移りたいと思います。貴方とラクトさん他は六階へ向かってください」

「六階……?」


 稔は聞き返した。ただそれは、カロリーネに返答を求めたという理由が有ったからではない。六階と言えば織桜の部屋がある。時間が時間だから、そろそろ起こすという意味も込めて立ち寄ろうと考えた。しかし、それは思わぬフラグとして呼んでしまう。


「はい。六〇五号室、そこに貴方とラクトさん以下が解除しなければならない爆弾が存在します」

「え――」


 稔は再度驚いてしまった。六〇五号室といえば、織桜が宿泊する部屋である。加え、彼女は今寝ているのだ。今爆弾されたらとんでもないし、事件沙汰にされかねないだろう。だが寝ている人が居るということは、入れば不法侵入でタイーホである。しかし稔は、そう容易く気安く入れるほど犯罪者予備軍ではない。


「まあ、爆弾に関しての説明が織桜に対してであればし易いだろうが……」


 稔は言う。すると、即座にカロリーネから反応があった。しかしそれは、稔からすれば絶望を知らせるサインとも言うべきものだった。通信中であったというのに、送られてくるはずの映像が止まったのである。再度連絡を取ろうと試みるも、『現在、相手側によって制御されています』との案内が出るだけだ。


「なんてこった……」


 六階のどの部屋に有るのか、それを知ることはできた。けれど、いくら織桜が自分たちの仲間で有るとはいえ、なんの断りも無しに入るのは無理だ。散々『貧乳』だの罵倒している稔だが、女の子の部屋――といえばそうであるから、そうして躊躇も生まれてしまうのは無理もなかろう。


「ねえ、稔。織桜の部屋に入ることを躊躇っているようなら、私が――」


 ただ、そんな時に名乗りを上げたのがラクトだ。流石、本妻的な立ち位置に居るだけあると言えよう。性別が性別なので、稔も召使に助けられてみようかという風に意思が固まっていく。だが、彼の口から出たのは正反対の言葉だった。


「お前が手伝ってくれるのは大歓迎だ。――でも、俺だって何も出来ない無能じゃないと自負してる」

「そういう気持ちは大切だけど、たまには私を頼れっての。お得意のテレポートしたら大変じゃん」

「まあ、それは……」


 テレポートを使って部屋へ入れば、それは言い換えれば『不法侵入』だ。織桜から正式な許可を貰っているわけではないし、もし仮に精霊や召使に敵意むき出しで戦われたら困る。だから、当然それは避けたい。


 でも、テレポートを使用してもしなくても起こりうることは有る。不法侵入ではなかったとしても、覗き見してしまうみたいな、冤罪なんだけれどそう思われてしまうみたいなことが起きてしまう可能性が有るのだ。


 例えば風呂を覗いてしまったりだとか、そんなことが発生する可能性は否定出来ないことだ。でも、そういうことが起きるのは無いと言っても良い。織桜が寝て起きた後には仕事がまだ待ち受けているわけだし、いくら外に出たと言っても汗をかいたわけではないから、特別シャワーに入る理由も無いだろう。


 色々と考えながら、最後にまとまった回答を稔はラクトに言った。


「ラクト、俺も行く。でも、今回の指揮もお前が取ってくれ」

「冤罪被りたくないとか思ってるみたいだけど、別にシャワー覗くくらいで関係が絶たれるような関係じゃないだろ、私達と織桜は。――まあそれはいいとして、さあ、突入だ!」

「お、おい!」


 話を一気に変えてくれたな、と睨むような目つきを数秒ラクトに送る稔。当の送られた本人は全く気が付いていないが、それは無理ない。ラクトは入ろうとしているが鍵が無いわけであり、鍵なしで部屋に入るために必要な手段なんて一つしか無いから、それに夢中になっていたのだ。


「すいませーん……」


 このホテルはセキュリティ管理の為、鍵を貸し出して返却してもらうというシステムの他にもう一つシステムが有った。それは、インターホンシステムである。全室防音完備がしてあるようでインターホンの音は全くもって廊下には聞こえないが、しっかりと鳴っていたらしい。裏付けに、織桜の精霊であるユースティティアが現れた。


「なんです――って、貴方は! 用件が何かは分からないんですが、どうぞどうぞ」


 ユースティティアは言い、六〇五号室の鍵を内側から開けた。寝ている最中に襲われるのは嫌だとツーロックを行っていた為に、鍵で開けるだけなら簡単な作業だというのに時間が遅れてしまう。


「織桜さん! 起きてください!」

「んん……もう、朝かぁ――ふぇ?」


 寝起きの織桜は、少々服がはだけていた。しかし神がかった配置で右手が置かれ、はだけているからといって見せてはいけないものが見えているわけではない。故に「これはこれは素晴らしい、前屈みだ!」などの事にはならなかった。下着が見えたり下乳が見えたりすることはなかったためだ。


「六時過ぎてる――――――! ……全く。そこにいるなら起こしてくれよ、愚弟――って、ん?」

「おはよう。何か仕事があるみたいだけど、後で鍵閉めるからちょっとこの部屋開けといてくれないか?」

「愚弟が何を言い出すかと思えば、そういうことか。それくらい構わないよ」


 織桜は言いながらはだけた服装を整える。稔が予想していたように風呂には入っていなかったようで、そのためか汗を落とすためのスプレーが机の上に置かれていた。スプレーには『天照』と書かれており、それが誰のものであるかはすぐに判明する訳だが、あまりそういう事に首を突っ込むべきではないと話を持ち出さない。


「ユースティティア。一応愚弟は男だから気をつけな。それと、やること全部終わったら鍵を持って石の中に戻ってきて。色が黄色に光ったら戻った証拠――だっけか。まあ、そうなるだろうからいいけど」


 急ぎの用事があった織桜は、そう言い終えるとすぐにネクタイを口にした。色は黒色のもので上品な感じである。また、ネクタイは派手なものではなくてとても質素なものだ。一応は王女リートの側近に居るということで、他人からダメ出しを受けない程度には身だしなみにも気をつけているようだ。


 ユースティティアが織桜の服装に乱れがないか最終確認を終え、いよいよだと織桜が六〇五室を去ろうとした。しかし彼女は、その部屋を出る直前に捨て台詞として質問を稔にした。


「――よし。……ところで、愚弟は七時ななじからのパーティーに参加するのか?」

「ああ、俺は参加する予定だ。でも恐らく、雑用でもしてるんだと思うぜ」


 稔は笑いを浮かばせながら言った。ラクトが言ったわけでは無いが、そんな気がしたのだ。


「了解だ、愚弟。――それじゃ、運が良ければ七時にまた」


 言い残し、織桜は一人一階へと猛ダッシュで向かった。金髪の髪の毛を揺らしながら走るが、無駄に揺れるものが無いため速い。まるで陸上部に入っていたのではないかと考えてしまうほどの猛スピードで走っている。だが結局、刹那という言葉すら当てはまらないようなスピードで移動出来るのだから、最強はテレポートだろう。


「――さてと。ユースティティア」

「なんでしょうか?」

「絶対に織桜には内緒にして欲しいんだけど――いい?」

「別に構いませんが……」


 少し戸惑っているような表情を浮かばせつつ、ユースティティアは織桜が開けていったドアを閉めた。二重に鍵を掛けているところから、本当に犯罪に遭いたくないんだなという思いがひしひしと伝わってくる。


 ユースティティアは瞬間移動なんて出来ないわけだから、ラクトはある程度時間を取ってから彼女が戻ってくるのを窺った。「丁度いい」と思った時にラクトが部屋の畳の敷かれている場所に有った机に招待し、それからユースティティアが座ったのを確認してラクトは言った。


「――この部屋の何処かに、爆弾が仕掛けられている」

「え……?」


 突然の告白に、ユースティティアは心に強い衝撃を受けた。本来であればこんな重要過ぎる情報、主人に渡さない訳にはいかない。しかし契約が契約だ。ラクトはユースティティアに『主人に話すな』という条件で話した。まんまと乗っかったユースティティアも悪い訳だがら、ある意味自業自得とも言える。


「私も稔も、この部屋にそれが有ることは聞いてるんだよ。……でも、肝心の『場所』が分からない」

「場所、ですか……」


 ユースティティアは「難しい話になってしまった……」とため息を一度付いた。


「突然の話で悪いんだけど、上司から伝達が来ていない以上は虱潰しらみつぶしに探すしか――」

「でもそんなことしたら、この部屋は散らかってしまって七時に間に合わなくなってしまうのでは?」

「ああ、そうなんだ……」


 ラクトもユースティティアの言っていることは間違っていないことだと言った。しかし、爆弾を解除しないままに自分の都合を優先させるのは大違いである。そして、そういったことを考えれば形付いていく。しかし、それを言ったのはラクトではなくて割り込んで入ってきた稔だった。


「まあ、七時に間に合わなくてもいいだろ。織桜に対して、俺が『名簿に書いておけ』なんて一言も言っていないわけだしな。変な気遣いで書かれてしまったら、それはそれで入れるからいいと思うけど」

「臨機応変に対応できれば、それが一番いいのかもね」

「そうだな。なんだかんだ言って『何でも屋』的な側面が大きいし、貢献できることをするべきだろ」


 パーティーに参加するのは貴族的な身分の人たちだ。偉い人達とか、稼ぎが多い人達とか、そんな人達と現実世界で現役高校生だった稔が肩を並べていてはダメなのだ。何処かの名家や財閥の嬢でも息子でもない稔がパーティーに参加して、何のためになるというのだろうか。


「決定権は貴方にありますが、本当に参加しないでいいんでしょうか?」

「ああ、参加しなくていいよ。嫌々参加する訳じゃないが、参加したい訳じゃないからな」


 それが稔の本心だった。参加するのは言われたらだけにしようと考え、爆弾の処理に一九時までのこの一時間を費やそうと考えたのだ。自分の身を粉にしてでも爆弾三つだけは処理してカロリーネの期待に答えてやろうと、正義ではなく悪を執行してしまった罪滅ぼしの為に頑張ってやろうと、稔は考えた。


 だから、行動にもその強い意志が現れた。


「俺は廊下側をやる。ラクトは窓側、ユースティティアは中央。方針は以上、質問は受け付けない」

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